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第三章 月の神殿

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「お会いできて光栄でございます、月神様」
「私も皆さんにお会いできて光栄だわ。でもどうか、普通に接してちょうだい」

 ウトゥを入れて、全部で九人。目の前がすごくきらびやか。この世界の神たち、正確にいうと神の後継者たちが月の神殿に大集合していた。

「次の月神様は女性でしたのね!嬉しいですわ~!」
「仲良くしてくださいませね」

 花神フローラと水神ミヅハノメは女性。

「……普通に、って言われても……」
「次代の太陽と月は友好的であるな」
「ウトゥは友好的なんてもんじゃねぇだろ」
「違いないですね」
「本当にな。今日だって月の神殿に行くぞ!っていきなり言い出して……」
「ま、いいじゃん!皆仲良しの方が楽しいよ~」

 火神ヴァルカン、星神アストライオス、大地神ゲブ、海神ネレウス、樹木神ククノチ、風神ノトス。こちらは男性。
 皆若そうだ。アストライオスだけは結慧と同じくらいだろうか。その下にウトゥとゲブ、ネレウス、ミヅハ。ヴァルカンとククノチ、ノトス、フローラはまだ十代だろう。

「ええ、皆仲が良い方がいいと思うわ。それはそれとして、ウトゥは一発殴らせてもらっていいかしら?」
「なんでだ!?」
「準備ってものがあるでしょう!」

 例によって突然他の八人を連れてやって来たウトゥ。一番焦ったのはドロリスだ。なにせこちらは結慧を入れて三人。茶器はあったがもてなすためのお菓子がない。気を利かせてネレウスが持ってきてくれたものを出すことで今回は勘弁してもらったけれど。

「協力者がいるって言ったろ?」
「連れてくるなら先に言いなさい!」

 太陽と月、その二大神の元へ行くには先触れと許可が必要。それは他の神々に適用され、二大神はその限りではない。ということは、ウトゥが皆を引き連れて結慧の元を訪れることは知らせずとも可能ということになる。あとは常識の問題。
 もう結慧にはウトゥに対する遠慮が欠片もなくなっていた。初めからなかった気もする。手のかかる弟を叱っている気分だ。

「とにかく、お元気そうでよかったですわ」
「ああ。連絡がとれず心配していたのだ」

 何があった、と問われてやっと本題へ入る。ウトゥと共にまとめた時系列を説明すれば、皆の顔がどんどん強張っていく。

「ひっでぇ事しやがる」
「流石にそこまでとは。予想外でしたね……」
「問題は、これからどうするかだけど」

 済んでしまった事はもう戻せはしないし、仕方がない。それよりも考えるべきはこれからの事。

「まず最終目標をどこに設定するかを決めましょう」
「俺は太陽神の交代だな」
「あとは月神の信頼回復だろう」

 最終的に目指すのはこの二つ。そのためにやらなければならないことを考える。
 まず、太陽神の交代について。基本は死亡による継承か譲位だけれど、

「話が通じる相手であれば問題ないのでしょうが」
「ま、そうだよね~」
「他に手はありませんの?」
「特例法がある」

 遥か昔から続くこの世界には、歴代の神々が定めたルールが多数存在する。その中に継承について関するものがあるらしい。

「神、もしくはそれを継ぐ者の三分の二以上と、人間の半数以上の賛成があった場合は即刻退位、継承しなければならない」
「あら、意外と民主的なのね」
「流石アストライオス、よく知ってるな!」
「だけどそれは」

 神を継ぐ者というのはつまり今ここにいる者たち。これは簡単。問題なのは人間の方。

「人間の賛成ってどうやって知るのでしょう?」
「……それ、魔道具があるはず」

 人の心をはかる魔道具が。
 それは砂時計のような形をしており、中の砂が上に多ければ人の心は神と共にある。下の方が多ければ信仰はなく、その神に届く祈りもない。

「じゃあそれを使うとして、どうやって人間の心を太陽神から離すかだな」
「彼のやったことを世界に知らしめる方法、しかも短期間でですよね?」

 そう、これは短期決戦。
 地道に説いて回るのでは時間がかかりすぎるし、太陽神に気付かれる可能性が高くなる。夏至という期日があり、そこに近づけば近づくほど太陽神は力を増していく。人間はどんどんと限界に向かう。
 できるだけ短期、できれば全世界一斉に。

(この世界にネットなんてものはないし……あ、)

「ねぇ、例えばだけれど放映具って使えるかしら」
「どうするんだ?」

 放映具は全世界普及している。それこそ、元の世界でいうテレビのように。それならば、全世界に同時配信も可能なのではないだろうか。ようはテレビジャックだ。

「成る程。太陽神の罪を放映具を使用して世界中に流すということですね」
「だったらその場で太陽神を断罪した方が分かりやすくねぇか?」
「本人が罪をお認めになる所を見せる事ができれば一番良いですわね!」

 皆が意見を出しあって作戦会議は進む。一人ならば出来ないことも、十人も集まれば可能になる。
 二十六年間止まっていた時が動き出す音を、後ろに控えているスミティは確かに聞いた。


 
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