私と母のサバイバル

だましだまし

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「ジャメリアを目指して歩くのはなるべく午前だけにする?」

歩きにくい森の中をひょいひょいと進むお母様に声を掛ける。

「それは…少しゆっくり過ぎない?」
不思議そうに聞くお母様。
そうよね、私としても少しでも早く森を抜けたい。

頭に地図を浮かべると森の幅は馬車で直線に抜けても丸一日かかりそうな距離だった。
徒歩だと平坦な道でも3日はかかりそうな広さだ。
だが…
「でも方位磁針とかがないじゃない?太陽が東にある午前はともかくこんな見渡し悪い森じゃ方角間違えないかなって…。あと毎日寝るとこも用意しなきゃだし食べ物も探さなきゃだし…」

太陽の方角と苔の生えている場所から何となくにはなるが方角を確認しつつ東に向かって進んでるけど、なんせ絶対じゃない。
万が一北に逸れてもジャメリアには着くが森を長く歩くことになるし、もし南に逸れ過ぎると侯爵領から出て対立する伯爵領には着けるが国を出られない。
伯爵には匿ってもらえるだろうが当然私達は政争に利用されるだろう。
それにお父様や奥様から命を狙われ続ける。
南に逸れるのは避けたい。

なんせ私達の入った場所は国境の森の中でも半島の様に少し突き出した部分なのだ。
入った面が侯爵領、先端に面した部分が伯爵領、そして侯爵領と向かいあっているのがジャメリア国なのだ。

最悪、北に逸れ過ぎると広大な森の奥地へと進む可能性だってある。
それは避けたい。

「んー…方角が分からないから不安なのかしら?」
「平たく言えば…まぁ…そうなるかなぁ」
マサオが遭難は避けろと警鐘を鳴らしている原因は多分方角が分からなくなって迷子になるのを避けるためだろう。
「それならすぐに解決するわ」
お母様がニコニコとこっちへ素早く移動して…私を掴みしゃがませた。

「え!?何!?」「しっ!」
お母様の表情から笑顔が消えている。
視線の先を追いかけみると一匹の大きな鹿…いや鹿よりかなり枝分かれした角を持つニードルディアがこちらを見据えていた。
斜めに倒れた木の向こう…4~50m先くらいだろうか。
「まだ若そうね。向こうもこっちの様子を見てるわ。走りながら太ーい針を飛ばしてくるから気を付けてね!風の魔法飛ばしまくってたら当たると思うし怪我したら治してあげるから安心して戦って」

先程までの緊張した表情から一転、いい笑顔でグッと親指を立てられる。
そういや水魔法は相性悪いって言ってたなぁ…。

緊張から唾を飲み込み魔法を練り上げる。
複数の風の刃を空中に浮かべると同時に向こうが木の陰からおどり出しそのままこちらへと走りだした。
こちらも横へと走り出す。

ドドドッ!ドドッ!!

お母様の言う通り太い針が飛んでくる。
しかし走りながら放つからか角から出てくるためか狙いはそこまで正確ではないらしい。
かなり手前の地面に刺さった。
速さもバッティングセンターの球くらいだろうか。
飛んでくるのを目視できた。
確かにこれなら風魔法でなら叩き落とせる。

「『風の刃』!!!」
空中に待機させていた風魔法をニードルディアに向かって一気に放つ。
一つは外したが一つは角を一本切り落とし、もう一つは前足の付け根に深い切り傷を負わせた。

「ピャッ!ピャーーー!!!ゲッゲッゲッゲッ…」

甲高く笛のように鳴いたあと低くカエルのような鳴き声を鳴らしながらこちらを睨んできている。

ヒュヒュヒュ…ッ

針がこちらへ真っ直ぐ飛んできたのが見えたので魔法で叩き落とした…が、一本落とし損ね耳を掠める。
チリっとした僅かな痛みが走った。
互いに負傷し睨み合う。


その僅かな睨み合いの隙をついてお母様の魔法が直撃した。
ニードルディアの顔を水の塊が覆っている。

「ぐぼぼ…ガッ…ごぼっ…ガッ…ガッ…ッ…」

威嚇するような声を時折溺れながらも水の中から上げつつ頭を振り、水から逃れようともがくニードルディア。
しかしやがてその場に倒れ込んだ。

「首を落として!」
お母様の鋭い声にハッとして風魔法を打ち込む。
一撃で落とせなかったので2発打ち首を落とした。

ホッとし、息が上がっている自分に気付く。
「初めての戦闘、お疲れ様」
ホワッと耳の痛みが引くのと同時に優しい光を顔の横に感じる。
お母様の光魔法だった。
「回復って…魔力沢山使いそう…」

頭がぼーっと痺れたような感覚で、ふと思ったことをそのまま口にしていた。
「ん?こんな小さい怪我なら全然使わないわよ?」
多分気の抜けた視線だったと思う。
お母様の声に引かれるように顔を見るとニコリと返され泣きそうになった。
ヘナヘナと力が抜けへたり込む。

「初めての戦闘だったもの。怖かったわよね。不安だったわよね。マサオの記憶にも戦闘は無かったのね。もう大丈夫よ。ありがとう。大丈夫だからね」

座り込む私を優しく抱きしめ、小さな子をあやす様にポンポンと背中を叩いてくれるお母様。
何故か分からないけど涙がボロボロと溢れ物凄い安心感が胸に広がった。
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