683 / 724
神の名を冠する国
第六百八十二話 合流
しおりを挟む「じゃあギガゴン、あたしはお兄ちゃんたちと合流するね」
水の塔最上階である清浄の間のその更に奥へと向かう事になっている。いくら人語を話すとはいえ、巨大な翼竜であるギガゴンを同行させることはできない。
「待て。ワレも一緒に行こウ」
「一緒にってどうやって?」
「無論、このようにしテ」
大きく光を放つギガゴンの身体。その光が収まると同時に、崩壊した壁際に立っているのは頭部に二本の角を生やしている男。
「……あなた、人型になれたの?」
一同が驚愕する中でのミモザの問い。
「他の仲間はなれないようだがナ」
竜種の中でも稀に見られる、魔力を凝縮させて容貌を変化させる特異な存在。
「…………ベラル様はご存知でしたか?」
「い、いぃえぇ。これはさすがに驚きましたわぁ」
「ですよね」
間違いなく現風の聖女であるイリーナ・デル・デオドールでさえも知り得ないだろうと。
「ワレも巣を破壊され、行き場を無くしておるのダ。しばらく一緒にいさせてもらおウ」
「やたっ! いいよね、お兄ちゃん!」
「う、うん。僕は別にいいけど」
「きーまり」
満面の笑みを見せるニーナ。
そうしてニーナとギガゴンに加え、土の聖女ベラルを伴い水の塔を抜けて四つの塔に囲まれるようにして立つ、光の塔へと向かっていった。
◆
「これ以上の深入りは危険ですわね」
エレナ自身ミリア神殿のどの辺りを歩いているのかよくわからない。光の聖騎士であるリンガード・ハートフィリアの後を追っていたのだが、どうにも目的地があるように進んでいるとは思えなかった。
「やはりここは一度引き返した方が」
「あら? ここまで来てどこに行かれるのですか? エレナ王女」
「!?」
不意に聞こえる声に振り返ると、そこには左右に異なる目を持つ女性、光の聖女であるアスラ・リリー・ライラックの姿があった。
「どうしてあなたがここに!?」
「それはこちらのセリフですよ、エレナ王女。ここで何をされているのですか? 大人しくして頂きませんと」
「っ!」
素早く後方に飛び退く。
「少し、大人しくしてもらいませんと」
背後から聞こえる声。振り返るよりも先に手を後ろ手に組まされた。
「は、放しなさい!」
エレナを捕らえたのは、先程まで追っていた光の第一聖騎士リンガード・ハートフィリア。
「できかねますな。あなたは我ら聖騎士の内の一人を手にかけておりますので」
「なっ!?」
その言葉だけで理解する。嵌められたのだと。
(誰かと接している様子は見られませんでしたわ)
エレナが後を尾けるよりも前にリンガードに第四聖騎士を倒して部屋を抜け出したという報告が入ってあったのだとすれば話は別なのだが、ここまで真っ直ぐに降りて来ており、後を尾け始めた頃の時間を考えてもその可能性は低い。だとすれば初めからそれらが想定されていたのだと。
「どういうつもりですか?」
「あら。そんなに怒らなくともよろしいですのに。エレナ王女が探している人に会わせてあげようと思っていまして」
「……探している人?」
そう言われてもピンとこない。誰かを探しているよりも、何が起きているのかを探っていた。
「ええ。しかしその前に。もう間もなくここに来られる方達を迎え入れませんと」
一体誰のことなのかと考えたのだが、答えが出るよりも先に良く知る声が耳に飛び込んでくる。
「エレナっ!」
「ヨハンさん!?」
近くにある階段を、ヨハンを先頭にして何人も見知った顔が駆け下りて来ていた。
「ようやく来られましたか」
「アスラ様っ! これはどういうことですか!?」
大きく声を上げる水の聖女クリスティーナ・フォン・ブラウン。
目の前ではアスラの聖騎士がエレナを捕らえている。
「何も不思議なことはありませんよ。大人しくしているように通達しているエレナ王女が部屋を抜け出してこんなところにいたので」
その言葉自体には確かに齟齬はない。しかし抱く疑問は他にあった。
「……アスラ様の部隊は街の鎮静化に向かっていないのですか?」
クリスティーナの問いに首を傾げるアスラ。
「あなたの言いたいことはよくわかっていますよクリスティーナ。ですが心配ありません。ほどなくして街は落ち着きを取り戻すでしょう」
「それは、どういう?」
「ここで話していても仕方ありません。全てを確認しにいきましょうか。もちろん他の皆さんもご一緒に。リンガード」
「はっ!」
アスラの指示でエレナを開放するリンガード。そのエレナをヨハンが抱きとめる。
「大丈夫、エレナ?」
「え、ええ。それよりヨハンさん。何が起きていますの?」
「僕にも詳しい事はわからないけど、モニカが捕まったみたいなんだ」
「モニカがっ!? それは本当なのですのヨハンさん!?」
「……うん。まだ正確には確認できていないけど、たぶん本当だと思う」
「どう、して……」
悲壮感を漂わせる表情を浮かべるエレナ。モニカが捕らえられるとすれば思い当たることはただ一つ。
「まさか!?」
声を上げるエレナに、ヨハンが小さく頷いた。
「それに、あの追想の時の魔族、魔族の将軍だったクリオリス・バースモールがいたんだ。色々あって倒してはきたけど」
「なにが、どうなっていますの」
極度の混乱を来すエレナ。まるで理解が追い付かない。
「さぁ。参りましょうか、皆さん」
そのエレナの表情を捉え、聖騎士リンガードと並び立つ光の聖女アスラ。
エレナの動揺を意にも介さず招き入れるようにして聖騎士を伴い歩き始める。
「どうするのお兄ちゃん?」
「罠かもしれないわねヨハンくん」
ニーナとミモザに小さく問い掛けられるのだが、選択肢は一つしかない。
「もちろんモニカを助けにいくよ。ごめんエレナ、ここまでの詳しい話は歩きながら教えるから」
「……わかりましたわ」
エレナと合流を果たし、そのままアスラに連れられてミリア神殿の最奥へと向かっていった。
0
お気に入りに追加
479
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる