私は男爵令嬢ですよ?

だましだまし

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入学式とイケメンたち

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迷子で精神が疲れていたせいか、凹んでトボトボ歩いていたせいか目の前の人に気付かなかった。

トンッと肩がぶつかり尻もちをつく。
端っこを歩いていたはずなのにと顔を上げると柱の陰に居たらしいぶつかった人物が手を差し出してくれた。

「すみません、気付かなくて…」
その手を掴み相手を見て再び転びそうになる。
金髪碧眼の美しい彼は今年入学するという王子様のはずだ。
「こちらこそすまない。私がこんな所に隠れていたせいだな。」
微笑みが無駄に眩しい。

お礼を言い早々に去ろうとすると呼び止められた。
「私はアルフレッド・ルファシエル。君は…もしや光魔法のアンジェリナ嬢かい?」
名乗ってもらわなくても一方的に存じております、って私のことも知ってるんかい、なんで初対面でファーストネーム呼びなんだとツッコミどころ満載だが相手は王子と思しき人物。
不敬が無いよう笑顔でやり過ごさねば…と思ったのに表情筋は仕事をサボったらしい。
「ははっ!王子である私にそんな怪訝な顔を向ける令嬢は初めてだよ。君、面白いね。」
「緊張で…ありがとうございます…」
なんとか引きつってるかもしれないけど多分笑顔を返し逃げるように講堂へと入っていく。

すると今度は他の人にグイッと腕を引かれた。
「先に案内板見たほうがいいぜ?」
驚きそちらを見ると赤い髪に金のようなオレンジの瞳をしたワイルド系イケメン。
全力で戸惑っているとパッと手を離し少し気不味そうな顔を浮かべる。
「すまない…怖がらせたか?新入生の席は決まってるみたいで案内板があっちにあるんだ。見ずに奥に行きそうだったから…余計な事をしたな。」
「いえ、驚いただけで…ご親切にありがとうございます。」
あのまま席に行っていたら間違いなく困っていただろう。

さっき表情筋が動かなくて面白い扱いされたので今度はしっかり笑顔を浮かべてお礼を伝える。
「…あんた…俺が怖くないのか?」
「は?」
つい声が漏れた。
「あ、いえ、えと…怖くはないです。親切にして頂きましたし…」
「は?」だなんて、はしたない返しをしてしまった事に今更恥ずかしくなりつつ返すと困ったように笑われた。
「俺、こんなんだからよく令嬢に怖がられちまうんだけどあんたは違うんだな。同じ新入生のイルザック・バーレインだ。宜しく」
「あ、アンジェリナ・レリックです…宜しく…?」
「なんで疑問形なんだよ!宜しくな、アンジェリナ嬢!」
屈託ない笑顔で笑われたが何故自己紹介を返しただけなのに親しげにファーストネームで呼ばれるのかが分からない。
初対面で名前呼びが高位貴族の間では普通なのかと戸惑いを覚えつつ案内板を確認して席についた。

入学式が始まり学園長や来賓が挨拶をする。
途中、一人の在校生が壇上に上がった。
緑の髪をした彼は一つ先輩で生徒会長らしい。
整った容姿に何人かの女子が見惚れている。
切れ長な目はさっきみた王子とも赤髪の人とも違ったイケメンだが本日3人目。
そろそろ感覚が麻痺してきた。

王都はイケメンが多いのかもしれない。


その後教室に移動し、同じクラスだとかでよく分からない絡みをしてきた男子リュドリー・ガラフも顔だけは格好良かった。
藤色の髪に紫の目はどこかミステリアスだ。
隣国からの留学生らしい。

だけど「君って変って言われない?」と言われたのは忘れない。
そんな腹立つことを言われたのに、その会話のせいで何人もの女子に嫉妬満載の視線を向けられたのも忘れない。
もらい事故もいいところだ。

副担任だという先生ナルファス・マルドーは繊細そうだけど色気のある人だった。
桃色の髪に濃い赤の目が余計そう見せるのだろう。

「特別な力に疲れたら相談してね。僕が力になるよ」

わざわざ近くに寄って来てヒソヒソと言うことではない。
これまた敵意を向けられたからより一層そう思う。
私にはただ気怠そうな先生に見えたが彼女たちによると「アンニュイさがたまらない」のだそうだ。
後に知ったことだけど。

そのあとパーティーまでの待機時間に生徒会長ルドウィック・マーレイ先輩から呼び出しをくらう。
さっきの緑の髪の人だ。
琥珀のようなキレイな茶色の目をしている。
「今日のパーティーで新入生代表の乾杯をしてほしい」
呼び出すなら生徒会室まで呼んでほしかった。
これを教室の出入り口で抜かしやがったのだ。
「王子様を差し置いて出来ません!」
迷いなくスパッとお断りしたのに肩にポンと手を置きやがったのは金髪碧眼の男…さっきの王子だ。
生徒会室での応対なら絡んでこなかっただろうに…!

「私は開会の挨拶をするんだ。それに続いて乾杯の挨拶をしてくれたら良い。君の存在アピールになるだろう?」
パチンとウィンクとかされても困惑しか返せない。
存在アピールとか絶対したくない。
小さな咳払いが聞こえたが私は王子に「ぽー…♡」とかなってないからね。
「げー…」とはなってたかもしれない。

「今いる在校生の中で男爵家は君だけなんだ。身分の低い君の入学を不思議に思う者もいるだろう。だが学園は君を歓迎している事を示したいんだ。だから引き受けて貰えないだろうか?」

そりゃこの学園に下位貴族は少ないだろう。
王都に住む下位貴族の多くは高等でなく、高等へ進学すると最近知った。
こっちに進学してくる下位貴族は主人について入学してきた者など誰かのオマケばかりらしい。

だから私の入学が異例なのは分かっている。

だけど、招かれて学園の方に入学する羽目になったのに歓迎しているアピールっておかしな話じゃない?
王立学園に通いたいなんて微塵も望んでなかったのに…なんか無理矢理入学させろって迫ったみたいに捉えられない?
無茶言われたけど希少な魔力持ちの望みだから学園は歓迎して受け入れた的なことにしたいの?
…ってさすがにこの考えは私がひねくれてるか。


心の内は分からないけど生徒会長は真剣な眼差しで訴えてくる。
でも嫌なものは嫌なのだ。
「ありがたい配慮ですが目立つのは苦手なので辞退させて下さい」
こちらも譲れないので真顔でしっかりスッパリお断りする。

沈黙で見つめ合ってるみたいな構図になってしまったので念押しにもう一度断りを口にしようかと思った時だ。
フッと優しい笑顔で一言。
「君は奥ゆかしいんだな」からの頭ポン。

意味が分からな過ぎて何故か少しイラッとする。
嫌だから「嫌だ」って言ってるのに奥ゆかしいに変換されたのもモヤモヤする。
それに何より頭に手を乗せられた瞬間、教室にいる女子の敵意をたっぷり得た気配がした。
最悪である。


その後、パーティーでも友達が出来なかったのは言うまでもなく…やれ王族がいるだの公爵家の方々がいただので両親がとても楽しそうにしているのが不思議だった。
唯一楽しめたのは料理だ。
とても美味しくビュッフェ形式のため好きなものを好きなだけ食べることができ、ずーっと食べて過ごした。


こうして散々な入学式は終わった。
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