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7/23 捜査開始
しおりを挟む振り返り、すぐに金沢は弁明をしようとした。
「俺は何もやってな、、」
そこまで話したところで口を手で覆われた。
なんとか声を出そうとしたが強い力で塞がれていた。
「しーっ!静かに!」
その警察官が小声で話した。
「あなたを助けろと言われているの。答え次第では協力してあげないでもないわ。」
金沢は理解できなかったが、ここで抵抗してもいすぐにまた捕まってしまうことを考えた。
また警察官がこんな嘘をつくメリットも何もないはずだとも思った。
金沢は恐る恐る抵抗をやめた。
「伝わったみたいね、そしたら場所を変えるわよ。」
周りには他の警察官がうろうろしていたが、彼女の協力のおかげでキャンパスから出ることができた。
途中金沢はこの警察官が女性であることに気づき、あの強い力のことを思い出して戦慄していた。
「ここまでくればひとまず安心ね。」
女性の警察官がそう話す。
「まだ混乱していて、理解が追い付いてないですが、助けてくれてありがとうございます。」
金沢はなんとか感謝の意を言葉にすることができた。
「私はね、こういうものよ。」と言って彼女は検察手帳を差し出した。
『巡査 水原 京子』
「み、水原って、、?」金沢がそう言うと
「あら、鈍いわね。あなたと同じ物理学科で陸上部の同期、水原陽子の姉よ。」
姉がいるとは聞いていたが、会うのは金沢自身初めてであった。確かに彼女の顔立ちは妹とそっくりだと感じた。
「そうだったんですか、、でもなんで僕を助けてくれたのですか。」
金沢は少しずつ冷静さを取り戻していた。
「ついさっき、あなたを確保するようにと上から連絡があったの。でもそれとほとんど同じタイミングでかな、陽子からも連絡があったの。彼が犯人なわけがないって。」
知らなかった、、水原が俺のことをそこまで信じていてくれていたとは、、
「誤解のないように言っておくけど陽子がそう考えた理由は、あなたが研究室に通っているわけがないし、隠れて研究をしているなんて絶対にありえないからだそうよ。」
金沢はバツの悪そうな顔をした。まあ勉強をさぼっていたことが結果的に約に立ったということか?
水原京子は続けていった。
「もちろん陽子のことは信用しているけど、さすがにそれだけで容疑者を助けようとは思わないわ。下手したらクビになるしね。」
金沢は最もだと思った。
「では、いったいなぜ、、。」
「6年前の、あなたのお父さん金沢賢太さんの死についてどうしても腑に落ちないことがあったことを思い出したの。」
金沢は驚いた。まさかここで父の名前が出てくるとは想像もしていなかったからだ。
「検視といってね、人が病気の悪化以外の理由で亡くなったときには警察が立ち会うことになっているの。事件性が無かったかを調べるためにね。」
金沢はその辺の知識は持ち合わせていなかった。
「例えば心臓の病気を抱えてる人が心臓の機能の悪化で亡くなったとしても警察は介入しないんだよ。もちろんお医者さんたちも事件性の有無を確認してくれているし、事件性はほとんどなさそうだよね。あと交通事故死なんかでは事件性があることもあるから、警察が介入する最たる例かな。でも、なんの病気も抱えてない人の心臓が急激に悪くなったらどうかな。それは何か事件性を感じない?」
彼は合点がいくと同時に父のことを思い出していた。
「金沢君のお父さんの死因は心停止だったと思うけど、心臓の病気を抱えていたりした?」
「いや、そんなことはなかったと、、」
「そう。直前までなんの病気もなかった方なの。」
胸の奥が騒がしくなってくるのを感じた。
「当時私は新米で、あなたのお父さんの検視に立ち会わせてもらったの。もちろん事件性が強く疑われたからね。検視を行ったけど心停止の原因は不明。特に現場も荒らされた形跡はなく、身体にも何の異常は見つからず、過労から心臓に負担がかかったということになったの。」
彼も初めて耳にする話であった。
「それじゃ、やっぱり事件性はなく、過労死だったのでは、、」
「あまりにもね、現場が奇麗すぎたの。」
「え?」金沢は聞き返した。
「普通、人の心臓なんて簡単に止まるものじゃない。刃物で刺されたってしばらくは動き続けるし、強い電気ショックを受けたとしても、正常に血液は送り出せなくなってはいるけど心臓自体は動いているわ。つまり心臓は急に止まることはなく、止まるにしても徐々に動かなくなっていくものなの。そしてー」
金沢は黙って京子の話を聞いていた。
「ーー心臓の動きが悪くなろうものなら必ず人はそれを認識して助けを求めるはずなの。助けを求められなくてもその場で叫び暴れ散らかすはずだわ。だけど遺体の周りは不自然なほどきれいに片付いていた。意識がなくなるのは心臓の動きが悪くなるよりもずっと後なの。もちろん電気ショックなんかの強い刺激を受けたら意識のほうが先に飛んでしまうかもしれないけど、そういうときには痣とか必ず身体に何かしらの跡が残るわ。」
金沢は自分の足が震えていることに気が付いた。
倒れないようになんとか踏ん張り、京子に自分の考えられうる最悪の考えを伝えた。
「それじゃは父は、どこが別の場所で殺害され、遺体の発見現場である父のデスクに運ばれた可能性が高いということですか?」
「殺害されたかまではわからない。でも、私は何者かが遺体を移動させたに違いないと考えているの。そしてそれは紛れもない犯罪行為だわ。」
考えたこともなかった。父の死に不審な点があろうとは、、
「水原さんは、、そのことを誰かに伝えたりはしなかったのですか。」
「もちろん伝えたわ。上司も明らかに現場が片付き過ぎていることは着目していた。当時発見された現場は早川製薬の一室だったから全社員から話を聞いたわ。でも証拠が何も見つからなかったの。それで操作は打ち切りになってしまった。あとはあなたも知っている通り、過労死による心停止として結論付けられたのよ。」
金沢は再び混乱した。何を話せばいいかわからなくなっていた。
「そして今日、早川製薬から連絡があったの。金沢爽太が一連の電磁波事件と関わっているとね。」
「あ、、」彼はもはや自分が追われていることなど忘れていた。
「不審な点のある早川製薬からの通報。陽子からの連絡。この二つを合わせて考えてみたときにまずはあなたに話を聞いてみようと思ったの。」
金沢はようやくここまでの流れを理解しつつあった。
「それで、もう一度聞かせてもらうね。あなたは本当に電磁波の事件に関与していないのね?」
「していません。自分でもどうして警察に追われることになったのか全くわからず混乱していました。」
彼ははっきりと答えた。
「うん。私には嘘を見破る力なんてないけど、なんとなく嘘はついてないって感じがするよ。」
ちょうどその時、金沢のズボンのポケットでスマホが震えた。
そういえば逃げているときも何回か振動していたような気がしたことを思い出した。
「すみません、電話に出てもいいですか。」
「いいけど、番号はきちんと確認してよ。」
彼は頷いて、スマホの画面を見た。
ー水原陽子ー
と表示されていた。
「はい、もしもし」金沢は電話に出た。
「ああっ!電話に出た!心配してたんだよ!無事なの!?」
水原妹のいつも元気な声が耳に響く。
「おう!お前のお姉さんに助けられたところだったんだ!本当に助けてくれてありがとうな!」
彼は精一杯お礼を言った。
「それはよかった!お姉ちゃんに連絡した甲斐があったってもんよ。そりゃあんたが犯人なわけないもんね。誰よりも勉強してない人が、研究室の実験のことでニュースになるなんて天地がひっくり返ってもありえないよ!」
やはり日々の積み重ねとは大切なのだなと金沢は実感した。今回は積み重ねていないことの積み重ねではあったが。
「で、これからどうするの?」水原陽子が聞いてきた。
彼はこの一時間足らずで様々なことが起こりすぎて頭の整理がついていなかった。ただ確実に言えることは、自分を犯人に仕立て上げようとしている者がいること。そしてその者は父の死の真実とも関連しているかもしれないことであった。
ーー真実ーー
この言葉を最近どこかで目にした気がする。
そうだあのメッセージだ。
『逃げろ。そして真実を掴め。』
逃げろとは警察からのことなのか?
差出人はこの事態を予見していたのか?
捕まったら何か都合が悪いのか?
警察に正直に話してしまえば疑いも晴れそうな気がするが、、
そしてそもそも差出人は誰なのか、、
彼はしばらくの間黙って考えていた。
時刻は夕刻に近づいていたが、太陽の日差しはまだ強く、蝉の鳴き声も激しい。立っているだけで汗が滲みでで来る。
「決めた。」そう金沢は呟いた。
「真実を知りたいと思った。自分一人の問題なら警察に事情を説明しに行ってたかもしれない。でももし父の死のことも関わっているのなら別だ。自分で調べてみないことにはもう永久に闇の中だ。」
「爽太ならそういう気がしてたよ。」水原陽子が言う。
それを聞いていた水原京子は妹の胸中もできれば知りたいと思ったが、それをここでいうのは野暮と考え、ただ黙って頷いていた。
そして金沢は深く頭を下げ、言った。
「二人ともありがとうございました!そしてできれば、自分の捜査の手伝いをしてもらえないでしょうか!」
「もちろん!協力してあげるよ!その代わり、真実がわかったらアイス10個奢ってね。」と陽子から明るい声が返ってきた。
水原京子は少し考えて
「容疑者に加担したなんて上にバレたらどうなるか、、でも犯人は明らかに別にいるんだもんね。ようし!
私も協力するよ!真犯人がわかりさえすれば問題ないさ!その代わり、真実がわからずに終わったらアイス10個奢りなさいね。」
頼もしいと思いつつ、やはり姉妹だと思った。これではどっちに転んでも奢る羽目になる。
しかしこのような明るい空気を作り出してくれた二人に感謝していた。
そして、また彼自身も久しく味わっていない感覚を思い出していた。
ーー心が燃える。気分が高揚する。ーー
受験生時代、難問と対峙したとき、彼はいつも心から問題を楽しんでいた。
難しければ難しいほどワクワクしたのだ。
教授に言われた通り、自分はまだ問題や課題を自ら見つけることはできない。でも、与えられた問題、必ず答えの存在する問題を解決する力なら散々磨いてきた。
「必ず真相を明るみにしてやる!」彼の眼は輝いていた。
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