ある辺境伯の後悔

だましだまし

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幸せな時間の終わり

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私は誰より幸せだった。


辺境伯を賜っているが先々代が和平を結び、先代が晩年に商人の行き来を許可した事から隣国のと交流も始まり、私が爵位を継いだ頃には戦争は過去のものとなっていた。
昔の名残りで城こそ質素堅牢な要塞のようだが今や要塞としての機能を活かすことは無い。
一応軍事にはそれなりに力を入れているが国境警備も昔と違って臨戦態勢の必要が無いので緩い。

社交シーズンには王都で暮らしているが特に誰も不安がらないほどに平和な日々だ。
貴族としては伯爵以上侯爵以下な立ち位置だが、ただの伯爵扱いされる日も近いかもしれん。
そりゃあ警戒態勢が続いていた時代は侯爵同等の扱いだったらしいが今は平和そのものだからな。
しかし比較的気楽だが高位貴族なのが伯爵位。
侯爵や公爵になると責任も大きくなるし、仕事も多くなる上に面倒な派閥争いで中心になりがちだ。
伯爵位、結構なことじゃないか!
しかもややこしい付き合いは領地が遠いので逃げやすい。

我が領地が隣接しているそこそこの大国サカオ王国は数年前に代替わりをしたのだが、若き国王は先代父王より穏やかな気質な上に軍事より商業に関心が強いらしく周辺諸国はコレを機会に輸出量を増やそうと躍起になっている。
和平を結んでも数年は険悪な関係だったのもあって我が国は若干出遅れた感が否めないが、我が領地は今後防衛の辺境でなく交易の要所として栄えていくかもしれない。
そんな注目されし期待の地が私の治めるレイナーラ領だ。

レイナーラ領は山が他の領地より多いのだが美しい場所が沢山ある。
景色だけでなく、なんなら水も空気もきれいだ。
鉱山は少ししか無いのが残念だが山の幸が豊富な…まぁ、要は田舎だ。
しかしこれが私に味方した。

ある夜会で一目惚れしたご令嬢。
今までこんな美しい方が居ただろうかと思わず見惚れてしまった。
美しいブロンドだが銅のようにほんのりピンクに輝く不思議な髪。
長い睫毛で縁取られた目は美しい紫で潤んでいるような大きな瞳をしている。
こんなに誰かを愛おしく思ったのは初めてだった。

調べるとある侯爵家の次女だが体が弱く滅多に夜会に参加しない令嬢だった。
しかしその為まだ婚約者もいないというではないか。
私は侯爵家に自分を売り込んだ。
彼女セディナの父親であるラメノ侯爵は王都からも侯爵領からもレイナーラ領は遠いと渋い顔をしていた。
しかし何度も足を運ぶうちに、田舎のキレイな空気や水は療養に適している、と彼女の母親が賛成してくれる様になり、そのおかげもあって無事に婚約し、彼女を妻にすることが出来た。

妻セディナは本当に美しかった。
確かに病弱ではあったが私は彼女が愛しくて堪らず、その結果次々と子宝に恵まれた。

長女リビアナは残念ながら私に似ていた。
私と同じ栗色の髪に薄い唇、鼻などもどことなく私に似ている。
しかし紫の大きな目だけは妻に似ていた。
私がセディナの容姿の中で一番好きな部位だ。
上目遣いで見つめられると顔の他の部分が見えにくくなって幼い頃の妻を想像させる。
そんなリビアナが可愛いらしくて堪らなかった。

2年後に産まれたのは長男ロベルトだった。
セディナによく似た髪色をしていて全体的に母親似の子だった。
目の形は猫のような軽い吊り目で私にそっくりだが紫の瞳をしていたのでぱっと見はセディナによく似て見えた。
大事な跡継ぎが念願の母親似だなんて最高だ!

愛しい妻に妻の面影を持って生まれた可愛い子供たち。
欲を言えばもっと完全に妻にそっくりな子が欲しかったが、私の面影も混じっているのは私と妻の愛の結晶だからとも考えられて本当にとても幸せな日々だった。

しかしラメノ侯爵にはリビアナを身籠った頃からよく苦言を呈された。

「セディナは元々出産には耐えられないと言われていたんだ。世継ぎは最悪養子を迎えると言っていたじゃないか!」
「一人目の産後の回復も完全でない内に二人目を産ませて何かあったらどうするんだ!なぜ孕ませる!?」
「セディナを本当に大事に思うなら出産させるような負担を強いるな!」

何かと煩い。
しかし愛していると子を授かってしまうのだ。
仕方無くないか?
確かに少し拒まれる時もあるが本当に嫌ならもっと強く拒否するはずだ。
困りつつも受け入れてくれるのはセディナも私を求めているからに他ならない。
愛し合う私達に余計なお世話だ。

そうしてロベルトを産んだ翌年、セディナは三人目の子を産んだ。



そして、産後僅か一週間で亡くなってしまった…。
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