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邸の中はどこか素朴さを感じさせる雰囲気だった。
シグルスが言っていた通りあちらこちらに花が飾られてもいるので物語の小人や妖精の家を彷彿させる。
そして優しいハーブの香りが漂っていた。
「いい香りがするわ」
「あぁ、なんだか疲れが和らぐ気がするよ」
双子は無邪気に喜んだがホストであるシグルスが不思議そうにしている。
「確かに良い香りだが…初めて嗅ぐ。花にしては強いしなんの匂いだろう…?」
「「えぇ!?」」
しかしリュシルファだけは3人のやり取りを優しい目で眺めていた。
「もしかして…シル様はこの香りが何かご存知なんですか?」
ディルアーナの問いかけにリュシルファが頷いた時、部屋の隅に並んでいた使用人たちの奥から声が上がった。
「僭越ながら私が説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
顔を覗かせたのは外の夕焼けにも負けない真っ赤な髪をした青年だった。
少し癖毛なのかゆるくカールした毛束の先がどれもオレンジ色でますます夕陽のようである。
しかし漆黒の瞳は夜の闇のようでどこか仄暗さもある人物だった。
「紹介するわ。いつも私を助けてくれるジグス・サーディスよ」
「皆様はじめまして。日頃はリュシルファお嬢様の侍従をさせて頂いてますジグス・サーディスと申します。男爵家の家名サーディスを名乗らせて頂いておりますが私は庶子なのでどうぞ『ジグス』とお呼びください」
いつぞや聞いたトロル族の侍従だとひと目で分かった。
美しい髪に大きな黒目、人形姫の側にいても見劣らない容姿をしている。
攻略対象のシグルスもセルディも充分美形で目を引くのだが彼はそんな彼らを上回りそうな不思議な魅力があり、正直こんな見目麗しい人だと想像もしていなかった。
(そう言えば可愛らしい女性が多いから混血の多い種族だってシル様が話してたな…)
庶子だと話していたし、恐らく容姿の美しさ故に彼の母親は男爵の子を妻でない立場で身籠るような境遇になったのだろうなと容易に想像ができた。
「皆様が今お話になっていた香りですが、ハーブで作ったお香でございます。長く馬車に揺られお疲れかと思いましたのでリラックス効果と疲労回復効果のある香りを焚いております」
ソファに腰掛けると邸に先に来ていた侍女がお茶を淹れてくれた。
「こちらもジグス殿がご用意されたハーブティーでございます。私どもも頂きましたが溜まった疲労を出しスッキリとした気分にさせてくれました」
飲んでみるとほんのりミントが香る爽やかで美味しいお茶だった。
「シルはいつもこれを飲んでいるの?」
「はい、これも…」
シグルスがリュシルファからジグスへ視線をやる。
「お嬢様が一番好んで飲んでいらっしゃるのは別のお茶ですが、お疲れであろうときにお淹れしているのはこちらのお茶でございます」
「シルの好みのお茶はどんなものなんだい?」
「はい、近頃の好みは様々なフルーツの香りがする甘いお茶でございます。朝食にも合いますので宜しければ明日の朝にご用意させて頂きます」
「楽しみにしているよ」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます」
その後も歓談を楽しみにひと心地ついていると
「そろそろお食事はいかがでしょうか?」と声をかけられた。
そうこうしているうちに共に来た侍女や侍従たちも休憩を取り仕事が出来る状態になっていたらしい。
いつの間にか共に来た者たちも部屋の壁際で待機している。
到着したときには日が落ちかけていたのもあって窓の外は夕焼けを通り越して暗くなっている。
「食事をしながら明日の予定を立てようか」
シグルスのその一声で一同は食堂へと移っていった。
シグルスが言っていた通りあちらこちらに花が飾られてもいるので物語の小人や妖精の家を彷彿させる。
そして優しいハーブの香りが漂っていた。
「いい香りがするわ」
「あぁ、なんだか疲れが和らぐ気がするよ」
双子は無邪気に喜んだがホストであるシグルスが不思議そうにしている。
「確かに良い香りだが…初めて嗅ぐ。花にしては強いしなんの匂いだろう…?」
「「えぇ!?」」
しかしリュシルファだけは3人のやり取りを優しい目で眺めていた。
「もしかして…シル様はこの香りが何かご存知なんですか?」
ディルアーナの問いかけにリュシルファが頷いた時、部屋の隅に並んでいた使用人たちの奥から声が上がった。
「僭越ながら私が説明させて頂いても宜しいでしょうか?」
顔を覗かせたのは外の夕焼けにも負けない真っ赤な髪をした青年だった。
少し癖毛なのかゆるくカールした毛束の先がどれもオレンジ色でますます夕陽のようである。
しかし漆黒の瞳は夜の闇のようでどこか仄暗さもある人物だった。
「紹介するわ。いつも私を助けてくれるジグス・サーディスよ」
「皆様はじめまして。日頃はリュシルファお嬢様の侍従をさせて頂いてますジグス・サーディスと申します。男爵家の家名サーディスを名乗らせて頂いておりますが私は庶子なのでどうぞ『ジグス』とお呼びください」
いつぞや聞いたトロル族の侍従だとひと目で分かった。
美しい髪に大きな黒目、人形姫の側にいても見劣らない容姿をしている。
攻略対象のシグルスもセルディも充分美形で目を引くのだが彼はそんな彼らを上回りそうな不思議な魅力があり、正直こんな見目麗しい人だと想像もしていなかった。
(そう言えば可愛らしい女性が多いから混血の多い種族だってシル様が話してたな…)
庶子だと話していたし、恐らく容姿の美しさ故に彼の母親は男爵の子を妻でない立場で身籠るような境遇になったのだろうなと容易に想像ができた。
「皆様が今お話になっていた香りですが、ハーブで作ったお香でございます。長く馬車に揺られお疲れかと思いましたのでリラックス効果と疲労回復効果のある香りを焚いております」
ソファに腰掛けると邸に先に来ていた侍女がお茶を淹れてくれた。
「こちらもジグス殿がご用意されたハーブティーでございます。私どもも頂きましたが溜まった疲労を出しスッキリとした気分にさせてくれました」
飲んでみるとほんのりミントが香る爽やかで美味しいお茶だった。
「シルはいつもこれを飲んでいるの?」
「はい、これも…」
シグルスがリュシルファからジグスへ視線をやる。
「お嬢様が一番好んで飲んでいらっしゃるのは別のお茶ですが、お疲れであろうときにお淹れしているのはこちらのお茶でございます」
「シルの好みのお茶はどんなものなんだい?」
「はい、近頃の好みは様々なフルーツの香りがする甘いお茶でございます。朝食にも合いますので宜しければ明日の朝にご用意させて頂きます」
「楽しみにしているよ」
「勿体ないお言葉、ありがとうございます」
その後も歓談を楽しみにひと心地ついていると
「そろそろお食事はいかがでしょうか?」と声をかけられた。
そうこうしているうちに共に来た侍女や侍従たちも休憩を取り仕事が出来る状態になっていたらしい。
いつの間にか共に来た者たちも部屋の壁際で待機している。
到着したときには日が落ちかけていたのもあって窓の外は夕焼けを通り越して暗くなっている。
「食事をしながら明日の予定を立てようか」
シグルスのその一声で一同は食堂へと移っていった。
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