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序章

クリスタル・ファンタジア・オンラインとVR技術の真相

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 これは、VR技術が格段に発達した未来の話
 人は宇宙にすら進出してさらに繁栄を始めている そんな時代の話

 当初のVR技術といえば、シミュレーション等の軍事技術から発展していき、医療へと転用される事で世界から注目を集めた。

 その後、徐々に一般へと普及し始めたVR技術をゲームに取り入れ、ゲームという形にしたのがα社である。
 元々が高度なAI技術を開発していた会社だったが、もう一つの世界を再現するなど、どれだけの技術が・資金が・時間が必要なのかと騒がれていた。
それだけに、一年という短期間でVR技術をゲーム用に改変して実用化、そこからβテスター募集の開始まで進んだのは、驚異的な速度であると一躍話題となった。

 そして、驚く事にゲーム内部での時間加速技術は今まで公開されていなかったが、実用化に成功した事と、技術保有の各国から使用の許可が下りた為に公開された事が引き金となり、さらに世間を騒がせる事となった。
 これにより、時間の縛りが無くなった事、余命僅かな人が最後の時間をより有効に使えるようになるのでは無いか等、ゲームとは関係無い分野ですら話題騒然となった。

 又、βテスター達から掲示板へ次々と上がる報告が世界を熱狂させる事となった。
 まるで生きているかのようなAI達の反応、現実と間違えそうになるほどリアルに作られた世界の美しさ、緑や土の匂いや触感等も、ここが現実であると錯覚しそうになるほどだと。

 そんな熱狂の中終わったβテストから2か月後、第1陣プレイヤーの抽選も終わり、国内応募者3000万人という破格の応募人数の中から30万人が選ばれた。
 
 全感覚没入型という条件から、専用のコクーン型と呼ばれる高価なVR機器が必要とされていたが、とても個人で所有するには技術的にも、価格的にも負担を強いる部分では?等と言われていた。
 それがさらに驚愕の事実と共に解決される事となった。
 秘密裏に締結された技術提携加盟国家協力により建設されていた、「大規模海上VR施設イザナミ」と「大規模地下VR施設イザナギ」によるプレイヤー大規模収容施設の存在が明らかとなり、初回募集から2次募集の第2陣30万人が収容可能という、馬鹿げた規模の施設が建設されていた事が一般に公開された。

 何故そのような大規模な施設の存在が秘匿され、建設が進んでいたかという事に対する疑問の声や、ゲームなんかに使う技術や費用が馬鹿げている・狂気の沙汰であるという多数の声が上がるのは当然の事であった。
 そして、次々と明らかになる新事実に、世界はまたも驚愕する事となった。
 
 次元拡張技術の存在である。
 日本のオタク文化が世界的に有名である事は、既に世界共通の認識になっているが、その中でラノベやネット小説における、「アイテムボックス」や「空間の拡張」といった技術が現実の物となったという馬鹿げた報告である。

 まだ、実験段階から実用段階に至ったばかりではあるが、公開されたイザナギ・イザナミの両施設には、この新技術が使用されているとの事だった。
 α社が秘密裏に開発したこの技術を得たいが為に、日本だけで無く、世界各国が一企業に頭を下げてまでα社の夢の実現、「クリスタル・ファンタジア・オンライン」という第二の世界創造に着手したというのが事の真相であった。

 ここまでの情報が公開されると、もう世界の混乱はメディアによって大規模な物へと変貌していく事は、誰にでも予想の出来る事である。

 この新技術の独占は人類にとって損害である、即刻関係技術を各国に提供するべきだ等の世論が世界を騒がせたが、α社代表は記者会見の場に堂々とした態度で現れて次のように述べた。



 「この技術がどういった物であるか、どのような価値があるかなど先刻承知の上で我々は動いている。いずれは提供するつもりであるし、協力をする用意は出来ている」
 
 「別に技術を保持している事で偉そうにするつもりなど毛頭無いが、我が社の総意である夢の実現を邪魔するならば話は別だ!」
 
 「傲慢だと言われようが、国賊だと言われようが構わない。この瞬間に新技術の結晶をこの世から消し飛ばす事も出来るのだと明言しておこう」
  
 「我が社の行動は、誰もが望んだ事では無いのかも知れない。しかし、いつか誰かが夢を見た理想郷の一つの形でもあるのだと!私は自信を持って言おう!」

 「私は!いや、このプロジェクトを立ち上げた我が社一同は、この夢に文字通り命を賭けている!誰にも阻ませはしないし、夢を持ってゲームの開始を待っている、同士諸君を満足させるだけの自信がある」
 
 「世界各国の代表者にも承諾を得た今、これを阻む事は不可能だと言っておく。だから今回ユーザーとして選ばれたプレイヤー諸君には安心してゲームを楽しんで頂きたい!」

 「世界が君のゲーム生活をバックアップしてくれるんだぜ?何を遠慮するんだ?どこに不安がある?ははっ!取り繕った言い方なんかいらないな!現実に帰るのが嫌になったならゲームしたまま死んでもいいぜ!」

 「もう一つの世界が俺の現実になった!と声を大にして語れるなら一生面倒見てやるよ!バカバカしい、なぁにが死ぬまでゲームで!何て誰にも言わせるかよ。それだけの物を俺達は作り上げた、いやそれだけの世界を創造したぜ?」

 「帰りたい時だけ現実に帰ってきたら良いじゃねぇか。あっちで頑張れば旨い酒や食い物だってあるし、自分好みの男や女だって見つかるだろう、結婚して子供を産んで、家だって持てるしよぉ」

 「城を所有してみたいなんて馬鹿げた夢だって実現できるし、飛行機なんかなくたって空も飛べるし、船なんか無くたって海の果てなり底なり行けるんだぜ?」

 「現実に人が戻って来なかったら世界経済がだの、国がどうだなんぞ知るか!俺の会社でAIを提供してやる。自動化が進んだこの世の中だ、人間なんか数万数億減った所でどうにか出来んだろうよ」

 「それだけの価値がある技術だし、それだけの資源を用意できるほどの莫大な資産を我が社は得た。だけどそれぜーーーーーーんぶ、全部だ!俺達とお前等の遊びで使っちまおうぜ!」

 「のちの世で語られる人類を一時衰退させたバカな会社があった。黒歴史の主役に俺大抜擢!フヒヒな展開だってかまわねぇしよ。」

 「これからもサーバーは拡大していくし、土地が要らないんだから、施設だってバンバン造っていく!資源だって宇宙からどんどん調達してるんだ。3次4次と募集をかけるから、選ばれなかった同士諸君も待ってろよ?」

 「これは俺達のエゴだから最初は日本でのサービスから始めるが、世界的なサービスにするつもりだ。ああ、分かってるよお前等、日本人だけでやりたいとか、新規参入は別のサーバーへとかそこんとこも考えてるし、希望だって聞いちゃうぞっと」

 「とまぁ、長々と話してしまいましたが、サービス開始まで残す所、あと1週間です。ゲーム内でのルールを守れば何をするのも自由です。我々α社の社員一同は当然全員が運営&プレイヤーとして参戦しますし、モラルの維持に高性能なAI達も全力で参戦します」

 「GMコールの対応速度や周囲のプレイヤー及び参加プレイヤー全員による公平な目線によるジャッジも実装していますので、夢の世界を壊す事だけは内部からだって絶対にさせません」 

 「この歴史的な瞬間に立ち会ってくれる皆さんに感謝を、協力してくれた全ての方々に感謝をに述べさせて貰います。そして、最後に一言だけ......」

 突然、ネクタイを外し、スーツを放り投げ、腕を突き上げながら、こう叫んだ


 「オタク文化マジサイコーだろ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 この最後の一瞬で沈黙した人と、一緒になって腕を突き上げ狂気乱舞した人と反応は様々だったというニュースが放映された。

 なお、ミコミコ動画での「オタク文化マジサイコーだろ!動画」が作成されてゲーム稼働までの1週間での再生回数が100兆を超えたとか・・・・何人が見て、どれだけの人があのキーを何回押したの?とα社一同は祝杯を片手に乾杯したという。
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