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紡がれる星々
第五百六十七話 出生の秘密
しおりを挟む「どこだろう、ここ……――」
目の前に広がっている光景は屋内。木造建てで、見てすぐにわかるほどのみすぼらしさ。
小さな部屋の中央には木造の食卓が置かれており、座っているのは四人。その内の一人、マリアンが赤ん坊を抱いていた。
「――……この人たち」
そうしてすぐさまそこにいるのが誰なのかと理解する。ヨハンの知る頃よりも随分と若いのだが全員知っていた。実際に会っている。
その場にいたのはローファス・スカーレット国王と――。
(ヘレンさんにヨシュアさん……)
レナトの街で商人として生計を立てているモニカの両親が二人の正面に座っていた。
(…………)
何かの話し合いの場。それも極秘裏に行われているというのは部屋の装いと四人の浮かべている表情から見ても明らか。
(こんなの、どうしたらいいんだ)
先程目にしたことの理解が追い付かないまま突き付けられるように目にしているこの事実。この回想を終えてモニカにどう接したらいいのかわからなくなってしまう。
(……エレナ)
モニカどころか、エレナも知らされていなかったという現状への向き合い方。
(そういえばあの時……)
ふとローファスの言葉が脳裏に甦った。
『――エレナ、お前にも真実を見てもらいたい』
『――それがお前への、いや、お前たちへの俺の償いでもある』
『――これが終わればすべて話すことを約束しよう』
エレナへとむけられていた言葉。そこに含まれているのはエレナともう一人。もう随分と昔に感じられるその言葉。
いくらか思考を巡らせていると、神妙な面持ちを見せていたヘレンが小さく口を開く。
「こんなとこに呼び出すぐらいだから嘘じゃないとは思うけど、今の話を間違いなく信じていいのね?」
鋭く向ける視線の先はローファスと次にはマリアンが抱く赤ん坊へ。
「ああ。……いや、正確には俺もにわかには信じられない話ではあると思っている。だが、ジェニファーが間違いないと断言しているし、伝承と合わせるといくらか辻褄が合う部分も確かにあるのだ」
迷いを見せているローファス。しかし振り払うようにして首を振る。
「魔王が生まれるなどあってはいかん。本来であれば即座に対応、つまり、この子を殺すことが一番の解決策だとは思うのだが、そんなこと俺にはできん」
「当たり前でしょ!」
ダンッと力強く机を叩くヘレン。
「どうして何も証拠がない状態でこんなに小さな子をあなたは殺せるっていうの!? それも、自分の娘をっ!」
声を荒げて激しく批難するヘレン。隣に座るヨシュアはじっと考え事をしている様子。
「だからできないのだ。出来るわけないだろう」
「だったら」
「これも苦渋の決断なんだ。俺が、ジェニファーが、どれだけ頭を使って悩んだと思っているんだ? こんなこと誰彼なしに相談できるもんでもない」
「……ローファス…………」
「だから、だからこうしてお前たち頼んでいるんじゃないか! 頼むっ!」
「「…………」」
机に額を押し付ける程に頭を下げるローファスと深く下げるマリアン。それを見て互いに顔を見合わせるヘレンとヨシュア。
「お顔を上げてくださいませ国王様」
「…………」
「そうよ。あなたはもう国王なのだからこんな簡単に頭を下げてはダメよ」
困惑しながらも国王に対して敬いを見せる二人。それでも頭を下げ続けるローファス。
「いや、こればっかりはどれだけでも下げよう!」
小刻みに震えるその様子に、ヘレンは小さく息を吐く。
「そんなに、なの?」
「…………ああ」
「わかったわ。とにかく頭を上げて。話はそれからよ」
泣き出しそうな赤ん坊、モニカをあやすマリアンの横でローファスはゆっくりと顔を上げると、そこにはほんのりとした笑顔を浮かべているヘレンとヨシュアの姿があった。
「国王様。ご安心ください。私にできることであればどんなことでもご協力させてもらいますので。ねぇヘレン」
「わかってるわよ、あなたがそんな残虐な性格をしていないってことぐらい。ただ確認したかっただけ。それに知らない仲でもないし」
片肘を着いてそっぽ向くヘレンに苦笑いするヨシュア。そのままヘレンは目線だけをローファスへと向ける。
「ただ、信用してもらえるのは嬉しい話だけど、それってつまりそれはどう解釈したらいいの? 依頼ということで捉えたらいいの?」
「どう捉えてもらってもかまわんが、もしジェニファーが感じたその禍々しいものがまさしく呪いであり、モニカに魔王たらしめる何かが発動するようであれば即座に対処してもらいたい」
「……本気で言ってるのね?」
きつく睨みつけるヘレン。殺気を放つ。
「おぎゃああああ!」
「モニカさま、おーよしよし」
「お、おい、ヘレン」
対処、この言葉が差す意味をヘレンは正確に理解している。最悪殺すことも厭わないということを。
「ああ。判断は任せることになるが、これは父としてということよりも国王として必要なことだ」
先程までの狼狽していたローファスは鳴りを潜め、真正面からその殺気を受け止めていた。
国を守ることを最優先にするのだと。
「だからこそ、そこも含めてお前に願い出ているのだ。黒の閃光。信頼できるお前にな」
数秒、睨みつけるヘレンに対して唇を噛んでは血を流すローファス。微動だにせず。
「……はぁ、わかったわ。こんな依頼、ここに来る前にジェニファーさんに会ってなかったら絶対に断っていたけどね」
「会っていたのか?」
「当たり前じゃない。わけもわからない呼び出しを受けたのだから。にしても、あんなに思い詰めたあの人を見た以上何かしてあげたくなるもの」
「すまない」
「別にいいけど。どうせスフィンクスも活動休止してエリザお姉ちゃんとも遊べなくなったから暇してたし。そういえばガルドフには?」
「ガルドフには事が落ち着き次第話そうとは思っている。しかしそれもいつになるやら」
「……そっか、それも仕方ないわね、こんなこと」
「つまりお前達に全面的に頼ることになる」
そうしてそれからは今後についての詳細が話し合われることになる。
元々レナトの商人が後継人を探していたこともあり、そこに国王からの手配としてヨシュアが派遣されるのだと。その妻と子という立場でヘレンとモニカが同行し、使用人としてマリアンが赴くのだと。
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