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碧の邂逅

第 四百十三話 閑話 サナ達への依頼⑦

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(お、おれ、別にこれ考えてないんだけど……)

パチッと片目を瞑るサナを見て先程の言葉の意味を理解した。

(そうかこの姉ちゃん、俺に華を持たせようとして)

ならば折角の気遣いを快く受け入れようとゆっくりと口を開こうとしたところ、先に口を開いたのはローラ。

「すごいじゃないキッド!」
「え?」

目をキラキラと輝かせて憧憬の眼差しを向けられる。

「私、キッドがこんなの考えられるだなんて思ってなかった!」
「あっ……」
「これを私に?」

満面の笑みを浮かべるローラを見て迷いが生じた。本当に嘘をついていいものなのかと。

「そ、それは確かにローラに贈るプレゼントだ」
「ありがとう!」
「け、けどな……――」
「けど?」

僅かに首を傾げるローラ。

「――……それを考えたのは俺じゃない」
「え?」
「本当はその花、月光草を採りに行っただけだ。アイデアも出してなけりゃ作ってもらうのに金も払ってない」
「……そう」

真っ直ぐにローラの顔を見ることが出来ない。今どんな顔をしているのだろうかと考えるも、明らかにがっかりさせたに違いない。

(あーぁ。正直に言っちゃった)

サナも折角お膳立てしてあげたのにと思いながら苦笑いを浮かべる。

「ありがとうキッド」

優しく掛けられるローラの言葉。

「「え?」」

サナとキッド、同時に漏れ出る声。

「どうして? 俺何もしてないぞ?」
「ううん。キッドは何もしていないなんてことはないわ」

どういうことなのかキッドには理解できない。

(余計なお世話、だったみたいね)

だがサナには理解できた。
サナは余計な世話と思っているのだが、結果的にこれが良い方向に転がるのはヘンリー子爵の表情が先程までの厳しい表情とは微妙に変わっている。

「キッドは、私のことを想って何かを贈りたいっていう気持ちで行動してくれたのよね?」
「お、おぅ」
「それがこの結果を生んでいるのよ」
「それってどういう?」
「キッドが動かなければこの結果はなかったわけなの。きっかけは間違いなくキッドだったの。だから何もしていないなんて、そんなことないわ」

クルクルと店内を光らせる魔道具などこれまで見たことがない。それ程の物を作るきっかけをキッドが作ったのだと。ローラはそう言いたかった。
サナがナナシーに目配せしたところで店内の灯りが点く。

「ごめんねローラちゃん」
「いいえ。わかってます。サナさんはわたしとキッドのことを考えてくれたのですよね」
「まぁ……」

そういえば頭の良い子だったなと今更ながらに思い出す。

「あっ、でも月光草はキッドくん一人で採ったのは間違いないからね」
「それは本当だ」

えへんと胸を張るキッドを見てローラは口元に手を当ててクスクスと笑った。

「変わってないわねキッド。自信のあるところは堂々と言うところなんて特に」
「うむ。大変良いものを見せてもらった」

満足気な様子を見せているヘンリー子爵。

「このような物があれば周りに自慢できるな」

ウンウンと頷いているヘンリー子爵は貴族同士の社交界で用いようと考えている。

「ダメよお父様!」
「ん?」
「これはキッドが私にくれたものであって、お父様に贈られたものではありません」
「し、しかしだなローラ」
「ダメなものはダメです!」
「ぐっ!」

こうなっては融通の利かないことを誰よりも父であるヘンリーが一番よくわかっていた。

「な、ならばこれの量産をすれば……」

チラリとサナ達を見る。

「まぁ、それぐらい大丈夫です。元々グスタボさんも商売にするみたいでしたのでそのうち出回るかと」

今回のはあくまでも試作品。しかし月光草が採れるのは翌月の満月。

「グスタボか。聞いたことあるな。確か最近質の良い魔灯石を使った照明器具を売っていたな」

顎に手を当て思案するヘンリー子爵。

「ではすぐにそのグスタボという者のところに案内してくれないか?」
「えっ!?」

ガタンと立ち上がった。
そうして店の外へすぐに出ると待たせていた馬車に乗り込む。

「じゃ、じゃあ俺はこれで」
「何を言っておる。お前も来い」
「え?」
「元々の発案はお前だ。お前がおらんと話にならん」

というヘンリーの打算。これからグスタボに商談を持ち掛けようとしていた。
わけもわからずそのままグスタボの工房へ連れられる。


「おいおい、もう来たのか?」

馬車で追いかけたのでグスタボも丁度帰って来たところ。

「もう一つはまだ作れてないぞ」
「あなたがグスタボ殿か。折り入って相談がある」
「誰だあんた?」

見た感じ富裕層の人間なのだということはわかる。
そうしてグスタボとヘンリーは二人だけで会話を、商談を始めていた。

「――……決まったな。よろしく頼む」
「いや、こちらこそ」

満面の笑みのグスタボとヘンリー。がっしりと握手を交わしている。

「お嬢ちゃん、アレの販売だが、このお方が独占販売権を得ることになった」
「はぁ」

商談は互いに利のある事。
社交界での展示と販促活動をヘンリー子爵が行い、グスタボの工房での生産。元々グスタボからしても商売になると踏んでいたので好都合だった。
いくら素晴らしい商品だからといっても、宣伝と販路は必要。

