上 下
432 / 724
学年末試験 二学年編

第四百三十一話 追跡者

しおりを挟む

「わ、わかったわ」
「ありがとう」

笑顔からすぐさま表情を厳しくさせてゴンザを見るナナシーなのだが、すぐさまその表情は呆けたように移り変わっていく。

「ナナシー?」

一体どうしてそのような表情になるのかと疑問を抱いたのだが、そのままサナも釣られるようにしてナナシーの視線の先を追っていった。そこにはゴンザではなく倒れ伏しているレインの姿。

「あっ……」

思わず小さく声を漏らすサナ。なんとか起き上がろうと身体に力を込めているレインがいる場所、その地面に魔方陣が浮かび上がっていた。
その魔方陣には見覚えがある。遠距離で放たれる火魔法。トラップとして用いられる爆裂魔法。予め仕込んでおかなければ発動に時間を要するのだが、満身創痍であるレインには躱す術はない。
地面は赤みを帯びており、間もなく魔法が発動される。

「ごはっ!」

間違いなくゴンザの魔法ではないと理解するのと同時に、ドカンと大きく響く爆発音。
呻き声を上げ、突如として起きる爆発によってレインは身体を浮かせた。

「あ?」

ゴンザは振り返りながら爆発が起きた場所に目を向けると、宙を舞っているレインの姿が視界に映る。

「は?」

ゴンザでも、ナナシーでも、サナでもない。サナとナナシーの二人よりも気付くのが遅れたゴンザは目の前の光景に思わず呆気に取られた。数秒遅れて状況の理解が追い付く。

「どこのどいつだ?」

今ここでレインが爆発に巻き込まれたのは誰かがレインに攻撃を加えたとしか考えられない。状況を理解したゴンザはすぐさま周囲の茂みを具に観察した。

「あ、んのやろうッ!」

そうして見つけた。
もう既に遠く、それなりに距離が開いている。この場から離れようと揺れる茂みに僅かに頭部を覗かせている。火の粉が舞う奥にカニエス達チーム3の三人の姿を捉えた。

「ははは。本当に上手くいったようだな」
「だね。まさかレインがリーダーでしかも弱っているところに出くわすなんてね」

笑顔で話しているオルランドとシリカ。

「だがあの状況をゴンザ一人でしたのだと思うか?」
「…………さぁ?」
「いいから逃げますよ。ゴンザが怒り狂ってすぐに追いかけて来るでしょう」
「ああ」
「うん」

目の前で獲物を横取りされたのだから。確実にゴンザは怒る。それも相当に。
戦況を遅れて見に来ていたカニエスにも状況の整理に時間を要した。そうして得た話の中で、ゴンザの力が想像以上に上だったことに驚きを隠せないのだが、降って沸いた機会を逃すこともない。

(マリン様、申し訳ありません)

共闘を持ち掛けておきながら相反する行動。しかしレインを殺させるわけにもいかないのは日ごろからマリンの感情の機微を目にしているカニエスにしても同じ。であれば出来る事は少ない。
今できること、レインを倒すことだけに専念し、遠隔魔法である爆裂魔法を用いて見事にそれを成し遂げる。

「テメェら待ちやがれッ!」

遠く響く怒声。
カニエス達が素早く駆けながら振り返ると、遠くに見えるゴンザが物凄い勢いで迫って来ているのが視界に入った。

「なんだアイツ!?」
「早く早くっ!」

怒るのはわかっていたのだが、殺気を伴うその様子は予想を上回っている。逃げるようにして、慌ててカニエス達はその場を後にした。

「「…………」」

ひゅるひゅると宙を舞っているレインをドサッとナナシーが受け止める。

「レインくんは?」
「大丈夫。気絶しているけど、生きてるわ」
「そっか。よかった」

まだ安心できる状態ではないのだが、巻き起こった爆裂魔法程度ではレインが死なないことを二人とも理解している。

「じゃあサナ。そういうことみたいだから私達はここで負けね」
「うん」

レインが倒されたことでチーム4の二回戦は敗退。直に魔印の反応を得た教師達がこの場に駆け付け、森を出なければならない。

「燃えちゃった」

魔素によって生み出されたとはいえ、木々や植物は間違いなく本物。せめてなんとかしたいものだがなんともならない。レインを腕に抱くナナシーが浮かべる儚げな表情。

「あっ、ちょっと待って」
「え?」

声を掛けなければいいのではないかというナナシーの疑問。
敗退したチームが残っているチームに介入すると罰則が科されると説明されている。敗退者は黙ってその場を離れなければいけないのだが、サナはニコッと笑みを浮かべた。

「大丈夫」

ナナシーの表情から読み取れる疑問を理解しているサナは笑顔を向ける。
そのまま両手を上方にかざした。

「ウンディーネさん。力を借ります」

右手のブレスレットが仄かに青い光りを放つ。

雨の矢シャイニングレイン

ズモモと燃える木々の上に生まれる黒々とした雲。それはまるで雨雲。

「あっ……」

ぽつぽつと、ナナシーの頭や肩を濡らす滴。そのまま急速に勢いを強めるその滴、雨は大粒となり轟々と燃える木々の上に降りかかった。

「威力はだいぶ抑えておいたけど。これでいいかな?」

元来、広範囲攻撃魔法であるその魔法。突き刺さる程の針の雨を降らすのだが、ウンディーネの力を行使することで微調整を可能にさせた。

「…………うん、ありがとうサナ」

雨を発生させて消火したのだと理解したナナシーは満面の笑みをサナに向ける。
そうしてそのまま森の影に姿を消していった。





ヨハンが森の中で追いかけるのはローブの後ろ姿。

「どこにいくつもりだ?」

どうしてガルアー二・マゼンダ、魔族がこんなところにいるのか理解できない。目的を探るために追いかけていたのだが、何か行動を起こすようにも見えない。それどころかこのままいけば火時計の位置からしてその先は魔導闘技場の外壁付近。

「仕方ない」

もしかしたらもう何かしらの目的を達成したのかもしれないと考える。

「ドグラス!」

大きく声を掛けると、前方を駆けていたローブはピタと足を止めた。

「その名前を知っているということは……」

振り返り、声の主を確認するドグラス。離れた場所にいるヨハンを見つけるなり薄く口角を上げる。

「そうか、やはり貴様か」
「ドグラス。どうしてお前がここにいる?」

深い森の中、シグラム王国のそれも学年末試験で再びまみえることになるとは思ってもみなかった。

「それとも、ガルアー二・マゼンダと呼んだ方が良かったか?」

ヨハンの言葉を受けたドグラス――ガルアー二・マゼンダはピクリと眉を動かす。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

処理中です...