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第三章 月の神殿
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しおりを挟む「太陽神の断罪を放映具で世界へ一斉に流す、人間の信仰が傾いたら、その場でウトゥが即位する。これでいいのか?」
ククノチの言葉に全員が頷く。
考えれば考えるほど穴だらけの、なんとも不安な作戦だ。奇襲型の一発勝負。失敗したら人間からの信用を失うのは逆にこちらの方。
「時期は?なるべく早い方がいいよな」
「ユエが帰還した挨拶を、ってことで呼び出すってのはどうだ」
「そうなると、延ばせて二週間が限度でしょうね」
決行は二週間後。ウトゥの、太陽神の即位は朝日と共に行われるから早朝に。年明けすぐのこの時期の夜明けはだいたい七時前。その一時間前に太陽神との会談を始めることとする。
一般的に非常識な時間だが、太陽と月の懇談は昼と夜が交わる時間に行われるそうだ。朝、もしくは夕方に。
「……私がやるのね……」
「がんばれ~!」
「……僕だったら絶対に無理……」
異論はない。ないけど、けど。
全世界の人たちに放映具で見られるわけで。つまり元の世界で言うところの全世界同時生中継のメイン出演者。考えただけでも胃が痛い。
「では私とフローラでユエのドレスを準備しましょう」
「ドレスなんてそんな」
「駄目ですわ!こういう時はまず見た目でブン殴っておかないと!」
「ドレスは女性の戦闘着ですのよ?」
「女の子ってこういう時怖いよね」
けれど結慧はドレスなんて持っていないし、二週間で今から作るのは流石に無理。先代の妻のドレスがまだ残っているらしいからそれを着ることにする。流石に二十年以上前のドレスだ、今風へのアレンジは二人がしてくれる。彼女たちはドロリスを伴って早速部屋を出ていった。
「……僕は魔道具を準備するよ」
「人間を叩き起こす道具な」
「無茶苦茶言うよ、もう……」
必要な道具はヴァルカンが製作。モノ作りは彼に任せればまず問題ないらしい。決行は早朝だ。寝ている人が多ければ意味がない。まずは起こして、放映具に注目させる。人々に気付かせるための案、それから放映具を一斉に操作する装置も必要になる。
それを作製する補助にゲブがつく。
「放映は俺たちで担当するよ~!とりあえず撮影機材を揃えなきゃね」
「ああ、セッティングも任せてくれ」
「そういえば、場所はどこでやるの?」
「正殿がある。神々が集う神聖なる間、すべての神はそこで即位の儀式を行うから丁度いい」
そこに予めノトスとククノチがカメラをセットし当日も彼らがその操作を担当する。若いといっても彼らは神。放映具と言っても分からないかもしれないと思いながら発言した結慧だったが、その心配はなかった。
みんな結慧と同じく神としての特徴を隠す魔道具を持っていて、それを使って度々街へ出ているそうだ。特にこの二人はその傾向が強い。
「我らは作戦に支障をきたさぬよう、法をもう一度浚っておこう」
「ええ、穴を突かれては堪りませんからね」
そのあたりはアストライオスとネレウスに任せておけば大丈夫。たとえどんな屁理屈を言われようと捩じ伏せられるように全てを網羅しておいてくれる。重要なところは結慧も覚えておく必要があるため、それも抜き出して貰わねばならない。
「じゃあ私はとりあえず、太陽神へ挨拶状を出さないとね」
「そういう事は、私にお任せくださいませ」
「あら……そうね、ごめんなさい。今までそういうのが仕事だったものだから、つい」
後ろでスミティが苦笑する。これで全員に仕事が回った。結慧とウトゥは当日の流れを予想して進行台本を作成する。どんな場合にも対応できるように、すべての可能性を考えておかねばならない。
「もし、それでも太陽神が納得しなかったら?」
「…………その時はもう仕方ないだろうな」
あと二週間。
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