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ロベルト・レイナーラ
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お父様が辺境伯の仕事から帰ってきた。
馬を入替えてずーっと走って馬車で3日もかかる所から1日で帰ってきたみたい。
夜中なのに執務室で今更リッジ子爵を調べるよう命じてたし結婚式で何かあったのか不思議に思って数日後だった。
お父様が王城へ呼び出され、うちはただの伯爵家になったらしい。
半年ほどすると僕に城勤めを辞めて領地で暮らし管理するようにと命じてきた。
正直めんどうだけど王都での社交も煩わしいので引き受ける事にする。
引っ越しは侯爵家に嫁いだ姉の出産が近いので産まれた子の顔を見てからの予定だ。
…赤ん坊との対面は姉の葬儀になってしまった。
腹の子は双子で難産の末に三人とも天に召されてしまったらしい。
義兄は血の気のない顔をしていたが葬儀の参列者に夫として、次期侯爵として挨拶をしていた。
姉夫婦の仲はそれなりに良好だった事を、義兄が気丈に振る舞っている事を憐れむ声や姉の近況を噂する周りの人の囁きで知った。
同じ侯爵家だからなのか、祖父だからなのかは分からないけどお祖父様とお祖母様も来ていた。
暗く沈んだ顔をし時折涙を浮かべつつ姉の夫だった人と話している。
お父様は、お祖父様は妻を亡くした夫に優しい声かけ1つしなかった人だと聞いていたけど孫の死を悼み、その夫を気遣える人だったらしい。
でも僕たちに気付かなかったのか会話することは無かったし、僕も話しかけなかった。
お父様は涙でぐしゃぐしゃだ。
「セディナだけでなくリビアナまで出産で…」と恥ずかしいくらいに嘆いている。
そりゃ僕も悲しいけど出産は命がけだなんて常識だ。
それに初産なのに双子の可能が高いから通常よりも危険なお産になるとはお父様も聞いてたはずなのに。
領地に引っ越し、僕は何故辺境伯から侯爵でなく伯爵になったか分かった。
平和が長くてレイナーラ領は田舎だから伯爵位なんだと思っていたのに、領地の管理が代行に丸投げで防衛なんて街ごとの警備隊任せだったのだ。
騎士を維持する為に辺境伯の手当が出てたのにコレではそりゃ爵位を下げられても仕方ない。
妹の結婚くらいから領主代行に王都の機関を使っていたからバレたんだろう。
王都での仕事なんて殆ど無いんだから自分でやれば良かったのに、なんて思ったのは最初の一ヶ月だった。
思った以上に大変な仕事だったからだ。
収支計算とかだけしてりゃいいと思ってたのに他にも多岐に渡る内容があって、その全てを把握してなくてはならない。
「レイナーラ領は少し広いですからね。専門の私ですら完全に1人では難しいですよ」
色々教えてくれているバランさんが初仕事の時からそう言ってたので領主に補佐の人員を求めたら「お前が現地で探せ」という。
なのにいざ募集をかけたら給与が高いだの募集人数が多いだの文句ばかり。
仕方なく王都から連れてきた侍従を補佐に充てると今度は邸内が回らない。
でも、どんな職種で募集をかけても中々人が集まらないのだ。
どうやら元々働いていた使用人の親族を中心に良くない噂がたってしまっていたらしい…。
日々の生活を支えてくれる使用人も現地で雇用しようと王都から連れて来たのは一時しのぎが出来る程度の人数しかいない。
なのに人材が中々集まらない。
文句の手紙を無視し、他所より高待遇にしてやっとパラパラと応募があった。
僕が来て半年もするとバランさんへの支払いはとんでもなく高額になっていた。
それでも相変わらずの人手不足でバランさんに辞められると困る。
苦肉の策で僕は領主に管理が難しい土地を手放す事を提案した。
それを断るなら自分でやってくれ、と半分脅しの文言付きにしたからか許可はすぐに出た。
こうして…領地を売ったお金でバランさんを雇っているような錯覚を起こすくらいに切り売りし、元の半分ほどの大きさになった時、やっと僕と補佐官にした侍従たちとで領地経営が出来るようになった。
お父様は王都での暮らしが立ち行かないと文句ばかり言ってくる。
小さな家に引っ越した、使用人も領地より少なくなった、日々侘しい食事しか出てこない…ぶっちゃけ僕の知ったことではない。
やっと領地で安定して平穏に暮らせるようになったんだ。
そんなに文句ばかりならお父様もこっちに引っ越して僕の仕事を手伝ってくれたらいいし、そろそろ爵位を譲ってもらいたいのが本音だ。
その方が仕事がスムーズになるのに何度も断られている。
お母様のお墓に手を合わす。
命日にお父様だけは来ていたけど…僕が参るのは幼い頃ぶりになってしまった。
横には真新しいお姉様のお墓。
そして反対の横には空の僕の墓。
お姉様のお墓の中には嫁ぎ先の侯爵家が渡してくれた遺髪だけ埋葬されている。
だから正確には墓ではないのかもしれないけど…何となくお母様の近くはお姉様と僕で囲いたかった。
そして…叶うならお姉様の墓には余裕があるから妹のシャロットの髪もその時が来れば埋葬したい。
僕が先にお母様の隣で眠るだろうからこれはシャロットが遺言にでも残してくれないと無理だろうけど…。
来年のお母様の命日には兄妹で共に墓参りをする約束をしているから、その時に頼んでみよう。
そんな事を考え立ち去ろうとすると風がふいた。
それで葉か何かが頭に触れたらしい。
でも、まるでお母様に撫でられたような優しい感覚で…何も可笑しくないのにフッと笑みが溢れた。
馬を入替えてずーっと走って馬車で3日もかかる所から1日で帰ってきたみたい。
夜中なのに執務室で今更リッジ子爵を調べるよう命じてたし結婚式で何かあったのか不思議に思って数日後だった。
お父様が王城へ呼び出され、うちはただの伯爵家になったらしい。
半年ほどすると僕に城勤めを辞めて領地で暮らし管理するようにと命じてきた。
正直めんどうだけど王都での社交も煩わしいので引き受ける事にする。
引っ越しは侯爵家に嫁いだ姉の出産が近いので産まれた子の顔を見てからの予定だ。
…赤ん坊との対面は姉の葬儀になってしまった。
腹の子は双子で難産の末に三人とも天に召されてしまったらしい。
義兄は血の気のない顔をしていたが葬儀の参列者に夫として、次期侯爵として挨拶をしていた。
姉夫婦の仲はそれなりに良好だった事を、義兄が気丈に振る舞っている事を憐れむ声や姉の近況を噂する周りの人の囁きで知った。
同じ侯爵家だからなのか、祖父だからなのかは分からないけどお祖父様とお祖母様も来ていた。
暗く沈んだ顔をし時折涙を浮かべつつ姉の夫だった人と話している。
お父様は、お祖父様は妻を亡くした夫に優しい声かけ1つしなかった人だと聞いていたけど孫の死を悼み、その夫を気遣える人だったらしい。
でも僕たちに気付かなかったのか会話することは無かったし、僕も話しかけなかった。
お父様は涙でぐしゃぐしゃだ。
「セディナだけでなくリビアナまで出産で…」と恥ずかしいくらいに嘆いている。
そりゃ僕も悲しいけど出産は命がけだなんて常識だ。
それに初産なのに双子の可能が高いから通常よりも危険なお産になるとはお父様も聞いてたはずなのに。
領地に引っ越し、僕は何故辺境伯から侯爵でなく伯爵になったか分かった。
平和が長くてレイナーラ領は田舎だから伯爵位なんだと思っていたのに、領地の管理が代行に丸投げで防衛なんて街ごとの警備隊任せだったのだ。
騎士を維持する為に辺境伯の手当が出てたのにコレではそりゃ爵位を下げられても仕方ない。
妹の結婚くらいから領主代行に王都の機関を使っていたからバレたんだろう。
王都での仕事なんて殆ど無いんだから自分でやれば良かったのに、なんて思ったのは最初の一ヶ月だった。
思った以上に大変な仕事だったからだ。
収支計算とかだけしてりゃいいと思ってたのに他にも多岐に渡る内容があって、その全てを把握してなくてはならない。
「レイナーラ領は少し広いですからね。専門の私ですら完全に1人では難しいですよ」
色々教えてくれているバランさんが初仕事の時からそう言ってたので領主に補佐の人員を求めたら「お前が現地で探せ」という。
なのにいざ募集をかけたら給与が高いだの募集人数が多いだの文句ばかり。
仕方なく王都から連れてきた侍従を補佐に充てると今度は邸内が回らない。
でも、どんな職種で募集をかけても中々人が集まらないのだ。
どうやら元々働いていた使用人の親族を中心に良くない噂がたってしまっていたらしい…。
日々の生活を支えてくれる使用人も現地で雇用しようと王都から連れて来たのは一時しのぎが出来る程度の人数しかいない。
なのに人材が中々集まらない。
文句の手紙を無視し、他所より高待遇にしてやっとパラパラと応募があった。
僕が来て半年もするとバランさんへの支払いはとんでもなく高額になっていた。
それでも相変わらずの人手不足でバランさんに辞められると困る。
苦肉の策で僕は領主に管理が難しい土地を手放す事を提案した。
それを断るなら自分でやってくれ、と半分脅しの文言付きにしたからか許可はすぐに出た。
こうして…領地を売ったお金でバランさんを雇っているような錯覚を起こすくらいに切り売りし、元の半分ほどの大きさになった時、やっと僕と補佐官にした侍従たちとで領地経営が出来るようになった。
お父様は王都での暮らしが立ち行かないと文句ばかり言ってくる。
小さな家に引っ越した、使用人も領地より少なくなった、日々侘しい食事しか出てこない…ぶっちゃけ僕の知ったことではない。
やっと領地で安定して平穏に暮らせるようになったんだ。
そんなに文句ばかりならお父様もこっちに引っ越して僕の仕事を手伝ってくれたらいいし、そろそろ爵位を譲ってもらいたいのが本音だ。
その方が仕事がスムーズになるのに何度も断られている。
お母様のお墓に手を合わす。
命日にお父様だけは来ていたけど…僕が参るのは幼い頃ぶりになってしまった。
横には真新しいお姉様のお墓。
そして反対の横には空の僕の墓。
お姉様のお墓の中には嫁ぎ先の侯爵家が渡してくれた遺髪だけ埋葬されている。
だから正確には墓ではないのかもしれないけど…何となくお母様の近くはお姉様と僕で囲いたかった。
そして…叶うならお姉様の墓には余裕があるから妹のシャロットの髪もその時が来れば埋葬したい。
僕が先にお母様の隣で眠るだろうからこれはシャロットが遺言にでも残してくれないと無理だろうけど…。
来年のお母様の命日には兄妹で共に墓参りをする約束をしているから、その時に頼んでみよう。
そんな事を考え立ち去ろうとすると風がふいた。
それで葉か何かが頭に触れたらしい。
でも、まるでお母様に撫でられたような優しい感覚で…何も可笑しくないのにフッと笑みが溢れた。
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