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その後のお話編:彼女にまつわるエトセトラ
異世界お宅訪問編 訪問前 ③
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「今度の飲み会、ホントにお前、行かねーの?」
大学に入ってから知り合った新しい友人に、講義が終了した帰り際、背後から引き止められて尋ねられた。
紆余曲折の末、無事志望大学に合格した後、住人不在となった姉のアパートから通うようになって、1ヶ月余りが経つ。
この友人も俺と同じ様に春から一人暮らしを始め、互いの下宿先が近くにあることから、帰りに会えば時たま飯に行く程度には仲良くなったツレである。
その友人が誘ってくれた会ではあるが、目出度く同じ大学に通うことになった同級生同士で集まろうとの名目とはいえ、すでにそんな飲み会は何度も繰り返されてきた。
そのため、今となっては単に様々な学年が参加するコンパの様なものになっていると、大半の新入生たちも気づいている。
なので、早めに『付き合い』と称する会に見切りをつける者もそれなりにいて、俺は当然そちら側に移行したい派である。
新たに知り合った同級生やら先輩やら…入学してから事あるごとに、やたらとこの様な飲み会には参加させられてきたけれども―――飲み会というものが珍しかった最初の1・2回はともかく―――よく知りもしない人間に囲まれて、適当な話題を繰り返す労力も結構苦痛なものだ。
彼女がいないとわかると、女どころか男まで、余計にうっとおしい位に絡んでくるし。
俺は『新たな出会いが欲しい』なんて、一言だって言ってないと言うのに。
「付き合い悪くてごめん。 ちょっと、野暮用があってさ」
もともと、他人と揉める様な面倒事を避けるために、人前ではそこそこ愛想よく振る舞う様にはしてきたのだが、そろそろ我慢の容量も限界に近づいているのを感じている。
中高で付き合いのあるツレには理解を得られていたのだが…基本的に俺はあまり人付き合いの良い方ではないのだ。
得意不得意という問題ではなく、付き合いの浅い人間には当たり障りなく接するものの、ある一定以上の距離を踏み込もうとする人間は回避したいと思っているのは、ちょっと付き合えば分かるものらしい。
まぁ、外面良く接しようと多少の努力はするものの、それ程ひた隠してもいないしな。
しかし、まだお互いの内面まで踏み込むような関係でもない友人相手にそこまで暴露するつもりもないため、俺は人好きのする笑顔をできる限り意識しながら軽く頭を下げた。
こういう外見でコミュ障だと思われると、それはそれで人間関係が面倒になると、自分の短い人生の経験則として知っていたから。
特に女が絡むと尚更面倒事が倍増してくるので、断る時こそ注意が必要である。
「お前が参加するって言うと、女の子たちの数も質も格段に変わるから、先輩には絶対連れてこいって言われてたんだけどなー……」
知らねーよ。
そんなセリフを反射的に返してしまいたかったが、これからも付き合いのある同級生に、のっけからそんな冷たい返しをするのも気が引けて、
「悪い。また今度、機会があったら参加させてもらうわ」
などと、フォローを入れてしまう訳で。
本当は今後も行くつもりなんてサラサラないのだが、こういう小さな気遣いって後々の人間関係にも影響してくるし。
表面上でもそれなりに振る舞えば、意外と深追いはされないものだ。
「絶対だからなー。今度は来てくれよーー」
名残惜しげに掛けられた声を背中越しに受けて、「わかったわかった」と軽く返しながら、俺はそそくさと家路を辿る。
大学での新しい生活は、これまでの3年スパンで押し込められた濃密な人間関係を一新して、互いに関心無関心を装いながら新しい人間関係を構築していく時期とも言える。
悪目立ちするのも嫌だし、別に人気者になりたいなんて、サラサラ思ったことはないけれども、特に害を与えてこない相手に嫌われない程度には外面よくしておこうとするのは―――まぁ、普通に日本人だよな…と、特に感慨もなく考える。
押しに弱く流されやすいように見えて、本当に嫌なら素気なく断ることのできる姉と違って、思わず他人の思惑を伺ってしまう自分の姑息な点だと思わなくもない。
余計なトラブルを回避するための処世術と言えば聞こえがいいし、対人スキルとして間違っているとも思わないけれども。
自らコミュ障と称する程対人関係に疎いという姉は、なんだかんだ言って大して揉めることもないうちに、最終的には自らを通していってしまう強さがある。
…まあ、ある意味運任せと言えなくもないのだが、運を引き寄せるのも実力――というか、人柄の賜物だ。
それはガンガンぶつかって構築していく様なものではないが、他人の思惑に流されながらも己を保ち続け、自分の希望との緩衝地帯を模索していく強さというものなのだろう。
我の強い人間ばかりで社会ができているわけでもなし。
周囲に流されている様に見えて、自分が棲みやすい立ち位置を模索するのも、一つの生存戦略ではあるんだろう。
そういうスタンスもありなんじゃね?
我の強い人間にやたらと押されたり執着されたりしやすい俺にとって、そういう生き方は別に悪じゃないと思えるものだった。
俺は俺なりに、自分のフィールドを侵されない距離を保ちつつ、実はいつの間にかひょっこり身近で空気に馴染んでいる、姉の様な生き方も、それなりにアリだと思っていた。
思っていたんだけどなっ!!
まさか流されまくった挙げ句、異世界で重婚……ハーレム築いてるなんて、誰が思うよ!?
異世界テンプレに馴染みすぎだろうが!!
え? ハーレムじゃなくて逆ハーレムだって?
ど う で も い い わ っ!!
キシシとムカつく笑いを浮かべながら暴露してきた猫を尻目に、俺は異世界で爆発した。
文字通り寝室を吹き飛ばす威力の爆発があり、咄嗟に張られた精霊の結界に、すべての攻撃は無とされていたらしいのだが……
怒り心頭に達していた俺の内面は、それどころの騒ぎではなかった。
大学に入ってから知り合った新しい友人に、講義が終了した帰り際、背後から引き止められて尋ねられた。
紆余曲折の末、無事志望大学に合格した後、住人不在となった姉のアパートから通うようになって、1ヶ月余りが経つ。
この友人も俺と同じ様に春から一人暮らしを始め、互いの下宿先が近くにあることから、帰りに会えば時たま飯に行く程度には仲良くなったツレである。
その友人が誘ってくれた会ではあるが、目出度く同じ大学に通うことになった同級生同士で集まろうとの名目とはいえ、すでにそんな飲み会は何度も繰り返されてきた。
そのため、今となっては単に様々な学年が参加するコンパの様なものになっていると、大半の新入生たちも気づいている。
なので、早めに『付き合い』と称する会に見切りをつける者もそれなりにいて、俺は当然そちら側に移行したい派である。
新たに知り合った同級生やら先輩やら…入学してから事あるごとに、やたらとこの様な飲み会には参加させられてきたけれども―――飲み会というものが珍しかった最初の1・2回はともかく―――よく知りもしない人間に囲まれて、適当な話題を繰り返す労力も結構苦痛なものだ。
彼女がいないとわかると、女どころか男まで、余計にうっとおしい位に絡んでくるし。
俺は『新たな出会いが欲しい』なんて、一言だって言ってないと言うのに。
「付き合い悪くてごめん。 ちょっと、野暮用があってさ」
もともと、他人と揉める様な面倒事を避けるために、人前ではそこそこ愛想よく振る舞う様にはしてきたのだが、そろそろ我慢の容量も限界に近づいているのを感じている。
中高で付き合いのあるツレには理解を得られていたのだが…基本的に俺はあまり人付き合いの良い方ではないのだ。
得意不得意という問題ではなく、付き合いの浅い人間には当たり障りなく接するものの、ある一定以上の距離を踏み込もうとする人間は回避したいと思っているのは、ちょっと付き合えば分かるものらしい。
まぁ、外面良く接しようと多少の努力はするものの、それ程ひた隠してもいないしな。
しかし、まだお互いの内面まで踏み込むような関係でもない友人相手にそこまで暴露するつもりもないため、俺は人好きのする笑顔をできる限り意識しながら軽く頭を下げた。
こういう外見でコミュ障だと思われると、それはそれで人間関係が面倒になると、自分の短い人生の経験則として知っていたから。
特に女が絡むと尚更面倒事が倍増してくるので、断る時こそ注意が必要である。
