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序章 水星観測( Ⅰ )
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日曜日、休日の午後2時。
やる事が無くて自室でゆっくり本を読んでいた。
この寮は本来2人1部屋だが、つい最近もう1人が仕事を辞め出ていった為、今は独占状態だ。
人目も気にせずゆっくりと寛げる為私はとても気に入ってるが、それでも時々なんだか寂しくなってしまう。
早く誰か来ないかなぁ、と思っていた矢先。
「おい緤那、水星観測に行くぞ!」
勢いよくドアを開け呼びかけた斗翔に「もし着替えてたらどうするつもりだったの」と半ば冷ややかな目を向ける。
「え、着替えてたらそりゃ…
悪ぃって言って待ってたけど」
「あーそ。まあいいけど、なんでまた水星?」
「お前今暇だろ?」
見透かしたように退屈していることを指摘され、なんだか癪に障る気がしなくもないが、「まあ、やる事は無いけど」
「どうせ明日も仕事あるし、水星観測ならそんなに夜遅くにならないんだよ。それならお前も負担なく来れるかなって思って。
研究所をあげて観測する日じゃなきゃ休み貰えねぇし…」
「成程…ね。分かった、荷物整えるからちょっと待って」
「おうよ!玄関で待ってるから早く来いよ!」
そう言って元気に出ていく斗翔。
私は半分呆れながらも少しだけ…否、かなり上機嫌に荷物を整え始める。
―――水星。
太陽系の中で最も太陽に近い惑星であり、昼には地表の温度が400℃を超える灼熱の地。
それ故に地表を構成する物質はほぼ鉄やニッケルに限られる岩石質の星だ。
先程斗翔が「夜遅くまで観測に時間がかからない」と言っていたのはまさに太陽に最も近い惑星だからであり、常に太陽を周回している水星は勿論日没後にはほんの一瞬しか拝めない。
水星の光を隠してしまう太陽が沈み、そのすぐ近くに見える日没の一瞬しか水星は観測出来ないのだ。
観測員としての仕事はほとんどしてないから、もう忘れかけていたなぁ…
彼はどれだけ星が好きなのだろう。
確かに魅惑的でありその全貌が全く掴めない空に好奇心を抱くのは頷ける。
しかし彼はあまりにも自分のすべてを空につぎ込みすぎでは無いか?
彼は人間関係に、俗に言う「恋」に興味が無さすぎる。
私をいつも誘い合わせてくれるのは恋ではなく、単純に研究員仲間としてであり「友達として」なのだ。
私たちは友達以上恋人未満。
私はそれ以上を求めるつもりはなかったけど、あまりに一方的すぎるこの想いに苦い思いをすることは少なくなかった。
そんな事を思いながら荷物を持ち玄関を出る。
「お待たせ斗翔、行こっか」
「おう、やっと来たか。
…てか、どうかしたのか?」
「ん、どうして?」
「いや、お前が俺の名前呼ぶなんて珍しいなと…」
「…ただの気まぐれよ。
早く行きましょ、日没はそんなに遅くはないわ」
「お、おう。」
なぜ名前呼びには気付くのにその意図には気付かないのだろうか。
少しだけ言葉に表せない複雑な心を抱きながら、街の光も天文台の光も届かない更なる山奥へ足を進めた。
やる事が無くて自室でゆっくり本を読んでいた。
この寮は本来2人1部屋だが、つい最近もう1人が仕事を辞め出ていった為、今は独占状態だ。
人目も気にせずゆっくりと寛げる為私はとても気に入ってるが、それでも時々なんだか寂しくなってしまう。
早く誰か来ないかなぁ、と思っていた矢先。
「おい緤那、水星観測に行くぞ!」
勢いよくドアを開け呼びかけた斗翔に「もし着替えてたらどうするつもりだったの」と半ば冷ややかな目を向ける。
「え、着替えてたらそりゃ…
悪ぃって言って待ってたけど」
「あーそ。まあいいけど、なんでまた水星?」
「お前今暇だろ?」
見透かしたように退屈していることを指摘され、なんだか癪に障る気がしなくもないが、「まあ、やる事は無いけど」
「どうせ明日も仕事あるし、水星観測ならそんなに夜遅くにならないんだよ。それならお前も負担なく来れるかなって思って。
研究所をあげて観測する日じゃなきゃ休み貰えねぇし…」
「成程…ね。分かった、荷物整えるからちょっと待って」
「おうよ!玄関で待ってるから早く来いよ!」
そう言って元気に出ていく斗翔。
私は半分呆れながらも少しだけ…否、かなり上機嫌に荷物を整え始める。
―――水星。
太陽系の中で最も太陽に近い惑星であり、昼には地表の温度が400℃を超える灼熱の地。
それ故に地表を構成する物質はほぼ鉄やニッケルに限られる岩石質の星だ。
先程斗翔が「夜遅くまで観測に時間がかからない」と言っていたのはまさに太陽に最も近い惑星だからであり、常に太陽を周回している水星は勿論日没後にはほんの一瞬しか拝めない。
水星の光を隠してしまう太陽が沈み、そのすぐ近くに見える日没の一瞬しか水星は観測出来ないのだ。
観測員としての仕事はほとんどしてないから、もう忘れかけていたなぁ…
彼はどれだけ星が好きなのだろう。
確かに魅惑的でありその全貌が全く掴めない空に好奇心を抱くのは頷ける。
しかし彼はあまりにも自分のすべてを空につぎ込みすぎでは無いか?
彼は人間関係に、俗に言う「恋」に興味が無さすぎる。
私をいつも誘い合わせてくれるのは恋ではなく、単純に研究員仲間としてであり「友達として」なのだ。
私たちは友達以上恋人未満。
私はそれ以上を求めるつもりはなかったけど、あまりに一方的すぎるこの想いに苦い思いをすることは少なくなかった。
そんな事を思いながら荷物を持ち玄関を出る。
「お待たせ斗翔、行こっか」
「おう、やっと来たか。
…てか、どうかしたのか?」
「ん、どうして?」
「いや、お前が俺の名前呼ぶなんて珍しいなと…」
「…ただの気まぐれよ。
早く行きましょ、日没はそんなに遅くはないわ」
「お、おう。」
なぜ名前呼びには気付くのにその意図には気付かないのだろうか。
少しだけ言葉に表せない複雑な心を抱きながら、街の光も天文台の光も届かない更なる山奥へ足を進めた。
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