上 下
388 / 724
碧の邂逅

第三百八十七話 林間学校⑤

しおりを挟む

(次も……違う)

次の料理は山菜とコットンラビットの肉炒め。

(サナ、料理本当に上手だなぁ)

つい比較してしまったのはナナシーの料理と。
家庭的な雰囲気を感じるその料理は薄めの味付けなのだが、素材の味を十分に生かした料理。

「美味しいよサナ」
「えっ!?」
「あっ」

カレンの料理ではなかったことの安堵から思わずサナの名前を口にしてしまう。

「っつうううう!」

叫びたい衝動を抑えてサナは口許に手を当てピョンピョンと跳ね、そのまま着地して小刻みに足踏みするなり大きく深呼吸をすると、どうだとばかりにすぐさまフフンと満面の笑みをエレナとモニカに向ける。

「ヨハンさん。どうしてサナだと?」

サナの動きに内心腹立たしさを得ながらもエレナが問い掛けた。

「あっ、いや、別にサナだけじゃなく、エレナとモニカのもわかったつもりだったんだけど?」
「え?」
「最初のがエレナで、二番目のがモニカだよね?」

ヨハンの推測と一致していることにポカンとさせる。

「……正解、ですわ」
「良かった」

返すように腰に手を当てニコリと笑みをサナに向けた。

「だったら、目隠ししても無駄だったってこと?」

首を傾け問い掛けるモニカ。

「あー、うん、結果的にそうなっちゃったみたいだけど、でも三人とも凄く美味しかったよ。なんていうか、三人の個性がちゃんと出ていたからわかったっていうのかな?」
「……そう、でしたか」
「だから優劣なんてつけられないよ。三人には三人の良さがちゃんとあるんだから」

その言葉が聞けただけでも十分。むしろ見事に言い当てられただけでも気持ちとしては嬉しい。
勝負は無駄ではなかったのだと。そうしてエレナは仕方なしとばかりにカレンに目線を向ける。

「でしたらカレンさんの料理が一番だと言って頂いても構いませんわ」
「あっ、エレナさん、それはないから大丈夫だよ」
「え?」

途端に口を挟むニーナ。もう結論、結果は出ていた。ある意味勝負は決している。

「どうしてニーナ?」
「お姉ちゃんも見ればわかるんじゃない?」
「なに言ってんだニーナ?」

ニーナの言葉の意味がわからない一同なのだが、レインが残る一つのクローシュを外した瞬間に全員が硬直した。そうしてニーナの言葉の意味をすぐに理解する。その皿の上にある黒い塊を見て。

「ちょ、ちょっと失敗しちゃったみたいなの。焼き過ぎたのかしら? ほら、コットンラビットのお肉ってすぐ焦げちゃうでしょ?」

ニコリと誤魔化すような笑みを作るカレン。直後もわっと周囲に異臭を放つ。

「で、でも、食べたら美味しいはずだから! 誰が調理しても美味しいのがコットンラビットなのよ」

慌てて訂正するカレンなのだが、とてもそうは見えない。

(……食べられないですわコレ)
(……焼きすぎ? そんなレベルじゃないわよ)
(……マズそう)

憐れみにも似た表情でエレナとモニカとサナはカレンを見た。

「だ、だって仕方ないじゃない! あなた達が急に料理勝負だなんて言い出すから、こっちも心の準備ってものができてなかったのよ!」

口数多く言い訳を捲し立てる中、レインも考える。

(おいおい、これどうやって収拾つけるんだよ)

内心、これをヨハンに食べさせることに罪悪感が生じていた。さすがにいくらなんでも可哀想だと。

「とにかく、一度食べてみてから判断しなさいヨハン! それでダメなら諦めるから!」
「ええっ!?」
「食べてもらってないのにおめおめと負けを認められないわよっ!」

この流れでいけば食べなくて済むかもしれないと期待したのだが、どうやらそうもいかない。急いで解毒と治癒をするために魔力を練り上げた。

(すまん、ヨハン!)

ヨハンの口にプルプルと手を震わせながらフォークを運ぶレイン。
これが生み出す結果に抱く恐れ。
ヨハンの口の中に黒い塊が入ろうとしたその瞬間。

「ちょっとあなた達!」

バンッと勢いよく扉を開けられた。

「せ、先生!?」

その場に姿を見せたのはシェバンニ。

「えっ?」

先生、と聞こえたことにより無意識に反応するレインの身体。
聞こえた声からして相手は間違いなくシェバンニ。これまで何度となく怒られ続けたことが咄嗟にその行動、反射的にレインの身体を動かす。
瞬時に黒い塊を隠蔽しようと、手に持っていたフォークを急回転させ自分の口の中に隠した。もぐもぐごっくん、と。

「ここにニーナがいるというのは本当ですか!?」

しかし用件はまた別。レインは何もしていない。
そのままシェバンニは視界にニーナを捉える。

「あなたはまた勝手なことして!」
「ご、ごめんなさい」

すぐさま謝罪を口にするニーナに呆れながら溜め息を吐くシェバンニ。

「ついこの間話したばかりでしょう!」
「そうだけど、楽しそうだったから」

その様子をモニカ達は呆気に取られながら見ていた。

「ちょ、ちょっと何がどうなってるのレイン?」

声だけでは状況の理解が追い付かない。何が起きているのかと目隠しを外すヨハンの先には泡を吹いて倒れているレイン。

「ぐっ、ぐうっ……」
「れ、レインっ! しっかりして! レイン!」

必死に呼びかける。

「ダメだ! 早く治癒魔法を施さないと!」

急いで治癒魔法と解毒魔法を施す。
予め想定していたおかげで以前よりも手早く処置することができた。

「何が起きているのですか?」
「「「「…………」」」」

シェバンニはただニーナがいるという他の学生の目撃情報を元にここに来ただけ。
そのため状況が理解できずにエレナ達に問い掛けるのだが、エレナ達の視線の先にはカレン。ヨハンが無事でレインが倒れている。
どう答えたらいいものなのかわからず答えをカレンに任せることにした。

