告げられない想い

切愛

文字の大きさ
上 下
4 / 8

3章 ビターチョコレート

しおりを挟む
「ねえねえあのね!」

「どうされましたか?」

「東洋のバレンタインデーでは、女性が男性にチョコレートを贈るらしいの!」

「そういえば、今日はバレンタインデーでしたね」

「だからさ、毎年渡してる花束に、今日はチョコレートも付けてみたの!どうぞ!」

そうやって無邪気に笑って僕に大きな花束とチョコレートを渡してくるお嬢様。

「あ、ありがとうございます!
…なんだか今年は花束が大きくないですか?」

「そうなの!召使いに花の切り方を教えて貰って、いつも作って貰ってる花束に私が切った庭の花を合わせたから!ちょっと大変だったのよ~
…来年は、対面でちゃんと渡せるか分からないものね。勿論、会えないなら送って貰うつもりではあるんだけど…」

そう言って少しだけ笑顔を歪ませるお嬢様に何と声をかければ良いのか僕には分からなかった。
きっとこれは間違った答えなんだろうな…と自覚しながら、僕は苦しみを込めた声で絞り出すようにこう言った。

「きっとここを出てもまた楽しい日々が待っていますよ。いつまでも僕に構わなくても、ちゃんと自分の暮らしを…」

「なんでそんな事言うの?!」

いきなり声を荒らげるお嬢様に僕は戸惑いを隠せずに「あ、あの…」と言葉を発しようとするが彼女がまた声で遮る。

「私が何処に行っても今までの貴方との思い出が消える訳じゃない!私が何処に行こうと今までが消える訳じゃないでしょ?!そんな事言わないで!
…私は貴方の事を忘れたいなんて思わないわ…
貴方は忘れたいの?答えてよ
貴方最近ずっとおかしいわ!どうしてそんなに自分を隠そうとするの…」

「…僕だって、貴方を忘れようとなんて微塵も思いませんよ…
ごめんなさい、僕が悪かったです…」

「ち、違う、私はそんなつもりじゃ…」

とうとう彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。

その泣き声を聞いてすぐさま召使いが駆けつける。

「どうなさいましたかお嬢様、お怪我でもなさったんですか?」

「ち、違うわ、これはただ…」

弁明も聞かずに連れていかれるお嬢様。
…初めて、僕は彼女を泣かせてしまった。

―――僕はずっと貰った花束とチョコレートの包みだけもってそこに立ち尽くしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

命の値段

切愛
ライト文芸
悪は決して人を救わないのか。 善はいつでも弱者を救うのか。 全ては愛する人の為、ただ人を殺し続けるとある女の物語。 注釈 ・ロベリア→花言葉「敵意、悪意」の花 ・泥黎→地獄 ※初投稿作品です。至らぬ所がありましたら申し訳御座いません。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...