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第4話ーミランダ視点ー

上司と部下

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 気絶して静かに横たわるケインの容態を確認すると、次第にクークーと小さな寝息を立て始め、幸せそうに微笑みながら眠っているようだった。
 なので、そっと肩まで布団を掛けてすぐ、私は脇目もふらずに一心不乱に爆走し、行きよりも早い速度で自室に戻ってきた。

 思わぬ身体的・精神的なダメージを負ったためか、自室に戻った瞬間ホッとして、足元がふらついて倒れかけたのだが、その体をファントムに受け止められて、転倒することを免れた。

「……ありがとう」

 そう言って体を離そうとしたのだが、そのまま横抱きにされて顔を寄せられ、間近に迫った耳元に

「………この、変態」

 と、待ち構えていたかのようにそっと小さな声で罵りを受け、私は赤くなった頬を隠すように視線を逸らし、返す言葉もなく押し黙った。


 常の私ならば、そのまま発言者であるファントムに頭突きでもしてやるか、何倍にも返して罵ってやるものを、言われた言葉に、あまりに自覚が在りすぎて……
 私にしては珍しく、「グッ」と言葉に詰まり、相手を下から睨みつけるだけで押し黙ってしまった。

 認めてどうする…という話だ。

 ファントムは、ため息をつきながら私を寝台の中央に横たえ、自分はその傍に腰を下ろした。



「………見てたの? いつからよ?」

 あの時、「外に控えていろ」と目配せしたのは私だ。
 当然中での出来事は知られているだろう。
 突然私があの部屋から飛び出してきても、すぐに対応して着いてきたのだから、知らない訳がない。
 それでも聞かずにはいられなかった。

 寝転ぶ私の傍に腰掛けたファントムは、私を上から覗き込み、

「知りたいか? ご主人さま」

 と、ニヤリと嗤うので、嫌な予感がして首を横にふる。

「…やっぱ、いい…」

 そう言って、プイっと顔を背け、口を真一文字に結んで閉ざしてやった。

 この男のことだ、きっとその技術でもって知り得た事を、その張本人である私に、赤裸々に滔々と述べてくるに違いない。
 そんなイラッとくる羞恥プレイに晒される位ならば、何も聞かされない方が良い。

 きっと、お父様だろうがファントムの父親だろうが、私が嫌がれば他の人に言うこともないだろうと、今までの付き合いからそう信じられる相手だから、あえて自分だけが気まずくて居たたまれなくなるようなことは、何も聞きたくない。

 そう思って口を噤んでいたのだが、二人して沈黙しているのも、やっぱり気まずい。

「………………」

 少しの時間がとても長い沈黙ような気がしてしまい、あまりに反応がない事が気になって、背けた顔はそのままで、ちらりと横目でファントムの様子を窺ってみる。

 すると、ふと顔のあたりに影がさし……

「………女くさい」

 顕になった耳元で、再び低い美声が思ったより間近に響いてビクッとした。

「………おまえが初対面の弟相手にあんなに乱されるなんて……何があった?」

 その言葉の内容よりも、その声色が、常より優しい気がして思わず見上げると、いつもの無表情なのに、どこか心配しているような表情が垣間見えて、驚いた。

 やっぱり見てたんだ…なんて、私はいちいち言ったりしない。

「…なんて顔してんのよ。らしくない。……心配してくれてるの?」

 誂う様に笑いながらそう言うと、ファントムはまたすぐに元の無表情にもどってしまい、

「いつも笑顔で泰然としているあんたに、あんな声上げられたらおかしいと思うだろう。 
 しかも、あんな小さな子供相手に」

 そう言いながら、ノソリと寝台に上がり―――仰向けで横たわる私の顔の横に両腕をついた状態で四つん這いになって、その長い四肢で私の体をすっぽり覆ってくる。

 ファントムの大きな影に自分がすっぽり包まれているような錯覚がして、ドクッと心臓が跳ねた。

 「ファントム?」
 
 何となく気まずいような空気を感じ、思わず早口で呼びかけると、呼ばれた男は普段と変わらぬ無表情で、そっと顔を寄せてくる。

「……ちょっと? くすぐったいんだけど」

 そうして上から覆いかぶさるように私の体を取り囲み、首筋から胸元に鼻を寄せてフンフンと犬のように私の匂いを嗅いでいる、自分の影の意味不明な行動を訝しみ、思わず戸惑う声が出るのも当然だろう。

 何してんの? この男は。

 時々突然よくわからないことをし出すことがあるので、いつもはされるがままにさせてやるのだが、何か今日は様子がおかしい気がして、首元の黒髪の頭部を両手で掴んで問いただす……

「………濃いメスの匂いがする……」

 そんなことを言われ、一瞬キョトンとしたのだが……ふと思いつくものがあって、数秒後にハッとした時には遅かった。

 自分がなんとも無防備な姿でシーツも掛けずに仰向けで寝かされていたことに、漸く気づいたのだ。

 いくら幼い頃から一緒にいた、兄弟(自分が兄)みたいな相手だからといって、異性として意識しないにも程がある。

 固定の紐も抜き去られたネグリジェから、胸元は胸の下まではだけられ、散々嬲られて勃ちあがったままの乳首は、薄い布を押し上げてその所在を明確にしている。
 そして、寝間着の裾は腿の半ばまで巻き上がっているため、はしたなくも膝から上まで素足が露わになっており、その奥の下着は………言いたくない状況だ。

「ちょちょちょっと、ファントム!?」

 全身から汗が吹き出してくるのを感じながら、私は焦って離れようと藻掻いたが、逆にガシッと体幹を固定され、露わになった胸元に鼻を寄せられたので、抜け出せない。
 しかも、鼻の先がチロチロと掠める距離で匂いを嗅がれるという羞恥プレイに、擽ったさも相まってブルブルと震えが来る。

「…特に変な匂いも味もしない。ちょっと汗ばんでてしょっぱいかもしれないが……何かの薬を使われた…ということもなさそうだな」

 シレッと無表情に言いながら、ペロペロと胸元を舐めるこの男……マジか!?

「ちょっとっ! 何してんのよ!? しょっぱいとか気持ち悪いんだけど!」

 私は目を剥いて声を上げるが、当の男は胸元から顔を上げて「ん?」と首を傾げるだけで取り合わない。

「何って、様子がおかしかったから確認をしているのだが。  
 何を慌てているんだ? そんなに声を上げると、外の護衛が入ってくるぞ?」

 シレッと言う言葉が憎たらしいが、確かにその通りでもあるので、私は声のトーンをかなり落とした。

「…あるに決まってるでしょう!? もう少し状況考えなさいよ!」

 しかし、ヒソヒソと抗議するのは、いまいち緊迫感が伝わっている気がしないが、この男相手では声のトーンは関係ない。

「状況って………薬を使われていたら、痕跡がある内に探さないと発見できないだろう?」

 確かにごもっとも…ごもっともなんですけれども、今は止めて! 
 せめて下着は履き替えさせて!

 心の中で絶叫し、私はブンブンと腕や頭を振って藻掻きながら抵抗しようとしたのだが、6歳も年上の男相手では容易く抑え込まれ………

 クンクンと犬のように鼻を鳴らしながら、徐々に頭部が下へ降りていき……腰から下のあたりでピタリと止まったのだが……

「ひゃんっ!」

 突然バサリとネグリジェの裾を腰まで巻き上げられ、私は驚きのあまり抵抗することもできなくなった。

「…………ふぅん……随分楽しかったようだな……」




 巻き上げられたネグリジェの下の方…しとどに濡れた下着のあたりに刺さるような視線を感じ、私は両手で顔を覆って足掻く様に腿をすり合わせた。
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