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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
異世界お宅訪問編 最終話。
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「じゃあ、姉ちゃん元気でな。
今回の滞在中、ちょっと思うところがあって、やりたいこともできたし…少し間隔開くかもしれないけど……また―――来るよ」
どこか覇気の乏しい笑顔でそう言って、我が不肖の弟は自分専用となった『時空の歪み』に吸い込まれる様に消えていった。
その体は年齢相応に成長しており、やや細っこいとは言え見た目はもうすっかり大人の男性の体だったけれども……表情までもが急に大人びているのはどうしたことか。
そんなにどこかが大きく変わったというわけじゃないのに、ちょっとした表情に陰りを感じてドキッとする。
「メールはまた送るから……」
「う・うん。待ってる。じゃあ、元気でね」
「そっちも……じゃ」
ぎこちない笑顔でそう言いながら、時空の歪に消えていく弟が見えなくなるまで手を振った。
また…来てくれるつもり…あるんだよね。
私が上京する時にもあんな表情してた様な気がして不安が過ぎったけれども―――あの頃とは違って、また来てくれると言っているし、メールのやり取りもできるから…と、私は思い切る様に踵を返した。
「うぁっ……」
しかし、そんな小さな動きでもやたらと体がギシギシ軋む音が鳴り、空間の歪みが無くなり普段どおりの森の景色に戻った辺りを眺めながら肩や腰をトントン叩いてみる。
……朝起きた時から体がくそダルい。
ポーションは飲んでるから、身体的なものじゃ無いと思うんだけど……何故?
それに、昨日ヨナさんの所に行ってから―――帰ってくるまでの記憶がない。
「……なんだろう……。これ、3日3晩貫徹してヤられまくった時みたいに怠いんだけど……。
ただ、あの時はポーション飲んだけど、しばらく頭がボンヤリしてて……その日一日どこか気分がスッキリしなかったんだよね。
―――ホント、何してたんだろ、私……。
朝起きたらいつもどおり全員川の字で寝てただけだったし―――…」
足元で佇むタロウやマーリンを見下ろして尋ねても、彼らはキョトンとして首を傾げるだけで、何も答えてくれなかった。
颯太なんて、「何もないって」とか言いながら曖昧な笑顔で誤魔化してくるし。
「……颯太の態度も可怪しいっちゃ可怪しいんだよね。
朝っぱらから子供の姿で寝起き凸して魔力奪ってくる所は同じなんだけど……なんだろ。
…前程ギラギラしなくなったっていうか………ちょっと余所余所しくなった? 気の所為かな?」
返事を期待せずに呟くと、意外にもタロウが『グルぅ…』と何か言おうとしていたので、私は魔獣スタイルとなって立ち上がったタロウと目線を合わせるように見上げた。
『主の夫達と会って…何か考える所でもあったのではないか?』
「考える所―――…てか、ぉおお…夫…『達』。家族公認になったとはいえ、やっぱ…自分以外に言われるとまだ恥ずかしいわね、その単語」
既に『夫達』へ弟を引き合わせて、紹介も済んでいるというのに……未だに私だけが、不意に言われるその言葉に気恥ずかしさを感じてしまっていた。とは言え―――
「そーいや、アレだけ息巻いて「会わせろ」って言われて連れて行ったのに……ヨナさんやクリスのこと、追求してこなかった―――。
特にヨナさん達なんて……黒髪黒目を異常なほど神聖視する、大分アヤシイ宗教団体だったはずなのに……家に帰ってから「あいつら何!?」とか言われてないわね。
アレは絶対にヤバいと思ったはずなんだけど……あの、時代がかった浮世絵みたいな肖像画を真剣に崇拝してる美形のエルフ集団とか………邪教じみてて、今考えてもヤバさ際立ってる集団だし。
最初、絵付きで説明された時―――この人達が何言ってんのか、ホントわかんなかったけど…。
あの人達、ガチ過ぎて……笑うとこなのか怒っていいとこなのか、判別つかないのよね……時々目がイッちゃってる人いるし」
そう言いながら、私は深いため息を吐いた。あのエルフ達の勇者信仰について考えるだけで、ドッと疲労感が増していく。
実は…あそこに颯太を連れて行くことに全く躊躇いがなかったと言ってしまえば、嘘になる。
ただ、颯太と似てるか…といえば疑問符が付きそうな程度のいい加減な絵でもあったし、あの穏やかで教養のある人達が、そこまで気にするとも思えなかったので、私はあまり気にせず連れて行ったのだった。
しかしその夜、途中で中座した形になった私達に対して、ヨナさんから通信で謝罪があったらしい。
颯太の姿に熱狂した配下の手違いとはいえ、意識を失うほど酔わせてしまったことについて。
私としては記憶もないし、後遺症みたいなものも何もないので、平謝りするヨナさんの謝罪を笑って受け入れた。
ただ、その時私は泥のように眠っていたので、謝罪内容の詳しいことは知らないけど、代わりに颯太が対応していたとタロウが言っていた。
弟が医務室らしき部屋に運ばれたあたりから私の記憶は曖昧だったけれども―――そういえば、倒れてたかなー?程度の記憶しか蘇らなかった。
その後が大変だったらしいんだけど……ヨナさんは美しい頬を赤く染めてモジモジするばかりで、具体的に何があったかって事は教えてくれないし。
ただ、颯太の話題もそこそこに、私の様子をチラチラと伺う姿が恥じらう生娘の様に艶めいて可愛いらしかった。
なんだよチクショー。頬染めて見つめてくるとか、ムラムラするじゃないの。
何があったの? 私、ナニしちゃったの?
飛び出しそうな獣性を抑え込みながら問いかけても、ウフフとはにかみ笑顔で首を振るばかりのヨナさんから答えは得られなかった。
その姿に口を閉ざして黙り込んだ私は―――次に行った時、あらゆる手段を用いて積極的に攻め込んで口を割らせてやろうと決意した。
その一方、傍らで颯太とヨナの通信を見守っていたというマーリンは、沈痛な表情で俯き目を閉じて唸っているけども。
『……うーん。ヨナ神官長は、吾輩も細かいことは知らニャいが、いつもどおり丁寧に真摯に謝罪してたニャ。
その言葉にも態度にも不自然なものはなかったし…疲労で眠っているご主人に対しても、その身を案じていただけニャ。
ただ……その足元で転がされてた神官達は………一体何だったのかニャ…。
地の底から響くように低い低いうめき声と相まって…小さな恍惚のため息も聞こえる中、まるで別世界の様にニコニコしながら時候の挨拶をするヨナ神官長の姿がやけに不気味で……ソータも吾輩もドン引きし、そこには一切触れられなかったニャ……』
ああ――…うん。もういいです。もう聞かなくて良いです。
きっと、何かあったのだろうけど、宗教団体の中で起こったイザコザなんて、何か教義的な…内々のトラブルかもしれない。
部外者は―――口出ししない方がイイよね。
ほら、何か特別な儀式みたいなものだったりするかもしれないし。
正直、あんな自由な精霊さんたちを崇め奉ってるあそこの宗教団体が、この世界的に見て普通なのか特殊なのか、未だによくわかんないし。
いや、基本的に深く宗教に根付いた生活してこなかった、ごくごく一般的な日本人としましては、ちょっとよくわからない宗教法人には必要以上に関わりたくないとも言いますけど。
「うん、まぁ、立ち話はこのくらいで。家に帰ろっか」
本能的に、これ以上彼らのことを深堀りしないほうが良いと判断し、私は変な方向に行きそうな話を打ち切って、家に帰ることにした。
そして1ヶ月程経過して、弟からメールが送られてきた。
とは言え、リアルタイムでの密なやり取りは謎の通信制限がかかってしまうため、このメールも本当はもっと前に送られたのかもしれないけど―――貴重なあっちの世界からの通信なので、私はワクワクしながらメールを開いた。
<相変わらず爛れた毎日過ごしてんじゃないか心配だけど、元気?
俺はあれから飲みに誘われても、断ることにした。そもそも、まだ未成年だし。
何より金も時間ももったいないし、やりたいことっていうか、目指すものができたから。
なんで、折角頑張って入った大学だし、勉強して公務員目指すことにした。
職種内容については色々あるからもう少し検討する。まだ1学年だから焦らなくていいだろ。
姉ちゃんがいつ帰って来られるかわからないから、せめて俺は安定した職についておきたいってのもあるけど…
魔力を散らさず自分で貯められるようにしたいから、修行の時間もとるにはあんまり激務じゃ無理だと思って。
楽な仕事を目指してるわけじゃないけど、ある程度の休みは確保したいからな。自由業も考えたけど、それで食べてくには、金も時間もムラがありすぎるから止めとく。
姉ちゃんが戻れない今、父さんや母さんを最低限守るためには社会的信用とかも大事だしさ。
魔力感知しにくいこの世界でどこまでやれるかわからないけど、やり方は犬や猫にも聞いたから、こっちでも何とかなると思う。
やっぱり、そっちの世界で魔力の借り暮らしばっかじゃ、いつまでたっても子供扱いから脱却できないしな。
何年か…それこそ何十年か掛かるかもしれないけど…、気長にやるよ。
幸い、そっちに行けば見かけの年齢は何とでもなるから、若いまんまの姉ちゃんと並んでも違和感ないだろ。
だから―――俺はまだ諦めてねぇぞ! ……って、あの猫に伝えてくれ。
じゃ、またメールするわ>
―――という、弟の意識表明じみた内容のメールに少し驚いた。
ホント、一体何があったというのだろうか?
赤ん坊スタイルでギャン泣きしてた弟がこんな事言うなんて……急に長男としての自覚が芽生えたのだろうか?
…………ふーん……そっか。
しかし私は、少し長めのメールを読み終え、何となく腑に落ちた気持ちになって深く息を吐いた。
弟が悪い友達と離れ、真面目に勉強して公務員を目指すと言った内容に、家族としては安堵する。
その上こちらとのやり取りを継続するどころか、私に迷惑掛けないように魔力貯留の修行を始めると言ってくれて……その内容がじわじわと脳に染み渡って来る時には、思わずニヤけるほど嬉しさが染みてきた―――けれども、
『俺はまだ諦めてねぇぞ!』
マーリンに宛てたこの文言の意味がよくわからないと思いつつ、背筋にゾクッとしたものが駆け抜けていったのは何故だろう…。
そして、読めないくせに傍らでスマホを覗き込んでいたマーリンに、そのままを伝えると
『アヒャヒャヒャヒャッ!! 見事にこじらせてるのニャ! 筋金入りニャっ!』
腹を抱えて爆笑しながら、またしてもどこかに消えていくのだった。
………なんか、人知れず暗躍してるよね、あんた……
そんなマーリンの後ろ姿を無言で見送りながら―――二人の間でどんなやり取りがあったのかは知らないけども……多分、将来自分の身に良からぬことが起こるんだろうなと、何故か確信できて立ち尽くしたのだった。
今回の滞在中、ちょっと思うところがあって、やりたいこともできたし…少し間隔開くかもしれないけど……また―――来るよ」
どこか覇気の乏しい笑顔でそう言って、我が不肖の弟は自分専用となった『時空の歪み』に吸い込まれる様に消えていった。
その体は年齢相応に成長しており、やや細っこいとは言え見た目はもうすっかり大人の男性の体だったけれども……表情までもが急に大人びているのはどうしたことか。
そんなにどこかが大きく変わったというわけじゃないのに、ちょっとした表情に陰りを感じてドキッとする。
「メールはまた送るから……」
「う・うん。待ってる。じゃあ、元気でね」
「そっちも……じゃ」
ぎこちない笑顔でそう言いながら、時空の歪に消えていく弟が見えなくなるまで手を振った。
また…来てくれるつもり…あるんだよね。
私が上京する時にもあんな表情してた様な気がして不安が過ぎったけれども―――あの頃とは違って、また来てくれると言っているし、メールのやり取りもできるから…と、私は思い切る様に踵を返した。
「うぁっ……」
しかし、そんな小さな動きでもやたらと体がギシギシ軋む音が鳴り、空間の歪みが無くなり普段どおりの森の景色に戻った辺りを眺めながら肩や腰をトントン叩いてみる。
……朝起きた時から体がくそダルい。
ポーションは飲んでるから、身体的なものじゃ無いと思うんだけど……何故?
それに、昨日ヨナさんの所に行ってから―――帰ってくるまでの記憶がない。
「……なんだろう……。これ、3日3晩貫徹してヤられまくった時みたいに怠いんだけど……。
ただ、あの時はポーション飲んだけど、しばらく頭がボンヤリしてて……その日一日どこか気分がスッキリしなかったんだよね。
―――ホント、何してたんだろ、私……。
朝起きたらいつもどおり全員川の字で寝てただけだったし―――…」
足元で佇むタロウやマーリンを見下ろして尋ねても、彼らはキョトンとして首を傾げるだけで、何も答えてくれなかった。
颯太なんて、「何もないって」とか言いながら曖昧な笑顔で誤魔化してくるし。
「……颯太の態度も可怪しいっちゃ可怪しいんだよね。
朝っぱらから子供の姿で寝起き凸して魔力奪ってくる所は同じなんだけど……なんだろ。
…前程ギラギラしなくなったっていうか………ちょっと余所余所しくなった? 気の所為かな?」
返事を期待せずに呟くと、意外にもタロウが『グルぅ…』と何か言おうとしていたので、私は魔獣スタイルとなって立ち上がったタロウと目線を合わせるように見上げた。
『主の夫達と会って…何か考える所でもあったのではないか?』
「考える所―――…てか、ぉおお…夫…『達』。家族公認になったとはいえ、やっぱ…自分以外に言われるとまだ恥ずかしいわね、その単語」
既に『夫達』へ弟を引き合わせて、紹介も済んでいるというのに……未だに私だけが、不意に言われるその言葉に気恥ずかしさを感じてしまっていた。とは言え―――
「そーいや、アレだけ息巻いて「会わせろ」って言われて連れて行ったのに……ヨナさんやクリスのこと、追求してこなかった―――。
特にヨナさん達なんて……黒髪黒目を異常なほど神聖視する、大分アヤシイ宗教団体だったはずなのに……家に帰ってから「あいつら何!?」とか言われてないわね。
アレは絶対にヤバいと思ったはずなんだけど……あの、時代がかった浮世絵みたいな肖像画を真剣に崇拝してる美形のエルフ集団とか………邪教じみてて、今考えてもヤバさ際立ってる集団だし。
最初、絵付きで説明された時―――この人達が何言ってんのか、ホントわかんなかったけど…。
あの人達、ガチ過ぎて……笑うとこなのか怒っていいとこなのか、判別つかないのよね……時々目がイッちゃってる人いるし」
そう言いながら、私は深いため息を吐いた。あのエルフ達の勇者信仰について考えるだけで、ドッと疲労感が増していく。
実は…あそこに颯太を連れて行くことに全く躊躇いがなかったと言ってしまえば、嘘になる。
ただ、颯太と似てるか…といえば疑問符が付きそうな程度のいい加減な絵でもあったし、あの穏やかで教養のある人達が、そこまで気にするとも思えなかったので、私はあまり気にせず連れて行ったのだった。
しかしその夜、途中で中座した形になった私達に対して、ヨナさんから通信で謝罪があったらしい。
颯太の姿に熱狂した配下の手違いとはいえ、意識を失うほど酔わせてしまったことについて。
私としては記憶もないし、後遺症みたいなものも何もないので、平謝りするヨナさんの謝罪を笑って受け入れた。
ただ、その時私は泥のように眠っていたので、謝罪内容の詳しいことは知らないけど、代わりに颯太が対応していたとタロウが言っていた。
弟が医務室らしき部屋に運ばれたあたりから私の記憶は曖昧だったけれども―――そういえば、倒れてたかなー?程度の記憶しか蘇らなかった。
その後が大変だったらしいんだけど……ヨナさんは美しい頬を赤く染めてモジモジするばかりで、具体的に何があったかって事は教えてくれないし。
ただ、颯太の話題もそこそこに、私の様子をチラチラと伺う姿が恥じらう生娘の様に艶めいて可愛いらしかった。
なんだよチクショー。頬染めて見つめてくるとか、ムラムラするじゃないの。
何があったの? 私、ナニしちゃったの?
飛び出しそうな獣性を抑え込みながら問いかけても、ウフフとはにかみ笑顔で首を振るばかりのヨナさんから答えは得られなかった。
その姿に口を閉ざして黙り込んだ私は―――次に行った時、あらゆる手段を用いて積極的に攻め込んで口を割らせてやろうと決意した。
その一方、傍らで颯太とヨナの通信を見守っていたというマーリンは、沈痛な表情で俯き目を閉じて唸っているけども。
『……うーん。ヨナ神官長は、吾輩も細かいことは知らニャいが、いつもどおり丁寧に真摯に謝罪してたニャ。
その言葉にも態度にも不自然なものはなかったし…疲労で眠っているご主人に対しても、その身を案じていただけニャ。
ただ……その足元で転がされてた神官達は………一体何だったのかニャ…。
地の底から響くように低い低いうめき声と相まって…小さな恍惚のため息も聞こえる中、まるで別世界の様にニコニコしながら時候の挨拶をするヨナ神官長の姿がやけに不気味で……ソータも吾輩もドン引きし、そこには一切触れられなかったニャ……』
ああ――…うん。もういいです。もう聞かなくて良いです。
きっと、何かあったのだろうけど、宗教団体の中で起こったイザコザなんて、何か教義的な…内々のトラブルかもしれない。
部外者は―――口出ししない方がイイよね。
ほら、何か特別な儀式みたいなものだったりするかもしれないし。
正直、あんな自由な精霊さんたちを崇め奉ってるあそこの宗教団体が、この世界的に見て普通なのか特殊なのか、未だによくわかんないし。
いや、基本的に深く宗教に根付いた生活してこなかった、ごくごく一般的な日本人としましては、ちょっとよくわからない宗教法人には必要以上に関わりたくないとも言いますけど。
「うん、まぁ、立ち話はこのくらいで。家に帰ろっか」
本能的に、これ以上彼らのことを深堀りしないほうが良いと判断し、私は変な方向に行きそうな話を打ち切って、家に帰ることにした。
そして1ヶ月程経過して、弟からメールが送られてきた。
とは言え、リアルタイムでの密なやり取りは謎の通信制限がかかってしまうため、このメールも本当はもっと前に送られたのかもしれないけど―――貴重なあっちの世界からの通信なので、私はワクワクしながらメールを開いた。
<相変わらず爛れた毎日過ごしてんじゃないか心配だけど、元気?
俺はあれから飲みに誘われても、断ることにした。そもそも、まだ未成年だし。
何より金も時間ももったいないし、やりたいことっていうか、目指すものができたから。
なんで、折角頑張って入った大学だし、勉強して公務員目指すことにした。
職種内容については色々あるからもう少し検討する。まだ1学年だから焦らなくていいだろ。
姉ちゃんがいつ帰って来られるかわからないから、せめて俺は安定した職についておきたいってのもあるけど…
魔力を散らさず自分で貯められるようにしたいから、修行の時間もとるにはあんまり激務じゃ無理だと思って。
楽な仕事を目指してるわけじゃないけど、ある程度の休みは確保したいからな。自由業も考えたけど、それで食べてくには、金も時間もムラがありすぎるから止めとく。
姉ちゃんが戻れない今、父さんや母さんを最低限守るためには社会的信用とかも大事だしさ。
魔力感知しにくいこの世界でどこまでやれるかわからないけど、やり方は犬や猫にも聞いたから、こっちでも何とかなると思う。
やっぱり、そっちの世界で魔力の借り暮らしばっかじゃ、いつまでたっても子供扱いから脱却できないしな。
何年か…それこそ何十年か掛かるかもしれないけど…、気長にやるよ。
幸い、そっちに行けば見かけの年齢は何とでもなるから、若いまんまの姉ちゃんと並んでも違和感ないだろ。
だから―――俺はまだ諦めてねぇぞ! ……って、あの猫に伝えてくれ。
じゃ、またメールするわ>
―――という、弟の意識表明じみた内容のメールに少し驚いた。
ホント、一体何があったというのだろうか?
赤ん坊スタイルでギャン泣きしてた弟がこんな事言うなんて……急に長男としての自覚が芽生えたのだろうか?
…………ふーん……そっか。
しかし私は、少し長めのメールを読み終え、何となく腑に落ちた気持ちになって深く息を吐いた。
弟が悪い友達と離れ、真面目に勉強して公務員を目指すと言った内容に、家族としては安堵する。
その上こちらとのやり取りを継続するどころか、私に迷惑掛けないように魔力貯留の修行を始めると言ってくれて……その内容がじわじわと脳に染み渡って来る時には、思わずニヤけるほど嬉しさが染みてきた―――けれども、
『俺はまだ諦めてねぇぞ!』
マーリンに宛てたこの文言の意味がよくわからないと思いつつ、背筋にゾクッとしたものが駆け抜けていったのは何故だろう…。
そして、読めないくせに傍らでスマホを覗き込んでいたマーリンに、そのままを伝えると
『アヒャヒャヒャヒャッ!! 見事にこじらせてるのニャ! 筋金入りニャっ!』
腹を抱えて爆笑しながら、またしてもどこかに消えていくのだった。
………なんか、人知れず暗躍してるよね、あんた……
そんなマーリンの後ろ姿を無言で見送りながら―――二人の間でどんなやり取りがあったのかは知らないけども……多分、将来自分の身に良からぬことが起こるんだろうなと、何故か確信できて立ち尽くしたのだった。
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感想ありがとうございますm(_ _)m
おお、こんなに長くなってしまったお話を読み返していただけるなど、感謝の極み!……と同時に、勢いで更新しまくった頃の拙い文や設定に…申し訳なくなってもきますじゃ……(=_=;)
…最近はマーリンもタロウも、落ち着いてきちゃってますねぇ……ふふふ……
いつも美味しく…いえ、愉しく拝読しております。
現在の目薬は悪用されていた酩酊して記憶が飛ぶ成分を抜いてあるから颯太くんの後ろの操はきっと大丈夫!(古い漫画の目薬入れるシーンが謎で調べたことあり)
しかし…、意地の張り合いでガッツリキス出来ちゃう2人の今後が心配です♡
感想ありがとうございます\(^o^)/
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