ある辺境伯の後悔

だましだまし

文字の大きさ
3 / 20

憎い娘

しおりを挟む
セディナが逝った。
それも、私が傍に付いていない時に。

忌々しい義両親が訪ねてきやがったせいだ。
セディナの父親さえ来ていなければ看取れたのは私だったのにと悲しみが憎しみとなり、腸が煮えくり返った。
奈落に突き落とされたような思いなのに義父が義母に私のせいでセディナは死んだ、結婚させるのでなかったと話しているのも見てしまった。
セディナが死んだのは出産のせいだろう!
この二女のせいだ!私のせいなわけが無い!
さらに腹が立つことに次女の髪は義父にそっくりなのだ!
顔立ちもどことなく義父によく似ている。
瞳の色は私と同じ緑で全く可愛いと思えなかった。

母を恋しがって泣くリビアナとロベルトと共にしばらく泣いて暮らした。
私とて妻が、セディナが恋しい。
名前は男女それぞれの名を既に用意してあったがセディナが「シャロット」と呼んでしまっていたのを子供たちが見ていたので仕方なく『シャロット』と名付けた。
彼女の最後のワガママだ。
死んでしまっては叶えてやった事もわからないが…子供たちも妹を既にシャロットと呼んでいたから仕方ない。

シャロットは雇った乳母やセディナの侍女をそのまま世話係にして任し、私はリビアナとロベルトと共に過ごしながら心の傷を癒やしていった。
時折シャロットの様子も見に行ったが煌めく明るいブロンドは憎い義父を彷彿させる。
そして何より目が気に入らない。
セディナの大きな目とは似つかない細長い目。
一重にしてはパッチリとしていると抜かす奴らにセディナそっくりな目をしたリビアナの愛らしい目を見せてやりたい。
セディナの侍女だった奴らは母親にそっくりだと言うが目元が似ても似つかない。
他は確かにセディナにも似ているとも言えるがセディナというより義父に見えて仕方がない。
しかし、こんなにもセディナに似ていると言われるなら育てば私もそう感じるかと5歳まで待った。
が、やはり義父似は義父似のままだ。
セディナと私の最後の子だというのにとんだハズレが産まれたものだ。
私とセディナ、最後の別れの邪魔をした憎い義父。
嫌悪する義父にそっくりな愛しい妻を殺した憎いシャロット
妻への愛しさは募るばかりで憎しみは消えるどころか薄れる気配もなかった。

妻が亡くなってしばらくは孫に会わせろと煩かった義両親だったが適当にかわしているうちに気付けばほぼ没交渉となっていた。
レイナーラ領がラメノ領からも王都からも遠いおかげだ。
王都で暮らす時期もほぼ顔を合わせないようにしていたので年に1、2度の子供たちも参加するようなパーティでしか会わない祖父母に子供たちも懐く事はなかった。
私が義父を嫌悪しているから余計かもしれない。
相手が侯爵なので悪口こそ言わなかったが親しみのこもった態度なぞ取れるはずが無いからな。
いつからか祝い事があるとプレゼントと手紙が届くだけの関係となっていった。
今から思えばシャロットだけ侯爵家に渡しておけば良かったとも思うが今更声をかけ、リビアナやロベルトとの交流を求められても困るしな。
それに憎いアレシャロットが侯爵令嬢になるのも気に食わない。

シャロットが8歳になった頃、アレが視界に入るのも嫌で私と上の二人の子供たちは常に王都で、シャロットは病弱ということにしてずっと領地で暮らさせた。
学院も上の子たちは王立の貴族学院へ行かせたがシャロットは領地の国境沿いにある比較的富裕層が通う学校へと通わせた。
本当は学校に通わせるのも馬鹿らしいが貴族はどこの学校へ通ったと届けを出さねばならんから仕方がない。
富裕層が通うとはいえ平民が大半の学校だ。
そのまま平民落ちするような事になればいいと思わずにいられない。
娘とはいえ愛する妻を殺した憎い仇。
本音を言えば虐げても良い存在だが不自由無い暮らしをさせてやっているだけ私は寛大というもの。

離れて暮らしているからか文字を覚えたシャロットから手紙が届く事もあった。
しかし妻を殺した娘になんぞ返事を書く気が起きず放置しているとそのうち届かなくなった。
『シャロット』の文字列を見ると愛しい妻が名付けたという思いが込み上げる。
しかしその容姿は義父に似ているおぞましい奴で、妻の仇なのだ。
悲しみが和らぐことも殆ど無いというのにまもなくセディナの15回忌。
ということは、あの母殺しも15歳の社交デビューの年になりやがる。

リビアナの社交デビューはそれはもう華やかにした。
王都で人気のトップデザイナーに一年以上前から予約を入れ、宝石もセディナの為に用意していた高級なものから新たに用意した豪華ものどちらも使いそれは美しく飾り立てたものだ。
着飾り、大きな紫の瞳が私を見つめたとき、かつてのセディナが重なって見えた。
私に似ているとはいえやはり娘、どことなく母の面影が見えるんだなと涙ぐんだものだ。

ロベルトの社交デビューも力を入れた。
私の血が混じっているせいか幼い頃より色味が濃くなったブロンドは、滅多にセディナのように真新しい銅のようなピンクに輝くことがなくなったが、元々母親似なだけあってその容姿は彼女の息子だと雄弁に物語っていた。
ロベルトが娘であればと思わずにいられないほどにセディナの面影を感じさせる彼は辺境伯子息として相応しい堂々とした青年に育ってくれた。
その佇まいに相応しい衣服に男性用の装飾を用意した甲斐があったというものだ。

そしてシャロット…。
もう何年も会っていない。
顔を見る気にもなれない。
あの明るい髪を見ると腹が立つ。
細い目と視線を合わせたとて返ってくるのは私と同じ緑色。
病弱ということにしているのだし社交デビューもそれで誤魔化すか。

ラメノ侯爵が社交デビューさせないのかと干渉してきたが『セディナと同じ体質だ』と返すと領地への見舞いに来たいと言ってきたので、これには私が不在で良ければ好きな時に来て構わないと伝えた。
私の愛するリビアナとロベルトは社交界でラメノ侯爵と会っても他人行儀で、侯爵家に奪われる心配が無かったしアレシャロットはどう思おうが社交デビューしていないから親の私が許可を出さなければラメノ侯爵と共に領地を出ることが出来ない。
領地で田舎暮らしをさせているだけで別に虐げてるわけでないから侯爵家とはいえ訴える事も出来まい。
連れ去れば誘拐だ。
アレは憎いが可愛いリビアナより上の身分になどしてたまるものか。

政略結婚のコマに使う機会がくるか、使いにくい年齢になってきたら適当にデビューさせてどこかの後妻として嫁がせよう。


そう思っていた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...