430 / 724
学年末試験 二学年編
第四百二十九話 狂気
しおりを挟む燃える森の中で何度も交差する二つの影。
「おいおい、マジでどうなってやがんだ?」
レインが呆気に取られるのは、ナナシーがすぐにゴンザを倒すと思っていたのだがまるで倒しきれない。それどころか息を切らせ始めているのはナナシーの方。
「クックック。テメェ、やっぱりその程度じゃねぇかよ?」
「……はぁ、はぁ。言って、くれるわね」
一回戦とはまるで別人。確かにその時の印象が残っていたのは否定しないが、そんなレベルでの話ではない。
「お、俺も!」
加勢しようと踏み込もうとしたのだが、ドンっと目の前の地面が爆ぜる。
「レイン。てめぇはあとでじっくりと料理してやるから大人しく順番を待ってやがれ」
片手をかざして魔法を放っていた。
「大丈夫よレイン」
軽く目が合うナナシーは笑みを浮かべている。
現在のリーダーはレインが務めている。下手に参戦してレインが倒されでもすればその時点で終了してしまう。
(けどよぉ……)
このまま後手に回っていてもいいものかと。
主たる作戦勘案者であるマリンが敗退したことによって今は二人だけ。果たしてどう動くのが正解なのか。
考えがまとまらないまま、ナナシーは真っ直ぐにゴンザを射抜く。
「どうやったのか知らないけど、どうやらあなたは力を身に付けたみたいね」
「あん?」
ナナシーの言葉の意味を全く理解できないゴンザは一瞬だけキョトンと目を丸くさせるのだが、すぐに口角を上げた。
「おいおい。言い訳かよ。みっともねぇな。テメェらエルフなんぞ時代錯誤な種族がいつまでも人間様よりも強いとか勘違いするなよな?」
「そういう減らず口をいつまで叩けるのか見物ね」
「ごちゃごちゃくっちゃべってねぇでいいからかかってきな、だっけか?」
そのままくいッと指を一本、招き寄せるようにして動かす。
「……ふぅ。仕方ないわね」
小さく息を吐いて、ナナシーはブツブツと詠唱を始める。
「清き深緑が持ち得し生命の源よ。我に力を貸したまえ」
いくつもの燃える木々の中、熱風に揺らされる未だ燃え移っていない木の枝がバサバサと激しさを増して葉を地面に落としていった。
木の揺れが激しくなったことに気付かないゴンザなのだが、ナナシーがスッと手の平をゴンザに向けた途端、小さな魔方陣がゴンザを取り囲むようにいくつも現れる。ゴンザはすぐさま眼球を動かして魔方陣に目を送った。
「落葉刃」
ナナシーが小さく呟いた直後、中空を舞う木の葉がポッと小さく光を灯すと同時にゴンザの身体に描かれる魔方陣に向かってまるで鋭利な刃物かのように、鋭い刃となっていくつも襲い掛かる。それはさながら的を目掛けたナイフの投擲かのよう。
「ぬおっ!?」
突然襲い掛かる木の葉に驚きを隠しきれないゴンザは身体にいくつも切り傷を負っていった。
「チッ!」
ブンッと大きく大剣を振るい、木の葉を切り払うのだが、如何せん数が多い。全てを切り払うことができないどころか的もまた小さい。ブシュブシュと切り傷から血が滲み出ていく。
「このやろう。手の込んだことしやがって!」
「降参するなら今の内よ? でも今さら謝っても許さないけどね」
「ハッ! 誰が降参するだって?」
剣で切り払うことを諦めたゴンザは対象をナナシー一人に絞った。木の葉で傷を負うにせよ、一枚一枚の威力はたかが知れている。
「こんなもん、テメェを倒せば済む話じゃねぇかよ」
術者を倒せばいいと考え、ドンっとゴンザは一直線にナナシーに向かって踏み込んでいった。
「懲りないわね」
確かに踏み込みの速度は劇的に向上しているのは間違いない。しかし回避に専念すれば十分に躱しきれる。
「はっ!」
軽く跳躍して、ゴンザを飛び越えるようにして反対側に移った。
「え?」
しかしゴンザは躱されたことを意にも介さず、そのまま大剣を大きく振るいナナシーの背後にあった樹を両断する。
「上手く躱したじゃねぇかよ」
「…………」
疑問を抱きながら先程の攻撃の意図を読み解こうとするのだが、それよりも早くゴンザが次にする動きで確信を得た。
「やっぱ動くやつはめんどくせぇな」
斬り倒した木の横にあった樹木に向けて背を向けながらも大剣を片腕で軽々と振るう。
ザンッと音を立てる木は真横に斬られると、バササッと地面に向けて大きく倒れた。
「こいつみてぇにジッとしてろ。殺してやるからよぉ」
ニヤニヤとしているのは、ゴンザにはナナシーの怒りが手に取るようにわかる。
ギンッと睨みつけられるその双眸にははっきりとした敵意が向けられていた。
「あなた、調子に乗り過ぎよ」
「だったら止めてみな」
樹をこいつと言った辺りからしてもそう。ナナシーが、エルフが生命を脈々と感じさせるその木々達を愛おしんでいることを知っている。だからこそゴンザはわざと木を切り倒していた。
そしてもう一つ。斬り倒したことで明らかに落葉刃によって襲い掛かられる木の葉の勢いが緩んでいる。
(これ以上は……)
落葉刃は長時間行使できる魔法ではない。無数の刃の分だけまだ生きている葉を使わなければならない。これ以上斬り倒されれば木々が大きく負担を強いられる。
チラリとレインを視界に捉えるのだが、すぐさま否定する様に小さく首を振った。四の五の言っていられない状況かもしれないのだが、これはあくまでも試験の一環。エルフとしての私情、種族としての事情や感情を混同させるべきではない。
必死に自制を効かせて、リーダーであるレインがこの場をやり過ごすことも同時に進めなければいけないと考えた。
「こないようなら全部切ってやるぜ! その方がスッキリするだろ?」
再び木に向けて剣を構えるゴンザ。これ以上好き勝手させるわけにはいかない。
奥歯を噛みながらゴンザに向けて踏み込んでいく。
「おいおい。余裕がないんじゃねぇのか? まるでこっちが人質を取ってるみたいじゃねぇかよ」
ニヤニヤとしながらナナシーの拳圧を躱しながら大剣を横薙ぎに振るった。
「あぐっ!」
凄まじい衝撃を腹部に受けたナナシーは勢いよく吹き飛ばされる。
ゴロゴロと地面を転がりながらもバッと両手を地面に着けて勢いよく起き上がった。
(こいつ……あんなの普通死んでるわよ)
闘気を扱えない者であれば間違いなく真っ二つに両断され即死している程の一撃。
およそ学生らしくない、それどころかナナシーが知る人間らしくない行動。確かに自身を相手にするのに遠慮はいらないのだが、その加減のなさにどこか狂気染みたモノを得る。
「――……あっ!」
次の瞬間、思わず小さく漏れ出る声。ゴンザの背後から両手に持つ短剣を振るっているのはレイン。
「てめぇは後回しだって言っただろうが!」
レインの気配を察知したゴンザは屈んで短剣を躱すなり後方に蹴りを放った。
