上 下
2 / 112
後悔

002 終業式の後に

しおりを挟む

「お前ら高校入って初めての冬休みだからってあんまり羽目を外し過ぎるなよ?」

体育館で終業式を終えた潤たち学生は教室で担任の教師から冬休みの課題や注意事項の説明をされるのだが、生徒たちは話が早く終わらないかとそわそわしてほとんど聞いてはいない。

「ったく、これでこいつら意外にきちんとしていやがるからな」

担任のそんなボヤキがありながら手短に済まされ担任が教室から出ると学生達は解放されたようにそれぞれが口々に話しだし、一気に教室内が賑やかになる。そこかしこでどこどこに遊びに行こうや彼氏彼女とうんたらかんたらと話している。


そんな中、帰る準備をしていると少し離れた席に座っていた真吾が声を掛けて来た。

「なぁ潤?」
「どうした?」
「いや、さっき凜から連絡が来てこのあと駅前のカラオケに行かねぇかってさ」

真吾はカラオケに行かないかと提案して来たのだが、潤は少し思案気に悩む様子を見せて口を開いた。

「んー?カラオケかぁ。ってかそれ凜と2人で行ってきたらいいじゃねぇか。お前ら付き合ってるんだし、俺がいても仕方ないだろ?」
「別にお前がいても俺らが気を遣わないの知ってるだろ?それに今日は凜が友達を連れて来るから俺だけだとバランスが取れないじゃんかよ。凜も潤を誘って来いって言ってるしさ」
「はぁ?ったくどうしてそんな話になってるんだよ」

潤はカラオケに行くのを少しばかり渋るのだが、真吾は潤の返答を受けるとあからさまに不満を露わにする。さらに真吾の彼女の凜が友達を連れて来るのだと言うことで潤は尚更一緒に行くことに少しばかり嫌気が差した。どうして知らない女と一緒にカラオケに行かなければいけないのかと少しばかり呆れる。

「おいおい、なんて顔してやがんだ?だいたいお前そこそこモテるんだから彼女ぐらいいい加減作ればいいじゃねぇかよ」
「彼女なー。別に今はいいかなー」
「お前いつ聞いてもそう言うよな?まぁ無理に付き合ってもどうせ上手くいかねぇしな」
「そうそう。だから今回俺は行かないってことで」

真吾が潤のことをモテると評しているのに潤は彼女を必要としている様子を見せない。真吾が無理に付き合っても仕方ないと言うと、潤が話は終わったとばかりに立ち上がり帰ろうとする。

「おいおい、本当に良いのか?それに来たら潤もきっと喜ぶと思うぜ?」
「ん?どういうことだ?」
「それは後のお楽しみってことで」
「ったく、いやらしい誘い方するよな。わかったよ、行くよ。行けばいいんだろ」
「よし、じゃあ決まりだな!」

真吾が少しばかりニヤついているのが気になったのでどういうことか聞き返すがそれ以上は言わなかった。気になるなら来いと言わんばかりの様子を見せる。
実際どういう意図なのか気になったは気になったのでまぁ別にいいかと思いながらカラオケの誘いを仕方なく承諾する。

「駅前のカラオケだな?ちょっと先生に用事あるし俺はチャリだから後で追いかけるよ。先に行っててくれ」
「ん、わかった。ちゃんと来いよな?」
「あのな、約束したことは守るぞ俺は」
「ははっ、知ってる」
「ったく」

潤は用事があるので自転車だということもあって後から行くと言う。真吾は潤に念押しして笑いながら教室を出て行った。

「彼女かぁ……。そういやあれからもうすぐ一年になるのか…………」

教室の外、窓から天気の良い寒空を眺めながら回想するように物思いに耽る。

「さて、と。過ぎたことを考えても仕方ねぇ。さっさと用事を済ませて行かねぇと遅れちまったら真吾と凜に何を言われるかわかんねぇしな」

教師への用事を素早く済ませて足早に駐輪場で自転車に乗り、十分程度で駅前のカラオケ店に着いたのだが真吾達の姿がなかった。スマホを取り出し真吾に連絡をするとすぐに返信が来た。

確認すると『もう中に入ってるぞ。部屋は21番な!』とだけだったので、待っていないのかよと溜め息を吐く。まぁ遅れたのは俺かと思いながらカラオケ店に入って21番の部屋を探して、ガチャッと扉を開けた。


「えっ!?」

中に入ると思わず驚きの声を上げてしまう。

部屋の中では、ドアに一番近いところで丁度真吾が気持ちよく歌っていたのだが、その横でソファーに腰掛けていたのは凜だったのはもちろんのこと、さらに凜の隣で一緒に曲を選んでいたのは隣のクラスの浜崎花音だった。

思わずドアを開けたままぼーっと立ちすくんでしまう。

すると歌っている曲の途中の真吾が歌うのをやめ、「おいおい、いつまでそんなとこでぼーっとしてんだよ。俺の歌声を他に聴かせたいのはわかるがよ」と潤の腕を掴み部屋の中に引っ張り入れた。

潤は勢いでとりあえず部屋の中に入るが真吾に引っ張られた腕を今度はこちらから引っ張り返して耳元で小さく話し掛ける。

「ちょっと待て!どうしてあの子が、浜崎花音がいるんだ!?」
「ん?だから言ったろ?潤も喜ぶって」
「おまっ!?それであんなニヤニヤしていたんだな?」
「まぁいいから潤も座れって。凜も花音ちゃんもびっくりしてるじゃねぇか」

真吾から視線を外して凛と浜崎花音に視線を送ると2人共こちらを見ていた。どうやら部屋の入り口で2人して話し込んでいるのが凜は気になったようなのだが、浜崎花音と目が合うと視線を外されてしまったのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】可愛くない、私ですので。

たまこ
恋愛
 華やかな装いを苦手としているアニエスは、周りから陰口を叩かれようと着飾ることはしなかった。地味なアニエスを疎ましく思っている様子の婚約者リシャールの隣には、アニエスではない別の女性が立つようになっていて……。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

アクセサリー

真麻一花
恋愛
キスは挨拶、セックスは遊び……。 そんな男の行動一つに、泣いて浮かれて、バカみたい。 実咲は付き合っている彼の浮気を見てしまった。 もう別れるしかない、そう覚悟を決めるが、雅貴を好きな気持ちが実咲の決心を揺るがせる。 こんな男に振り回されたくない。 別れを切り出した実咲に、雅貴の返した反応は、意外な物だった。 小説家になろうにも投稿してあります。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

処理中です...