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3章 ビターチョコレート
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「ねえねえあのね!」
「どうされましたか?」
「東洋のバレンタインデーでは、女性が男性にチョコレートを贈るらしいの!」
「そういえば、今日はバレンタインデーでしたね」
「だからさ、毎年渡してる花束に、今日はチョコレートも付けてみたの!どうぞ!」
そうやって無邪気に笑って僕に大きな花束とチョコレートを渡してくるお嬢様。
「あ、ありがとうございます!
…なんだか今年は花束が大きくないですか?」
「そうなの!召使いに花の切り方を教えて貰って、いつも作って貰ってる花束に私が切った庭の花を合わせたから!ちょっと大変だったのよ~
…来年は、対面でちゃんと渡せるか分からないものね。勿論、会えないなら送って貰うつもりではあるんだけど…」
そう言って少しだけ笑顔を歪ませるお嬢様に何と声をかければ良いのか僕には分からなかった。
きっとこれは間違った答えなんだろうな…と自覚しながら、僕は苦しみを込めた声で絞り出すようにこう言った。
「きっとここを出てもまた楽しい日々が待っていますよ。いつまでも僕に構わなくても、ちゃんと自分の暮らしを…」
「なんでそんな事言うの?!」
いきなり声を荒らげるお嬢様に僕は戸惑いを隠せずに「あ、あの…」と言葉を発しようとするが彼女がまた声で遮る。
「私が何処に行っても今までの貴方との思い出が消える訳じゃない!私が何処に行こうと今までが消える訳じゃないでしょ?!そんな事言わないで!
…私は貴方の事を忘れたいなんて思わないわ…
貴方は忘れたいの?答えてよ
貴方最近ずっとおかしいわ!どうしてそんなに自分を隠そうとするの…」
「…僕だって、貴方を忘れようとなんて微塵も思いませんよ…
ごめんなさい、僕が悪かったです…」
「ち、違う、私はそんなつもりじゃ…」
とうとう彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
その泣き声を聞いてすぐさま召使いが駆けつける。
「どうなさいましたかお嬢様、お怪我でもなさったんですか?」
「ち、違うわ、これはただ…」
弁明も聞かずに連れていかれるお嬢様。
…初めて、僕は彼女を泣かせてしまった。
―――僕はずっと貰った花束とチョコレートの包みだけもってそこに立ち尽くしていた。
「どうされましたか?」
「東洋のバレンタインデーでは、女性が男性にチョコレートを贈るらしいの!」
「そういえば、今日はバレンタインデーでしたね」
「だからさ、毎年渡してる花束に、今日はチョコレートも付けてみたの!どうぞ!」
そうやって無邪気に笑って僕に大きな花束とチョコレートを渡してくるお嬢様。
「あ、ありがとうございます!
…なんだか今年は花束が大きくないですか?」
「そうなの!召使いに花の切り方を教えて貰って、いつも作って貰ってる花束に私が切った庭の花を合わせたから!ちょっと大変だったのよ~
…来年は、対面でちゃんと渡せるか分からないものね。勿論、会えないなら送って貰うつもりではあるんだけど…」
そう言って少しだけ笑顔を歪ませるお嬢様に何と声をかければ良いのか僕には分からなかった。
きっとこれは間違った答えなんだろうな…と自覚しながら、僕は苦しみを込めた声で絞り出すようにこう言った。
「きっとここを出てもまた楽しい日々が待っていますよ。いつまでも僕に構わなくても、ちゃんと自分の暮らしを…」
「なんでそんな事言うの?!」
いきなり声を荒らげるお嬢様に僕は戸惑いを隠せずに「あ、あの…」と言葉を発しようとするが彼女がまた声で遮る。
「私が何処に行っても今までの貴方との思い出が消える訳じゃない!私が何処に行こうと今までが消える訳じゃないでしょ?!そんな事言わないで!
…私は貴方の事を忘れたいなんて思わないわ…
貴方は忘れたいの?答えてよ
貴方最近ずっとおかしいわ!どうしてそんなに自分を隠そうとするの…」
「…僕だって、貴方を忘れようとなんて微塵も思いませんよ…
ごめんなさい、僕が悪かったです…」
「ち、違う、私はそんなつもりじゃ…」
とうとう彼女の瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。
その泣き声を聞いてすぐさま召使いが駆けつける。
「どうなさいましたかお嬢様、お怪我でもなさったんですか?」
「ち、違うわ、これはただ…」
弁明も聞かずに連れていかれるお嬢様。
…初めて、僕は彼女を泣かせてしまった。
―――僕はずっと貰った花束とチョコレートの包みだけもってそこに立ち尽くしていた。
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