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修学旅行が生んだ結果

082 遅れた報告

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潤のバイト先、ル・ロマンは凜の自宅でもあるので、裏口は自宅の玄関になっている。
インターフォン越しに入って良いと言われたので中に入ると凜の母親が腕の中にボウルを抱えていた。

「あら花音ちゃん、いらっしゃい」
「あっ、おばさん。お邪魔します。今日も一緒に働いているんですね」
「そうなの、あの人ほんとお菓子作りが生きがいなひとだからねぇー」
「美味しいですもんね」
「ありがとう。そう言ってくれる人が多くいてくれるおかげで助かるわ。ほらっ、お父さん見た目があれだからせめて味だけでも良くないとね」
「……そんなことないですよ」

苦笑いしかできない。もう少し上手く返せれば良かったのだが。
凜の母親は女性の中でも背が小さい方に入る。短めの黒髪なのだが艶がある。そして何よりさすがは雪と凜の母だと認識させられるのはその整った容姿。少し童顔なのだが、雪も凜もオーナーである父親と比べて見ても明らかに母親の血を濃く受け継いでいるのは一目でわかる。むしろ父親の方を受け継がなくて良かったとすら思っていた。

「(まぁ二人とも楽しそうだし幸せそうだし)」

仲睦まじさに憧れを持ちつつ凜の母親と世間話をしていると二階から階段を下りる音がドタドタと聞こえてくる。

「花音ちゃん花音ちゃん!何してるのよ!早く来てよ!」
「わかってるわよ。ひ、引っ張ったら危ないから!」
「もう!こんなおもし――大事な話、早く聞きたいに決まってるじゃない!」

「凜、今面白いって言おうとしたでしょ」

そこにすぐ姿を現した凜が花音の腕を引っ張って二階に連れて行く。母親は次女のガサツな姿に溜め息が漏れつつ見送った。


そうして連れられたのは花音がこれまで何度か足を運んだことがある凜の部屋。女の子らしいといえば女の子らしいのはカーテンの柄や少しだけのぬいぐるみがあること。それ以外は白を基調とした家具の色味や配置などでどこか淡泊な様子も見せている部屋。

そんな凜の部屋を一目でいつもと違う状況があると理解する。それは部屋の真ん中で妙な存在感を発揮している。

真ん中にいるのはバイトを終えラフな格好の私服姿に着替えている潤で、見事なまでに正座をさせられていた。潤の目の前には白いローテーブルを挟んで真吾が胡坐をかいて座っている。

「えっ?潤どうしたの?」

「どうしたもこうしたもないよ花音ちゃん。寂しいじゃないか」
「んなこと言ったって、だってお前ら絶対茶化してただろ!?」

その言葉だけで階段を上がっている途中の凜の言葉と相まってある程度納得した。この場における状況を理解する。

「まぁそれに関しては否定しない。むしろ英断かもしれないな。だからこの程度で済ませてるだろ?」
「この程度っていうのもどうかと思うけどな。それに花音には正座なんてさせないからな」
「おいおい、早くも彼女を守るなんて彼氏の鑑だな」
「おまっ――」
「ってか当たり前だろ?花音ちゃんにそんなことさせられるわけないだろ?」
「っぅ!――そ、そうか」

改めて考えてみると、真吾は女子に対しては優しい。

「ただ」
「ただ?」
「ただその代わり、今から根掘り葉掘り聞かせてもらうから覚悟しろよな」
「!?」

「そういう、こ、と!」

真吾が口にすると同時に、花音は後ろから両肩をガっと掴まれた。首だけ振り返り後ろを見ると凜が意地悪く口角を上げて笑っている。思わず苦笑いしてしまう。その笑顔を見るともう嫌な予感しかしなかった。


真吾と凜は潤がバイトに入る前、事前にバイト終わりに時間が欲しいということを伝えてあった。もちろん花音と二人で付き合ったことを話すために。
だが真吾と凜はわけもわからずただ待たされていて、なんの用事かと思い待っていたのだが花音の到着が遅れている。いい加減に早くして欲しいと言われて引き延ばすことができなかったので、理由を簡潔に伝えようとしたのだが潤が間抜けなために「どうやって彼女のこと話したらいいんだ」と考えるように口にしてしまう。

誰とは言っていないのだが、それだけで察するには十分だった。花音が来るということも聞いている。そのため相手が今から来る花音だということは容易に想像が出来たので詳しい話は花音が来てから聞くことにして、潤は花音が来るまで正座をして待たされていた。というのが事の経緯だった。



「はぁ、ちゃんと順序立てて話をしたかったのに」
「しょうがないだろ、バレちまったもんは」
「全く。こんなんじゃ学校が不安になるわよ」

――――もう潤は正座地獄から解放されており、二人で真吾と凜に付き合うことになった出来事、兄の発言をきっかけとしたこととお互いの過去を簡潔に話して聞かせている。
もちろん学校では表立って言うつもりはない。瑠璃と別れて花音と付き合ったなどというのはとんでもない反感を買い、大きな妬み嫉みを抱かれるだろう。
わざわざ言わなくとも潤にも花音にも他に相手がいるということになっていたのでわざわざ言う必要もない。仮にバレたとすればその時は別に仕方ないとすることにしている。

「――ふぅん、じゃあ私はまんまと花音ちゃんに利用されたってわけね」
「ちょ、ちょっと凜!人聞きの悪いこと言わないでよ!偶然に決まってるじゃない!」
「もちろん嘘に決まってるじゃない。けどもう少し信用して欲しかったなぁ」

実際事実偶然の産物でしかない。花音としては凜の裏表ない性格は、潤のことがなくても友達として十分にやっていけると思っていた。
それでも凜からしたら寂しさを感じさせる一因になる。表情を落としてしまう。

「ちょ、ちょっとごめんってば。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない?ほ、ほら、こうして話したから凜のことちゃんと信用してるんだって!昨日まではもしバレたらそれこそ大変だからって!それに、これからのこともあるんだし、また色々協力して!お願い、ね?」

申し訳なさを滲ませながら手を合わせて声を掛けても反応は薄い。

「もう!わかったわよ!じゃあ凜のお願いで私ができることなにかするから!それじゃダメかな?」
「えっ?ほんとに!?やった!」
「――えっ!?」

凜はその提案を受けるや否やすぐに表情を綻ばせた。その顔を見て花音も早まってしまったのかと思う。様子を見ていた潤も嫌な予感がするのは、こういう時の凜は碌なことを思い付かない。

「じゃあ早速だけど、明日――――」
「明日?」

翌日もまた土曜で休みなのだ。学校外の休日に何があるのかと。

「明日、ダブルデートしようよ!」

「「えっ!?」」

突然の提案に花音どころかそれまで静観していた潤も思わず声を発してしまう。真吾は凜の提案を聞いて指をパチンと鳴らしていた。

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