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なにやら執事が慌てた様子でシグルス様に駆け寄り耳打ちをしている。
「なんだって!?私は呼んでいない」
シグルス様から放たれた怒りの威圧にもう若くない彼は縮こまってしまっている。
横にいるシル様は聞こえなかったのか不思議そうな表情だ。
私たちは事態を把握するため王子の近くに…行くまでもなかった。
「この花の間…マジで一年早くなってるじゃない!」
「「「マリア・ローデン!!!」」」

なんとマリアが現れたのだ。
しかもドレスアップした姿である。
「申し訳ありません…夜のパーティに御学友も招いておられたのかと…」
執事が勘違いするのも仕方ない。
このタイミングでこの格好、そしてここにシグルスがいるのを知っているのだ。
「!? なんでディルアーナがいるの!?」
「え!?」
なんでも何も招待状貰ってたの知ってるじゃない。
奪おうとしてたくせに何を惚けてるの?
「メインがポピーの花…リュシルファとの婚約がもう結ばれたってこと?」
周りをキョロキョロしながら多分心の声が漏れている。
漏れているんじゃ無ければ公爵令嬢を呼び捨てるとか不敬この上ない。
「ローデン伯爵令嬢、ツィルフェール公爵令嬢の名を呼び捨てるなど何様のつもりだ」
鋭い視線で制したのはお兄様だった。
「え?あっやばっ。ごめんなさぁい…驚いて声に出ちゃってたみたいで…」
「心の内であっても不敬は不敬だろう」
甘えた調子で媚びるも氷のような視線を返され流石のマリアにも若干怯えが浮かぶ。

「それよりだ…。どうして私がここに滞在し、夜にパーティを開く予定があるのを知っている?」
そう問いかけるシグルス様の視線もかなり冷たい。
が、お兄様に比べると殺気めいたものが無いからかコロッとまた甘えた調子で縋り付いた。
「きっと私がシグルス様の特別だからです♡来てほしいって気持ちが伝わって来て…だから会いに来ました♡」
キュルンっと可愛く甘える様は正にヒロインである。
ただシグルス様の顔はドン引きを絵に描いたらこんなのってくらい引いてるのが伝わる顔してる。

「いや…ホントなんで今日パーティがあるって分かったのよ…」
マリアを睨みつけるとマジマジと私を見てきた。
「やっぱり本物のディルアーナね…バグのディルアーナが招待状持ってたのもおかしかったけど…」
「は?」
いや、マリア…私が二人いると思ってる?
「あの…その招待状持ってたディルアーナと私、同一人物なんだけど…」
「え!?うっそ…バグが修正されたのかしら…」
後半ボソボソ失礼な一人言呟いてるの聞こえたからね!
「とりあえず、何しに来たの?」
「だから、ここのイベント参加してないと後でジグス様に会えないんだってば」

公爵令嬢呼び捨てといてその使用人に様付け…。
視線でジグスさんを見ると急に自分の名前が出てきたからか、もの凄く驚いた顔をしている。
「ジグス…お知り合い?」
シル様、さっきまで微笑んでいたと思えないほどいつもの人形姫の顔だ。
(もっと笑顔を見ていたかったのに…!)
こう思ったのは私だけでは無いはず。
両手と首を大きく振って「初対面です!」と焦るジグスさん。
そりゃもうワケ分からん状態だろう…お気の毒に…。

「ジグス様もいる!?♡きゃあ♡本物ヤバい!!!」
…アイドルに会った高校生かな?
対象がオロオロして困ってるの分からんかね。
走り寄るマリアに立ち塞がりジグス様を背に守ろうとしたのはシル様だった。
「お嬢様!「リュシルファ!」
シグルス様とジグスさんの声が重なる。
シル様はいつもの美しい無表情でマリアを見据えた。
「リュシルファ様、シグルス様とのご婚約おめでとうございます♡ちょっと執事さんとお話しさせて頂けません?」
シル様に許可を得ること無く自分の要望を口にするマリア…不敬で捕まってもおかしくないよ?

「執事…ではジグスと話したいわけでなかったのね。彼は執事ではないわ。お引き取り願える?」
主としてジグスさんを守るリュシルファ。
マリアは伯爵令嬢でジグスは平民。
身分差で不利なため自らが盾になったのだ。
そんな意外な強い一面にシグルスは見惚れていた。

「え?執事じゃない?うそ…なんで?あ、一年早いから…?」
マリアは狼狽えているが間違っていない。
ジグスさんはシル様のである。(その上ここには荷運びとして来た)
『執事』は明日任命される予定だったのだ。
雇い主が公爵家から王太子シグルスに変わるに当たって…。
婚約が叶えば城で暮らす、そのことのメリットの1つとしてシグルス様がシル様に語っていたのを共に聞いた。
『シルが信頼しているジグスは執事として召し上げよう。侍女など近衛の使用人が増えるから取り纏める人物が必要だしね。彼も出世だ。そうしたら今より共に安心した暮らしが出来るだろう?』
マリアの言う『一年早い』影響は確かにあるのだろう。
ただどんな影響があったのか私には分からない…。

「ねぇ、本当は…どういう出会いをするはずだったの?」
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