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想像以上の夏
039 夏休みのひと時(後編)
しおりを挟む「なんでそんなに簡単に取れるのよ!」
「ふん、年季が違うのだよ年季が」
「年季も何も一年しか違わないじゃないの!」
潤の手には大きなビニール袋、ゲームセンターで景品を手にした時に入れる専用の袋がありその中には50センチほどのトラのぬいぐるみが入っていた。
腕組みして余裕の表情の潤に対して杏奈は目の前の機械を睨んでいる。杏奈の手には景品は何も持たれていない。
UFOキャッチャーの中、目の前には目玉の大きい宇宙人のぬいぐるみが入っている。
「これ、壊れているんじゃないの?」
「おいおい、とんでもない言いがかりだな。俺が取ったの目の前で見ていただろ」
「むぅー」
なんてことを言い出すんだと思いながらため息を吐く。
こいつ取るまで諦めないよなと思っているところで、近くを通りかかった女性の店員にそっと声を掛けると店員は杏奈の背中を見て「大丈夫ですよ」と潤に小さく耳打ちして返した。
「すいません、苦戦しているようなのでちょっと取り易くしますね」
「えっ?」
杏奈は突然店員に声を掛けられると、びっくりすると同時に一歩だけ店員が間に入れるように後ろへ下がった。
店員はUFOキャッチャーを開け、ぬいぐるみの位置の微調整を行う。そして杏奈に向かって「この辺をアームで押したらもしかするかもしれないですよ?」とだけ言った。
「えっ、はい、ありがとうございます。 よーし、あそこだなー。次こそは!」
「がんばれがんばれ」
店員のアドバイスを聞いた杏奈は張り切り、女性の店員は潤の横に立って杏奈の遊戯を一緒に見ている。
店員のアドバイスの通りにアーム操作をした杏奈は真剣な目つきをしており、グッとぬいぐるみをアームが押した後にぽとりと落ちた。
「やったぁー!」
無邪気に取り出し口に手を入れてぬいぐるみを取り出している杏奈を見て店員は潤に小さく話し掛けた。
「可愛い彼女さんですね。それに優しい彼氏さんがいて羨ましいです。では引き続きお楽しみください」
「ありがとうございます(うーん、妹なんだけど別に意地になって否定しても仕方ないしな)」
軽く会釈をして店員は店内の見回りに戻る。彼女と勘違いするのは男女でゲームセンターを楽しんでいる様子からだろう。
別に否定したところで結果は変わらない。
「見てみて!これ!可愛いでしょ!!」
「良かったな」
杏奈がこうして無邪気に喜んでいるのだからそれで良かった。
「それにしても優しい店員さんもいるもんなんだねー」
「そうだな、だいたいこういうとこでは苦戦していると助けてくれることもあるな」
「ふーん」
潤の経験上、前に真吾と凜で遊びに来ていた時に真吾が店員にねだっていたのを思い出していた。
そのまま杏奈の手に持つぬいぐるみに視線を向ける。
「けど、ほんとうにそれが欲しかったんだな?」
「えっ?これ?何言ってんの!めちゃくちゃ可愛いんだから!今すっごい人気なんだよ!」
「マジか……。俗にいうブサかわというやつか……」
宇宙人なのはわかるが、目玉が大きくて明らかにブサイクだ。一般的な国民的キャラクターとはかけ離れたビジュアルのそれを呆れ混じりに見ている。
「それ、瑠璃ちゃんや……花音も好きなのか?」
「えー?瑠璃ちゃんはあんまりだったけど、花音先輩は知らないなー」
「そうか」
こっそり花音の好みをリサーチしようとしてみたものの、杏奈相手とはいえあまり聞きすぎるとどう思われるかもわからないので控えめに聞いたのだが結局それも無駄だった。
「あー、花音先輩で思い出したけど、今度買い物に付いて来て欲しいって言われてるんだよね」
「ん?買い物?花音から?」
ゲームセンター内で次の遊戯台を見繕いながら杏奈は思い出したように話す。
「うん、なんか今度遠くで一人暮らししているお兄さんが帰って来るから男物のプレゼントを選ぶのに付いて来て欲しいって」
「お兄さんか(そういや中学の時に歳の離れた兄がいるとかなんとか言ってたっけ)」
「まぁとは言っても私はお兄ちゃんしか知らないからあんまり参考にならないって言ったんだけどそれでもいいって」
「そうだな、俺の好みとそのお兄さんの好みが似ていればお前が付いて行っても問題はないだろうがな」
淡々と会話をするのだが、花音が兄にプレゼントか。どんな物を選ぶのだろうかと考える。
「あっ、ちなみに今回は水着の時のようにお兄ちゃんは連れて来ないようにって言われたよ?だから付いて来ないでね!」
「行かねぇよ!そもそもあの時も別に付いていったわけじゃねぇだろ!」
「えっ?そうだっけ?まぁ細かい事は気にしない気にしない」
同時に、思い出す様に告げられる内容、そもそも水着を選ぶ時は偶発的に遭遇したのだが、内容的には今回は付いて来るように要求するのが普通じゃないのかという疑問が残った。
結局「(まぁ女の子同士の買い物だしな)」という結論に至った。
「そういやお兄ちゃんもうすぐ誕生日だよね?何か欲しい?参考に聞かせてよ」
「んー、俺は別に何も……いや、今度出る新作のゲームかラノベの新刊が欲しい!」
「うん、やっぱり参考にならないからいいや」
「おいおい、俺は至って真面目に答えているぞ」
「はいはい、そんな調子だと彼女出来た時に困るよ?主に――」
「――それは言うな!」
杏奈の発言の内容を先読みして即座に制止する。そしてまだ見ぬ彼女のことを想像するのだが、彼女がプレゼントをくれるとするとならどういうものを選んでくれるだろうかと想像してみるのだが、ぼんやりとしか想像できない。
「まぁ兄妹間なら服とか靴とか普段の生活に使えるものでいいんじゃないか?恋人ならアクセサリーとかになるんだろうけど。あとはその人の職業や趣味の範囲で使えそうな物とかだろうな」
「ふつうすぎー。もうちょっとひねりはないの?こう手作りの小物とかさ」
「普通のどこが悪いんだよ!じゃあ何か?ふつうじゃないお前は俺の誕生日に手作りの心のこもった何かを贈ってくれるっていうんだな?よし、わかった。楽しみに待ってるよ」
「すいません、私が悪かったです。普通が一番!」
潤の誕生日を翌週に控える中、花音の兄に対する贈り物と潤への誕生日プレゼントを比較して話しているのだが、何を返しても杏奈は納得しない。
最終的に手作りの話で杏奈は身震いをして素直に謝罪した。
「じゃあどうしようかなー。まぁお兄さんの雰囲気を聞いて帽子とかそういうのでいいかな」
「俺ならそれでも十分嬉しいけどな。まぁけどゲームやラノベの方がもっと嬉しいぞ!」
「わかったわかった、ゲームかラノベね。はいはい」
杏奈の投げやりな返事を聞きながら、「(花音に俺の誕生日がもうすぐだって杏奈がそれとなく教えてくれないかな)」と他力本願全開で杏奈を見たら杏奈は何故見られているのかわからずに首を傾げていた。
その後はまるでカップルかの如くカーレースゲームで競い合ったり太鼓のゲームで遊んだりして結局潤も十分にゲーセンを満喫したのだった。
「――おい、今思ったけど、結局大半俺の金で遊んでるじゃないか」
「別にいいじゃない、バイトでお金入ってくるでしょ?私はお小遣いだけなんだから」
「それならお前もバイトすればいいだろ?なんなら紹介するぞ」
「んー、考えとく。だから今日のことろはゴチになります!」
「お前この上飯までせびるのか」
ゲーセンに着くまではおごるつもりはなかったのだが、なんやかんやうやむやにお金を使わされてしまっていた。
それについて言及するとあざとくさも当然のように飯まで要求して来た。
「大丈夫大丈夫、お母さんには私から食べて帰るって連絡しておくから!」
「そういう問題じゃないんだけどな。 はぁ……ったく仕方ねぇな」
「わぁーい、お兄ちゃん大好きー!」
「お前ほんと現金だよな」
わざとらしい可愛らしさを見せるのはこういう時の杏奈の癖なのは良く知っている。昔からこの手のわがままをよく聞いて来た。
「じゃあゲーセンで金使い過ぎたからラーメンな」
「うん、十分!」
結局兄妹仲良くラーメンを食べて帰ったのだった。
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