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神の名を冠する国
第六百十八 話 七族会
しおりを挟む多くの種族が集落を築いているトリアート大森林。
獣人は基本的には互いの種族への干渉はしないのだが、想定外の事態や種族の危機に対する問題の解決の為、時には深く干渉をし合うことがある。
獣人として誇り高いというわけではなく、最低限の尊厳を守るため。そういった諸々の事態の対策や方向性を定めるために結成されたのが七族会。名の通り七つの種族の集まり。
その中で盟主となり長年君臨しているのが獅子王族。強靭な肉体を有する獣人の中であっても特に強大で絶対的な力。それを用いて力づくで他の種族を屈服させることもできるのだが、理知的な側面をも持つ獅子王族は、野蛮な行為と定めるそれらの行いは用いず対話を用いていた。
「その、先代風の聖女が獅子王族で、イリーナ様もその血を引いてるんですね」
「うむ。それで今晩その族長会議が開かれる」
風の聖女の条件に獣人の血を引いていることはそもそもの前提なのだが、先代風の聖女は純血の獣人。獅子王族の現族長の娘が先代風の聖女を務め、その先代がイリーナを推薦していた。
「ローズさんもその会合に行くんですか?」
「もちろんよ。シン達も来ることになってるわ。とはいっても会議には入らないけどね」
「そうですか……――」
悩んだ末に口を開く。
「――…………僕たちも、僕たちもそこに行かせてもらっても、いいですか?」
ヨハンの言葉を聞いたイヌ耳の族長は目を細める。
「よいのか? 儂等と深く繋がればそれこそ何をされるかわからぬぞ?」
「そうよ。そのために昨日あんな手の込んだことしたのじゃない」
わざわざ獣の面を付けてのあの場への参戦。ヨハン達と自分達には繋がりがないのだと思わせるために敢えて攻撃まで加えて証明していた。
「わかってます」
しかしこの問題は捨て置けない。わざわざ介入する必要はないのかも知れないがそれでも無関係とも思えない。
(この問題はここで解決しないといけない気がする)
直感が告げている。
「この国に何が起きているのかを調べて欲しいという依頼を受けていますので。ですので可能な限りの情報を集めたいんです」
その言葉を受けたローズは真剣な眼差しでヨハンを見つめた。
「…………別に私は構わないけど、相応の覚悟は必要よ? 他国の事情に首を突っ込むのだから」
「はい」
目を逸らさず、はっきりと返事を返す。
「大丈夫ですよローズさん。ヨハンはもうわたしの国の事情に十分首を突っ込んでますから。それも考えなしに」
カレンが呆れながら言葉を差し込んだ。
「カレン様……」
ローズの目の前にいるのはカレン・エルネライ皇女。
(そういうお人好しだからわたしも好きになったのだけどね)
カサンド帝国での出来事は、思い返すだけでも相当な出来事の数々。今でこそこうして二人無事にいるが、どちらともに命を落としていてもおかしくなかった。そのカレンの落ち着いた表情を見るローズはしばし考える。
「……それもそうね。だったら今さらか。まったく。前の時もそうだけど、こうして見ると、十分にもう一人前の冒険者ね。初めて会った時とは大違いよ」
一学年時の試験で顔を合わせて後、カサンド帝国であれだけの立ち回りを見せたのだから。
(それに、あの人たちの子だから、これも運命なのかもね)
剣聖ラウルから不意に聞かされたヨハンの両親。自分達の憧れの存在。途轍もない偉業の数々。
「じゃあ、今晩獅子王族の集落に案内するわ」
「そなたらがそこまで信ずる者であれば儂も不要な心配というものか。時間まではゆっくりとしているといい」
「ありがとうございます」
そうして今晩に開かれる七族会へと同行することとなる。
◆
夜、トリアート大森林の奥に向かっていた。
「これはだいぶ危険だね」
星の光さえもほとんど差し込まない深い森の中。周囲は圧倒的な静けさと暗さ。ところどころにぬかるみがあり足場が悪い。縄張りにしている獣人や魔物の襲撃でもあれば夜目が効くヨハンであっても相当にキケン。
だが、この条件下であっても自由に動き回れるのであれば絶対的に有利。この中に集落を築くともなればそれはまるで天然の要塞。それらの条件を一番満たしているのが獅子王族であり、その中を抜けた先に獅子王族の集落はあった。
「ようこそいらっしゃいました」
松明を燃やしても上空からは火の光を捉えられない程に深い場所。
その入り口である一際大きな松明が焚かれた集落の入り口で迎え入れられたのは頭部や体毛など、ところどころに獅子の特徴を持つ獣人の女性。
「あなた方がシグラム王国からのお客様なのですね」
ニコリと微笑まれる。
「ローズさん、僕たちのこともう伝えておいてくれたんですね」
「ううん。全く話してないわよ?」
顔を向けるローズは小さく首を振った。
「え?」
「だって今日会ってすぐに伝えられるわけないじゃない。それにそもそもあなた達が来るかも知れないって想定はしてたけどわざわざ話すことでもないし」
疑問符を浮かべるローズ。
「レオニルさん。どうして彼らのことを?」
そのまま目の前の女性、レオニルに問い掛ける。
「イリーナが教えてくれたのです。手紙で」
レオニルがスッと懐より取り出すのは手紙。そこには風の聖女イリーナ・デル・デオドールの名が記されていた。そうして獣人の女性、レオニルは綺麗な所作を用いて頭を下げる。
「はじめまして。先代風の聖女を務めました、レオニル・キングスリーと申します。イリーナとは旧知の仲ですので今もこうしてやりとりをしているのです」
「そうだったのですね。それで、シン達はどうしているのですか?」
「もういらっしゃっていますよ。こちらです」
招き入れるレオニルによって向かった場所は獅子王族の族長の家。藁を組み合わせた家屋は近代的とは程遠い。
「なんとも趣のある家ね」
関心を示すカレンの背後にぬッと姿を見せる巨体。
「我等獅子王族は自然の中に身を置き、野生を磨いておかないといけないからな。これもまたその一つ」
「え?」
振り返り、見上げるその体躯の大きさに思わず口許をヒクヒクとさせた。
「お父さん」
「よくおいでなさったシグラムからの客人。族長のバンス・キングスリーだ」
「すいません、突然お邪魔して」
「いや構わぬ。聞けば相当に面白そうな者ではないか」
「聞くって……あっ!」
バンス・キングスリーの後ろに立つのは三人の男。
「シンさんっ! それにジェイドさんにバルトラさんも」
「よう。元気だったか? って昨日の様子だと聞くまでもないな。ニーナの嬢ちゃんも元気そうで何よりだ」
ニッと笑顔のシンなのだがジェイドとバルトラの二人は無言。
「まったく。素直じゃないわね」
呆れるローズ。感情表現の乏しいバルトラはまだしも、ジェイドは腕組みをしながら指だけをピッと二本ヨハンに見えるように上げている。
「何ヲ悠長にしておル獅子の者。早く始めようゾ」
そこに十数人の獣人が歩いて来た。赤い体毛の男が威厳たっぷりに先頭を歩いている。赤狼族の獣人。
「おお。そうだな。既に他も集まっておるようだ。早速始めようか」
赤狼族の男はヨハン達を流し目で見ながらぞろぞろと家の中に入っていった。
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