上 下
526 / 724
紡がれる星々

第五百二十五話 魔力制御

しおりを挟む

竜窟の外で溜息を吐き地面を見ているスネイルとバリス。互いに流し目で目を合わした。

「なぁ、これって現実なんだよな?」
「夢だと思いたいが、どうやら現実のようだな」

共に肩越しに背後に目を送る。
聳える薄暗い洞窟の中で目にしたモノを未だに信じられなかった。

「なんだぁ!?」
「中で何かが起きている?」

突如として響いてくる鈍い音。地響き。

「……収まった?」
「見に行くぞ」
「……どうせ俺達が行ったところで役に立ちやしないって」
「…………」

臆病風に吹かれているスネイルを見るバリスは大きく溜め息を吐く。

「そういうところ、お前が向上心に欠けているところだがな」

入団当時から変わらないスネイル・ドルトマンスの姿勢。威勢が良かったのは一番始めに同期のスフィアに食って掛かった時だけ。
そういった二人の騎士が不安を抱く中、竜窟の中では凄まじい勢いで攻防が繰り広げられていた。

「はあああっ!」
「ふっ! はあっ!」

迫り来る無数の枝。鞭のようにしなる枝をモニカとスフィアが前に立ち切り払う。

「だったあっ!」

その二人の間を掻い潜るニーナ。
迫り来る極太の枝を大きく振り上げる拳によって弾き飛ばした。

「お兄ちゃん!」

この一瞬のために三人が道を切り開いてくれている。
ようやく竜木の幹へと辿り着いた。

「よしっ!」

剣を鞘に納め、両手の平を当てると練り上げるのは最大級の魔力。
ゴオッと地面から巻き起こるその風の魔法。まるで根を掘り起こされるかのようにしてミチミチと音を上げる。

「魔法も凄まじいのか」

しかしそれは正確には狙い定められたもの。
竜木を全損しないよう緻密に練り上げられたヨハンの魔法により、竜木はこれまで見せていた複雑な動きの一切が見られない。

「ナナシー!」
「任せて。自然の恵みブレッシングオブネイチャー

生み出されるのはナナシーの腕に巻き付く蔓。一直線に竜木へと伸びていった。
モニカとスフィアとニーナとヨハンによって開かれた道。竜木の幹に到達した蔓はしっかりと巻き付く。

(よしっ、これで)

魔力の流れを正確に読み取り、あとは自身の魔力を流し込んで正常に循環するようにすればいいだけ。それは根から水を吸い上げる植物の性質そのもの。

「ぐっ!」

ここまで来れば簡単だと思っていたのだが、蔓から得られる反発するような魔力の波動に思わず片膝を着いた。

「どうかしたの?」
「いやぁ、これは一筋縄じゃいかないかも」

ナナシーの様子をジッと見つめるカレン。

「わたしも力を貸すわ」

そっと肩に手を置き、微精霊をナナシーの周囲へと飛ばす。
結果、ナナシーが得ていた負担が和らいでいった。

「これは?」
「この間のマリンさんの魔法を見て、わたしも似たようなことをできないかと思って色々と試してみたの」

他者の能力の向上などといった特異なことはできないが、魔力に関することだったら微精霊を通じていくらか肩代わり、引き受けることができる。
反対に魔法の性能だけであれば微精霊によって向上させることも可能なのだがそれは今は必要ない。

「ありがとうカレンさん」

ニコッと笑みを浮かべ、軽減した負担の分だけしっかりと竜木の魔力を感じ取ることに集中した。

「なるほどな」

一連のやり取りを見届けるリシュエルは感心している。竜木が暴走した当初は沈静化が難しいかと思われたのだが、この様子では問題なさそうだった。

「果たしてアレに気付いているのか?」

チラリと視線を向ける先はニーナが斬り落とした最初の枝。
根本的な原因の対処をした上でなければ意味がないのだと。

「むっ?」

しかしそんなリシュエルの不安も杞憂なのだとばかりに、光る弓を射る姿勢になっているヨハン。

「ここっ!」

枝の先端目掛けて飛来する光る矢。寸分違わずその最初の枝へと刺さる。

「良かった。落ち着いて来た」

鞭のようにしならせていた枝はだらりと落としていっていた。

「これでどうですかリシュエルさん」
「想像以上の出来だ。オレの出番などなかったな」
「なら良かったです」

そうしてニーナの不注意によって招いた事態、竜木の暴走を収めることに成功する。

「さて、エルフのお嬢さん。ついでだ。そのまま魔力の流れを視ておいてくれ」
「わかりました」

スッと竜木へと歩いて行くリシュエルはそっと手の平を当てていく。

「ここがいいかな」

ピタと足を止め、感じ取った場所で素早く大剣を振り下ろした。

「これで足りるだろう」

落ちてくる枝をパシッと受け止める。
ナナシーが魔力の流れを落ち着かせてくれているおかげで本来の竜木を得るための手順を踏みており、目的の素材である竜木を手に入れることができた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

いつもの電車を降りたら異世界でした 身ぐるみはがされたので【異世界商店】で何とか生きていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
電車をおりたら普通はホームでしょ、だけど僕はいつもの電車を降りたら異世界に来ていました 第一村人は僕に不親切で持っているものを全部奪われちゃった 服も全部奪われて路地で暮らすしかなくなってしまったけど、親切な人もいて何とか生きていけるようです レベルのある世界で優遇されたスキルがあることに気づいた僕は何とか生きていきます

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...