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学年末試験 二学年編

第四百五十八話 顎(アギト)

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「凄いわこれ!」

モニカが大きく斬撃を放つと頑強な鱗を易々と切り裂けた。およそこれまででは考えられない程の力が湧き上がってくる。

「キシャアアアッ!?」

悶絶するような声を放つシーサーペント。モニカがそのまま近くの浮島に着地するなり叩きつけるようにして眼前へと放たれる巨大な尾。

「風牙っ!」

しかしその尾はモニカに到達することなく、スパンと目の前で両断される。血飛沫を撒き散らすその先には薙刀の魔剣シルザリを振るっているエレナ。

「まったく。なにがどうなっていますのやら」

明らかにマリンの【贈られる寵愛】によって自身の能力が大きく底上げされているのだという実感。どこか不思議な感覚を得ていた。

「瞬速の矢」

シュバッと風切り音を上げてグングンと伸びる矢はシーサーペントの眼球にブスッと刺さる。

「ギシャアア……――」
「これなら勝てるわ!」

突然の痛みにシーサーペントが大きく体をくねらすように動かす中、確かな感触を得てグッと手に力を込めるナナシー。チラとマリンを視界に捉えた。

「ありがとう、マリンちゃん」
「キシュウウッ…………」

圧倒的な防御力を誇っていたシーサーペントの鱗はもう傷だらけ。それどころか尾は切り落とされ眼は片目しかない。

「あっ! あいつ逃げる気よ!」

魔力弾を何度放とうが避けられ、当てたと思えば弾かれてしまう始末。魔力を溜め込む背びれも破られた今、もう残された攻撃手段は何も持ちえていない。
シーサーペントは体を上方目掛けて大きく伸ばすと一気に一直線に頭から水面に向けて飛び込ませる。ザブンと大きな水飛沫を辺り一帯に撒き散らせた。

「だめ、届かない!」

ナナシーが慌てて水中に向けて矢を射るのだが、いくら威力を大きく上げたとはいえそれでも水中では半減する。軽く刺さる程度。水中に潜られれば攻撃手段もない。せっかくここまで追い詰めたというのにこのままでは逃げられてしまう。

「水流のあぎと

小さな声が聞こえ、直後にはぼこッと水面が隆起する。次の瞬間、水面から大きな水の柱が立ち昇った。水柱の先端はまるで水竜の如き咆哮を上げているように見える。そうしてその中に飲み込まれるかのように巻き込まれているのはシーサーペント。

「「「サナ!」」」

圧倒的なまでの水の操作術。それが誰の手によるものなのか、エレナ達にはわかっていた。

「絶対に、逃がさないわ!」

右手のブレスレットが大きく光り輝いている。ウンディーネから借り受けた能力をここ一番、最大限に発揮している。

「す、凄まじい」
「ああ」

姉妹、獣化しているテレーゼとキリュウが見上げながら思わず呆気に取られる程にその水柱は強大な力強さを物語っていた。

雨の矢シャイニングレイン

サナが続けざまに呟いた直後、水柱を囲うように中空に細長い水の塊が生み出されていく。そうして水柱の中には鋭い水の針が降り注ぐようにして撃ち込まれていった。

「シャアアアアアアッ――――」

絶叫を上げながらシーサーペントの体を貫いていく。

「エレナさん! モニカさん!」

大きく声を掛けるサナ。この機を逃さないで欲しいということ。モニカとエレナは顔を見合わせ合い小さく頷いた。

「ここまでお膳立てされたら」
「ええ。やるしかないようですわね」

ダンッと跳躍するモニカとその場でクルッと身体を一回転させるエレナ。

「紫電ッ!」
「旋風乱舞ッ!」

ようやく激しい雨の矢が止むなりドパンと水柱の水が晴れる。周囲にキラキラと乱反射する水飛沫を撒き散らしながら空中にその身を放り出されたシーサーペント。跳躍していたモニカが丁度そこに到達するなり振り切られる剣戟。

「シャアア――」

ピッと水滴すらも真っ二つに裂き、決定的な一撃を以てシーサーペントの体を両断する。モニカの身体が両断したシーサーペントを通り抜けた直後、いくつもの風の刃がザンッと音を立てながら更に切り裂いた。

「これで終わり、ですわ」

優麗な笑みを浮かべるエレナはシルザリを浮島に突き立てる。
結果、巨大な魔物シーサーペントはボトボトと水音を立てながら水面に落ちていった。もはや肉塊と化している。

「やったぜあいつら!」
「……ええ」

しっかりとその眼に捉える戦いの結末。輪切りにされたシーサーペントを見てようやく倒しきったのだと。

「お、おいっ!」

レインが慌てて両腕をマリンに差し出すと、マリンは後方に倒れながらレインの腕によって支えられる。

「なんだ? 気絶、してるのか?」

それでも思わずレインも笑ってしまうのは、腕の中で抱かれているマリンは意識を失いながらも薄っすらと笑みを浮かべていた。

「まぁなんだかんだ言いながらも結局お前のおかげで助かったぜ。あんがとな」

そうして顔を上げたレインが次に目を向けるのは遠くに見える浮島へ。

「こっちは終わったぞヨハン」

そこではヨハンとゴンザが未だに剣戟を響かせながら戦いを繰り広げていた。





駆け回るほどの大きさがある浮島。素早く動き回っている二人。

「ふっ!」

ヨハンが剣を大きく振り下ろすなり鋭い金属音を響かせた。

「ぐっ!」
「ゴンザ! もうやめるんだ!」

目の前に銀色の刃が迫る中、それでもゴンザはニヤッと笑みを浮かべる。

「はあッ!」

大剣を大きく振るいながらヨハンを押しのけ、そのまま追撃を仕掛けるためにゴンザは地面を踏み抜いた。

「っと」
「チッ!」

ゴロッと横に転がって迫る剣を躱し、そのまま地面に手を着くと跳ねるようにしてすぐさま起き上がる。

「……はぁ……はぁ……――」

肩で息をしているゴンザに対して体力的に余裕があるのはヨハンの方。

「――……くそっ。バケモンめ……」

憎々し気にヨハンを睨み付けるゴンザなのだが、ここまで劣勢に立たされ続けている。何度となく剣を振るい続けているのだがそのどれもをいなされ続けていた。

「もうやめようゴンザ」
「あ?」

だらりと剣を下げるヨハン。

「これ以上僕たちが争っても意味はないよ」

狂気が収まる気配を見せない中、遠目に見えるのは丁度モニカ達がシーサーペントを倒しきったところ。

「意味がない、だと?」
「うん。詳しく聞かないとわからないけど、もしゴンザが間違いを犯したのだとすれば、それはきちんと償えばいいんだし」
「…………やっぱりテメェは何もわかっちゃいねぇな」

そう言いながらゴンザもだらりと剣を下げる。

「ゴンザ?」

言動と態度が一致していない。戦意を失って剣を下げたわけではないのは見て取れる。

「!?」

直後、ブンッと大剣に灯すのは黒い光。

「俺より強い奴がいることを、俺は許せねぇんだよッ!」

ギラッと眼光鋭く、その場で大きく剣を振るった。その剣に対してヨハンは慌てて後方に飛び退く。

「ぐっ!」

ピッと胸の辺りの衣服を切り裂き、トロッと血が垂れる。

(……今の攻撃)

これまでで一番鋭く、そして威力が高い。何より、その黒い光は色こそ違えども剣閃に他ならなかった。

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