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恋をすれば
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「もー!シャロットったら聞いてる?」
休み時間。
私は頬杖を付きながら半分テキトーに「聞いているわ」と返事をする。
相手はローレイ、内容は惚気である。
あれだけ不安だと泣きそうだったのに彼が彼女を見初めた理由は初デートの食事中にあっさり判明したらしい。
「やっぱり君はとても食べ方がキレイだね。それにすごく美味しそうに食べる…見惚れちゃうよ」
ニコニコとローレイの婚約者ハズドさんはそう言ったらしい。
「お姉様たちでなく私を選んでくださったのは…」
はた、とそう呟くと彼は照れながら
「あぁ、美味しそうに、所作も美しく食べる姿に一目惚れしてしまって…まさか7つも下とは思わなかったけどね」
こう返したそうだ。
「それで彼ったらね、」
もう何回聞いたか分からない。
思わず婚約を申し込んでいたというエピソード、慣れないエスコートが逆に良かった話、気遣いが細やかで優しい人柄情報…等など他、惚気多数。
はじめはローレイがハズドさんに恋し始めた事を素直にお祝い出来たし嬉しかったのだが…初めての恋に浮かれている友人は毎日めちゃくちゃ惚気けるようになってしまった。
毎日のように会ったり手紙を交わしてるらしい。
「それでね、シャロットと一緒に行きたいの!予定、どうかな?」
「あーそーなのね、うん…うん?どこへ行くって?」
「もー、やっぱり聞いてないじゃない」
ジトーっとしたローレイの視線を若干気まずく笑って誤魔化し改めて聞く。
「ハズドが新しく開くカフェよ。高級志向のレストランと違って若い女性がターゲットだから私の意見を聞きたいらしいの。あと出来たら貴族の友達と来て素直な意見を聞き出して欲しいって言われちゃって」
「…その素直な意見を聞き出してっていうの、そんなストレートに私に先に言っちゃって良かったの?」
普通さり気なく聞き出さないだろうか?
「伝えておいた方がシャロットなら忌憚ない意見をくれるでしょ?もちろん侍女の…ソフィさん?も一緒にね」
「ソフィアね。帰ったら聞いてみるわ。でもソフィアは平民だけどいいの?」
「高級志向ではないけど、やっぱりちょっと富裕層向けだから目や舌が肥えた人の意見が知りたいみたい」
それなら貴族の屋敷で私に付いてるソフィアは比較的目が肥えてると思うし問題ないだろう。
そうして週末、私は領地で2番目に大きな街にやってきた。
この街を領主代行として管理しているのがシバ子爵でローレイのお父様だ。
「シャロット!ここよ!」
見事な噴水の広場で馬車から降りると一組の男女の女性の方がこちらに向かって大きく手を降っていた。
シンプルなストライプのワンピースをまとい、長い赤毛は可愛らしく編み込みアップにしていた。
街で目立たないようにか平民らしい格好をしているが、いつもの貴族らしいドレスワンピースを着ている時より何故か余程可愛らしく見える。
「ローレイ様、恋をされているのですね」
ふふっと微笑ましげに笑いながらソフィアが私に同意を求めるように言ってきた。
「何故…恋をしていると分かるの?」
私は不思議に思って聞いたのにソフィアは一瞬キョトンとした顔をする。
「だってすごくお綺麗になられてますし…簡素な平民服でも以前より美しく見えませんか?」
「! 見えるわ!なんであの服装でいつもより可愛いく見えるのか不思議に思っていたの!」
「恋をすると美しくなると言いますがローレイ様を見て本当の事なのだと私も今知りました」
またふふっと微笑ましげに笑うソフィア。
半年ほど年上なだけなのに漂うお姉さん感に謎の敗北を感じる…なんか悔しい。
