ある辺境伯の後悔

だましだまし

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謀り、企てる

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私はまず、領主代行を務める執事レノに若い二人の未来を相談した。

彼とはレイナーラ領にシャロットを訪ねて初めて滞在した時に特に仲良くなった。
同世代なのもあり今や友人として信頼している。
この地で領地の管理だけでなく、シャロットを父のように、祖父のようにと守り育ててくれた人物の一人だ。

「旦那様はここ何年も、たとえ領地に足を運ばれても邸には立ち寄りません。しかし不意に遣いを寄越すことがあります。その者が万が一シャロット様がお美しく育っていらっしゃる事を告げれば確認にいらっしゃるかもしれません。なるべく早い婚約が…出来れば婚姻が望ましいでしょう」

セディナの侍女だった者と乳母には妻が相談してくれた。

「当主様はシャロット様が幼少期のセディナ様に似ている旨を伝えても関心を示されませんでした。今ですか?似ているなど間違っても伝えませんよ!」

「幼い娘の手紙すら無視する始末でした。恐らく政略結婚の駒程度の認識ですよ!学校へは通わせましたが生活では末娘に予算を割くどころかお祝い1つしたこと無い父親ですもの。社交デビューも果たせず今は自主的に本で学ぶだけの不毛な日々…一日でも早く想い人へ嫁がせて当主様から逃がしてさしあげたいわ!」

他にもあの男ルブランについて聞くが奴がシャロットを気に掛けることは当分ないと思えるほど酷かった。
そもそも領地の管理をレノに丸投げし、人員の補充すら応えていない。
領各地の警備隊がしっかりしていたとしても充分な騎士を配置していないなど辺境伯が聞いて呆れる有り様だ。
こんな無能な男だったとは!
そして、恐らくセディナの侍女とシャロットの乳母が心配する通りシャロットの事は政略結婚の駒としか考えていないだろうし、今後シャロットの幸せを考えるような事もしないだろう。

そういえば何故葬儀の時に私に託してくれなかったのかとレノと飲んでいる時にボヤいた事がある。
その時レノは
「旦那様は器がこじんまりされているので侯爵家で育てられるのをやっかんだんでしょうねぇ」
と冗談めいて返してきた。
今思えばあれは執事という使用人の立場故に冗談でカモフラージュした本音だったのだろう。

使用人たちは皆、当主への忠誠よりもシャロットの幸せを優先したいと口を揃えた。
私は、万が一今回の事で職を失うような事があれば侯爵家で雇うから協力して欲しいこと、希望してくれるなら私が給与保障をするからシャロットが隣国へ嫁げる事になれば共に付いて行ってやって欲しい事を使用人一人ひとりに頼んだ。
どの使用人たちも笑顔で了承してくれ、目頭が熱くなる。
シャロットは父親の愛情こそ無かったが沢山愛されて育ったのだと知ることが出来たのは嬉しかった。

そして、使用人たちがシャロットの幸せのために一枚岩なのを確認したあと私たち夫婦はサルヴィーノ君に結婚について話をした。

「以前お話した通り…私はシャロット嬢を妻にしたいと思っています。しかし彼女は侯爵家の嫡男である私に嫁ぐのは恐らく父親が了承しないというのです…」
「侯爵家の嫡男?君は子爵を名乗っていなかったか?」
「私の国、サカオ王国は侯爵家以上の家の男児は三人まで子爵を名乗れるのです。一人が家の爵位を継げば合計4人まで男児は貴族のままなのですよ」
「では…君が子爵位を叙爵したのは…」
「まだ赤ん坊の頃です」

私はこれを聞いて閃いた。
私も周辺諸国に詳しくは無いがルブランはこんなにも領地を蔑ろにしている男なのだ。
辺境伯とはいえサカオ王国の事に疎くても…私と同程度の知識しかないのではないだろうか。
もし知識があればこのレイナーラ領は商業の中継都市として発展していてもおかしくない情勢なのだから。

「君は子爵領は持っているかね?」
私の質問にサルヴィーノ君はキョトンとしている。
まだまだ若輩者だな。
隣国の貴族の年齢など細かな情報は簡単に調べられんが貴族名が分かっていれば叙爵した年月は簡単に確認できるはずだ。
あの男とて相手の年齢くらいは確認するかもしれない。
だからサルヴィーノ君が子爵として婚姻を申し込めば叙爵して何年かで大凡の年齢を想像するだろう。

ただ、万が一隣国の侯爵家以上の男児が子爵位を無条件で持てる事を知っていれば厄介だ。
我が国でも子に子爵位や男爵位を王に依頼して与えることがないわけではない。
しかし、そういった者は領地を持っていない。
だから領地のある子爵ならばただの子爵だと勘違いするはずだ。
わざわざ詳細を調べないだろうし侯爵家の嫡男だと思わんだろう。
なんせ娘の幸せに無関心な男だ。
どんな家か、相手かを人を使って知ろうとするとは思えない。

案の定サルヴィーノ君も領地は無いとの事だったので実家の侯爵家に頼んで村1つで良いから領地の一部をリッジ子爵領にしてもらうよう話した。

十何年も前に叙爵された僅かな土地持ちの子爵。

私でもこんな相手から釣書が来れば子爵風情が後妻に娘を寄越せと言ってきたのだろうと勘違いする。
普通は娘を渡すなどあり得ない。
しかし奴はシャロットが我が侯爵家で養育される事を嫌がった男…逆に娘の不幸が見える申込みの方が受けるのではなかろうか。


こうして思惑通りルブランは踊ってくれた。
持参金すら惜しむとは寧ろ都合がいい。
自らあとでこの婚姻に文句を言えないようにしてくれた。
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