2 / 14
1.社畜は猫神様になり、猫ヲタ神官長と出会う
しおりを挟む
………やっぱりね、飲まず食わず寝ずの社畜生活してれば、いずれ早死する未来はあったんだよね。
まさか、享年28歳で過労死とか……ないわー……
働きすぎダメ。絶対。
私は、涼しい木陰に設置された豪奢な寝台に優雅に寝転び、高そうなクリスタルの器に盛り付けられたリンゴに似た甘酸っぱい果実を齧りながら、心の中で呟いた。
カシュッと小気味いい音を立てて齧ったそれは、程よい汁気で私の喉を潤す。
キラキラしくも精緻な刺繍が施された、寝心地抜群の弾力を誇るクッションに埋もれる私の傍らには、料理人の腕を奮った美味しいデザートや甘くて瑞々しい果物が並ぶ。
そして側に控えるお付き神官たちは皆目鼻立ちがスッキリと整った美男美女揃いで、その美しい眼差しはうっとりと私の一挙一動を見守っていた。
「あぁ……ミーア様…。
なんて美しく、お可愛らしい……はぁはぁ……」
中でも一番側近くで跪き、頬を紅潮させながら鼻息荒く私を見下ろす従者(自称)は、そんな世話係の中でも異彩を放つほど、デレデレと蕩けそうな微笑みを湛えて私を見つめ―――いや、ガン見していた。
『…………』
淡い金の髪に、晴れた夏空の様な鮮やかな碧空の瞳が印象的な美青年。
ややタレ気味の目元が彼の美貌を甘めに彩っているが、その整った容姿や所作はスキがなく、少々おかしな言動があっても空耳かと錯覚してしまう所である。
そんな彼の視線を真っ向から受け止めないよう微妙に視線をずらしながら、無言で小首をかしげてやり過ごす。
種族的特徴上、私の表情は読めないだろうが、ニコニコと張り付いた笑顔(営業スマイル)のイメージを心がけた。
何か御用ですか? お客様 (訳:こっち見てんじゃね―よ)
真面目な顔をしていれば、賢そうな絶世の美形だというのに、この残念な下僕(自称)――アスラン神官長(23歳)は、誰に憚ることなく私にぞっこんラブラブ(笑)なのである。
いや、自意識過剰だと言うなら、その方がなんぼかマシ。
誤解であって欲しいと何度も思ったけれども、この常軌を逸する程圧のかかった視線とか、誤解のしようもない程の執着具合。
…行き過ぎた愛情は、嬉しいを通り越して重苦しいもんだって、初めて知りました。
線の細い中性的な顔立ちは、いかにもデキる男という印象を与え、日々の鍛錬で鍛えているためシュッと締まった体躯と長身は手足も長くモデル体型。
そんな奇跡の造形を誇る美青年が、事あるごとに私を構い倒して機嫌をとり、何とか密着して体を撫で回そうと必死になる様は、哀れというか、滑稽というか……
前世でもそうそうお目にかからないレベルのイケメンなだけに、その残念さが際立っている。
常ならば…というか、この執着に危機感を覚えるまでは、私もこんな美しいお兄さんに愛される幸せを素直に享受することができていたのだが。
如何せん、今の私は人間の女子ではない。
美醜の感覚は人間のそれであるが、他種動物の私が人間のイケメンに性的興奮を覚えたりしないのだ。
しかし一応、神官長たる彼を筆頭に、大事に大事にお世話されてセレブ生活を満喫している身としては、あまり冷たい態度をとるのも憚られるし、良心が痛む。
ちゃんと社会人として真面目に働き、周囲との軋轢などないよう努めてきた記憶は根強く残っている。
大人の対応と距離感は無駄な諍いを排除し、人間関係を円滑にするためにある…筈。
「ぶっっ…。小首を傾げるとか…なんて可愛いっ…」
そんな私の葛藤など、当の本人は知ってか知らずか…
アスラン神官長は、自分で自分を抱きしめるポーズで打ち震えながら、寝言の様な世迷い言を宣った。
きっと、彼の心のフォルダは、可愛いネコ動画が永久保存されているのだろうとちらりと思ったが、一瞬で思考を断ち切った。
考えてしまうと、薄ら寒いものが背中を駆け抜けて全身の毛が逆だって、気づかれてしまうから。