「先生。レインはどうやら山で採れた毒草を口にしたみたいですのでヨハンはその治療を」
「毒草を?」
「はい」
「これだけいるのに毒草の見分けも出来なかったのですか?」

卓越した知識があるエレナとカレンだけでなく野草に詳しいエルフのナナシーもいるのだから。

「申し訳ありません。私の不徳の致すところです。既に調理を終えていたので見分けがつきませんでした」
「そうですか。あの様子なら死にはしないでしょうけど、気を付けてもらいませんと」
「はい」
「え? さっきから何を言ってるの? 違うよ?」

キョトンとしながらシェバンニとカレンの二人を見るニーナ。

「なんですかニーナ?」
「だからレインさんが倒れたのは――」
「先生はニーナを探しに来たのですよね?」

ニーナの言葉を遮るカレン。微妙に唇をヒクヒクとさせている。

「ええ。あなたも臨時とはいえ教師になったのですから、ニーナに甘い顔も程々にしてください。ルールを守らせないと」
「はい。申し訳ありません」
「いや、だから違うって!」
「ニーナ? ここはもう帝国ではないの。わたしも学校について学ばないといけないからニーナもしっかり学んでね」
「カレンさんっ!?」

ニコッと笑みを向けるカレンに対してあんぐりと口を開けるニーナ。

「では後のことは任せますね。私はニーナと少し話がありますから」
「わかりました」
「だーかーらーっ!」

確かに勝手に付いて来たのだが、事態が捻じ曲げられている。

「ちょ、ちょっとカレンさん!」
「文句は後で聞きますからとにかくあなたはこちらに来なさい」
「いってらっしゃい」

ずるずると引っ張られていくニーナに対してニコニコと手を振って見送っているカレン。

「さてっと。邪魔が入ったら仕方ないわね。シェバンニ先生もああ言っていることだし今回の料理勝負は無効試合、ということでいいかしら?」
「「「「…………」」」」

理不尽なまでの発言。思わず呆気に取られてしまう。
そうしてシェバンニの介入を良いことにうやむやにされてしまったのだが、カレンに対する共通理解は得られた。

(今後カレンさんに料理をさせてはいけませんわね)
(こんなに素敵な人なのに、苦手なことあったんだ)
(少なくとも、料理だけは私が勝ってるわ)

似たような見解を。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

【完結】異世界転移特典で創造作製のスキルを手に入れた俺は、好き勝手に生きてやる‼~魔王討伐?そんな物は先に来た転移者達に任せれば良いだろ!~

アノマロカリス
ファンタジー
俺が15歳の頃…両親は借金を膨らませるだけ膨らませてから、両親と妹2人逃亡して未だに発見されていない。 金を借りていたのは親なのだから俺には全く関係ない…と思っていたら、保証人の欄に俺の名前が書かれていた。 俺はそれ以降、高校を辞めてバイトの毎日で…休む暇が全く無かった。 そして毎日催促をしに来る取り立て屋。 支払っても支払っても、減っている気が全くしない借金。 そして両親から手紙が来たので内容を確認すると? 「お前に借金の返済を期待していたが、このままでは埒が明かないので俺達はお前を売る事にした。 お前の体の臓器を売れば借金は帳消しになるんだよ。 俺達が逃亡生活を脱する為に犠牲になってくれ‼」 ここまでやるか…あのクソ両親共‼ …という事は次に取り立て屋が家に来たら、俺は問答無用で連れて行かれる‼ 俺の住んでいるアパートには、隣人はいない。 隣人は毎日俺の家に来る取り立て屋の所為で引っ越してしまった為に、このアパートには俺しかいない。 なので取り立て屋の奴等も強引な手段を取って来る筈だ。 この場所にいたら俺は奴等に捕まって…なんて冗談じゃない‼ 俺はアパートから逃げ出した!   だが…すぐに追って見付かって俺は追い回される羽目になる。 捕まったら死ぬ…が、どうせ死ぬのなら捕まらずに死ぬ方法を選ぶ‼ 俺は橋の上に来た。 橋の下には高速道路があって、俺は金網をよじ登ってから向かって来る大型ダンプを捕らえて、タイミングを見てダイブした! 両親の所為で碌な人生を歩んで来なかった俺は、これでようやく解放される! そして借金返済の目処が付かなくなった両親達は再び追われる事になるだろう。 ざまぁみやがれ‼ …そう思ったのだが、気が付けば俺は白い空間の中にいた。 そこで神と名乗る者に出会って、ある選択肢を与えられた。 異世界で新たな人生を送るか、元の場所に戻って生活を続けて行くか…だ。 元の場所って、そんな場所に何て戻りたくもない‼ 俺の選択肢は異世界で生きる事を選んだ。 そして神と名乗る者から、異世界に旅立つ俺にある特典をくれた。 それは頭の中で想像した物を手で触れる事によって作りだせる【創造作製】のスキルだった。 このスキルを与えられた俺は、新たな異世界で魔王討伐の為に…? 12月27日でHOTランキングは、最高3位でした。 皆様、ありがとうございました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

処理中です...