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神の名を冠する国
第五百八十七話 学校案内
しおりを挟むパルスタット神聖国。宗教国家ということはもちろん、その国の機関は独特な構造になっている。
国家的な血族として王家はあるのだが、それとは別に宗教上の大きな柱が定められていた。
まず最高位である教皇が配置され、その補佐を行う位置に枢機卿団。そして教皇の下部には大神官を始めとして神官及び神官見習いがある。
その中で聖女は特別な位置付け。王家や教皇と並ぶ特別視として、五大聖女がいるのだと。リオン・マリオスのような聖騎士は各聖女に配置されている守護騎士。
「あなた達が視たというその人魔戦争を発端としているのでしょうね」
話し合いが終われば冒険者学校に来るのだというので学校で待っていた。
シェバンニの見解。元々は四大聖女だったその枠が五つになっているのはミリアが務めたという光の聖女の位置。今では光の聖女が筆頭聖女となり、その下に四大聖女がいるのだと。
「今回訪問されたのは水の聖女らしいです」
「そうですか。聖女様がお越しになられたのは初めてですね」
「そうなんですか?」
「ええ。彼女たちはあちらでは神聖視されている存在です。おいそれと国を出るようなことはありません」
それが一般的なパルスタットの知識。それは外交の授業でもそう教えられている。
つまり、それだけの条約を交わしに王国へと訪れたのだと。
◆
しばらく待ったところで、教室へと姿を見せるエレナとクリスティーナ。それに聖騎士リオン。
「お待たせしました」
「じゃあどこから見て回りたいですか?」
「まずは学内を見せて頂けたらと」
「学校を?」
「ええ。パルスタットには教育の為の学校はありますが、このような冒険者を育てるような機関はありませんので」
興味深そうにクリスティーナは周囲へと目線を向ける。
「では私がご案内させて頂きます。現在校長代理を務めるシェバンニ・アルバートと申します」
「いえ、せっかくのお話しですが、よろしければヨハン様にお願いしてもよろしいでしょうか?」
「僕ですか? もちろん僕でよければかまいませんけど」
疑問符を浮かべる中、聖女クリスティーナはニコリと微笑んだ。
「ええ。もちろんです」
「ではヨハン。聖女様の申し出ですのであとはお願いします。くれぐれも失礼のないように」
「はい。わかりました」
「よろしくお願いしますね、ヨハン様」
シェバンニは業務に戻り、補足説明をしてもらうためにエレナにも同行してもらい、学内を案内していく。
「――それで、こういった魔法の基礎や戦闘訓練、座学として様々な道具や魔物の知識に諸外国のことなどを学んでいきます。その結果、こうして育った冒険者が間接的に国益へと繋がるんです」
教室や鍛錬場に演習室などを案内しながら、王国としての冒険者学校の存在意義を話して聞かせていた。
「なるほど。理に適っていますね」
他にも基礎の実力の底上げをすることで死亡数を減らすためや汎化させることで一定以上の水準が見込めること、演習を通じて現実を知りその後の進路に幅を持たせることなど。
それらについて、興味を示しながらしっかりと耳を傾けるクリスティーナ。
「パルスタットでは違うのですか?」
「はい。私達の国では冒険者はあくまでも冒険者。一つの職業として一般の依頼を受けるのみです。国民で冒険者になる者はそれほど多くありません。国家として寄与するのは聖騎士や神官、それに私達聖女の役目ですので。個別に接点、何かを教わるということはあれども、共存するなどということはありません」
「そうなんですね」
カサンド帝国と比較しても冒険者の扱い、その制度は異なるのだと。いくらか思い出しながら説明をして回る。そうしてヨハンが不在だった二学年時の大半、帝国で過ごしていた時期に習った部分についてはエレナに補足説明をしてもらった。
「楽しい時間をありがとうございました」
「いえ、こんなことしかできませんで」
「とんでもありません。やはりこうしてこの目で直接見るのと話に聞くのとでは大きく異なります」
一通りの案内を終え、馬車を待たせている学校の門のところに来ている。この後にはクリスティーナは王宮で開かれる懇親会へと参加予定になっていた。
「ところで、ヨハン様は冒険者としての位はどれくらいなのでしょうか? 聞くところによると、前代未聞だとローファス王が嬉しそうにお話されていましたが?」
「え?」
一体どういうことなのかと、エレナを見ると苦笑いしている。
「それが、お父様がわたくしの紹介をする時にヨハン様の名前を出していたのですわ」
謁見していた際に出迎えに上がっていた学生達のことについて質問をしていたクリスティーナなのだが、ヨハンのことに含みを持たせていたローファス。
「はい。エレナ様の仲間には凄い奴がいる、と。その中心にいるのがヨハン様だということはお聞きしたのですが、詳しい事は本人に聞いて欲しいと言われましたので」
「……そう、なんですね」
だからクリスティーナはヨハンを学内の案内に指名していた。
その言葉を口にしていたローファスの意地の悪そうな表情がありありと思い浮かべられる。
「先程、特別措置としてカサンド帝国に遠征していたともおっしゃられていましたし、リオンがあなたは相当な強さだと言っていたので」
「クリス様」
「良いではありませんか。褒めているのですから」
クリスティーナの背後でため息を吐きながら小さく首を振るリオン。
「それで、実際どうなのだ?」
射抜くような視線をヨハンへと向けるリオン。
「あー、えっと…………そうですね、一応、S級になっています」
申し訳なさげに苦笑いしながらギルドカードを提示した。
「えっ!?」
「なっ!?」
その言葉を受けた途端、二人は食い入るようにしてギルドカードに目を向ける。ギルドカードに記されている小さなS級の文字を見ては信じられないといった眼差し。
「……リオン」
チラと確認するようにリオンへと視線を向けるクリスティーナ。
「…………間違いありませんクリス様。本物です。仮に偽物であれば、ギルドカードの偽証はどこの国であろうとも重罪です。国王や教師の信が厚い彼が、ここで王女を前にしてそのようなことをするとはとても思えません」
「そうですね、その通りです」
スッと背筋を伸ばして立つクリスティーナはヨハンに向けて微笑む。
「……わかりました。ありがとうございますヨハン様」
すぐに居直り、落ち着き払った装いを見せた。
「エレナ王女。少しご相談があるのですが」
「相談、でしょうか? それはかまいませんが」
「内密なお話になりますので、どこか適したところはありますか?」
「はぁ……。でしたら、ヨハンさんのお屋敷が丁度よろしいかと」
「まぁ! お屋敷までお持ちなのですか?」
クリスティーナは手を叩きヨハンを見る。
「えっと……まぁ、はい。成り行きでいただくことになりまして」
頬を掻きながら返答をすると、ガシッと手を握られた。
「でしたら、明日の朝にお屋敷へとお邪魔させてもらってもよろしいでしょうか? 王都を案内させてもらうということでヨハン様を指名させて頂きますので。もちろんヨハン様にもお聞き頂きたい話でもありますから」
「それはかまいませんけど、僕でいいんですか?」
「はい。むしろヨハン様に聞いていただきたいことでもあります。歳が近いことでもありますのでむしろ意気投合したとでも言えば特に問題はありません。やはり仲良くなるのに歳が近いと話は早いですので」
「歳が近いって……クリスティーナ様はおいくつなのですか?」
「私はこのあいだ十六になりました。ヨハン様は間もなく十五になられるかと思いますけど?」
「はい、そうですけど…………」
返答しながら、目の前にいる女性の見た目と実年齢との差に驚かされた。落ち着き払った装いを見せながら、堂々としている様子。一つしか違わないにも関わらず聖女という位に立つだけでなく使者――国の大使を任されているのだと。リオンの年齢はその一つ上。
「では、明日改めて」
「わかりました。お待ちしておりますクリスティーナ様」
一体どんな話をされるのだろうかと疑問を抱きながらパルスタットからの大使を見送った。
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