「ごっ!」
呻き声を上げるレインは後ろに吹き飛ばされる。
「んの野郎ッ」
クルっと半回転するレインは木の幹を大きく蹴り抜いて再びゴンザ目掛けて迫った。
「うぜぇ!」
レイン目掛けて大剣を振るおうとするのだが、地面から素早く伸びる蔓がゴンザの身体にまとわりつき、それは大剣を振り上げている腕にも絡みつく。
「ナイスアシストっ!」
ゴンザに向けて手をかざしているナナシーの援護。
(こいつ相手に遠慮はいらねぇっ!)
闘気を扱えない者に対して闘気を用いた攻撃をすることは禁じられていた。身体強化を施さなければその一撃によって生命を危ぶめることになるのだからだと。
しかし、くすんだ色はしているものの、間違いなくゴンザは闘気を使っている。今まで見たこともない色をしていたのだが、もう断定していた。
迷うことなくゴンザに向けて両の手の短剣を瞬時に振るうのだが、ブチブチと鳴らす音と共にレインが直後に得る肩への強烈な鈍痛。
「がはっ!」
大剣を受けて地面に叩きつけられる。
「レインっ!」
ナナシーが声を上げるのは、間違いなくゴンザを拘束していた蔓なのだが、蔓は引き千切られた上でレインへ向けて反撃を加えていた。
「死ねやっ!」
「ぐぅ」
「レインッ!」
意識を朦朧とさせているレインに向けて再び振り下ろそうとしている大剣。次の一撃を喰らえば意識を刈り取るどころか命すら危うい。
グッと地面を踏み抜いて加勢に向かおうとするナナシーなのだが、視界の端を横切る大きな青い塊。それが水の塊なのだとすぐに理解したナナシーは思わず目で追ってしまう。
「ぶはっ」
顔面に巨大な水撃を受けたゴンザは僅かに後退りした。
「誰だッ!?」
ポタポタと滴を垂らしながら、突然の攻撃に怒りを露わにしたゴンザは水撃が放たれた方角を見やる。
「…………ゴンザくん。それ以上はだめよ」
「あ?」
ゴンザとナナシーの視線の先に映ったのは、戸惑いと困惑を抱いているサナの姿があった。
0
お気に入りに追加
473
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~
アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。
金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。
俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。
そして毎日催促をしに来る取り立て屋。
支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。
そして両親から手紙が来たので内容を確認すると?
「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」
ここまでやるか…あのクソ両親共‼
…という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼
俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。
隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。
なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。
この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼
俺はアパートから逃げ出した!
だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。
捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼
俺は橋の上に来た。
橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした!
両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される!
そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。
ざまぁみやがれ‼
…そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。
そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。
異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。
元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼
俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。
そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。
それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。
このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…?
12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。
皆様、ありがとうございました。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます
空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。
勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。
事態は段々怪しい雲行きとなっていく。
実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。
異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。
【重要なお知らせ】
※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。
※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる