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知ってるのと知らぬとは大違い
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この手紙は奪い取られると良くないのはバカでも分かる。
しかしまた読み返せるように持っていたい。
「これで…良し」
手紙の中身だけハンカチの内側に包みスカートのポケットへしまう。
そして、封筒に適当にトイレットペーパーを折りたたんで詰め、手洗い場で水をかけトイレのゴミ箱に捨てた。
授業が終わり帰りの挨拶が済んだ途端、案の定群がってくるイケメンども。
贅沢な苛立ちだけど私は面食いじゃない。
「アンジェ…お願いだ。さっきの手紙を一緒に見させてくれないか?他の男の恋文に君が頬を染めるかもしれないと思うと気が気でなくて…」
「王子もこう言っている。頼めないか?」
「彼らも無理を言うよね。それより僕の家においでよ。国から珍しい布が届いたんだ。それでちょっとしたドレスを贈りたいからさ」
なるほど。一応王子と騎士団長子息は連携してるのね。
「ドレスはいりません。遠慮します。それで手紙なのですが…実は早く授業に戻らねばと焦ってしまったからか手を洗う時に落としてしまって…。読めるか中を見たけどぐちゃぐちゃだったのでそのまま捨ててきてしまったんです。」
そっと様子を見ると皆訝しげだ。
まぁそりゃそうか。
「こんなに皆さんに良くして頂いてるのに…他の男性からの手紙を受け取ったからそれはいらないよって神様の思し召しなのかなって思ったのもあって…」
彼らが私を惚れさせたいと思っているのが分かった。
なら気のある素振りを見せれば良いかも…と思ったのだけどどうかしら。急すぎる?
「そうだよ!君には私がいる!」
半信半疑っぽいけど王子がそんなチョロくて大丈夫かってちょっと心配になる。
「いや、俺がいる。やっと意識してくれたんだな!」
こっちは本気で信じてそうかも…うわー。
「ドレスがいらないならワンピースはどうかな?」
手紙を持ってると疑っているのか誘う口実なのか分かんないな…いらないけど。
「すみませんが授業の途中から気分が悪いので…今日はすぐに帰りたいんです。」
放課後も結構長く付きまとわれるので体調を理由にさっさと帰ろう。
そこでイルザック・バーレインにターゲットを絞る。
「イルザック様…申し訳ないのですが生徒会に私の体調不良と帰宅を伝えて貰えませんか…?」
少し目を潤ませられてると良いなと思いつつ上目遣い?できてる?でジッと彼を見つめる。
「え!?」
「イルザック様…ダメですよね、すみません…」
さすがに無理かとショボンと下を向くと肩をガシッと掴まれた。
「やっと名前で…ファーストネームで呼んでくれたんだな!イルだけでもいいんだぞ!?アンジェ!あぁ!俺を頼ってくれ!」
あ、そっち?名前呼びに驚いたってこと?
めっちゃくちゃ嬉しそうでちょっと罪悪感…。
「ありがとう!お願いします!助かります」
何はともあれホッとして満面の笑顔でお礼を言う。
チョロくて助かったありがとう!と心からのお礼だ。
「じゃあ…私は家まで送らせてくれないか?」
声は優しいが機嫌が悪くなったのがあからさま過ぎる王子がきつい眼差しでイルザック・バーレインをチラリと見て言ってくる。
体調不良なのに寄合馬車に乗ると断るのは不自然かもしれない…か?
「…では今日だけお願いします…ありがとうございます。」
迷ったものの素直に受け入れた事に若干気を良くしたのか不審がられることも驚かれる様子もなかった。
荷物を取ってくると私の席を離れた王子を目で追う。
すると女子生徒から王子に話しかけたのに王子が何かを伝えて指示を出しているような会話をしているのが目に入った。
「行こうか」
促されつつ教室を出る。
ちょうど王子になにか言われた女子生徒が足早前を歩いているのが見え…階段横のトイレに入った。
前を通り過ぎた時、階段にいなかったということは横のトイレに間違いない。
彼女は確か子爵令嬢…。
誰がどの身分なのか同じクラスの人達の姓を貴族名鑑で調べたから知っている。
子爵家の時点で誰かの学内のお世話係かとは思ったけどまさか異性の王子のお世話係とは思わなかった。
王族だけに何人か従者的な生徒がいるのかもしれない。
馬車に乗り込んだ時、彼女がカバンを抱えてこちらを見ていた。
王子がそんな彼女に見えるよう片手を上げる。
御者に合図したように見えるが、それを確認して彼女がカバンを普通に持ったところから察するにあのカバンは何かの合図なのだろう。
「具合はどう?大丈夫?」
王子の機嫌が少し良くなっている。
本当は疑り深い宰相子息を警戒して封筒を捨てたけど仕込んでおいて正解だったらしい。
封筒が捨てられていなかった場合、手紙を渡すまで帰してもらえなかったかもしれないと思うとゾッとする。
「さっきさ…イルザックの事を名前で呼んでたけど…私より彼が好きかい?」
勝手に手を握って切なげにそんな事を言いやがった。
何でいきなり『好き』って事になってるのかが腹立たしいけど…逆手に取らねば。
この人は私を好きなのではない。
惚れさせたいと思っているだけなのだから。
しかしまた読み返せるように持っていたい。
「これで…良し」
手紙の中身だけハンカチの内側に包みスカートのポケットへしまう。
そして、封筒に適当にトイレットペーパーを折りたたんで詰め、手洗い場で水をかけトイレのゴミ箱に捨てた。
授業が終わり帰りの挨拶が済んだ途端、案の定群がってくるイケメンども。
贅沢な苛立ちだけど私は面食いじゃない。
「アンジェ…お願いだ。さっきの手紙を一緒に見させてくれないか?他の男の恋文に君が頬を染めるかもしれないと思うと気が気でなくて…」
「王子もこう言っている。頼めないか?」
「彼らも無理を言うよね。それより僕の家においでよ。国から珍しい布が届いたんだ。それでちょっとしたドレスを贈りたいからさ」
なるほど。一応王子と騎士団長子息は連携してるのね。
「ドレスはいりません。遠慮します。それで手紙なのですが…実は早く授業に戻らねばと焦ってしまったからか手を洗う時に落としてしまって…。読めるか中を見たけどぐちゃぐちゃだったのでそのまま捨ててきてしまったんです。」
そっと様子を見ると皆訝しげだ。
まぁそりゃそうか。
「こんなに皆さんに良くして頂いてるのに…他の男性からの手紙を受け取ったからそれはいらないよって神様の思し召しなのかなって思ったのもあって…」
彼らが私を惚れさせたいと思っているのが分かった。
なら気のある素振りを見せれば良いかも…と思ったのだけどどうかしら。急すぎる?
「そうだよ!君には私がいる!」
半信半疑っぽいけど王子がそんなチョロくて大丈夫かってちょっと心配になる。
「いや、俺がいる。やっと意識してくれたんだな!」
こっちは本気で信じてそうかも…うわー。
「ドレスがいらないならワンピースはどうかな?」
手紙を持ってると疑っているのか誘う口実なのか分かんないな…いらないけど。
「すみませんが授業の途中から気分が悪いので…今日はすぐに帰りたいんです。」
放課後も結構長く付きまとわれるので体調を理由にさっさと帰ろう。
そこでイルザック・バーレインにターゲットを絞る。
「イルザック様…申し訳ないのですが生徒会に私の体調不良と帰宅を伝えて貰えませんか…?」
少し目を潤ませられてると良いなと思いつつ上目遣い?できてる?でジッと彼を見つめる。
「え!?」
「イルザック様…ダメですよね、すみません…」
さすがに無理かとショボンと下を向くと肩をガシッと掴まれた。
「やっと名前で…ファーストネームで呼んでくれたんだな!イルだけでもいいんだぞ!?アンジェ!あぁ!俺を頼ってくれ!」
あ、そっち?名前呼びに驚いたってこと?
めっちゃくちゃ嬉しそうでちょっと罪悪感…。
「ありがとう!お願いします!助かります」
何はともあれホッとして満面の笑顔でお礼を言う。
チョロくて助かったありがとう!と心からのお礼だ。
「じゃあ…私は家まで送らせてくれないか?」
声は優しいが機嫌が悪くなったのがあからさま過ぎる王子がきつい眼差しでイルザック・バーレインをチラリと見て言ってくる。
体調不良なのに寄合馬車に乗ると断るのは不自然かもしれない…か?
「…では今日だけお願いします…ありがとうございます。」
迷ったものの素直に受け入れた事に若干気を良くしたのか不審がられることも驚かれる様子もなかった。
荷物を取ってくると私の席を離れた王子を目で追う。
すると女子生徒から王子に話しかけたのに王子が何かを伝えて指示を出しているような会話をしているのが目に入った。
「行こうか」
促されつつ教室を出る。
ちょうど王子になにか言われた女子生徒が足早前を歩いているのが見え…階段横のトイレに入った。
前を通り過ぎた時、階段にいなかったということは横のトイレに間違いない。
彼女は確か子爵令嬢…。
誰がどの身分なのか同じクラスの人達の姓を貴族名鑑で調べたから知っている。
子爵家の時点で誰かの学内のお世話係かとは思ったけどまさか異性の王子のお世話係とは思わなかった。
王族だけに何人か従者的な生徒がいるのかもしれない。
馬車に乗り込んだ時、彼女がカバンを抱えてこちらを見ていた。
王子がそんな彼女に見えるよう片手を上げる。
御者に合図したように見えるが、それを確認して彼女がカバンを普通に持ったところから察するにあのカバンは何かの合図なのだろう。
「具合はどう?大丈夫?」
王子の機嫌が少し良くなっている。
本当は疑り深い宰相子息を警戒して封筒を捨てたけど仕込んでおいて正解だったらしい。
封筒が捨てられていなかった場合、手紙を渡すまで帰してもらえなかったかもしれないと思うとゾッとする。
「さっきさ…イルザックの事を名前で呼んでたけど…私より彼が好きかい?」
勝手に手を握って切なげにそんな事を言いやがった。
何でいきなり『好き』って事になってるのかが腹立たしいけど…逆手に取らねば。
この人は私を好きなのではない。
惚れさせたいと思っているだけなのだから。
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