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紡がれる星々

第五百八  話 遺跡調査開始

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サンナーガの遺跡にある倒壊した大きな建物の中央に立つのはアーサー。背後には大きな石像が倒れており、その横に地下に降りる階段がある。地震によって見つかったという地下への道とは別に巨大な石造自体は以前から知られており、一説には英雄か何かを祀っていたのだろうと見られていた。

「さて……――」

そうしてアーサーは既に準備を終えたヨハン達や騎士たちを視界に捉えている。

「――……これより私達は遺跡内部に入る。後のことはロズウェル、頼むぞ」
「はっ、お任せください! この身命を賭して必ず」
「くれぐれも無理はするな」
「……はっ!」

その様子を見てヨハンは疑問が浮かんでいた。

(地上には何もなかったんじゃ?)

印象としては何かに備えているように見える。
地下に入るのは精鋭と評される第一中隊でも特に秀でた者とはいえ、心配されるのは未知の脅威が待ち受けているであろうこちら側でないのかと。

「ねぇエレナ、何か知ってる?」
「…………いえ、特に聞いていませんわ」

顔を横に振るエレナも何も知らないという素振り。

「とにかく、今のわたくし達は自分たちのことに集中しませんと」
「そうだね」

そうして地下へ向かう階段の前に立った。

「とりあえず中は分岐があるらしいのでそこまでは一緒に行こう」

生還した騎士による内部の様子。正確には話せなかったので参考程度。大きな広場があるらしい。

「では行こうか」

鎧の音を鳴らすアーサーを含める騎士達が先を歩き、続いてヨハン達、そしてキリュウ達と階段を下りていく。
地下に続く階段はしっかりと歩けるが、石造りの階段を下りていると、パラっと少しだけ欠けた石が階下に転がっていく。遺跡の地下はかなり深くまで存在する様子だった。
壁もこれまでの遺跡の建物と同じようにレンガ調のブロックで構成されている。だが、かなり年数が経過しているのは容易に窺えるほど。現代のシグラム王国では使われていない紋様のレンガが並んでいた。

「これって、全部人工物だよね?」
「ええ。明らかに自然の物ではありませんわ」

これだけ地下深く掘るともなると相当な労力を要する。大昔に造られたであろう遺跡、それだけの規模の大きさの先に何があるのだと。
階段を下りきった先には平らな道なのだが、既に地上からの光も乏しい。壁には古い蝋燭台が設置されているが当然灯りを灯していない。地下には現代では常識とされている魔灯石が用いられている形跡は見られなかった。

「灯りを」

そのため、騎士の面々が高出力の魔灯石を使ったランタンを複数取り出す。
辺り一面が一気に明るく照らし出された。

「古い文字ね」

カレンがスッと指で触る壁に描かれている文字。今とは若干異なる文字が用いられている。

「それに、どうやら補強もされていますわね」

地下の崩落を防ぐであろう紋様。魔文字を用いて壁面や天井を強化するためのものというエレナの見解。

「す……ごぃ」

これだけの規模で魔法による補強を行うとなれば相当な労力を要する。サナが漏らす呟きなのだが、サナだけに限らず全員が一定以上に感嘆していた。

「だいぶ魔素が濃いみたいだね」
「そうだねお兄ちゃん」
「わかるのかい?」
「はい。あくまでも感覚的にですが」
「そうか。魔素計を」
「はっ!」

ヨハンとニーナの感覚通り、アーサーが騎士に測らせたところ、針は振り切っている。それが示すのは高濃度の魔素の充満。

「これだけの濃度であれば長時間いれば身体に異常を来すかもしれない」
「大丈夫。その辺りは任せてください」
「任せる、とは?」

ナナシーの言葉に疑問符を浮かべるアーサー。

「サイバル。マリンさん」
「仕方ないな」
「今回だけですわよ」

共に嘆息する。ナナシーとサイバルが魔力を練り上げ、マリンが二人に対して声を掛ける。

「【贈られる寵愛】」

魔灯石の光よりも大きな光、白き輝きを以てナナシーとサイバルを包み込んだ。それは二人の魔力の質を底上げするということ。

「「聖なる法衣ヴェール」」

直後に二人が同時に放つ声。霧状に散布される淡い緑の粒子。

(あれ?)

そこでナナシーが不意に得る感覚。それはサイバルとマリンにしても同じ感覚を得ている。

「マリンさん、もしかして魔素の影響を受けてるの?」
「……いえ、そんなことはないと思うけど」

明らかにあの学年末試験の時よりも効力が劣るのだと。手の平を確認するようにして見るマリン。それでも一定以上の、十分な底上げはできているはずなのだが、どうして効力が落ちているのか理由がわからない。

「これは?」
「あっ……――」

そんな三人の感覚を知り得ないアーサーの問いかけ。

「――……いえ、昨夜話していたのです。魔素を払い除ける魔法を私とサイバルが使えるので、マリンさんの魔法と合わせれば全員分まかなえるのではないかと」
「そうか。それは実に助かる」
「そうだな。魔素が持つ独特な異臭が感じられない。テレーゼはどうだ?」
「同じです」

獣人の血を引くキリュウとテレーゼが持つ独自の感性。魔素の毒素が聖なる法衣によって見事に掻き消されている。

「どう、ニーナ?」
「凄いねコレ」

ヨハンとニーナにしてもそれは同じだった。肌に得る不快感がなくなっている。

「しかしこれだけの魔素が発生しているということは問題の新種以外にも多くの魔物がいるということです」

条件的には魔物の発生要因を十二分に満たしているのだから。むしろこれだけの魔素で魔物が生まれないなどあり得ない程。

(いったいどれだけの年月が経っているんだろう……?)

周囲を見回しながら得る不思議な感覚。未知の遺跡の探索をするなどということに対して高揚感も同時に得ていた。

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