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第一章 太陽の国

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 魔力測定装置、というものがあるらしい。
 
 というかこの世界、魔法が存在するらしい。
 それを知った時、陽菜は「すごぉい!ファンタジーの世界!」とはしゃいで結慧は「すごい、ファンタジーの世界ね…」と一緒の感想だった。違ったのはテンションの差だけ。
 
 手をかざすだけで魔力値が測れるそれは水晶のような球体。ファンタジーもののアニメなんかでよく見かけるアレ。もしくは怪しげな占い師なんかがテーブルに置いていそうなアレ。
 陽菜と結慧が並んだ二つに手をかざす。ふわりと光る水晶。
 
「きゃっ!」
 
 びきり、殊の外鈍い音をたててヒビが入ったのは陽菜のほうだった。


「これでお分かりでしょう。陽菜様が聖女であらせられる事が」
「びっくりしたぁ~。でも割っちゃってごめんなさい」
「いいえ、聖女様の魔力値が凄まじいという証拠です。謝ることなど何も」
 
 水晶を割るほどの魔力を保有していた陽菜。対する結慧は「普通」だそうだ。一般人レベル。魔法なんてない世界で生きていた結慧にとっては普通レベルでも魔力があることに驚きなのだけれど。
 
「陽菜ちゃん、他に聞きたいことは?」
「えっとぉ……今のところはないかなぁ」
「それでは聖女様、部屋と昼食を用意させますので一度じっくり考えてみてください」
 
 ルイのその言葉で一時お開きとなった。腕時計を確認すれば確かにもう昼時だ。気づかない間にだいぶ時間がたっていたらしい。


***
 
 結慧が通されたのは陽菜とは別室。簡素なゲストルームといったところだろうか。部屋には女性が一人。シスターだろうか。
 
「はじめまして、お世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。後ほど昼食もお持ちいたしますね」
 
 そう言ってにこりと微笑む彼女にほっと安堵の息をついた。やっとまともに話ができる人がいた。申し訳ないけれど質問攻めにするしかないわね、と昼食を用意してくれている間に頭を整理する。

 
 シスターに聞き出したこの世界の常識は、もとの世界のものとは予想通りだがまったく違っていた。
 
 まず当たり前に魔法が存在すること。
 あちらのように科学技術は発達していないけれど、その代わりに魔法がある。同じような生活家電が存在するが、それらすべては魔力で動くのだという。蓄電池のように魔力を貯めることができる石があって、それで動く。テレビのような、公共放送を映し出す水晶まである。放映具というらしい。
 移動は魔力で動く電車や乗り合いの自動車。個人所有はよほどの金持ちしかないそうだ。

 次にお金について。
 落ちるときになんとか手放さなかった通勤鞄。中身を確認した結慧は財布を見てびっくりした。お金が変わっている。
 確実に日本円しか入っていなかったはずの財布の中は知らないお金で埋まっていた。なんてご都合主義なのかしら、と思ったがこれは素直にありがたい。無一文にならなくて済んだ。

 そしてこの世界と教会について。
 太陽教会というのはこの太陽の国の国教なんだそう。住人は他の国から移り住んだ者以外すべて太陽教会の信徒らしい。
 他にあるのは月の国、星の国、花の国、風の国……。ぜんぶで十カ国。そのそれぞれが神にちなんでいて、国ごとの神様を信仰しているのだそう。中でも一番尊いとされるのは太陽神と月神。花神は太陽、風神は月の下とされる。

 シスターの話はわかりやすく楽しい。そもそも結慧は神話だとかそういうものが好きだ。結慧自身は信仰する宗教なんて特にないよくいる日本人ではあるが、家の本棚には古事記はもちろん聖書やラーマーヤナ、ギリシャ神話にギルガメシュにホピにアステカなんかがズラリだ。それを伝えればシスターはこの世界の神話の本を持ってきてくれた。
 
「よろしければ差し上げますわ」
「いいんですか?」
「はい、ここは教会。神に関心のある方へ教えを広めるのは当然のことです」
「では、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
「わからないことがあれば何でも聞いてくださいませね」

  文庫本サイズだが聖書のように分厚い本。文字はとても小さいけれどすべての神々の神話が網羅されているそうだ。わざわざそういうサイズのものを選んで持ってきてくれたんだろう。その気遣いが嬉しくて、本の表紙を撫でる。
 この世界で言葉が通じて、文字が読めてよかった。
 異世界の神話なんてどんなものなのかしら、と胸を踊らせていると部屋のドアがノックされた。

「結慧さぁん、いる~?」



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