私と母のサバイバル

だましだまし

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額にひやりとした感触を感じ目を開けると日が傾きかけていた。

「良かった…気がついた…」
優しく笑いかけながら涙ぐむお母様の顔。
額には濡らされたタオルが置かれていた。

「魔法をかけたけど目を覚まさないからどうしようかと思ったわ。大丈夫?どこか痛くない?」
そう言われてうーん、と考える。
体を起こすと擦り傷一つ無い。
もちろん痛みなんてどこにも無かった。
光魔法の凄さを感じる。

でも今の私には夢かと思うような記憶があった。

「あのね、変な事、言っていい?」
「変な事?なあに?どうしたの?」
優しい笑顔で聞いてくれるお母様。

「私、別世界で生きてたみたい」
「…あら、本当に変な事だわ!」
お母様は思いがけない言葉だったようで眉間に軽くシワを寄せ少し困惑したように首を傾げた。
ぶっちゃけ私だって困惑している。

変な記憶…それは私は別の人として別の世界で生きていたというもの。
アウトドアが好きでインストラクターという仕事をしていた。
サバイバルという自ら不便な生活を楽しんでいるノナカ マサオって名前の…うん、男性だったな。

この世界には無いものが沢山あった。
でもそれが当たり前で珍しくない便利な世界。
ただ、今の私にとって当たり前の魔法や魔石が無い不便な世界…。
浮かぶ記憶を口に出していく。
夢のような、夢でない世界の話だ。

「うーん…じゃあ今のあなたはシェリーなの?マサオなの?」
育ててきた娘が男として生きた記憶があるとか言い出したのだ。
困惑するのも無理はない。
むしろこんな話をよく信じてくれる、そう感謝しつつ少し考えて答えた。

「シェリーのまま…のハズ。マサオは断片しか分からないから…。でも別人って感覚がないの。マサオは男性だったから変な感じだけど子供の頃を思い出すみたいにマサオの記憶が出てくるわ。でもお母様って聞いて浮かぶのはお母様なの。マサオのお母様は…モヤがかかったみたいに思い出せないわ」

私の返事を聞いて少しホッとした様子が分かる。
そりゃ娘がいきなり別人になったら嫌よね。
「シェリーが私をお母様って思えるままなら問題ないわ!前世ってやつなのかしら?でも他の世界ってのも変だし…謎ね!」
「うん…変よね…」
「でも違う世界の記憶なんて面白いじゃない♪」

軽い…。
信じてくれたのか違うのか…めっちゃ軽い。
そんなお母様の様子に悩むのもバカらしくなる。
ふと視線を横にすると下半分になったカゴが目に入った。
「お母様…このカゴ…」
「あぁ、ジャムをね、盗られちゃった。魔物が居なくなった後にカゴに残ってたパンだけ持ってきたの。ほとんどダメになってたけど、今日と明日の分くらいはありそうよ?」
そう明るく笑った。

私と目が合ったのはやはりアックスベアらしい。
ただその性格はほぼ動物の熊と変わりないらしく落ちていった私へ関心を示すことは無かったそうな。
カゴを蹴飛ばした時にパンが飛び出したらしくカゴを切ったらジャムが出てきたから持って行った…そんな流れだったという。

「もう日が落ちるからね、寝れそうな所も探したの」
そう言ってお母様が指し示したのは少しせりでた岩の間だった。
確かに少し物陰にはなっているが一目で目に付く。

「お母様!簡易テントを作りましょう?」
そんな物は用意できてないというお母様に私は自信をもって答えた。
「マサオには出来るから大丈夫よ!」
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