上 下
519 / 724
紡がれる星々

第五百十八 話 閑話 入浴時間(前編)

しおりを挟む

「さて、いくら合同任務とはいえ、キミ達は学生に変わりはない。この辺りで一度しっかりと休息を取ろうか」
「休息、ですか?」

突然のアーサーの提案にそれぞれが疑問符を浮かべる中、出掛けることになる。
向かう先は遺跡から離れた山、クラビット山。離れているとはいえ日帰りで行ける距離。

「にしても、こんなところに天然温泉があるだなんてね」
「秘湯というやつね」
「ウチも助かるわぁ。あそこだとお湯に浸かれないもん」
「アスティは任務でもあるのよ?」
「わぁかってるってスフィアちゃん。でも半分は非番みたいなものじゃない」
「はぁ。ほんとしょうがないわね。今日だけよ?」
「さっすが!」

馬に跨りうきうきとしているのはモニカやカレンにアスタロッテ達女性陣。
同行している男性、ヨハン達学生は勿論、アーサーやスネイルにバリスといったスフィアの小隊に所属しているいくらかの騎士。

「こりゃあ役得だぜ」

名目上はエレナとマリンの護衛も兼ねているのだが、ヨハン達の方が実力は上。しかしスネイルからすればそんなことはどうでも良かった。

「アルスとマルスもそう思うのか?」

問い掛けるバリスなのだが、アルスとマルスの視線の先には女性陣。

「さすがアルスさんとマルスさんはわかってるぜ。伊達にスフィア隊長とアスタロッテに襲い掛かっただけはねぇな」
「「なっ!?」」

思い返すその初任務。操られていたとはいえ、異常なまでの醜態を曝してしまっていた。

「…………」

その騎士達が駆ける馬に近付く一頭にはレインが跨っている。

「おい……――」

ギロッと睨みつけていた。

「聞こえていたか。下世話な奴らですまんな」

級友を色目で見られることに対する不快感だと解釈するバリスなのだが、レインは厳しい表情からすぐさま小さく口角を上げると目尻を下げる。

「お前らだけじゃ失敗する。俺も一緒にやるぜ!」

スネイル達だけに見えるよう、親指を立てていた。

「ヨハンさんはあの中に入らないでくださいませ」
「……わかってるよ」
「逞しいだろう? 私の隊は」
「……そういう問題でもないような」

倫理観はどうなっているのかと、苦笑いすることしかできない。
後方から駆けるヨハンとエレナとアーサー。既に目論見は見透かされている。

(ま、なるようになるか)

あくまでも目的は息抜き。気を張り詰める必要もなかった。





そうしてしばらく馬を駆けた先にあるクラビット山。
元々王国内でも昔から火山として知られており、地熱があることで普段は付近の住人も立ち寄らない。最後に噴火をしたのは記録に残されているだけでも何百年前のこと。専門家の間では現在のところ噴火の心配はないと。
その山の中腹に、知る人ぞ知る秘湯がある。

「本当にこんなところに秘湯があるのよね?」

モニカがそう疑問を呈するのも仕方ないと思えるほどの岩山。それなりに険しく、一般の人ならまず登らないだろうという断崖絶壁の行程。馬を引きながら歩いているのは、滑落でもすればひとたまりもない。

「この独特な匂いは?」
「硫黄といわれる火山から採れる成分ですわ」
「ふぅん」
「そういえば温泉って慢性的な持病の改善や健康維持とかの効能があるって言われているわね」
「そうなんだ」

エレナとカレンによる補足説明。

「美容に良いという噂もあるらしいけど」

キラッと目を光らせるサナとモニカ。思わず歩く速さを上げる。

「あんたはもういらないでしょ! そんなおっきな胸してんだから!」
「そういうモニカさんこそそんなに綺麗なのにこれ以上綺麗になってどうするんですか!」

小さく言い合いをしていた。

「どうして俺まで一緒に行かなければならないのだ」
「サイバルは興味ないの?」
「そういうことは特にはな」

まるで関心を示していない。

「そんなに付き合いが悪いと嫌われるよ?」
「そうだぞサイバル。せっかく声を掛けてもらったんだ。たまには俺達に付き合えよ」

ナナシーに同調を示すレイン。そっと小さく耳打ちする。

「心配するなって。ちゃんとお前にも良い思いさせてやるからさ」
「良い思いって?」

ヨハンが首を傾げて問い掛けると、レインは慌てて手を振った。

「な、なんでもねぇって。お前は気にするな。なっ!」

明らかに誤魔化している仕草。

(っぶねぇ。こいつがいると計画が失敗するかもしれねぇからな)

純真無垢なヨハンには理解してもらえず、説明のしようがないのだと。
程なくして、木造建ての家屋が見える。

「どうやらあそこみたいだ」
「山の上なのに寒くないんですね」
「恐らく火山の地下熱が気温に影響しているのだろうね」

アーサーと二人周囲の様子を観察していると、中から老婆が姿を見せた。

「おやおや、いらっしゃい」
「あなたは?」
「わたしゃここを管理している者だよ。時々様子を見に来るのだが、これだけ大勢で来るなんて珍しいこともあるものだ」
「入ってもいいんですか?」
「ああ構わんよ。こうして大勢で来ても入れるように区切らせてもらっておるので遠慮せずに入るがいい」

建物の奥に見える木柵。どうやら入り口から既に男女別に区切られているらしい。

「よかったぁ」

ニコニコと話す老婆の言葉を受けて安堵の息を漏らすサナ。

「当然ね。どこかの変態が覗きに来ないとも限らないからね」

明らかに疑念の眼差しをレインに向けるモニカ。

「ちょっ!? お、おい! なんでこっちを見んだよっ!? 覗くわけねぇじゃねぇか!」
「どこまで本当だか。じゃあおばあちゃん、失礼しますね」

そうしてぞろぞろと建物の中へと入っていった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...