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修学旅行が生んだ結果

065 別行動

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「よしっ、じゃあどこから行こうか。先生は一応行きたいところの予定は立てていたのだが、せっかくだからお前達が行きたいところでいいぞ」
「えっ?いいんですか?」
「おいおい、誰のための修学旅行だよ。先生達は仕事なんだぞ?」

なるほど、こういう寄り添うところが人気なのだろうと先程からのやりとりに加えて理解した。
潤は立花先生のことを授業以外ではほとんど知らないのだが響花は知っている。一年の時の担任だったそうだ。

「あっ、じゃあ先生」
「ん?どうした水前寺」
「あたし、商店街に行きたいです」
「商店街?商店街になんか行ってどうするんだ?せっかくの修学旅行だぞ。そんなところで良いのか?」

立花先生が不思議そうに疑問符を浮かべるのだが潤もまた同じ気持ちだった。確かに滞在しているホテルは古都で有名なところだ。しかし、他の班が話しているのを聞いている限りでは都会の有名アトラクション施設に行く班が多い。古都であっても神社寺院巡りをする班はそれほど多くないというのは流行りに敏感な高校生なのだから仕方ないだろう。
そんな中での商店街になど行ってなんになるんだと。疑問が浮かぶ。

「はい、さっきホテルの地域紹介チラシで見たのですが、色々と独創的な物が売っているみたいなので」
「ふーん、そんなところがあるんだな。それはちょっと興味あるな。よし、わかった。深沢はどうだ?」
「俺は別にどこでも大丈夫です。どこに行っても新しいものを見ることには変わりませんので」

潤の言葉を受けて立花先生は少し驚いた表情をして感心を示す表情に移り変わる。

「ほぅ、良いことを言うな。そうだな、その考え方は良いことだと先生は思うぞ。まぁどこまでも時間があるわけじゃないからな。じゃあさっそく行くか。 ああ、とは言ったが先生はあくまでも深沢と一緒に行動するだけだから…………そうだな、深沢と水前寺で相談しながら進んでいってくれ。二人だと大丈夫だろ?先生は後ろを付いて行くよ」

「わかりました。じゃあ……水前寺、その商店街はどこにあるんだ? (商店街か、どんな物が売っているかわからないけど、もしかしたら珍しい物があればプレゼントには丁度良いかもな)」
「……ここ」

立花先生の言葉を聞いて響花に声を掛けたのだが、明らかに響花はむすっとした顔をしてそのチラシを潤に見せる。
むすっとした理由は恐らくこのことを言っているのだろうという推測はできたのだが、今は仕方ないだろう。

そうして響花の持っていたチラシを見ながらバスと電車で移動する。その途中ですぐに先程の表情の理由の答え合わせをすることができた。

駅で電車を待っている間に立花先生は売店に行っている。

「潤君、さっきあたしのこと水前寺って呼んだ……」
「しょうがねぇだろ、立花先生は俺とお前が名前で呼び合ってるってこと知らねぇんだから。念のためだって」
「そんなの別に気にしなくていいじゃない!」
「いや、だって―――」

お前、どうせ一年の時友達いなかっただろ、と言いそうになったのだが、すぐに口を閉じた。勢いから思わず口にしそうになったのだが、もし響花が気にしていたら悪いと思ったと同時に、短い付き合いだけどこいつそういうところ全く気にしないんじゃね?とも思った。
どちらにせよわざわざ余計なことを口にする必要はない。

「だって何よ?」
「いや、なんでもない。まぁどっかで仲良くなったからって言っていつも通りにするから」
「むぅぅ、うん、まぁそれなら許す」

なに目線なんだよとは思う。しかし響花とのそんなやりとりに気持ちが和む。立花先生と二人きりだと悶々と色々考え込んでしまいかねない。

そうして電車で移動していると、ホテルを出てもう一時間程経っている。

駅を出て響花と二人並んで歩き始めるのだが、十月だというのに日中は暑さがそこそこで、動いていると汗もかいてくる。二人で並んで歩いているのは別に逃げるわけではないので立花先生は潤と響花を見失わない程度に後ろで離れて歩いていた。教師の介入をなるべくしないように配慮してくれていたのだ。

「あっちぃー」
「ほんとね。 あっ!あそこにシャーベット屋さんがあるわよ!」
「おっ、いいねぇ。俺メロンでも食べようかな」
「じゃああたしイチゴ!ごちそうさまでーす」
「はぁ!?何でお前の分まで俺が出すんだよ!」
「えー、いいじゃーん、それぐらーい。ケチだねー」

どう考えてもあつかましいだろ。だが響花がいなければ立花先生と二人でシャーベットを…………うん、そもそも食べないな。そんなシチュエーション想像したくもない。
つまり、どちらにせよ響花がいなければ今日の行動内容が変わることは間違いない。

「しょうがないな。バイトしてなけりゃこんな出費でもきついんだぞ。 じゃあメロンとイチゴ一つずつください」

「あいよ」

「ありがと。あっ、そういやバイトしてるって言ってたよね。どこでしてるの?」
「ん?ル・ロマンってケーキ屋知ってるか?」
「えっ!?ル・ロマン!?あたしあそこのケーキすっごい好きだよ!」
「なんだよ、結局女子はみんなあそこのケーキ好きなんだな」

そりゃ繁盛するなと感心した。響花でさえも知っているのだから。ただ凜の店だということはタイミング的に伝えきれなかったとは思うものの別にいいかと。
シャーベットの注文をしながらそんな話をしていると、凜のことを思い出したことでふと疑問が浮かんだ。潤の横で響花は一人でケーキの想像を膨らませていた。

カップに入ったシャーベットを受け取り店の前のベンチに腰を下ろしてスプーンで食べながら響花に浮かんだ疑問を投げかける。

「あのさ」
「う~ん!おいひい!えっ?なに?」

「いや、そういや根本的なことを思い出したんだけど、よくよく考えたら俺響花が花音たちと行動するために一人で罰則を受けるつもりだったんだけど?」

凜のことを思い出して花音のことも同時に考える。あれ?そういや響花の為にしたんじゃね?と。

「えっ?あっ?そうだったの?ごめん、全然気付かなくて。そんなことまで気を回してくれてたのね。あたしてっきりあたしをかばってくれただけだとばかりに。だからこうしたんだけど、もしかして迷惑だった?」
「いや、そういう側面もあったってだけで、響花がいいなら別にいいんだ。確かに響花をかばったってことが一番最初に来ていたし。それに迷惑かどうかってことだけど、俺は嬉しいかな?結局結果的には俺達二人ともこうして罰則を受けるような形になっちまったけど、一人だとたぶん面白くなかったと思うしさ、響花がいてくれたから嬉しいよ」

一人と言っても実質二人だ。だが教師と修学旅行で、言うなれば異国の地を巡って何が楽しいんだよ、と。楽しめる奴もいるかもしれないが俺はそうじゃない。
考え込むように思ったままを伝えていると、響花は横で微妙に顔を赤らめていた。

「ん?どうした?」
「いや、潤君ってもしかしたらすけこましなんじゃないかと思ってさ」
「俺が?いやいやいや、そんなわけないだろ!なんでそう思うんだよ!」
「んーん、やっぱなんでもない。そろそろいこっか」
「ん?あぁそうだな。先生も暇そうだしな」

丁度シャーベットを食べ終えるところなので立ち上がり響花はごみを捨てて先を歩いて行く。
潤はその響花の背中を不思議そうに見送った。

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