上 下
588 / 724
神の名を冠する国

第五百八十七話 学校案内

しおりを挟む

パルスタット神聖国。宗教国家ということはもちろん、その国の機関は独特な構造になっている。
国家的な血族として王家はあるのだが、それとは別に宗教上の大きな柱が定められていた。
まず最高位である教皇が配置され、その補佐を行う位置に枢機卿団。そして教皇の下部には大神官を始めとして神官及び神官見習いがある。
その中で聖女は特別な位置付け。王家や教皇と並ぶ特別視として、五大聖女がいるのだと。リオン・マリオスのような聖騎士は各聖女に配置されている守護騎士。

「あなた達が視たというその人魔戦争を発端としているのでしょうね」

話し合いが終われば冒険者学校に来るのだというので学校で待っていた。
シェバンニの見解。元々は四大聖女だったその枠が五つになっているのはミリアが務めたという光の聖女の位置。今では光の聖女が筆頭聖女となり、その下に四大聖女がいるのだと。

「今回訪問されたのは水の聖女らしいです」
「そうですか。聖女様がお越しになられたのは初めてですね」
「そうなんですか?」
「ええ。彼女たちはあちらでは神聖視されている存在です。おいそれと国を出るようなことはありません」

それが一般的なパルスタットの知識。それは外交の授業でもそう教えられている。
つまり、それだけの条約を交わしに王国へと訪れたのだと。



しばらく待ったところで、教室へと姿を見せるエレナとクリスティーナ。それに聖騎士リオン。

「お待たせしました」
「じゃあどこから見て回りたいですか?」
「まずは学内を見せて頂けたらと」
「学校を?」
「ええ。パルスタットには教育の為の学校はありますが、このような冒険者を育てるような機関はありませんので」

興味深そうにクリスティーナは周囲へと目線を向ける。

「では私がご案内させて頂きます。現在校長代理を務めるシェバンニ・アルバートと申します」
「いえ、せっかくのお話しですが、よろしければヨハン様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「僕ですか? もちろん僕でよければかまいませんけど」

疑問符を浮かべる中、聖女クリスティーナはニコリと微笑んだ。

「ええ。もちろんです」
「ではヨハン。聖女様の申し出ですのであとはお願いします。くれぐれも失礼のないように」
「はい。わかりました」
「よろしくお願いしますね、ヨハン様」

シェバンニは業務に戻り、補足説明をしてもらうためにエレナにも同行してもらい、学内を案内していく。

「――それで、こういった魔法の基礎や戦闘訓練、座学として様々な道具や魔物の知識に諸外国のことなどを学んでいきます。その結果、こうして育った冒険者が間接的に国益へと繋がるんです」

教室や鍛錬場に演習室などを案内しながら、王国としての冒険者学校の存在意義を話して聞かせていた。

「なるほど。理に適っていますね」

他にも基礎の実力の底上げをすることで死亡数を減らすためや汎化させることで一定以上の水準が見込めること、演習を通じて現実を知りその後の進路に幅を持たせることなど。
それらについて、興味を示しながらしっかりと耳を傾けるクリスティーナ。

「パルスタットでは違うのですか?」
「はい。私達の国では冒険者はあくまでも冒険者。一つの職業として一般の依頼を受けるのみです。国民で冒険者になる者はそれほど多くありません。国家として寄与するのは聖騎士や神官、それに私達聖女の役目ですので。個別に接点、何かを教わるということはあれども、共存するなどということはありません」
「そうなんですね」

カサンド帝国と比較しても冒険者の扱い、その制度は異なるのだと。いくらか思い出しながら説明をして回る。そうしてヨハンが不在だった二学年時の大半、帝国で過ごしていた時期に習った部分についてはエレナに補足説明をしてもらった。

「楽しい時間をありがとうございました」
「いえ、こんなことしかできませんで」
「とんでもありません。やはりこうしてこの目で直接見るのと話に聞くのとでは大きく異なります」