「お前が参加するって言うと、女の子たちの数も質も格段に変わるから、先輩には絶対連れてこいって言われてたんだけどなー……」
知らねーよ。
そんなセリフを反射的に返してしまいたかったが、これからも付き合いのある同級生に、のっけからそんな冷たい返しをするのも気が引けて、
「悪い。また今度、機会があったら参加させてもらうわ」
などと、フォローを入れてしまう訳で。
本当は今後も行くつもりなんてサラサラないのだが、こういう小さな気遣いって後々の人間関係にも影響してくるし。
表面上でもそれなりに振る舞えば、意外と深追いはされないものだ。
「絶対だからなー。今度は来てくれよーー」
名残惜しげに掛けられた声を背中越しに受けて、「わかったわかった」と軽く返しながら、俺はそそくさと家路を辿る。
大学での新しい生活は、これまでの3年スパンで押し込められた濃密な人間関係を一新して、互いに関心無関心を装いながら新しい人間関係を構築していく時期とも言える。
悪目立ちするのも嫌だし、別に人気者になりたいなんて、サラサラ思ったことはないけれども、特に害を与えてこない相手に嫌われない程度には外面よくしておこうとするのは―――まぁ、普通に日本人だよな…と、特に感慨もなく考える。
押しに弱く流されやすいように見えて、本当に嫌なら素気なく断ることのできる姉と違って、思わず他人の思惑を伺ってしまう自分の姑息な点だと思わなくもない。
余計なトラブルを回避するための処世術と言えば聞こえがいいし、対人スキルとして間違っているとも思わないけれども。
自らコミュ障と称する程対人関係に疎いという姉は、なんだかんだ言って大して揉めることもないうちに、最終的には自らを通していってしまう強さがある。
…まあ、ある意味運任せと言えなくもないのだが、運を引き寄せるのも実力――というか、人柄の賜物だ。
それはガンガンぶつかって構築していく様なものではないが、他人の思惑に流されながらも己を保ち続け、自分の希望との緩衝地帯を模索していく強さというものなのだろう。
我の強い人間ばかりで社会ができているわけでもなし。
周囲に流されている様に見えて、自分が棲みやすい立ち位置を模索するのも、一つの生存戦略ではあるんだろう。
そういうスタンスもありなんじゃね?
我の強い人間にやたらと押されたり執着されたりしやすい俺にとって、そういう生き方は別に悪じゃないと思えるものだった。
俺は俺なりに、自分のフィールドを侵されない距離を保ちつつ、実はいつの間にかひょっこり身近で空気に馴染んでいる、姉の様な生き方も、それなりにアリだと思っていた。
思っていたんだけどなっ!!
まさか流されまくった挙げ句、異世界で重婚……ハーレム築いてるなんて、誰が思うよ!?
異世界テンプレに馴染みすぎだろうが!!
え? ハーレムじゃなくて逆ハーレムだって?
ど う で も い い わ っ!!
キシシとムカつく笑いを浮かべながら暴露してきた猫を尻目に、俺は異世界で爆発した。
文字通り寝室を吹き飛ばす威力の爆発があり、咄嗟に張られた精霊の結界に、すべての攻撃は無とされていたらしいのだが……
怒り心頭に達していた俺の内面は、それどころの騒ぎではなかった。
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