「良かったな。じゃあ俺は今度こそ帰るから。じゃあなローラ。元気でな」
「あっ……」

笑顔で駆け出すキッドに向けて言い淀むローラ。

「これこれ、どこへいく」

ヘンリーがそのキッドの腕をガシッと掴んで引き留める。

「へ、ヘンリーおじさん?」
「まだ話は終わっておらん。そもそも、聞けばお前は金が入り用ではなかったのか?」
「それはそうですけど」

もうローラに会えたしプレゼントも贈れたことからして今となっては急いで入り用というわけではない。

「だったら話は早い」
「キッドくん。もし良かったらうちで働いてみないか?」
「俺が?」

顔を指差すキッドは突然の展開に思考が追い付かない。どうしてそんなことになるのか。

「これが軌道に乗れば人手が足りないのは目に見えている。それに元々君が持ってきた話だ。手伝ってもらえないか?」
「け、けど……」

チラリと視線を向ける先はヘンリー子爵。
悩んでいるのは自分の今住んでいるのは特別保護地区、通称スラム街。

「キッド、さっきはきつく当たったようですまなかったな。ローラの笑顔を見て私も思い直したよ。先のことはわからないがローラの気持ちを優先しようと」

ヘンリーはローラの頭をポンと叩く。

「だから、ここでお前が働いたのならば今後ローラも私の手伝いとして商品の受け渡しに来させることもあると思うが?」
「「!?」」

キッドとローラ、二人して目を見開いた。

「ありがとうお父様!」
「いやいや、はははっ」

ガシッと父に抱き着くローラ。

「で、でもスラムの俺だと」

迷うのは互いの立場の違い。

「だったらここに住めばいいのじゃない?」
「「「「えっ!?」」」」

何の気なしに発言したナナシー。

「だって目的があるのよね? 私も前に村長のところに住まわせてもらってたし、今もヨハンのところで見習いしてるから、それと同じじゃないの?」

何を気にしているのかナナシーには理解出来ない。

「なるほど。その手があったな。確かに弟子が欲しいと思っておったところだ。別に住み込みでも構わんぞ?」

ポンと手を叩くグスタボ。

「キッド! この話絶対受けよう! 私毎日でもここに来るから!」
「おいおい、毎日はさすがに」
「お父様ッ!」

キッとローラは父を睨みつける。

「わ、わかったよ」
「キッド、言葉遣い!」
「わ、か……りました。お、いや、ぼ、僕、ここでお世話になってもいいですか?」
「うむ。これで話しはまとまったな」
「やったぁ!」

諸手を挙げて喜ぶローラ。

「良かったねローラちゃん」
「はい! これもサナさんのおかげです! ありがとうございます!」

そうして一連の騒動はキッドがグスタボの工房にて住み込みで働くことによって結末を迎えた。





「――……って、そんな感じだったの」
「へぇ。じゃあグスタボさんは弟子を取ったんだね」
「これからはキッドくん次第だけどね」

夕方、ヨハンの屋敷を訪れたサナはその話を聞かせていた。

「僕もそのガラス玉見て見たかったな」

どれだけ綺麗なのか気にもなる。

「えへへ」

メイドのネネが部屋の灯りを消すと、サナは鞄からガラス玉を取り出した。

「あっ、もしかしてそれが?」
「うん、これがその月光草のガラス玉です」
「へぇ」

帰り際、グスタボが急いで仕上げたガラス玉を受け取っている。
キラキラと部屋の中を回りながら輝く様は綺麗としか形容のしようがない。

「これ、名前はあるの?」
「まぁ……でも恥ずかしくて」

照れるサナはグスタボにこのガラス玉、魔道具の一種なのだが、その命名権を与えられていた。

「教えてよ」
「でもぉ」

もじもじと身体をくねくねとさせるサナ。
断ってはいたのだが、どうしてもと懇願された結果。後にして思うと恥ずかしくて仕方がなかった。

「【月夜の散歩】なんだって」
「あっ!」

そこに言葉を差し込むナナシー。

「良い名前じゃない」
「私もそう思うけど?」
「あ、ありがと」

しかしここでは絶対口にできない個人的な感情、気持ちが名前に入ってしまっている。

(い、言えない。ヨハンくんと月夜の散歩がしたかっただなんて)

満月に照らされた草原の夜道を二人で散歩をしたいと、もちろん恋人としてという気持ちが込められていた。

そうしてその後、グスタボの工房で働くことになったキッドは月に数回ローラと会うことになり、その親交を深めることになる。
キッドを小馬鹿にして皮肉を言っていた青髪の少年グリムは「キッドに出来て俺にできないはずはない! ローラは俺のものだ!」と対抗心を燃やして様々な商品を考案しては販売するのだが、そのどれもが鳴かず飛ばずに終わるのだった。

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