532 / 724
紡がれる星々
第五百三十一話 港町セラ
しおりを挟む天気も良く、市では早朝捕れたての海産物が多く売られていた。呼び込みをかけているいくつも並ぶ店を横目に歩く。
見たこともない海の幸の数々。内陸にある王都にはそういった海産物はほとんど出回らない。
「思ってたより活気があるじゃない」
「お父さんから言わせれば血の気が多いらしいよ」
海の男と言えば聞こえは良いが、荒くれものとも呼ばれていた。
「そんなことないよ。良いところだと思うよ」
実際、落ち着いた雰囲気の良い町だという印象。
「あ、ありがと」
照れながらお礼の言葉を述べるサナはそっとヨハンに耳打ちする。
「昨日はほんとごめんね」
「もう良いよ。でも良かったの? 嘘つかせることになっちゃったけど」
「いいのいいの、お父さんもお母さんもちょっと夢見がちなところがあるから」
言っていてサナ自身も虚しくなるのだが。ひと時だけの、名ばかりどころか中身のない恋人。それだけでも欠片程度の満足感は埋められる。
「だったらいいけど」
「何の話?」
「モニカさんには関係のない話よ」
「あんたはねぇ、そうやっていつもいつも」
「良いじゃない! いっつもモニカさんばっかり得してるんだから!」
「得なんてしてないわよ!」
いがみ合う二人の様子を見るヨハンが抱く感想。
(この二人も、なんだかんだ仲良いよね)
カレンとニーナと似たようなものだと。ほぼ二年経っても変わっていないやりとり。
そのままサナに案内され、いくつもの海産物を堪能していった。
「――……ごめんね、もうこんなところしか残ってなくて。そんなに観光できるところがあるわけじゃないから」
海を一望できる港に腰かけ時間が経つのを待っている。
「でも、私はここが好きなの。ただじっと海を眺めているだけなんだけど、目に見える景色だけじゃなく、終わりのないこの音を聴いて潮の匂いを嗅いでいると心が安らぐの。お気に入りっていったらいいのかな」
「なんとなくわかるよその気持ち」
「私も」
「あれ?」
ふと眺めるその景色にどこか既視感を覚えるヨハン。
(ここ……どこかで)
だが全く記憶にない。そもそも海自体初めて目にする。
「どうかしたの?」
「あっ、ううん、なんでもないよ」
「そうだ」
徐に立ち上がるサナは前方に手を伸ばした。
「最近こんなのもできるようになったんだよ」
仄かに光るのはサナが腕に着けているブレスレット。魔力を流し込んでいる。
直後、サナの魔力によって海から浮かぶ幾つもの泡。それが壊れることなくふよふよと漂っていた。
「へぇ」
「これって、あの部屋の中に似てるね」
思い出すのはウンディーネがいた水中遺跡の広間と同じような泡。浮遊する泡は陽の光を通しながら微かに光沢を映す幻想的な光景。
「綺麗だね」
「どれぐらい力を使えるのか練習していたんだけど、やっぱりウンディーネさんの力って凄いなぁって」
これだけの魔法を中空に漂わせておくことなど上級魔導士に匹敵する。
「昨日も言ったけど、それはサナが頑張ったからだよ」
「でも、借りものだし」
表情を僅かに暗くさせるサナ。
「あんたが頑張ってるのは私も認めているわ」
「え?」
「あなたは確かな実力を身に付けているもの。でなければここにいないわ。私が保証する」
「モニカさんが褒めてくれるなんて珍しい事もあるのね」
「正当に評価しているだけよ。頑張っていることはきちんと認めないと、自分自身も認められなくなるからね」
「……ふぅん」
それはモニカ自身の経験。これまで幼少期に何度となく打ちのめされ、それでも立ち上がっては向かっていった。敬愛する母の言葉。
「そろそろ時間だね」
「お父さん、ちゃんと仕上がっていたらいいけど」
「問題はそこじゃなくて、遺跡の扉の中に入ることができるかよ」
「そっかぁ。まだ終わりじゃないのよね」
ひと時の時間を過ごした後、港からサナの家へと戻っていった。
◆
「――おお。できたぞ。こんな感じでどうだ? 急いで作った割には良く出来てるはずだ」
サナの家の裏手にある工房へと顔を出すとガッシュが丁度作業を終えていた所。
手渡されたのは木で出来た三つの人形。
「なんとなくだが、それらしく作った」
人型の模りしかしていないので表情などは元々なかったのだが、ガッシュは人形に表情を加えている。首にぶら下がるようにして小さな魔石がはめ込まれていた。
「どう、ナナシー?」
「凄いわコレ」
ナナシーが手にするなり感じられるその感触。間違いなく極上の一品。
「素材が良かったからな。こっちも竜木なんてレアな素材を使わせてもらって良い経験になった。あんがとよ」
「助かります。ありがとうございます。おいくらですか?」
「いやいや、娘の彼氏がいるところから金なんて取れねえって」
「娘の彼氏?」
スフィアが疑問符を浮かべて首を傾げるのだが、ニコニコしているガッシュ。
「ああ。お前さんらは知らなかったか。サナとヨハンくんは付き合ってるんだってな」
途端にバッと視線が集まるヨハンとサナへ。
カレンもまた苦笑いするしかできないのだが、同意するようにして小さく頷く。
0
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる