上 下
6 / 11

6

しおりを挟む
顔を上げると驚いた。
王太子なんて初めて見たが立っているのがシェルに見えたのだ。
そう思った生徒は私だけでないらしく、何人かが小さく声を上げている。

「今日、私がお祝いに来たのは他でもない。大事な末の弟の卒業式だからだ。この卒業をもって王族としてお披露目する。第三王子、シエルナードだ」

拍手と共に王太子の陰から前に出て来たのは王太子と似た正装をしているが今度こそ紛れも無くシェルだった。

「学友の皆さん、今日こんにちまで共に過ごせ幸いだった。入学から子爵位となっていた身分が本日より王族へと戻る事に驚いた者もいるだろう。しかし友だった者たちは変わらず友だ。共に卒業を迎えられ嬉しく思う」

保護者たちは王族が入学する時は爵位が変わるのを知っていたのだろう。ちらほら「今年が卒業だったか」と言う声と我が子に親しかったか確認し、少々残念そうにする姿がみえる。シェルは最終学年はあまり学園に来ていないし交友も広くはなかったから「友」に該当する人は限られているだろう。

他の生徒たち同様、私も王子だった事に口が開きっぱなしになるくらい驚いたのだが横のディーダをチラっと見ると平然としていた。

「え…知ってたの…?」

「んー…まぁな…」

「そ…なんだ…」

後で理由を話すと言われ内緒にされてた事に寂しさを感じつつ視線を壇上に戻す。

王太子曰くシェルの挨拶のあと保護者が祝辞を送るという。

「今日の佳き日の挨拶は皆の先行きが善いことを願い、この度陞爵した伯爵にお願いした」

拍手と共に壇上に上がったのはルフィナとレフィルの父、メロウェイ氏である。先程見当たらなかったのは壇上の側にいたかららしい。

「この度、伯爵位を賜りましたメロウェイ・カルザーです。我が家が王家より賜った恩恵と、日々もたらされている幸福が卒業を迎える皆様にも訪れる事を願いつつ祝いの言葉を贈らせて頂きます」

メロウェイ子爵改めメロウェイ伯爵の登場にも結構な数の生徒がざわつき顔を見合わせている。
そりゃ、自分たちが疎外していた令嬢が下位貴族から高位貴族の仲間入りを果たしたのだ。
特に同じ子爵家だと思っていた令嬢たち、自分たちの方が上だと思っていた伯爵家の令嬢たちはこれからの社交でこの上なく気不味いことだろう。
なんせメロウェイ・カルザーは侯爵家の出で、事業で名を馳せた本家に匹敵する資産家なのだ。
血筋も確かなので陞爵と同時に伯爵家の中でも上位の家に成り上がった事になる。

チラっとディーダを見るとさっきと違って「マジか…」と小さく呟き驚いていた。
ちょっとニヤニヤしていると

「おま…知ってたのか?」

「最近ね」

「そっか…」

さっきと逆である。
私も後で理由を説明しようと思っていると王太子がルフィナを呼んだ。

何故ルフィナが呼ばれたのかと戸惑う私達に対し驚く事もなくレフィルにエスコートされ壇上に向かうルフィナ。
壇上からは父親にエスコートされつつ王太子殿下とシェルの間に立った。
こうして並ぶとルフィナの金髪は王家の二人の金髪の色とそっくりだ。

だがそれも当然。今の王妃様、つまり王太子殿下とシェルの母親はセドナーとルフィナそれぞれの父親の姉、つまり叔母なのだ。

なのでシェルとルフィナは(ついでにセドナーも)従兄妹だったということになる。
ということはシェルが第三王子というのも知っていたに違いない。
だからレリアンがシェルになびく様子でもセドナーはシェルに突っかからずルフィナに八つ当たりしていたのか…?
ルフィナもシェルも(ついでにセドナーも)キレイな金髪だしどこかで血縁だったりして、とか考えた事もあったが…道理でルフィナとシェルがすぐに仲良くなるはずである。元々顔見知りなのだから。

「最後に、王族と戻ったシエルナードは我々の従妹であり学園生活で親交を深めていたルフィナ嬢との婚約が決まっている。既に招待状が手元に届いた家もあるだろう。祝い事が重なっているこのパーティに是非とも皆が参加してくれる事を願っている!」

最後に締めの挨拶を述べた王太子に保護者たちは盛大な拍手を送った。
婚約話に驚きを浮かべる保護者は多かったが大人たちは第三王子の存在を知っていたし、メロウェイ家の陞爵もいつあってもおかしくないと思っていたので生徒たちほどの動揺はなさそうだった。

しかし生徒たちは違う。
爪弾きにしていたルフィナは伯爵令嬢どころか未来の王子妃になるというのだ。
殆どの女生徒たちが親にルフィナとの交友度合いを確認され気不味そうにしていた。
皆「親しくはなかった」と口にしてはいるが実際は親しくないどころではない。
青い顔をした生徒がそこかしこにいた。
親もその様子に何か察したのだろう。
ガックリしているのはいうまでもない。

そうこうしてる間にルフィナがシェル…シエルナード王子とレフィルと3人で壇上から降りてこちらに向ってきていた。
私もディーダと手を取り近付いていく。

そこへ、今までと違い地を這うような低い声で「ひどいわ」と呟きながらレリアンがやって来た。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

全部、支払っていただきますわ

あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。  一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する… ※設定ゆるふわです。雰囲気です。

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

婚約破棄?それならこの国を返して頂きます

Ruhuna
ファンタジー
大陸の西側に位置するアルティマ王国 500年の時を経てその国は元の国へと返り咲くために時が動き出すーーー 根暗公爵の娘と、笑われていたマーガレット・ウィンザーは婚約者であるナラード・アルティマから婚約破棄されたことで反撃を開始した

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

処理中です...