「シャロット、来てくれてありがとう!ソフィア、ご無沙汰してるわね」
「こちらこそお招きありがとう」
「ローレイ様、本日は私までお招きいただきありがとうございます」
私たちが挨拶を交わす間ローレイの隣にいる少しふくよかな男性は優しい笑顔を浮かべていた。
「紹介するわ!彼が私の婚約者のハズドよ。前に話した通り幾つかのレストランを経営している家のご子息なの。ハズド、彼女が私の学友で辺境伯令嬢のシャロット、こちらは侍女のソフィアよ」
「お初にお目にかかります。ハズドと申します。平民のため家名はございません。この度は私めが手掛けるカフェへご足労頂けるとのことで恐悦至極に存じます。どうぞ本日は宜しくお願い致します」
流石富裕層向けのレストランを経営してる家の青年だけあって挨拶に緊張は感じられず姿勢もキレイである。
挨拶をするハズドさんを見つめるローレイの微笑みは幸せそうでとても可愛らしかった。
なるほど、恋は人を美しくする、か。
「今から行くカフェはね、ハズドのお父様はノータッチで経営することになるの!初めての独り立ちなんですって!」
ローレイは無邪気に嬉しそうだが恐らくそれは経営のトップを譲るか否かのテストだとピンと来た。
「本来ならオープン前に貴族の御令嬢様にお越し頂くような事はあってはならないのですが貸し切りで真新しい状態の店を気兼ねなくお楽しみ頂けるのは今のうちだと思いましてローレイを通じ声を掛けさせて頂きました。様々なメニューがお楽しみ頂けるようフィンガー料理やワンスプーンにアレンジしてご提供いたしますのでゆっくりお楽しみ下さいませ」
…うん、なるべく沢山の料理の感想を得ようとしてるわよね。
穏やかで柔らかな雰囲気をまとった人だが抜け目はないみたいで逆に安心してしまう。
経営者となり子爵令嬢を娶るのならば、優しいだけのお人好しでは困るもの。
そんなやり取りをしつつ案内されたのは先程の噴水の広場からほど近いカフェだった。
休み時間。
私は頬杖を付きながら半分テキトーに「聞いているわ」と返事をする。
相手はローレイ、内容は惚気である。
あれだけ不安だと泣きそうだったのに彼が彼女を見初めた理由は初デートの食事中にあっさり判明したらしい。
「やっぱり君はとても食べ方がキレイだね。それにすごく美味しそうに食べる…見惚れちゃうよ」
ニコニコとローレイの婚約者ハズドさんはそう言ったらしい。
「お姉様たちでなく私を選んでくださったのは…」
はた、とそう呟くと彼は照れながら
「あぁ、美味しそうに、所作も美しく食べる姿に一目惚れしてしまって…まさか7つも下とは思わなかったけどね」
こう返したそうだ。
「それで彼ったらね、」
もう何回聞いたか分からない。
思わず婚約を申し込んでいたというエピソード、慣れないエスコートが逆に良かった話、気遣いが細やかで優しい人柄情報…等など他、惚気多数。
はじめはローレイがハズドさんに恋し始めた事を素直にお祝い出来たし嬉しかったのだが…初めての恋に浮かれている友人は毎日めちゃくちゃ惚気けるようになってしまった。
毎日のように会ったり手紙を交わしてるらしい。
「それでね、シャロットと一緒に行きたいの!予定、どうかな?」
「あーそーなのね、うん…うん?どこへ行くって?」
「もー、やっぱり聞いてないじゃない」
ジトーっとしたローレイの視線を若干気まずく笑って誤魔化し改めて聞く。
「ハズドが新しく開くカフェよ。高級志向のレストランと違って若い女性がターゲットだから私の意見を聞きたいらしいの。あと出来たら貴族の友達と来て素直な意見を聞き出して欲しいって言われちゃって」
「…その素直な意見を聞き出してっていうの、そんなストレートに私に先に言っちゃって良かったの?」
普通さり気なく聞き出さないだろうか?
「伝えておいた方がシャロットなら忌憚ない意見をくれるでしょ?もちろん侍女の…ソフィさん?も一緒にね」
「ソフィアね。帰ったら聞いてみるわ。でもソフィアは平民だけどいいの?」
「高級志向ではないけど、やっぱりちょっと富裕層向けだから目や舌が肥えた人の意見が知りたいみたい」
それなら貴族の屋敷で私に付いてるソフィアは比較的目が肥えてると思うし問題ないだろう。
そうして週末、私は領地で2番目に大きな街にやってきた。
この街を領主代行として管理しているのがシバ子爵でローレイのお父様だ。
「シャロット!ここよ!」
見事な噴水の広場で馬車から降りると一組の男女の女性の方がこちらに向かって大きく手を降っていた。
シンプルなストライプのワンピースをまとい、長い赤毛は可愛らしく編み込みアップにしていた。
街で目立たないようにか平民らしい格好をしているが、いつもの貴族らしいドレスワンピースを着ている時より何故か余程可愛らしく見える。
「ローレイ様、恋をされているのですね」
ふふっと微笑ましげに笑いながらソフィアが私に同意を求めるように言ってきた。
「何故…恋をしていると分かるの?」
私は不思議に思って聞いたのにソフィアは一瞬キョトンとした顔をする。
「だってすごくお綺麗になられてますし…簡素な平民服でも以前より美しく見えませんか?」
「! 見えるわ!なんであの服装でいつもより可愛いく見えるのか不思議に思っていたの!」
「恋をすると美しくなると言いますがローレイ様を見て本当の事なのだと私も今知りました」
またふふっと微笑ましげに笑うソフィア。
半年ほど年上なだけなのに漂うお姉さん感に謎の敗北を感じる…なんか悔しい。
「シャロット、来てくれてありがとう!ソフィア、ご無沙汰してるわね」
「こちらこそお招きありがとう」
「ローレイ様、本日は私までお招きいただきありがとうございます」
私たちが挨拶を交わす間ローレイの隣にいる少しふくよかな男性は優しい笑顔を浮かべていた。
「紹介するわ!彼が私の婚約者のハズドよ。前に話した通り幾つかのレストランを経営している家のご子息なの。ハズド、彼女が私の学友で辺境伯令嬢のシャロット、こちらは侍女のソフィアよ」
「お初にお目にかかります。ハズドと申します。平民のため家名はございません。この度は私めが手掛けるカフェへご足労頂けるとのことで恐悦至極に存じます。どうぞ本日は宜しくお願い致します」
流石富裕層向けのレストランを経営してる家の青年だけあって挨拶に緊張は感じられず姿勢もキレイである。
挨拶をするハズドさんを見つめるローレイの微笑みは幸せそうでとても可愛らしかった。
なるほど、恋は人を美しくする、か。
「今から行くカフェはね、ハズドのお父様はノータッチで経営することになるの!初めての独り立ちなんですって!」
ローレイは無邪気に嬉しそうだが恐らくそれは経営のトップを譲るか否かのテストだとピンと来た。
「本来ならオープン前に貴族の御令嬢様にお越し頂くような事はあってはならないのですが貸し切りで真新しい状態の店を気兼ねなくお楽しみ頂けるのは今のうちだと思いましてローレイを通じ声を掛けさせて頂きました。様々なメニューがお楽しみ頂けるようフィンガー料理やワンスプーンにアレンジしてご提供いたしますのでゆっくりお楽しみ下さいませ」
…うん、なるべく沢山の料理の感想を得ようとしてるわよね。
穏やかで柔らかな雰囲気をまとった人だが抜け目はないみたいで逆に安心してしまう。
経営者となり子爵令嬢を娶るのならば、優しいだけのお人好しでは困るもの。
そんなやり取りをしつつ案内されたのは先程の噴水の広場からほど近いカフェだった。
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