私と母のサバイバル

だましだまし

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12 到着

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森の様子が変わってきた。

鬱蒼とした感じだったのに木がまばらとなり、木の多い平原といった様相になってきたのだ。
いや、木が減るにつれ登り坂と言えるほどの斜面になっているので丘という方が正しいかもしれない。


蜘蛛パンを口にしてから3日、ひたすら森を進んだ。
お母様が結界を張れると知ったので寝床を作る時間が不要になり随分と進んだと思う。

幸い、魔物との遭遇は少なくニードルディアと戦ったのも昨日が2度目だ。
肉の傷みが気になりだしたタイミングだったのでむしろラッキーだったかもしれない。

一度目の戦闘で精神が成長していたのかお母様の言う通り戦闘後も特に感傷に浸ることは無かった。
蛇や蜘蛛の小型魔物を倒した時とさほど変わらない感覚だった。



「わぁ…きれい」

斜面を登り切ると眼下に街が広がっているのが見えた。
私が産まれた国ロレアルと違い建物が白で揃えられている。
それが太陽の光をキラキラ反射しとても美しかった。

「ジャメリアの国境の街、ジングね!あの3本の塔がある神殿、前に一度行ったことあるもの」
お母様の話によるとこのジングは日の落ちるのが早く夜の長い街らしい。
それで少しの光でも明るく照らせるよう白を基調とした建物が殆どなのだそうだ。


無事に魔物が出る森を抜けられた事に安堵する。
ようやくサバイバルが終わったのだ。
これからは二人で生きる道を探さねば…経験を生かして冒険者もアリかしら?
街が近付くにつれ足どりは軽くなっているように思えた。


幸いな事に街の関所に掲げられている通行料は従者が渡してくれたお金で充分賄えた。
ただ、「街に知り合いがいるから任せて!」
そう胸を張るお母様に門番とのやり取りを任せたのが間違いだったらしい。

「なんで小部屋に閉じ込められちゃうような事言うの!?」
兵に連れられ奥の部屋に案内された時点で不安になった。
すると案の定、ガチャリと鍵をかけて閉じ込められてしまったのだ。
「一度訪ねた事あるだけで大神官と知り合いとか無理あり過ぎるから…」

なんとお母様、門番に大神官と面識があるから会いに来た、呼んでくれと言ったのだ。
他にも色々と話しているようだったけど紹介状どころか身分証も何も無いのに無茶苦茶である。
ちょっと泣きそう。

「えー、確認するって言ってたし大丈夫よ~。大神官様「いつでもまた来てほしい」って言ってたもの♪久々だけど代替わりされてないみたいだったし」

部屋にある丸椅子に座って壁にもたれ…完全にリラックスしてるお母様…。
多分犯罪者とか怪しいって門番に睨まれた人が閉じ込められる部屋なんだろうなってくらい狭いし壁とか傷だらけなのにお母様から不安を全く感じない。

「折角逃げてきたのに強制送還されたらどうするのよ!もしくは犯罪者とか…?」
「シェリーったら心配性ねぇ~ふふっ」
いや、誰のせいでこんな所に閉じ込められてると思っているのよ。
いつも助けられてきたお母様の脳天気な性格に不安から苛立ちがつのる。

(この後どんな扱いがあるか分からないもの…。体力を温存しておこう)
椅子にはお母様が座っているのでマサオの世界で「体育座り」と言われる座り方で床に座る。
荷物も全て兵に取られてしまったが魔法封じはされていない。
ロレアルに帰されるとなれば道中に逃げられるが罪人とされたらどう逃げようか…。
不意打ちになり本当の罪人にならないよう相手を殺さない魔法…難しいな。

そんな事を考えつつも疲労でウトウトしていた時だった。
ガチャガチャと扉の鍵が乱暴に開けられる音が響く。
入ってきたのは門番の兵が1人と初老のシスターだった。
「…シャナファ…さま…?本物の…?」
シスターの呟くような声にお母様はニッコリと微笑む。
「本物よ!光魔法で結界も張れるわ」
そう言って手のひらに光の玉を浮かばせる。

それを見た瞬間、シスターは泣き崩れた。
「シャナファ様!あぁ!神様!ありがとうございます!ありがとうございます!よくご無事で…!」
ポカンとするしかない。
シスターが泣きながら祈るのを見た門番も膝をつき神様に祈っている。
お母様はそんな2人を見てもニコニコのままだ。


「お母様…平民出身の踊り子だったんじゃ…」
どうみても二人共ただの平民の踊り子に会った時の喜び方じゃない。
「ん?そうよ~。小国ルーナの平民出身♪」
小国ルーナ…ここからそこそこ遠い国である。
こんな所で偶然母国の知り合いが…の線は薄そうだ。

あ然とする私と違い、涙を流すシスターと羨望の眼差しを向ける門番にお母様はいつもの調子で話しかけた。
「私の無事を喜んでくれてありがとう♡でもちょっとお腹空いてきちゃったからそろそろココから出たいー」
そう言った瞬間「きゅるる~」と可愛くお母様のお腹がしっかり鳴る。

シリアスな空気が呆気にとられて消える。
テヘヘと笑ってるけど空気読んで?お母様!
感動の再開っぽかったのに台無しなんだけど!?

理由が分からないなりにツッコまずにはいられなかった。
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