上 下
553 / 724
紡がれる星々

第五百五十二話 幼馴染三人

しおりを挟む

「ふぅ。もうっ! またここにいた! はい、二人の分のお弁当」
「ああ、ありがとうミリア」
「いつもサンキュー。スレイのついでに俺の分までな」
「ち、違うわよっ! ちゃんと二人に作っているんだからね!」

顔を赤らめる女性、ミリアは腕を組んで顔を逸らす。

「べ、別にスレイだけを特別に扱ってなんかないわ。ふ、二人とも特別だから。なんていったって幼馴染だしね」
「はははっ、そっか。ならありがたくいただくよ。ミリアの弁当は美味いからな」
「あ、ありがと」
「ほら、スレイも早く食べようぜ」
「……ああ、そうだな」

そうしてのどかな雰囲気の中、三人で食事をしていた。

(どういうことだろう?)

その様子を見ているヨハンはどこか不思議な感覚に陥っている。

(考えていることがなんとなくわかる。感情が流れ込んで来る)

切ないような、悲しいような、それでいて安らぎを抱くような、なんともいえないもどかしさ。

(誰の感情なのかわからないけど、互いに大切に思い合っているのは伝わって来る)

時代背景をもう一つ掴みきれていないがはっきりとした温かさ。幸せな空気。優しさ。

「――……それにしても、いつになったら国は落ち着くんだろうな?」
「さぁな。誰かが周辺諸国を統一してくれないことには無理だろ? この前も、北方のケドナ山脈の麓の国が落とされたって話じゃないか。今は小さな国が入れ替わり立ち代わり乱立し過ぎてるんだよ」

その言葉の中に聞き覚えのある単語があった。

(ケドナ山脈って)

王都の一番近くにある山脈の名前。

「だからさ、スレイ、お前がやれば?」
「オレが? 何言ってんだ。無理に決まってるだろ」

シグの言葉をスレイは笑い飛ばす

「そんなことないと思うけどな」
「だったらお前がすればいいじゃないか」
「おれ?」
「ああ。むしろ天才魔導士のお前だったらみんな認めるだろ? お前ぐらいの魔導士は見たこともないって村長や周りの人達も言っているじゃないか?」
「そうね。シグの魔法ってほんとすごいもんね。あれだけ凄いとグラシオン魔導公国でも重宝されるんじゃないの?」

首を傾げながら言葉にしていくミリア。

「ふふん。まぁ俺の魔法は確かに凄いからな。誰にも負けないぜ」
「言ってろ言ってろ」
「しかし、グラシオン魔導公国か……。いいな、それ!」
「どうしたシグ?」
「いいって?」

立ち上がり空を眺めるシグを、疑問符を浮かべながら見上げるスレイとミリア。

「ああ……決めたわ俺! グラシオン魔導公国に行って士官してくる!」
「「えっ!?」」
「なんて顔をしてんだよお前ら。お前らが俺の魔法を褒めたんだぜ?」
「そう、だけど……」
「本気で言ってるのか?」
「当たり前だろ? グラシオン魔導公国なら俺の才能を活かすにはもってこいってことだ。それに、今一番大陸の統一に近いのはここだって話じゃねぇか? なら今の内にいいところまで上がれば、統一した時にゃあ俺も上流階級間違いなしだぜ!」
「お前……そりゃあさまし過ぎるだろ」
「でもシグらしいね」

三人して笑い合う。

(グラシオン魔導公国?)

聞いたこともない国の名前。シグラム王国の周辺にはカサンド帝国、メトーゼ共和国、パルスタット神聖国の三か国しかない。

(だとしたら滅んだのかな?)

先程の会話、ケドナ山脈の近くの小国が滅んだとも言っていた。考えられるその可能性。

(まだわからないことだらけだ)

遠くを見に行くことも適わない。動き回れないということは感覚的に理解しており、これはあくまでも血が経験している記憶の追想に過ぎない。
それから先、シグは士官の為に旅に出る準備を進める。スレイとミリアには何度か止められるのだが、シグの決意は固く止めることは出来ないでいた。
そうして村の入り口でシグを見送るスレイとミリア。

「じゃあ元気でな。剣聖スレイ、聖女ミリア」

晴れやかな表情のシグ。

「ったく。恥ずかしい奴だなお前は」
「それやめてって言ってるのに」

溜息を吐きつつも笑顔のスレイとアメリア。
旅の準備の間に話していた、剣聖・聖女・大魔導士の称号。剣の腕に秀でたスレイ、治癒魔法に長けたミリア、魔法全般を扱えるシグ。子供の時に遊びながら話していた将来の夢。それを臆面もなくシグは何度も口にしていた。
しかしヨハンにはどこかしら寂しさが伝わって来ている。無理して別れを惜しんでいるのだということはわかっていた。

「いいじゃねぇか。俺は信じてるぜお前らを。いつかその称号に恥じないぐらい凄くなるってさ」
「だったらお前も向こうでしっかりとやれよな大魔導士シグ。死ぬなよ」
「誰に言ってんだか。お前もミリアをしっかりと守れよ!」
「ああ、もちろんだ」
「約束だぞ?」
「しつこいな。当り前だ」
「よしっ! 任せたっ!」

ガシッと肩を掴み合う二人。力強い言葉。

「あとな、俺がグラシオンで成功したらお前たちも俺のところに来いよ!」
「ああ。その時は偉くなったお前に養ってもらうぜ」
「でもシグ、あんまり女の子を泣かせたらダメよ? あなたモテるんだから」
「ははっ。俺は女の涙が一番嫌いなんだぜ?」
「ふふっ。知ってる」
「……ミリア」

見つめ合うシグとミリア。シグは口を開こうとしたのだが思い留まるようにして再び笑みを浮かべる。

「なに?」
「いや、なんもねぇ。じゃあまたな」
「うん、またね。シグが活躍する噂が届くの楽しみにしているね!」

そうして村を出ていくシグは地平線の向こう側へと姿を消していった。スレイとミリアによって見送られながら。

(聖女、か)

現代でもパルスタット神聖国に聖女がいるのだということは話には聞いていた。しかし関連に関しては不明。

(あれ?)

疑問に思っていたところで周囲の景色が大きく白みを帯びていった。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

処理中です...