一通りの案内を終え、馬車を待たせている学校の門のところに来ている。この後にはクリスティーナは王宮で開かれる懇親会へと参加予定になっていた。

「ところで、ヨハン様は冒険者としての位はどれくらいなのでしょうか? 聞くところによると、前代未聞だとローファス王が嬉しそうにお話されていましたが?」
「え?」

一体どういうことなのかと、エレナを見ると苦笑いしている。

「それが、お父様がわたくしの紹介をする時にヨハン様の名前を出していたのですわ」

謁見していた際に出迎えに上がっていた学生達のことについて質問をしていたクリスティーナなのだが、ヨハンのことに含みを持たせていたローファス。

「はい。エレナ様の仲間には凄い奴がいる、と。その中心にいるのがヨハン様だということはお聞きしたのですが、詳しい事は本人に聞いて欲しいと言われましたので」
「……そう、なんですね」

だからクリスティーナはヨハンを学内の案内に指名していた。
その言葉を口にしていたローファスの意地の悪そうな表情がありありと思い浮かべられる。

「先程、特別措置としてカサンド帝国に遠征していたともおっしゃられていましたし、リオンがあなたは相当な強さだと言っていたので」
「クリス様」
「良いではありませんか。褒めているのですから」

クリスティーナの背後でため息を吐きながら小さく首を振るリオン。

「それで、実際どうなのだ?」

射抜くような視線をヨハンへと向けるリオン。

「あー、えっと…………そうですね、一応、S級になっています」

申し訳なさげに苦笑いしながらギルドカードを提示した。

「えっ!?」
「なっ!?」

その言葉を受けた途端、二人は食い入るようにしてギルドカードに目を向ける。ギルドカードに記されている小さなS級の文字を見ては信じられないといった眼差し。

「……リオン」

チラと確認するようにリオンへと視線を向けるクリスティーナ。

「…………間違いありませんクリス様。本物です。仮に偽物であれば、ギルドカードの偽証はどこの国であろうとも重罪です。国王や教師の信が厚い彼が、ここで王女を前にしてそのようなことをするとはとても思えません」
「そうですね、その通りです」

スッと背筋を伸ばして立つクリスティーナはヨハンに向けて微笑む。

「……わかりました。ありがとうございますヨハン様」

すぐに居直り、落ち着き払った装いを見せた。

「エレナ王女。少しご相談があるのですが」
「相談、でしょうか? それはかまいませんが」
「内密なお話になりますので、どこか適したところはありますか?」
「はぁ……。でしたら、ヨハンさんのお屋敷が丁度よろしいかと」
「まぁ! お屋敷までお持ちなのですか?」

クリスティーナは手を叩きヨハンを見る。

「えっと……まぁ、はい。成り行きでいただくことになりまして」

頬を掻きながら返答をすると、ガシッと手を握られた。

「でしたら、明日の朝にお屋敷へとお邪魔させてもらってもよろしいでしょうか? 王都を案内させてもらうということでヨハン様を指名させて頂きますので。もちろんヨハン様にもお聞き頂きたい話でもありますから」
「それはかまいませんけど、僕でいいんですか?」
「はい。むしろヨハン様に聞いていただきたいことでもあります。歳が近いことでもありますのでむしろ意気投合したとでも言えば特に問題はありません。やはり仲良くなるのに歳が近いと話は早いですので」
「歳が近いって……クリスティーナ様はおいくつなのですか?」
「私はこのあいだ十六になりました。ヨハン様は間もなく十五になられるかと思いますけど?」
「はい、そうですけど…………」

返答しながら、目の前にいる女性の見た目と実年齢との差に驚かされた。落ち着き払った装いを見せながら、堂々としている様子。一つしか違わないにも関わらず聖女という位に立つだけでなく使者――国の大使を任されているのだと。リオンの年齢はその一つ上。

「では、明日改めて」
「わかりました。お待ちしておりますクリスティーナ様」

一体どんな話をされるのだろうかと疑問を抱きながらパルスタットからの大使を見送った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...