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学年末試験 二学年編

第四百四十五話 生み出されたもの

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「……はぁ、はぁ、はぁ」

浮島を渡りながら息を切らせているのはカニエス。

「まさかこれほどまでに違いがあるとは驚きですね」

二つの意味でそう感じていた。
一つ目はマリンによる【与えるべき寵愛】。初めて使用されたのだが、劇的に自身の身体能力を向上させている効果には素直に驚嘆している。

「これ程の力を得て尚も倒しきれないのですか……」

しかしそれ以上に驚異的なのは視界に映るゴンザ。少し先の浮島での攻防。
遠距離からのシリカとオルランドの魔法、近距離でのナナシーの凄まじい体術だけでなく風と弓魔法を織り交ぜた複雑な攻撃をいなしている。更にそれだけでなく、レインとマリンに向けて魔法、魔力弾を放ち続けていること。

「あれほどの力……」

その想像以上の実力の高さにしてもそうなのだが、そもそもおよそゴンザでは考えられないようなその魔力量。一体どうしてこれだけの強さを身に付けたのか気にもなった。

「……魔道具か、もしくは……――」

今の自分のようになんらかの効力が得られる魔法を行使している可能性。それであれば納得もできようものなのだが、他人の能力を向上させるような魔法を使える者など稀有。

「マリン様もだからこそ」

その類い稀なる能力を、王家の血筋の一人として得られているのだと以前話してくれていた。
但し、マリンのこの能力は対象が一人のみに限られている。もっと大勢に使うことが出来ればと嘆いていたこともある。そうであれば従姉妹であり特級の単体戦力のエレナと大きく差別化することもできるのだからと。

「くっ! 早く倒さなければ!」

効力が解けるどころかマリンの魔力が底を尽きてしまう。長時間使用できるものではない。
そうなれば例えここでゴンザを倒したところで次を戦う力が残されない。

「てめぇら、いい加減諦めやがれッ!」

大剣を振るって遠距離からの魔法を斬り、背後から急襲されるナナシーの打撃を躱しては反撃をしているゴンザ。

「あなた、本当にどうなってるの?」

ナナシーが抱く疑問。
これだけの連携を見せて傷も負わせているというのにまるで倒しきれていない。

「テメェらの弱さを棚に上げてるんじゃねぇっつの!」
「……私が弱いだなんて、随分な言われようね」

驕っているつもりはないが、自信がないわけでもなかった。打撃もいくらか正確に打ち込んでいるにも関わらずダメージは軽微。耐久力も一回戦や二回戦と大きく異なる。

「くそっ! どうするよ!?」
「…………」

撃ち込まれるゴンザの魔力弾をマリンに代わっていくらか被弾してしまっているレインもそういつまでも堪えられるものではなかった。

「おい、聞いてるかっ!?」

作戦を提示して欲しかったのだが、マリンはどこか上の空な様子を見せている。

「おいって!」
「えっ!?」

肩を揺するとハッとなるマリン。

「このままじゃやられちまうんじゃねぇのかって聞いてんだよ!」
「あっ、そのこと……?」
「そのことって、おい、それ以外に何があるんだっつの」
「レインは感じませんの?」
「感じるって、何がだよ?」

問い掛けられるのだが、まったく要領を得ない問い掛け。

「……この気配、明らかにおかしいですわ」

下方に目を向けているマリン。そこは何もない浮島。その下は魔導闘技場によって生み出された大量の水があるのみ。

「だからなんだっつんだよ!」
「跳びなさいッ!」

不意に遠くから聞こえたのはモニカの声。

「?」

意味のわからないその大声に反応するなりマリンを抱きかかえて後方に飛び退くレイン。
直後、突如として浮島が大きく傾いたかと思えば、立ち昇るのは激しい閃光。

「なっ!?」

水面を激しく揺らしながら元居た場所に大きな穴を穿つのだが、そのまま立ち昇る閃光は天井までも貫いた。上空高々と伸びるとその閃光は先端を細めていき霧散する。

「な、な、な、なんだよこれっ!?」

明らかにレインが今視界に映している選抜試験参加者のものではない閃光。魔力の塊が射出されたのだということは理解できるのだが、その凝縮度と高出力は信じられない程だった。

「……なに、これ?」

驚き困惑しているのはレインだけではない。全員がその場で立ち止まり、閃光が貫いた場所を見ており、そのあまりの光景にシリカは口を半開きにさせ呆然としている。

「立ち止まるなみんなッ!」

途端に響く大声。それは選抜試験参加者のもの。学内順位一位である者の声。

「う、動き回るのよっ!」

そのヨハンの声に同調するように次に動いたのはナナシー。
直後、闘技場の中央の水面がぼこッと盛り上がるなり姿を見せた存在に観戦席の学生達が一様に慄く。

「な、なんだアレ?」
「……ば、ばけものだ」

まるで見たこともない巨大な生物が姿を見せた。

「ギシャアアアアアアッ!」

大きな蛇のような緑の細長い体をしたソレは、紫の背びれをびっしりとしており、頭部はまるで竜とも思える程で獰猛な歯牙を覗かせている。

「ヨハンさんっ、アレは水棲怪獣シーサーペントですわっ!」
「シーサーペント?」

距離のあった場所から突如として姿を見せた魔物と思しき存在目掛けて掛けるヨハンとエレナ。

「ええ。わたくしも文献でしか見たことはありませんが、恐らくそうだと」

水棲怪獣シーサーペントは古代の魔物とされている。
大昔、大河を渡る船がいくつもそれに襲われていたのだと。その姿が確認された場所は避けて通らなければならなかった。

「それが一体どうして?」
「……わかりませんわ」

ヨハンの問いにエレナは答えることができない。討伐ランクに至っては不明。しかし少なく見積もってもAランク以上であるということは間違いないと断言できる。

(先生?)

そんな中ふと考えが過るのは、もしかしすればこれもシェバンニの手引きによるものなのかという可能性。突飛なことをこれまで何度もされてきているのだからと。
そのまま探すようにしてシェバンニに顔を向けると、観戦席の最前列に位置するシェバンニはまるで想定外の事態が起きたのだと言わんばかりに顔面を蒼白させていた。そこにナインゴラン――魔道具研究所の所長が慌てて駆け寄っている姿が視界に入る。つまりそれが指し示すのは、明らかに意図していたものではないのだろうということ。

(……ということは)

しかしヨハンには一つだけ思い当たる節があった。

(暴走?)

思わず想起させてしまう。これが以前読んだ絵本と同じ技術が用いられているのであれば魔物を生み出すことも出来るのではないのかと。あの絵本の中でもアインツとクリスによって不意に魔物が、海竜が生み出されていた。

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