そして彼は、そんな私の姿ですら心の栄養にしてしまうという特殊スキルを有する、生粋の猫ヲタだ。
ご褒美ダメ、絶対。
基本的に束縛を嫌い自由を愛する私は、割とこの手の思い込みが激しいタイプが苦手だったりするのだが…
……私と会話できる相手がこの人しかいないし、声と顔は良いんだから、我慢だ私。
引くんじゃない、私…
潤んだ碧空色の瞳を煌めかせ、頬を紅潮させ身悶える彼の姿を横目でチラリと見、黒い毛皮に覆われた前足の間に顔を突っ込んでため息を飲み込んだ。
今の私は、とある世界に転生した猫―――しかも家猫のようなもので。
そんな私に傅き仕える従者であると―――出会った頃からずっと―――アスランたちは夢見るように訴えた。
まさか、享年28歳で過労死とか……ないわー……
働きすぎダメ。絶対。
私は、涼しい木陰に設置された豪奢な寝台に優雅に寝転び、高そうなクリスタルの器に盛り付けられたリンゴに似た甘酸っぱい果実を齧りながら、心の中で呟いた。
カシュッと小気味いい音を立てて齧ったそれは、程よい汁気で私の喉を潤す。
キラキラしくも精緻な刺繍が施された、寝心地抜群の弾力を誇るクッションに埋もれる私の傍らには、料理人の腕を奮った美味しいデザートや甘くて瑞々しい果物が並ぶ。
そして側に控えるお付き神官たちは皆目鼻立ちがスッキリと整った美男美女揃いで、その美しい眼差しはうっとりと私の一挙一動を見守っていた。
「あぁ……ミーア様…。
なんて美しく、お可愛らしい……はぁはぁ……」
中でも一番側近くで跪き、頬を紅潮させながら鼻息荒く私を見下ろす従者(自称)は、そんな世話係の中でも異彩を放つほど、デレデレと蕩けそうな微笑みを湛えて私を見つめ―――いや、ガン見していた。
『…………』
淡い金の髪に、晴れた夏空の様な鮮やかな碧空の瞳が印象的な美青年。
ややタレ気味の目元が彼の美貌を甘めに彩っているが、その整った容姿や所作はスキがなく、少々おかしな言動があっても空耳かと錯覚してしまう所である。
そんな彼の視線を真っ向から受け止めないよう微妙に視線をずらしながら、無言で小首をかしげてやり過ごす。
種族的特徴上、私の表情は読めないだろうが、ニコニコと張り付いた笑顔(営業スマイル)のイメージを心がけた。
何か御用ですか? お客様 (訳:こっち見てんじゃね―よ)
真面目な顔をしていれば、賢そうな絶世の美形だというのに、この残念な下僕(自称)――アスラン神官長(23歳)は、誰に憚ることなく私にぞっこんラブラブ(笑)なのである。
いや、自意識過剰だと言うなら、その方がなんぼかマシ。
誤解であって欲しいと何度も思ったけれども、この常軌を逸する程圧のかかった視線とか、誤解のしようもない程の執着具合。
…行き過ぎた愛情は、嬉しいを通り越して重苦しいもんだって、初めて知りました。
線の細い中性的な顔立ちは、いかにもデキる男という印象を与え、日々の鍛錬で鍛えているためシュッと締まった体躯と長身は手足も長くモデル体型。
そんな奇跡の造形を誇る美青年が、事あるごとに私を構い倒して機嫌をとり、何とか密着して体を撫で回そうと必死になる様は、哀れというか、滑稽というか……
前世でもそうそうお目にかからないレベルのイケメンなだけに、その残念さが際立っている。
常ならば…というか、この執着に危機感を覚えるまでは、私もこんな美しいお兄さんに愛される幸せを素直に享受することができていたのだが。
如何せん、今の私は人間の女子ではない。
美醜の感覚は人間のそれであるが、他種動物の私が人間のイケメンに性的興奮を覚えたりしないのだ。
しかし一応、神官長たる彼を筆頭に、大事に大事にお世話されてセレブ生活を満喫している身としては、あまり冷たい態度をとるのも憚られるし、良心が痛む。
ちゃんと社会人として真面目に働き、周囲との軋轢などないよう努めてきた記憶は根強く残っている。
大人の対応と距離感は無駄な諍いを排除し、人間関係を円滑にするためにある…筈。
「ぶっっ…。小首を傾げるとか…なんて可愛いっ…」
そんな私の葛藤など、当の本人は知ってか知らずか…
アスラン神官長は、自分で自分を抱きしめるポーズで打ち震えながら、寝言の様な世迷い言を宣った。
きっと、彼の心のフォルダは、可愛いネコ動画が永久保存されているのだろうとちらりと思ったが、一瞬で思考を断ち切った。
考えてしまうと、薄ら寒いものが背中を駆け抜けて全身の毛が逆だって、気づかれてしまうから。
そして彼は、そんな私の姿ですら心の栄養にしてしまうという特殊スキルを有する、生粋の猫ヲタだ。
ご褒美ダメ、絶対。
基本的に束縛を嫌い自由を愛する私は、割とこの手の思い込みが激しいタイプが苦手だったりするのだが…
……私と会話できる相手がこの人しかいないし、声と顔は良いんだから、我慢だ私。
引くんじゃない、私…
潤んだ碧空色の瞳を煌めかせ、頬を紅潮させ身悶える彼の姿を横目でチラリと見、黒い毛皮に覆われた前足の間に顔を突っ込んでため息を飲み込んだ。
今の私は、とある世界に転生した猫―――しかも家猫のようなもので。
そんな私に傅き仕える従者であると―――出会った頃からずっと―――アスランたちは夢見るように訴えた。
1
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
私が仕えるお嬢様は乙女ゲームの悪役令嬢です
七夜かなた
恋愛
私の名前はコリンヌ。セルジア国のトレディール公爵令嬢、アシュリー様に仕えるメイドです。
お嬢様に出会ったのは私が四歳、お嬢様が六歳の時。
遡れば公爵家と遠縁になる貧乏男爵家の娘の私は両親を流行病で失い、身寄りもなく公爵家にアシュリー様のお世話係として引き取られました。
銀糸の美しい髪にアメジストの瞳、透き通るような白い肌。出会ったとき思い出した。ここは前世の乙女ゲームの世界。お嬢様は悪役令嬢。この国の第二王子の婚約者で、彼のルートでは最後に婚約破棄されて国外追放されてしまう。
私はゲームでお嬢様の手足となりヒロインへ嫌がらせをした罪でお嬢様の追放後に処刑それてしまう。
何としてもそれだけは回避したい。そのためにお嬢様が断罪されないようにしなくては。
でもこの世界のお嬢様はなぜかゲームの設定と違う。体が弱くて毎日特別に調合された薬を飲まなくてはいけない。
時折発作も起こす。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
ヤンデレ王子とだけは結婚したくない
小倉みち
恋愛
公爵令嬢ハリエットは、5歳のある日、未来の婚約者だと紹介された少年を見てすべてを思い出し、気づいてしまった。
前世で好きだった乙女ゲームのキャラクター、しかも悪役令嬢ハリエットに転生してしまったことに。
そのゲームの隠し攻略対象である第一王子の婚約者として選ばれた彼女は、社交界の華と呼ばれる自分よりもぽっと出の庶民である主人公がちやほやされるのが気に食わず、徹底的に虐めるという凄まじい性格をした少女であるが。
彼女は、第一王子の歪んだ性格の形成者でもあった。
幼いころから高飛車で苛烈な性格だったハリエットは、大人しい少年であった第一王子に繰り返し虐めを行う。
そのせいで自分の殻に閉じこもってしまった彼は、自分を唯一愛してくれると信じてやまない主人公に対し、恐ろしいほどのヤンデレ属性を発揮する。
彼ルートに入れば、第一王子は自分を狂わせた女、悪役令嬢ハリエットを自らの手で始末するのだったが――。
それは嫌だ。
死にたくない。
ということで、ストーリーに反して彼に優しくし始めるハリエット。
王子とはうまいこと良い関係を結びつつ、将来のために結婚しない方向性で――。
そんなことを考えていた彼女は、第一王子のヤンデレ属性が自分の方を向き始めていることに、全く気づいていなかった。
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる