私は男爵令嬢ですよ?

だましだまし

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閑話 ルドウィック・マーレイ

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あの女とセドリックが出ていった後も苛立ちはおさまっていなかった。


『レリック男爵家アンジェリナ嬢を王家の意図通り批判なく扱える案はないか』
国王が父にそう相談したらしい。

光属性と神聖力を併せ持った女。
国によっては聖女という肩書を与えたりもするらしい。

冤罪をふっかけ罪人として酷使するのが手っ取り早いと父に進言したのだが、魔法は精神面の影響が大きい。
心を病んで魔法の力が弱まっては意味がないそうだ。当然か。

物語にもなった女の時代の王は平和の賢王として名を残している。
命令を繰り返し神聖光魔法使いを派遣した他の代より明らかに魔物やその魔物が纏う瘴気による被害がなかったからだ。

王家に残る記録と物語が大違いなのを知っているのは一部の高位貴族と情報管理の家系、大臣職を多く排出している家の後継者たちくらいだろうか。
目を通すだけでなく記録を読み込めば分かるのだが、実は当時の王が名を残せたのはその時の宰相、つまり俺の曽祖父のおかげだと言っても過言ではない。

物語の清らかな性格と違って自らの有用性から我儘三昧で当時の王族を怒らせ、処刑寸前になった女を助命したのが曽祖父だった。

そして罪人ゆえに大っぴらな贅沢はさせられない、と散財を抑制することにも成功した。
さすがに文字通り命の恩人相手には我儘を抑えたらしい。
それでもそこらの低位貴族よりはうんと贅沢出来ていたようだ。

更に女の王子への恋心が冷める頃には女を操る対策を万全に組んでいた。
自己顕示欲こそ充分に満たせなかったようだが、自尊心を上げ、優越感を感じ『自分は特別なのだ』と常に思わせる事に成功したのだ。

その『特別感』が国の為に魔法を使うことで満たされる。

まさに好循環を作った人物。立役者だ。
祖父曰く目立つのが苦手な人で、曽祖父でなく王の名が残ったのは曽祖父が功績を王のものとしたからだろう、と実に勿体ない話をしてくれた。
曽祖父から祖父に代替りした際に侯爵家から公爵家に陞爵されたのはこの件の礼と思われる、とも。


だが俺はこの件が無くても陞爵したんじゃないかと思っている。
そもそも曽祖父は王族の血を引いている。
更に祖父は若い頃から外務大臣として諸外国を渡り歩き国に貢献していたし、祖母は隣国の王女だ。
公爵家として相応しい家と言えるから陞爵したに過ぎないだろう。

まだ幼かった俺でも祖父は沢山の人に頼りにされていたのが分かったくらいだ。
すごい人だったに違いない。
でも、歴史に名は残していない。


しかし、だ。
アンジェリナ・レリックを使えば俺も曽祖父の仕えた王のように名を残せる機会を得るかもしれない。
同じ世代に産まれたのはきっとそういう運命だからだ。
能力は稀有なものでも姿絵を見る限りどこにでもいそうなパッとしない女。
しかもショボい男爵家の娘だ。

同じ学園に進学してくると聞いて俺は宣言した。
「私が彼女の恋人となり国の為に尽くさせてみせます」
父上と母上は目を丸くしていたが賛同してくれた。
「そうなれば一番良いな」と。
生意気な弟だけは「無理でしょ、普通に」とか抜かしていたが俺が令嬢たちに人気なのを知らないわけでもあるまいに。
しかも家は公爵家だ。
それだけで男爵令嬢なら色目を使ってくるさ。

そう、思っていたのに、だ!
蓋を開けたら俺以外の高位貴族どころか王子まで言い寄っていやがる。

セドリックに探らせれば誰があの女を射止めるか、王と王妃、父上と同じ派閥の大臣たちで賭けているというじゃないか!
俺の宣言に賛同してくれたわけでなく、軽く受け止め余興の様な扱いをしていたとは心底腹立たしかった。


セドリックが俺に断りも入れずにあの女に手紙を送ったと知った時、家で問い詰めても『落とし物を届けただけだ』と言い張るから女の方も問い詰めたのに…。

まさか落とし物が…そんな…クソ!
仮にも淑女がそんな物を落とすなよ!
内容が内容だけに気まずくて辞めるのを止められなかったじゃないか!
まだ全然俺になびいている様子は無かったのに…何なんだ!この体たらくは!


セドリックのせいだ!

あいつが余計な真似しやがったから…父上に雇われている身の上のクセに…俺の家来のクセに…!
クビだ!クビにして屋敷から追い出してやる!
ついでに父親もクビにしてもらおう。
一家揃って路頭に迷い苦しめば良いんだ。
そうすれば学園も辞めざるを得なくなるだろう。
いい気味だ。


帰ったらすぐ父上に頼まねばな!
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