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碧の邂逅
第 四百五 話 水中遺跡⑱
しおりを挟む立ち昇るいくつもの水柱がサナとウンディーネを四方八方から取り囲んでいる。
「ではこれより契約を交わそう。なに、そんなに緊張せずとももう試練は終えておるのだ。それほど難しいことではない。いくらかの事項を確認するだけだ」
意思を持つ格のある上位精霊と契約を交わす際には条件がいくつかあった。
試練も精霊自身、今回に限ってはウンディーネが提示しているものなので必ずしもどの精霊にも存在しているというわけではない。
「どうして我の試練をお主、サナが受けることになったのかということに関してだが、それについては詫びよう」
「詫び? 謝るの?」
「ああ。もう遠い昔の話なのだが、お主がサーシャに似ておったのだ。そのため我の魔力が無意識に反応したようでな」
「サーシャ、さん、ですか?」
一体全体どういうことなのか理解できない。
困惑しているサナの表情を見ながらウンディーネは小さく笑う。
「理解せずとも良い。こちらの事情だ」
「はぁ……」
「とにかく、だ。お主は我と契約を交わして何を望む?」
「望み?」
突然の質問に対して持ち合わせる答えはない。契約を求めて遺跡を訪れたわけではないのだから。
「…………そんなものはないわ」
「ならば契約を破棄するか?」
「いえ……――」
例え才能が、素質がなくとも、努力した結果届かなかったとしても、出来得る限りの努力はする。何かきっかけがあるのなら藁をも掴む思いで縋りつくつもりもあった。
「――……あなたの力を貸してもらえるのなら、是非お願いしたいです」
「ふむ。この期に及んで未だにお願いをしてくるか」
「いけませんか?」
「いやなに、存外無欲なのだなと思ってな」
試練を通してウンディーネはサナの思いや経験をある程度は把握している。
それに試練を遂げられた以上、精霊術士の素質の有無に関わらずなんらかの契約は交わさなければいけない精霊としての制約があった。
それを話の主導権をウンディーネが持っているにしても、使役するといった態度を一向に示さない。
(どこまでもサーシャに似ておる)
首を傾げているサナにニコリと笑いかける。
「では、これより我の力をそなたに貸与しよう」
そこでサナの腕に着けられているブレスレットを見た。
「その装飾品、それが丁度良いな」
「これ?」
チャラっと音を鳴らし、腕を上げる。
「うむ。それは魔力が込められておるが、ほとんど霧散しておる。本来の契約は術者の体内に我と術者を繋ぐ境界を作るものなのだが、術者でない場合には媒体となる何かが必要なのでな。その装飾品からは大事にしたいという気持ちが込められておるのもまた都合が良い」
「……うん」
グッと胸元に腕を持っていき、サナは力強く手首を握った。
「では何度も言うが、所詮我の力の貸与に過ぎないので過分な期待はするでないぞ? 今よりもいくらかできることが増えるという程度だ」
「いえ、それだけでも十分です」
水魔法の扱いに長けるというものが基本的な恩恵。
元々サナの得意な魔法は水系統であったのでそれもまた都合が良い。できないこと、苦手なことを克服したところで程度は知れている。であれば得意なことをより伸ばした方が良い。
「まぁ考え方はそれぞれだな。では……――」
ウンディーネは手の平を重ね合わせるとすぐに詠唱に入る。
「我の名はウンディーネ。人より名付けられしこの名を用いて、今ひとたび彼の人間、サナへと我の力を貸し与えたまえん」
言い終え、重ね合わせた手の平を僅かに広げると、そこには光を放つ小さな水の塊、水球が浮いていた。
目を奪われる程に綺麗な輝きを放つ水の塊は真っ直ぐにサナの腕のブレスレットに向けて飛んでいき、ビュルっと吸い込まれるようにして入っていく。
「さて、これで終わりじゃ」
「え? もう?」
「なんじゃ、不満か?」
「あ、いえ、そんなわけじゃ」
慌てて両手を振るサナ。
「心配せずとも、あとをどうすればいいのかということは自然と理解できるようになっておる」
そうしてウンディーネは片手を高々と掲げると、四方を取り囲んでいた水柱は勢いを緩めてすっと地面へと消えていった。
「終わったのサナ?」
「うん。そうみたい」
「ではもし用事があればここに来るが良い。いつでも歓迎しよう」
「ありがとうございます」
微笑みを向けられたウンディーネはサナの笑顔の奥にかつての親友の姿を重ね合わせる。
「じゃあ帰ろうかサナ」
「うん。すぐに魔法をかけるね」
「帰りぐらいは送ってやろう」
「え?」
ウンディーネが再び手を掲げると、ヨハンとサナの周囲を取り囲むように泡の膜が出来上がった。
突然泡の膜に覆われたヨハンとサナに仰天していた背後のレインとエレナにナナシーに対しても腕を向け、同様の泡に包まれる。
「ありがとうウンディーネさん。この力、大事に使わせてもらいます」
「うむ。それがサナの想いを遂げる一助になれば我も少しは楽しめよう」
「じゃあ、さようなら」
「ああ」
そうしてウンディーネが腕を大きく振るうと、泡に包まれたヨハン達はビュンっと元来た道を引き返していく。
バタンと閉まる部屋の扉を見送るウンディーネは小さく呟いた。
「ふむ。魔族らしき気配を感じておったので警戒を高めておったのだが、これはどういうことだ?」
しかし気配を感じ取っているだけ。一向に姿を見せない。
「まぁ良い。何も起きないということは我に関係することではなかったのだろうな。それに魔族も衰退したと聞いた。今さら何もできはしないだろう」
遺跡への侵入の目的とはまた別なのだろうと結論付けたウンディーネは再び眠りについた。
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