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神の名を冠する国

第六百四十五話 元爆撃

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「シグラムからの客人、御覚悟はよろしいかな?」

槍を構える第三聖騎士ガウ・バードリー。

「出来ていない、と言えば待ってもらえるのかな?」
「まさか」

対するアリエルは無手。変わらず皮の手袋をしているのみ。元来の戦闘スタイルでは装具を必要としていない。煉獄が特別だっただけであり、愛武具であったそれもとっくにニーナへと譲っている。

「ネオン!」
「任せてっ!」

開戦一番、杖を構える第二聖騎士ネオン・ローレライの周囲に浮かび上がるいくつもの火の玉。

「これほどの武人を相手に、いくらなんでも我等も油断はせん」

炎弾がアリエルへと到達する頃を見計らって踏み込んでいるガウ。
いくつもの炎弾がアリエルへと着弾し、爆炎を巻きあげた。

「貴殿の実力を正確に測ればこそ。侮りはしない!」

槍に炎を纏うガウは、続けざまにズバッとアリエルが居る場所目掛けて槍を一突きした。

「!?」

間違いなく炎弾は着弾しているはず。それだというのに槍に一切の手応えがない。
それどころか――――。

「――ふむ。今の突き、中々のものだ」

パシッと片手で炎の槍を受け止めている。

「それにそちらの聖騎士、貴様の魔法もそれなりの威力だったぞ。しかし私も甘く見られたものだ。この程度で殺れると思われるのだからな」
「……化け物め」

炎の槍を手で掴んでいるにも関わらず表情一つ変えないアリエルにガウは驚愕を示す。

「何を言っている。私などまだまだ未熟者だ。本当の化け物を知ればこそ、な」
「ぬぉっ!?」

掴んだ槍をそのまま大きく振り回すアリエル。

「とは言っても現場は離れてしまっているのだがね。ふむ、離さんか」

振り回されつつも槍を離さないガウの様子を見るなり、アリエルはそのまま壁に叩きつけるつもりで槍を放り投げた。しかしガウは反転して壁に足をつけるなりそのまま着地する。

「ぐっ。自身を未熟者と称する者に、我等の初撃をこうも簡単に受け止められたというのか」
「気にする程でもないさ。ただ相性の問題だな。お前達の相手が私だということが、些か相性が悪かっただけに過ぎないからね」

手に炎を宿すアリエル。

「なるほど。それが貴殿の戦闘スタイル、というわけだな」
「ああ。貴様らより上位の、な」

何もアリエルはネオンの炎弾をただ喰らったわけではない。むしろその手に宿す炎の拳で相殺していただけ。それにガウの突きも通常であれば必殺の一撃。ただ、攻撃が素直過ぎただけであり、経験則に基づくアリエルからすれば何のことのない動作。何より炎の質が全く違う。

(さて。彼らには今のところ邪悪な気配は感じられないな。どうしたものか)

チラとカレンを見るアリエル。元々魔族の介入は断言できたのだが、問題は誰が関係しているのか。魔族化すればわかり易いのだが、そうでない者を倒すことに関して。
視線の先のカレンは小さく首を振っている。

(となると、やはり意識を刈り取るしかないか)

カレンには微精霊を介して邪悪な波動である魔族の気配を探知してもらっているのだが、その気配は今のところ感じられないのだと。

「ふぅ。これは手間がかかる」

問題は簡単に手を抜ける相手ではないということ。防御や回避に専念していれば問題はないのだが、流石は聖騎士とでもいうべきか、生半可な攻撃では意識を奪いきれない。だが過剰な攻撃であれば死に至らしめてしまう。匙加減。

「それに、問題は向こうだな」

既に交戦状態になっているテトとバニシュ。テトの圧倒的な魔力量と魔法技術は素直に称賛に価した。サラマンダーが吐き出すいくつもの火炎弾だけでなく、バニシュが同時に繰り出している小さな火の粉。微量な魔力反応でしかないが、驚異的な攻撃力を誇るその火の粉、それすらも感じ取って水弾を当てている。
通常、サラマンダーの圧倒的な破壊力の炎弾に気を取られ、バニシュの火の粉の対応を疎かにしてしまうもの。しかしテトはその対応を完璧に行っていた。

「ぐっ、さすがは歴代の聖女の中でも随一の水魔法の使い手と称されるだけのことはあるさね」
「なに。若者にはまだまだ負けんさ」

しかし問題は体力。その戦況はアリエルにも見て取れる。

「こちらも早くしなければな」

グッと攻勢に出ようと構えを取るアリエルに対して、ガウとネオンは互いの連携を取り合える距離でアリエルの様子を窺っていた。

「仮に、殺してしまっても恨まないでおくれ」
「無論。誰かの命を奪うのであれば、それは奪われる覚悟があってこそ」
「こっちはそのつもりはないけど、バニシュ様の邪魔はさせないわ」

彼我の実力差を見せたにも関わらず一切退く気のない二人。

「なるほど。バニシュの聖騎士にしておくにはその命、惜しいな」
「バニシュ様を愚弄することは断じて許さんッ!」

愚直なまでの崇拝。

「わかった。では参ろう」

ダンッと勢いよく地面を踏み抜くアリエル。

「はや――」

余りにも一瞬の速さに目を見開くガウ。既に眼前へと踏み込まれている。

「はあッ!」
「ご、えっ」

みぞおちに深々と刺さるアリエルの拳。ガウにはアリエルの拳どころか踏み込みすら捉えることができなかった。

「ごはッっ!」

後方に吹き飛び、壁に叩きつけられる。

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