65 / 112
修学旅行が生んだ結果
065 別行動
しおりを挟む「よしっ、じゃあどこから行こうか。先生は一応行きたいところの予定は立てていたのだが、せっかくだからお前達が行きたいところでいいぞ」
「えっ?いいんですか?」
「おいおい、誰のための修学旅行だよ。先生達は仕事なんだぞ?」
なるほど、こういう寄り添うところが人気なのだろうと先程からのやりとりに加えて理解した。
潤は立花先生のことを授業以外ではほとんど知らないのだが響花は知っている。一年の時の担任だったそうだ。
「あっ、じゃあ先生」
「ん?どうした水前寺」
「あたし、商店街に行きたいです」
「商店街?商店街になんか行ってどうするんだ?せっかくの修学旅行だぞ。そんなところで良いのか?」
立花先生が不思議そうに疑問符を浮かべるのだが潤もまた同じ気持ちだった。確かに滞在しているホテルは古都で有名なところだ。しかし、他の班が話しているのを聞いている限りでは都会の有名アトラクション施設に行く班が多い。古都であっても神社寺院巡りをする班はそれほど多くないというのは流行りに敏感な高校生なのだから仕方ないだろう。
そんな中での商店街になど行ってなんになるんだと。疑問が浮かぶ。
「はい、さっきホテルの地域紹介チラシで見たのですが、色々と独創的な物が売っているみたいなので」
「ふーん、そんなところがあるんだな。それはちょっと興味あるな。よし、わかった。深沢はどうだ?」
「俺は別にどこでも大丈夫です。どこに行っても新しいものを見ることには変わりませんので」
潤の言葉を受けて立花先生は少し驚いた表情をして感心を示す表情に移り変わる。
「ほぅ、良いことを言うな。そうだな、その考え方は良いことだと先生は思うぞ。まぁどこまでも時間があるわけじゃないからな。じゃあさっそく行くか。 ああ、とは言ったが先生はあくまでも深沢と一緒に行動するだけだから…………そうだな、深沢と水前寺で相談しながら進んでいってくれ。二人だと大丈夫だろ?先生は後ろを付いて行くよ」
「わかりました。じゃあ……水前寺、その商店街はどこにあるんだ? (商店街か、どんな物が売っているかわからないけど、もしかしたら珍しい物があればプレゼントには丁度良いかもな)」
「……ここ」
立花先生の言葉を聞いて響花に声を掛けたのだが、明らかに響花はむすっとした顔をしてそのチラシを潤に見せる。
むすっとした理由は恐らくこのことを言っているのだろうという推測はできたのだが、今は仕方ないだろう。
そうして響花の持っていたチラシを見ながらバスと電車で移動する。その途中ですぐに先程の表情の理由の答え合わせをすることができた。
駅で電車を待っている間に立花先生は売店に行っている。
「潤君、さっきあたしのこと水前寺って呼んだ……」
「しょうがねぇだろ、立花先生は俺とお前が名前で呼び合ってるってこと知らねぇんだから。念のためだって」
「そんなの別に気にしなくていいじゃない!」
「いや、だって―――」
お前、どうせ一年の時友達いなかっただろ、と言いそうになったのだが、すぐに口を閉じた。勢いから思わず口にしそうになったのだが、もし響花が気にしていたら悪いと思ったと同時に、短い付き合いだけどこいつそういうところ全く気にしないんじゃね?とも思った。
どちらにせよわざわざ余計なことを口にする必要はない。
「だって何よ?」
「いや、なんでもない。まぁどっかで仲良くなったからって言っていつも通りにするから」
「むぅぅ、うん、まぁそれなら許す」
なに目線なんだよとは思う。しかし響花とのそんなやりとりに気持ちが和む。立花先生と二人きりだと悶々と色々考え込んでしまいかねない。
そうして電車で移動していると、ホテルを出てもう一時間程経っている。
駅を出て響花と二人並んで歩き始めるのだが、十月だというのに日中は暑さがそこそこで、動いていると汗もかいてくる。二人で並んで歩いているのは別に逃げるわけではないので立花先生は潤と響花を見失わない程度に後ろで離れて歩いていた。教師の介入をなるべくしないように配慮してくれていたのだ。
「あっちぃー」
「ほんとね。 あっ!あそこにシャーベット屋さんがあるわよ!」
「おっ、いいねぇ。俺メロンでも食べようかな」
「じゃああたしイチゴ!ごちそうさまでーす」
「はぁ!?何でお前の分まで俺が出すんだよ!」
「えー、いいじゃーん、それぐらーい。ケチだねー」
どう考えてもあつかましいだろ。だが響花がいなければ立花先生と二人でシャーベットを…………うん、そもそも食べないな。そんなシチュエーション想像したくもない。
つまり、どちらにせよ響花がいなければ今日の行動内容が変わることは間違いない。
「しょうがないな。バイトしてなけりゃこんな出費でもきついんだぞ。 じゃあメロンとイチゴ一つずつください」
「あいよ」
「ありがと。あっ、そういやバイトしてるって言ってたよね。どこでしてるの?」
「ん?ル・ロマンってケーキ屋知ってるか?」
「えっ!?ル・ロマン!?あたしあそこのケーキすっごい好きだよ!」
「なんだよ、結局女子はみんなあそこのケーキ好きなんだな」
そりゃ繁盛するなと感心した。響花でさえも知っているのだから。ただ凜の店だということはタイミング的に伝えきれなかったとは思うものの別にいいかと。
シャーベットの注文をしながらそんな話をしていると、凜のことを思い出したことでふと疑問が浮かんだ。潤の横で響花は一人でケーキの想像を膨らませていた。
カップに入ったシャーベットを受け取り店の前のベンチに腰を下ろしてスプーンで食べながら響花に浮かんだ疑問を投げかける。
「あのさ」
「う~ん!おいひい!えっ?なに?」
「いや、そういや根本的なことを思い出したんだけど、よくよく考えたら俺響花が花音たちと行動するために一人で罰則を受けるつもりだったんだけど?」
凜のことを思い出して花音のことも同時に考える。あれ?そういや響花の為にしたんじゃね?と。
「えっ?あっ?そうだったの?ごめん、全然気付かなくて。そんなことまで気を回してくれてたのね。あたしてっきりあたしをかばってくれただけだとばかりに。だからこうしたんだけど、もしかして迷惑だった?」
「いや、そういう側面もあったってだけで、響花がいいなら別にいいんだ。確かに響花をかばったってことが一番最初に来ていたし。それに迷惑かどうかってことだけど、俺は嬉しいかな?結局結果的には俺達二人ともこうして罰則を受けるような形になっちまったけど、一人だとたぶん面白くなかったと思うしさ、響花がいてくれたから嬉しいよ」
一人と言っても実質二人だ。だが教師と修学旅行で、言うなれば異国の地を巡って何が楽しいんだよ、と。楽しめる奴もいるかもしれないが俺はそうじゃない。
考え込むように思ったままを伝えていると、響花は横で微妙に顔を赤らめていた。
「ん?どうした?」
「いや、潤君ってもしかしたらすけこましなんじゃないかと思ってさ」
「俺が?いやいやいや、そんなわけないだろ!なんでそう思うんだよ!」
「んーん、やっぱなんでもない。そろそろいこっか」
「ん?あぁそうだな。先生も暇そうだしな」
丁度シャーベットを食べ終えるところなので立ち上がり響花はごみを捨てて先を歩いて行く。
潤はその響花の背中を不思議そうに見送った。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
【完結】可愛くない、私ですので。
たまこ
恋愛
華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
アクセサリー
真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。
そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。
実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。
もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。
こんな男に振り回されたくない。
別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。
小説家になろうにも投稿してあります。
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる