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顔を上げると驚いた。
王太子なんて初めて見たが立っているのがシェルに見えたのだ。
そう思った生徒は私だけでないらしく、何人かが小さく声を上げている。
「今日、私がお祝いに来たのは他でもない。大事な末の弟の卒業式だからだ。この卒業をもって王族としてお披露目する。第三王子、シエルナードだ」
拍手と共に王太子の陰から前に出て来たのは王太子と似た正装をしているが今度こそ紛れも無くシェルだった。
「学友の皆さん、今日まで共に過ごせ幸いだった。入学から子爵位となっていた身分が本日より王族へと戻る事に驚いた者もいるだろう。しかし友だった者たちは変わらず友だ。共に卒業を迎えられ嬉しく思う」
保護者たちは王族が入学する時は爵位が変わるのを知っていたのだろう。ちらほら「今年が卒業だったか」と言う声と我が子に親しかったか確認し、少々残念そうにする姿がみえる。シェルは最終学年はあまり学園に来ていないし交友も広くはなかったから「友」に該当する人は限られているだろう。
他の生徒たち同様、私も王子だった事に口が開きっぱなしになるくらい驚いたのだが横のディーダをチラっと見ると平然としていた。
「え…知ってたの…?」
「んー…まぁな…」
「そ…なんだ…」
後で理由を話すと言われ内緒にされてた事に寂しさを感じつつ視線を壇上に戻す。
王太子曰くシェルの挨拶のあと保護者が祝辞を送るという。
「今日の佳き日の挨拶は皆の先行きが善いことを願い、この度陞爵した伯爵にお願いした」
拍手と共に壇上に上がったのはルフィナとレフィルの父、メロウェイ氏である。先程見当たらなかったのは壇上の側にいたかららしい。
「この度、伯爵位を賜りましたメロウェイ・カルザーです。我が家が王家より賜った恩恵と、日々もたらされている幸福が卒業を迎える皆様にも訪れる事を願いつつ祝いの言葉を贈らせて頂きます」
メロウェイ子爵改めメロウェイ伯爵の登場にも結構な数の生徒がざわつき顔を見合わせている。
そりゃ、自分たちが疎外していた令嬢が下位貴族から高位貴族の仲間入りを果たしたのだ。
特に同じ子爵家だと思っていた令嬢たち、自分たちの方が上だと思っていた伯爵家の令嬢たちはこれからの社交でこの上なく気不味いことだろう。
なんせメロウェイ・カルザーは侯爵家の出で、事業で名を馳せた本家に匹敵する資産家なのだ。
血筋も確かなので陞爵と同時に伯爵家の中でも上位の家に成り上がった事になる。
チラっとディーダを見るとさっきと違って「マジか…」と小さく呟き驚いていた。
ちょっとニヤニヤしていると
「おま…知ってたのか?」
「最近ね」
「そっか…」
さっきと逆である。
私も後で理由を説明しようと思っていると王太子がルフィナを呼んだ。
何故ルフィナが呼ばれたのかと戸惑う私達に対し驚く事もなくレフィルにエスコートされ壇上に向かうルフィナ。
壇上からは父親にエスコートされつつ王太子殿下とシェルの間に立った。
こうして並ぶとルフィナの金髪は王家の二人の金髪の色とそっくりだ。
だがそれも当然。今の王妃様、つまり王太子殿下とシェルの母親はセドナーとルフィナそれぞれの父親の姉、つまり叔母なのだ。
なのでシェルとルフィナは(ついでにセドナーも)従兄妹だったということになる。
ということはシェルが第三王子というのも知っていたに違いない。
だからレリアンがシェルになびく様子でもセドナーはシェルに突っかからずルフィナに八つ当たりしていたのか…?
ルフィナもシェルも(ついでにセドナーも)キレイな金髪だしどこかで血縁だったりして、とか考えた事もあったが…道理でルフィナとシェルがすぐに仲良くなるはずである。元々顔見知りなのだから。
「最後に、王族と戻ったシエルナードは我々の従妹であり学園生活で親交を深めていたルフィナ嬢との婚約が決まっている。既に招待状が手元に届いた家もあるだろう。祝い事が重なっているこのパーティに是非とも皆が参加してくれる事を願っている!」
最後に締めの挨拶を述べた王太子に保護者たちは盛大な拍手を送った。
婚約話に驚きを浮かべる保護者は多かったが大人たちは第三王子の存在を知っていたし、メロウェイ家の陞爵もいつあってもおかしくないと思っていたので生徒たちほどの動揺はなさそうだった。
しかし生徒たちは違う。
爪弾きにしていたルフィナは伯爵令嬢どころか未来の王子妃になるというのだ。
殆どの女生徒たちが親にルフィナとの交友度合いを確認され気不味そうにしていた。
皆「親しくはなかった」と口にしてはいるが実際は親しくないどころではない。
青い顔をした生徒がそこかしこにいた。
親もその様子に何か察したのだろう。
ガックリしているのはいうまでもない。
そうこうしてる間にルフィナがシェル…シエルナード王子とレフィルと3人で壇上から降りてこちらに向ってきていた。
私もディーダと手を取り近付いていく。
そこへ、今までと違い地を這うような低い声で「ひどいわ」と呟きながらレリアンがやって来た。
王太子なんて初めて見たが立っているのがシェルに見えたのだ。
そう思った生徒は私だけでないらしく、何人かが小さく声を上げている。
「今日、私がお祝いに来たのは他でもない。大事な末の弟の卒業式だからだ。この卒業をもって王族としてお披露目する。第三王子、シエルナードだ」
拍手と共に王太子の陰から前に出て来たのは王太子と似た正装をしているが今度こそ紛れも無くシェルだった。
「学友の皆さん、今日まで共に過ごせ幸いだった。入学から子爵位となっていた身分が本日より王族へと戻る事に驚いた者もいるだろう。しかし友だった者たちは変わらず友だ。共に卒業を迎えられ嬉しく思う」
保護者たちは王族が入学する時は爵位が変わるのを知っていたのだろう。ちらほら「今年が卒業だったか」と言う声と我が子に親しかったか確認し、少々残念そうにする姿がみえる。シェルは最終学年はあまり学園に来ていないし交友も広くはなかったから「友」に該当する人は限られているだろう。
他の生徒たち同様、私も王子だった事に口が開きっぱなしになるくらい驚いたのだが横のディーダをチラっと見ると平然としていた。
「え…知ってたの…?」
「んー…まぁな…」
「そ…なんだ…」
後で理由を話すと言われ内緒にされてた事に寂しさを感じつつ視線を壇上に戻す。
王太子曰くシェルの挨拶のあと保護者が祝辞を送るという。
「今日の佳き日の挨拶は皆の先行きが善いことを願い、この度陞爵した伯爵にお願いした」
拍手と共に壇上に上がったのはルフィナとレフィルの父、メロウェイ氏である。先程見当たらなかったのは壇上の側にいたかららしい。
「この度、伯爵位を賜りましたメロウェイ・カルザーです。我が家が王家より賜った恩恵と、日々もたらされている幸福が卒業を迎える皆様にも訪れる事を願いつつ祝いの言葉を贈らせて頂きます」
メロウェイ子爵改めメロウェイ伯爵の登場にも結構な数の生徒がざわつき顔を見合わせている。
そりゃ、自分たちが疎外していた令嬢が下位貴族から高位貴族の仲間入りを果たしたのだ。
特に同じ子爵家だと思っていた令嬢たち、自分たちの方が上だと思っていた伯爵家の令嬢たちはこれからの社交でこの上なく気不味いことだろう。
なんせメロウェイ・カルザーは侯爵家の出で、事業で名を馳せた本家に匹敵する資産家なのだ。
血筋も確かなので陞爵と同時に伯爵家の中でも上位の家に成り上がった事になる。
チラっとディーダを見るとさっきと違って「マジか…」と小さく呟き驚いていた。
ちょっとニヤニヤしていると
「おま…知ってたのか?」
「最近ね」
「そっか…」
さっきと逆である。
私も後で理由を説明しようと思っていると王太子がルフィナを呼んだ。
何故ルフィナが呼ばれたのかと戸惑う私達に対し驚く事もなくレフィルにエスコートされ壇上に向かうルフィナ。
壇上からは父親にエスコートされつつ王太子殿下とシェルの間に立った。
こうして並ぶとルフィナの金髪は王家の二人の金髪の色とそっくりだ。
だがそれも当然。今の王妃様、つまり王太子殿下とシェルの母親はセドナーとルフィナそれぞれの父親の姉、つまり叔母なのだ。
なのでシェルとルフィナは(ついでにセドナーも)従兄妹だったということになる。
ということはシェルが第三王子というのも知っていたに違いない。
だからレリアンがシェルになびく様子でもセドナーはシェルに突っかからずルフィナに八つ当たりしていたのか…?
ルフィナもシェルも(ついでにセドナーも)キレイな金髪だしどこかで血縁だったりして、とか考えた事もあったが…道理でルフィナとシェルがすぐに仲良くなるはずである。元々顔見知りなのだから。
「最後に、王族と戻ったシエルナードは我々の従妹であり学園生活で親交を深めていたルフィナ嬢との婚約が決まっている。既に招待状が手元に届いた家もあるだろう。祝い事が重なっているこのパーティに是非とも皆が参加してくれる事を願っている!」
最後に締めの挨拶を述べた王太子に保護者たちは盛大な拍手を送った。
婚約話に驚きを浮かべる保護者は多かったが大人たちは第三王子の存在を知っていたし、メロウェイ家の陞爵もいつあってもおかしくないと思っていたので生徒たちほどの動揺はなさそうだった。
しかし生徒たちは違う。
爪弾きにしていたルフィナは伯爵令嬢どころか未来の王子妃になるというのだ。
殆どの女生徒たちが親にルフィナとの交友度合いを確認され気不味そうにしていた。
皆「親しくはなかった」と口にしてはいるが実際は親しくないどころではない。
青い顔をした生徒がそこかしこにいた。
親もその様子に何か察したのだろう。
ガックリしているのはいうまでもない。
そうこうしてる間にルフィナがシェル…シエルナード王子とレフィルと3人で壇上から降りてこちらに向ってきていた。
私もディーダと手を取り近付いていく。
そこへ、今までと違い地を這うような低い声で「ひどいわ」と呟きながらレリアンがやって来た。
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