680 / 724
神の名を冠する国
第六百七十九話 空中戦
しおりを挟む神都パルストーンでは激しい戦闘。獣人と神兵に魔物といった混乱した戦いが繰り広げている中、その空ではまた別の戦いが繰り広げられていた。
「な、なんだアレは?」
先頭を切って突入していた赤狼族も混乱している。翼竜に跨っているのが聖騎士の鎧を着た男と、七族会と契約を交わした竜人族の少女。
高度を下げた時に僅かに目にしたことからしても間違いはない。
(いったいどうなっているというのだ?)
ただ、わからないのは聖騎士の目に見える異形を伴う異常さ。見間違いでなければ風の紋様が彫られていた。見えなかったとしても翼竜に跨っていることからしても風の部隊に違いはないのだが、どうして竜人族の少女と敵対しているのか。
「族長! 今は指示を出してくださいッ!」
「あ、ああ。そうだな。全軍、ニンゲンどもが混乱している今が勝機だ! 一気に圧し進めッ!」
しかし悠長に戦いの行方を眺めているわけにもいかない。チラリと視界に捉えながらも街への侵攻を再開する。
◆
「そろそろ我等も向かおうぞ」
「ハッ!」
最後方に控えてパルストーンの様子を見ていた獅子王族。状況を見るに、全軍で踏み込んで一気に攻勢に出るべきだと判断した。
「ぐあっ!」
「ごふぅ」
攻め入ろうとした直後、後方の兵達が次々と吹き飛ばされる。聞こえてくる叫び声。
「何事だ!?」
「わ、わかりません! 突然背後から人間が姿を見せました!」
「なに!?」
周辺は伏兵がいないかと、虱潰しに調査をしていたはず。
「ダメです! 手に負えません!」
「相手はどれぐらいいる?」
最後方は獅子王族の戦士が多数控えていたのだが、まるで相手になっていない。
「二人――いえ、戦っているのは一人です!」
「む、むぅ……」
矛を手にする獅子王族の族長であるバンス・キングスリーが前に出る。
たった一人を相手にして踏み込まれていた。
「おっ、ここがリーダーか」
「ここまで来るとはお前は何者だ? ここへ何しに来た?」
矛先を目の前に姿を見せた軽装の黒剣の男に向け、臨戦態勢になる。
「なにしにって、なんていやぁいいのかな? ただの冒険者なんだけどな」
「もう。ここは正直に話し合いに来たって言えばいいだけよ」
男の後ろから姿を見せる金色の髪の女性。バンスが見たところ魔導士。
「おいおいエリザ。話し合おうとしたけど襲って来たのはこいつ等の方だろ?」
「そうだけど」
「どこの誰だかわからぬが、仲間の仇、覚悟しろッ!」
勢い良く突き出されるバンス・キングスリーの矛。戦闘力でいえば単体で獣人の最高峰。
(殺ったッ!)
踏み込んで来たのに呑気に話しているからだと思いながら胴体を一突きにしようと突き出す。
「あん? んだよ。テメェもやるってのか?」
「なっ!?」
確実に一突きにしたはず。それだというのに黒剣を矛の間に滑り込まされていた。どれだけの反射神経をしているのか。
「ぐっ……」
「勘違いすんなよ? さっき仇つったけど誰も殺してねぇっての」
「む? 殺していないだと?」
男の言葉の通り、顔を振りながら立ち上がる何人かの獅子王族の戦士たち。
「加減をしていた、ということか?」
歴戦の戦士である獅子王族を相手にして殺さずに気絶させることなど尋常ではない力量差。
「まぁな。俺としては殺る気で来た相手に情けなんかいらねぇと思うんだけどよ」
「それだとまた不要な争いを生むだけでしょ? いい加減学んでよ」
「わかってるっての。だからこうして手加減してやってんだろ」
まるで緊張感のない会話。しかしはっきりとしていることがある。
(たった二人でも、やろうと思えばいつでもやれるということか)
それだけの強者。ならば話し合いに来たということも嘘ではないだろう、と。
そのままバンス・キングスリーは矛を下げる。
「お?」
「わかった。話を聞こう」
「にしし、あんがとよ」
そうしてパルストーンへと踏み込もうとしていたところ、突然姿を見せた人間――アトムとエリザと話をすることになった。
◆
障害物のない空を大きく飛行する二頭の翼竜。しかしそれはこれまで日常的に見られていた光景とは大きく異なっている。
「ぐっ……」
漆黒の翼竜に跨るカイザスは後方からの圧力に耐えていた。
「ギガゴン! 次はあっちあっち!」
「わかっておル」
速度はギガゴンの方が勝っているのだが俊敏性はカイザスの翼竜ボルテックスの方が上回っている。
「舐めるなッ!」
上方に旋回しながらギガゴンの後方に回るカイザスは、ボルテックスの骨から生み出した魔剣を大きく振るった。生み出されるのは風の刃。
「はあッ!」
手甲煉獄に魔力を込め、ギガゴンへと迫る風の刃を炎の拳圧によって相殺する。
「無用な心配ダ。あの程度でワレの皮膚には傷もつけられまイ」
「けど痛いのは痛いでしょ?」
「……むぅ」
「そんなことより、どうやって倒そうかアイツ?」
戦局は平行線。
「ワレの一撃であれば容易く葬れるのだが、お主が控えろというのではナ」
「だって、街をこれ以上壊したらだめだよ」
ギガゴンの魔力弾の破壊力であれば眼下にいる多くの人達を巻き込んでしまう。
「ならばどうする?」
「うーん、ちょっと待って。ん?」
何か良い方法がないかと考えるのだが、ふと視界に入るのは眼下。
(これってカレンさんとサナさん? すっごい魔力量)
よく知る魔力を感じ取る。
「ねぇギガゴン」
「なんダ?」
「ギガゴンのこと、信じてるね」
何を言い出したのかわからないのだが、不意に角を握られるギガゴンは顔を上に向けた。
「そのまま真っ直ぐに飛んで!」
意図がわからないニーナの言葉にただ従うギガゴン。
「何をする気ダ?」
突然高度を真上に上げ始めた様子を訝し気に見るカイザス。
0
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる