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帝都武闘大会編
第三百四十九話 if もう一つの武闘大会決勝
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この話は【もし、ナイトメアの中身が爆撃のアリエルだった場合】の話です。
興味のない方は読み飛ばし推奨。
――◇――◆――◇――
栄誉騎士爵叙勲式が行われたその夜。アイゼンからラウルを伝って依頼を出されたのはアリエルとミモザの二人に対して。
ヨハンの本気の実力を観たいという要望を叶えられるのであればアリエルでもミモザでもアイゼンとしてはどちらでもかまわないのだと。
アイゼンは過去、ミモザとアリエルの現役時代、二人と約束していたことがある。
それは、アイゼンが帝位を継承することがあればどんなことでも一つ依頼を請け負うといった約束を交わしていたのだが、引退したミモザはその要望を頑なに拒否していた。
頑として受け入れない姿勢であるため仕方なく公正な勝負により後にヨハンと戦う相手であるナイトメアになる方を決めている。
『やったっ!』
『むぅっ』
『約束は約束だからね!』
『であれば貴様はアイゼンとの約束を守らないといけないのでは?』
『それとこれとは別よ! これはもう女神の私にはできないことなの』
『死神の間違いでは?』
『……怒るわよ?』
『冗談だ』
結果、アリエルがナイトメアとして参戦することになったのだが、その決定方法はジャンケンによるものだった。
◇ ◆ ◇
そうして迎えた帝都武闘大会決勝。
(まぁいい。これはこれで滾るものがある)
当初は乗り気ではなかったのだがもう既にアリエルもやる気は十分。思っていた以上に興が乗ってしまっている。
(この人……――)
ヨハンは対峙するナイトメアの強烈な気配を肌に突き刺さるようにビシビシと感じる。
それはまるでジェイドやバルトラと向かい合っていた時の様な威圧感。
(――……強い)
つまりそれだけの相手なのだとはっきりと断言できた。
会場が大歓声を上げる中、審判を務めるカルロスの手が勢いよく振り下ろされた。
様々な思いが交錯した決勝戦が幕を開ける。
(どういうつもりなんだろう?)
開始の合図と同時に地面を勢いよく踏み抜いて一直線にナイトメア目掛けて突進したのだが、白い仮面と黒いマント姿のナイトメアは回避する気配を見せない。
グッと腰を落としてヨハンの突進を待ち構えていた。
(あれは……手甲?)
マントの隙間から僅かに覗かせる手。その手に赤い手甲が見えている。体術を主体として戦う者の装具。
それを使ってどう対応されるのかを見極めようとするのだが、ヨハンが上段から振り下ろす剣に対してナイトメアは左腕を掲げてその剣を受け止めた。
ガギンと鈍い金属音を響かせる。
「――ッ!?」
微動だにせずに受け止められただけなのに相当な衝撃を受ける。およそ壊せそうにない頑強な武具。
しかし今はそんなことを考える余裕はなく、覘かせる反対側の腕が放つ気配がとんでもない。
ググっとほんの少し溜めた後に前に突き出されるその右の拳。
「ぐふぅっ」
咄嗟の反応で足を前に踏み出すように蹴り付ける。
避けることも適わない速さで振り抜かれたその拳によって腹部に強烈な打撃を受けてヨハンは後方に吹き飛んだ。
「――……ぐっ! 今のは…………」
すぐさま跳ねるようにして起き上がってナイトメアを見る。しかしナイトメアは追撃を仕掛けることなく尚も動く気配を見せない。
間違いなくヨハンがこれまで受けた攻撃の中でも最大級の一撃。咄嗟にナイトメアの肩を蹴りつけて後方に跳んで衝撃を逃がしていなかったら間違いなくその一撃で終わってしまうと錯覚させる程の威力。
(あの拳……)
見解通り。やはりナイトメアの武器は己の拳。
どう戦おうかと、腹部に残る鈍痛を堪えながら思考を巡らせる。
「だったら!」
弾け飛ぶように横に向かって走り出した。
ヨハンが次に選択したのは撹乱。動き回る敵に対してどういう対応をするのだろうかということ。
尚もナイトメアは動こうとしない。僅かに腰を落として重心を低くさせているのみ。
「どうして動かない?」
過る疑問を抱きながらナイトメアの後方から斬撃を振り下ろす。
「っ!」
すぐさま右腕を上げて防御姿勢になった。
ナイトメアは左足を軸足にして右足を回転させるように後方に回し蹴りを放っている。
「ぐっ!」
とてつもない衝撃を右腕に受けながらも左手のみで大きく剣を振り下ろした。
ドンっと鈍い音を立てながら得る感触。
「…………」
「ぐはっ!」
横に吹き飛ばされる。
すぐさま起き上がり、再び駆け回る様に素早く動き出した。
「さっきの感触……やっぱり生身だった」
どうしても確認しておかなければならないそのマントの下。
初撃は手甲によって受け止められていたのではっきりとわからなかったのだが、先程の一撃で受ける感覚は分厚い肉の塊に棒を叩きつけたような感触。片手だけの剣では与えられるダメージも微量。
「闘気の練度がかなりのもの」
それだけの相手。三回戦の相手のような、防御力が異常に高い鎧を着ているということはない。それでも十分な防御力を持ち合わせており、同時に生身の肉体でそれができる者など限られる。ヨハンの脳裏に一人の人物が過った。
「校長先生なら同じことできるだろうな」
思い返すその圧倒的な肉体。元々の肉体の強さと鍛え上げられた身体が誇る力強さは他の追随を許さない。
そのガルドフ校長との比較、ナイトメアはマントを着ているとはいえ、マントが覆う体躯はそれほど大きくない。むしろ戦士としては小柄に見える。
「…………強い」
しかしそれでも抱く印象は圧倒的なもの。
そうして動き回り思考を巡らせていくつか確認したところ、勝ち筋がそれ程多くないのだろうと悟った。それだけの相手であるならば現状打つ手は限られている。生半可な攻撃では通じない。
「はぁっ!」
即座に剣に闘気を流し込んで剣閃を放った。
「!?」
ナイトメアが受ける驚愕。
突如として飛来する斬撃、剣閃に対してナイトメアは拳を乱打して拳圧を飛ばす。
ドパアァァンと破裂音が響き、あまりにも大きいその音に思わず耳を塞ぐ観客がいる程。
「やっぱり!」
そこに勝機を見出していた。
剣閃に対して複数打の拳圧。一撃の威力では勝るのだと。これだけの相手であっても自身の剣閃は脅威に当たる。手数を掛けなければ剣閃を相殺できないのだと。
「はああああっ!」
相手に余裕を与えないため、時間を掛けずにすかさず剣戟を繰り出して剣閃を飛ばした。
縦横斜めにナイトメア目掛けて飛ぶ斬撃。
ナイトメアはドドドッと拳の乱打を繰り返して剣閃を相殺していく。
(これだけ距離があるのに……)
抱く疑問。
間違いなく剣や槍のような武器を介した方が闘気を飛ばす技、剣閃は空中でもその状態を維持できる。それだというのにナイトメアは手甲をしているとはいえ拳圧を飛ばしていた。
「もしかして?」
そんなことヨハン自身はできない。ニーナであっても竜人族の力を覚醒させ、天性の戦闘センスによってそれを成し得ている。
つまりそれだけのことができる人物などそうそういない。
それが可能である人物にも一人だけ思い当たる節があった。
「アリエルさん?」
大食い大会の時に目にしたアリエルの実力。全て出していたわけではないのだが、思い返せば身のこなしなどに近しい動きもある。
そんなまさかとは思うものの、大会が始まって以降、自身と同じようにしてアリエルも時折席を外していた。節々にそう思われても仕方ない発言が見られている。アリエルがナイトメアだと考える方が自然、色々と符合する。
その考えに至ると同時にヨハンはスッと剣閃を放つのを止めた。
急に降り止んだ剣戟の雨に対して、ナイトメアは微かに間を空けて直立する。
◇ ◆ ◇
「どうしたんですかヨハンさん? 急に攻撃を止めましたけど」
「あちゃあ、もしかして気付いちゃったのかな?」
「みたいだね」
アイシャが疑問符を浮かべる中、ミモザとニーナはその行動の意味を理解する。
「気付いたって……なにを?」
「もちろんナイトメアの正体がアリエルさんだってことに決まってるじゃない」
「えっ!? アリエルさん仕事があるって言っていたじゃないですか!?」
冒険者ギルドの長として大会の運営にあたり少しやらなければいけないことがあると言い残して席を外していたアリエル。
それがどうして今ヨハンと戦っているのか。
「これが、やらなければいけないこと?」
どういう理由があればそうなるのかアイシャは理解できない。
「まぁ色々とあるのよあの子にも」
もちろん私にも、と内心で考えるミモザは片肘を着いて溜め息を吐く。
「さて、そんなことより、こっからどうするのかなヨハンくんは」
カレンの為に非情になりきれるのかどうか。優勝する為にはそれが一番なのだが、アリエルが一切手を抜くことなどあり得ないということはミモザが一番知っていた。
◇ ◆ ◇
「――……アリエルさん、ですよね?」
剣を下げたまま問い掛ける。
「…………」
ヨハンの問いを受けたアリエルは手甲をした腕を仮面に送った。
「え?」
問い掛けの返答代わりに仮面を外すのだと思ったのだが、顔の前に持って来た手甲がボッと炎を灯しだす。
「…………」
腕に炎を宿したナイトメアは仮面を外すことなく一直線にヨハンに向かって跳躍した。
ヨハンはその場から飛び退き距離を取り直すのだが、ナイトメアはそのまま着地と同時に拳で地面、ヨハンがいた場所を殴打する
ドゴンッと激しい音を響かせ地面が円形に亀裂を入れて陥没した。
しかしそれだけでは終わらない。
ナイトメアが撃ちつけた地面から四方に向けて炎が迸る。
「アリエルさんじゃ、ない?」
確実に殺す気の一撃。背筋を寒くさせるだけの一撃。
回避しなければ下手をすればそれだけで終わりかねない威力。アリエルであればこれだけの殺意を込められる理由に覚えもない。
疑問を抱きながら、それと同時に会場中がざわつき始めた。
「え、えっと、これは……魔法、でしょうか?」
炎を生み出すなど、魔力を介さなければ通常あり得ない。カルロスの疑問を会場中も同様に抱いている。
「違います。たぶんあの手甲の能力だと思います」
カルロスの声が聞こえたヨハンがそれを否定した。
「そ、うですか?」
「はい」
なんとなくだが、魔法とは若干性質が異なる様に見える。
対戦相手であるヨハンが否定するのであればカルロスとしてはどうしようもない。
実際ナイトメアは魔法を使っていない。ヨハンは知り得ないが、爆撃のアリエルの二つ名を得た由来でもあるその爆発的な一撃と迸る炎。
「それよりも、もう少し離れていてくれた方が助かります。あれはかなり広範囲に広がるみたいですので」
地面を這うように広がる炎。チリチリと焦げ跡を残していた。
「わかりました。ではヨハン選手もお気をつけください」
「はい。ありがとうございます」
言い終えたカルロスは慌てて背後に向かって走り出し、観客席の外壁をよじ登る。
「とは言ったものの、実際どうしようかな」
ナイトメアの正体がアリエルだろうとなかろうと、とにかく今はあの炎に対して何らかの対応をしなければいけない。
「魔法が使えたら全然違うんだけどなぁ」
現状、炎を相殺する手段を持ち得ない。剣一つで対処しなければならない。
「…………」
思考を巡らせている間にも、ナイトメアは手甲に再び炎を宿し、その場で拳を乱打していた。
ゴオッと炎を纏った拳圧がいくつもヨハンに向かって迫る。
「っ!」
そんなこともできるのかと内心では驚嘆した。恐らく闘気と炎を混ぜ合わせたもの。
回避できない速度ではないので、縦横無尽に動き回りながら炎の拳圧を回避する。
「……そうか、魔法を使えないのはお互い様」
動き回り観察しながらの思い付き。だったらまだ手はあった。
それに、上手くいけばかなり動揺させることができて隙が生まれるかもしれない。
繰り出され続ける連撃がピタと止まり、ふと動きを止めているナイトメア。それを確認してヨハンもその動きを止め、ジッと見据えるようにしてナイトメアを見る。
(ふむ。この煉獄を相手にどうするつもりだ?)
アリエルはヨハンの気配が変わったことで攻撃を止めていた。
特殊武具である煉獄。魔力を炎に変換させる魔具の一つ。久しぶりに身に付けたのだが、それもこれが最後。この戦いが終わればニーナに譲渡するつもり。
(何か策があるのか?)
仮面越しに見るヨハンの姿はもう一人前の冒険者、それだけでなく相応の実力を備えているのだと判断出来る。
聞いていた通りのヨハンの能力、魔法を使った戦い方ならばまた対応を考えなければいけなかったが、アリエルからすれば武術のみの武闘大会は有利に働いていた。
外堀を埋めるようにじわじわと追い詰めて行けばいいだけ。
(この程度だとまだ脅威にすらなり得ないか)
しかしそれだけで終わらないと確信を抱かせるのは、向かい合うヨハンの目がまだ闘志を宿している。諦めていないのだと断言出来る。
「おもしろい」
仮面の中でアリエルは小さく呟き薄く口角を上げた。
目の前の少年が何を企んでいるのか、興味が尽きない。
そうして再びボボボッと拳を繰り出して煉獄の炎を同じようにしてヨハンに向けて飛ばす。これをどう対応するのだろうかと。
「むっ?」
すぐさま目を疑った。これまでとは全く違う気配。
次には回避する方向目掛けてより多くの炎を飛ばそうと思ったのだがヨハンは動かない。それどころか前傾姿勢になると一直線に前に踏み出した。そこには放たれた炎。
「なっ!?」
次の瞬間、アリエルはヨハンのその行動に驚愕する。
「はあっ!」
炎を躱すどころかまともに飛び込んでいた。
ドゴッと鈍い音を立てると同時に、本来遠くに行けば目視で小さくなる炎がグンッと大きく肥大している。
否、肥大しているのではなく、ナイトメアへ、アリエルの方に向けて飛んで来ていた。
「ぐっ!」
全く以て想定外。
炎に飛び込んだヨハンが何をしたのか、正確に把握できていないのだが、状況を見れば理解できる。
(……まさか、跳ね返すとはな)
魔法反射。
一部の上級魔導士が使える反射魔法であれば確かに煉獄の炎を跳ね返すことはできたのだが、それでも煉獄程ともなると極少数。それどころか魔法禁止のこのルールの中でそれと同等の意味を成すことをされるとは思ってもみなかった。
(ほんとうにどこまでも父親そっくりだな)
同時に脳裏を過り思い出すのは、煉獄の炎を剣で打ち返したのはこれまで二人だけ。
剣聖ラウル・エルネライと冒険者アトムの二人。アトムにはたった一度だけなのだが、とても印象に残っている。残り過ぎていると言ってもいい。悔しさしか残らなかった。
『さすがラウルが鍛え上げただけあるな。十分につえぇよ』
『バカにしているのか?』
『いやいや、思い上がっていると怪我するぞってだけだ。ちゃんと自分の武器の弱点ぐらい知っておけよ?』
『私の煉獄に弱点なんてあるわけないじゃないですか』
『……ふぅん。いいぜ。一度だけだ。見せてやるよ。やってみな、さっきの技』
懐かしい日々の思い出。世間知らずでラウル以外には負けを認めなかった自分に、他にも圧倒的な強者がいるのだとまざまざと痛感させられた男との出来事。
あまりにも悔しくてそれからラウルにも同じことを何度かしてもらったのだが、とうとうその冒険者の男にやり返す機会が訪れることはなかった。
それがどうしてか今ここで時代を越えて訪れている。
炎の向こう側にいる少年。思わずその影を少年に重ねてしまう。
(私も歳を取ったということか)
油断したつもりはないのだが、油断を誘われた。現役時代には常に指摘されたこと、その可能性も視野に入れて戦っていた。
(だがただでは喰わらない)
自身が打ちだしたはずの炎を跳躍して躱すのだが、そこにはもう退路を塞ぐようにヨハンも距離を詰めている。
「だっ!」
上段から大きく振り下ろされるヨハンの剣はナイトメアの仮面を真っ二つに斬った。
「ぐっ!」
強烈な一撃を受けつつも、振り下ろした直後を狙ってアリエルもヨハンの腹部に突き上げる様にして打撃を加えている。
「がはっ!」
刹那の瞬間の攻防。
ほぼ同時に二人共に後方に弾け飛んだ。ズザザと地面を転がる。
「お、おおーっと! これまで謎に包まれていたナイトメアの仮面がここでようやく剥ぎ取られたぁ!」
ヨハンとナイトメア、間髪入れずに同時に立ち上がった。
「は?」
仮面の下の素顔を見てカルロスが間抜けな声を発す。
「え、えっと、これはどういうことでしょうか? 私の目がおかしくなっていなければ、ナイトメアの正体が冒険者ギルドのギルマスであるアリエル・カッツォ様に見えるのですが…………」
ざわざわとするのはカルロスだけではない。帝都で幅広く名前と顔の知れた人物が姿を見せたのだから観客席のアリエルを知る人達ももちろん似たような動揺を示す。
「ふむ。やはりこうなるか。だからこそミモザに参加して欲しかったのだがな」
その反応はアリエルも想定内の事態。
「審判。拡声器を」
「え? は、はいっ!」
カルロスに歩み寄ったアリエルは困惑するカルロスから拡声器を受け取り、会場中をゆっくりと見渡した。
「驚かせてすまない皆の者」
今からアリエルが何を話すのか疑問に思いながら観客は耳を傾ける。
「混乱しないように説明しよう。最初に言っておくが、皇帝への断りは入れている」
観客は全く動かない貴賓席を見るのだが、アリエルの言葉同様に皇帝やラウル達には動揺は見られない。しかしカレンは違っていた。
「実はだな、彼は見ての通りここまで勝ち上がる程の明らかな強者だ。そして、その実力が高く評価され騎士爵を賜り、更にカレン・エルネライ様と婚約を結んでいる。いや、結ぼうとしている、といった方が正しいのか」
一部ではもう噂になっていたカレンの婚約の話。どこの貴族に嫁ぐのだともっぱらの噂。
「その良し悪しの判断についてはみなが好きに話して良いことだと思うが、私が大会への参加を申し出たのだ。カレン様を預けるに相応しい人物なのかどうなのかをこの目で確かめるためにな。もしそれができればみなも安心するだろうとな」
元S級冒険者であるアリエル・カッツォを相手にここまで戦えているのだからその実力は既に証明しているようなもの。
「言いたいことはわかったけどよぉ」
「ああ。参加に制限があっただろ?」
しかし、参加規程に背いたことをギルド長自身が行ってもいいものなのか不満を露わにしているものもいる。
「もちろん批判は甘んじて受けよう。だが私にも事情があってな」
一体どんな事情があるのだろうかと観客が疑問に思う中、アリエルは貴賓席を真っ直ぐに指差した。
「私が正体をバレずに優勝した暁にはラウル様と婚約を結ぶことになっていたのだ」
「「「「「「ええええええっ!?」」」」」」
今日一番の大きな声が会場で響く。観客は驚愕に目を見開いていた。
観客だけではない。貴賓席にいる面々も初めて耳にする話。
「え? ほんとに?」
黙って話を聞いていたヨハンも大いに驚く。
しかし同時に内心では苦笑いしていた。
(それであれだけの殺気を?)
全く以て信じられない。まるで実戦かのような気配で攻撃されていた理由がそのためなのかと。
◇ ◆ ◇
「ちょ、ちょっとあの子いきなり何を言い出しているのよ! そんな約束なかったでしょ!」
全ての事情を知るミモザも驚愕した。
「そうなの?」
「当たり前でしょ! そんなのがあれば私が――じゃなくてなんでもないわ」
思わず参加していたのは自分だと口に仕掛けたのだが慌てて口を噤む。
「ミモザさん、今……」
「なんでもないって言ってるわよね、アイシャちゃん?」
「は、はい、何もありませんっ! ミモザさんは何も言っていません!」
両肩を掴まれるアイシャ。
目が据わっているミモザから思わず目を逸らす。
「それで?」
「ああ。違うの。バレれば本当はここで棄権する予定だったのよ」
ニーナの問いかけに答えるのだが、元々の予定では正体がバレればその時点で規定違反の失格を受け入れるという段取りだったはず。
「ったく、何を考えているのやら」
片肘を着いたミモザはアリエルの独断専行に対して思わず大きな溜息を吐いた。
◇ ◆ ◇
「すまなかった」
「え、ええ、大丈夫です」
しかし困惑している未だに落ち着きを見せない会場。
カルロスに拡声器を返したアリエルはキョトンとしたヨハンに身体を向ける。
「さて、というわけだ。どうする?」
「どうするって……」
自分が勝てばカレンと婚約を、アリエルが勝てばアリエルがラウルと婚約を。
果たしてどうすればいいのだろうかと頭の中は混乱をきたしていた。
「考える必要などないさ。きみはきみの、私は私の望みの為に戦う。ただそれだけのことさ。相手を思いやることも時には必要だろうが、それは時と場合を選ぶ」
「……はい」
「それと、一つ教えておいてやろう」
「え?」
「きみがここで負ければカレン殿はシール家に嫁ぐ」
「そんなまさか」
アレクサンダー・シールは準決勝で倒している。しかしアリエルの言葉が虚言の類ではない可能性もある。
先程アリエルが貴賓席を指差した時のカレンの表情。不安気にこちらを見ていたことがどうしても気になっていた。
(……カレンさん)
もしそうであるならば、どうしてもここで勝たなければならない。
チラとアリエルの背後の貴賓席を見上げると、カレンが大きく身を乗り出している姿が視界に映る。
「ヨハーン! 勝ってぇっ!」
「え?」
突然響く聞き慣れた声。声量は今まで聞いたどの声よりも一番大きい。
(そっか。そうですよね。大丈夫ですよカレンさん)
アリエルには申し訳ないと思いつつも、ラウルとの婚約は持ち越してもらおうと。今ここで自分が負ければカレンは帝国の貴族に嫁いでしまうことになっているのだから。
(僕が勝ちますから)
未だに不安気に見ているカレンに向けてニコリと微笑んだ。
◇ ◆ ◇
数分前。
「どういうことですか兄様!? どうしてアリエルさんが!?」
ガタッと立ち上がり、カレンは慌ててラウルに問い掛ける。
「私が依頼した」
「アイゼン兄様が!? でも……――」
アイゼンが依頼したこと、それも意味がわからないのだが、そうなるともっと意味がわからないのは婚約の件。どうしてラウルの婚約に兄アイゼンが関与しているのだろうかと。
「正直兄上には申し訳ないが口実に使わせてもらった。兄上は継承権を放棄したのだ。直に名ばかりの皇族になる。ならば婚約を結ぼうが破棄しようがどうでもいい。アリエルには悪いがな」
「――……っ!」
ラウルはどう考えているのだろうかとカレンはラウルを見るのだが、ラウルは腕を組んでいるのみで一切口を開かない。
(どうして何も言わないの兄さんは……)
まるで理解できない。勝手にいいように使われてしまっているのであれば文句の一つぐらいあってもいいもの。
「そんなことより、お前は自分のことを考えなくてはいけないのではないか?」
「え?」
再び口を開くアイゼン。
「まさか元S級にあの子供が勝てるとは思うまい」
「もしかして、それだけのために?」
ヨハンとの婚約成立の条件は武闘大会の優勝。それを妨害するためにアリエルを参加させたのだとすれば腹立たしさが込み上げてくる。
「彼女は私に借りがあるからな。それを今日返してもらったのだ」
「借りとは、一体どんな?」
「お前には関係ない」
「…………っ」
思わずギュッと拳を握りしめる。何も言い返す言葉をこの場では持ち合わせていない。
(だったら…………だったら……――)
それでも送り出せる言葉が他にあるのだということをカレンは知っていた。
貴賓席から身を乗り出すようにして、握りしめていた手を口元に持っていくと大きく息を吸い込む。
「――……ヨハーン! 勝ってぇっ!」
精一杯の声援。
兄ラウルが何を考えているのか、兄アイゼンにどんな思惑があるのだろうが、どんな事情があろうとも今戦っている想い人は間違いなく自分の為に戦ってくれている。強くなりたいという自分自身の為に戦って欲しいと願いながらも、先程目が合ったヨハンには自身に対する気遣いの視線が向けられていたのだとしっかりと感じ取っていた。
(ヨハン。やっぱりあなたはそういう人よ。だからわたしはあなたのことが好きになったのよ)
ようやく自覚した想い。
声援を送った先にいる少年が笑顔を返したことでカレンも優しく微笑み返す。
(頑張って、ヨハン)
突然のカレンの大声に臣下が大きく驚く中、フッと笑みをこぼして顔を見合わせるラウルとマーガス帝。微笑みを向けるルリアーナ妃。
(まったく。アリエルさんにも困ったものですね)
突然のアリエルの行動、思い付きの発言に心臓が跳ねたものの、なんとか上手く事は運んだ。
(いいですよ。なら責任を取って最後まで見せてください。彼の強さを)
そしてアイゼンも小さく笑うのだが、すぐにその笑みをひた隠すようにして消している。
◇ ◆ ◇
「ほぅ、カレン殿はわかっているようだな」
アリエルの背後から聞こえるヨハンを応援する声。振り向かなくとも誰の声なのか判別できる。ざわつく会場の中でも確かに両者へ聞こえたカレンの声。
「わかりました。僕の目的は変わりません」
その声を聞いただけで微かに残っていた迷いの全てが吹っ切れた。
「ではどうするつもりだ?」
「アリエルさん、あなたを全力で倒させてもらいます」
グッと剣を強く握りしめる。
「先程のようにいくと思うな」
「わかっていますよ」
即座に駆け出すヨハン。
元々ナイトメア、今はもうアリエルだとわかっているが、最初から相当な強者だと思っていた。それも元S級であるのだから当然。ここにきて油断などするはずがない。
それに胸を借りるつもりもない。間違いなく倒しきるという決意を抱いていた。
「いくぞ」
ヨハンの挙動を確認するなりアリエルも動き出す。手甲に赤い炎を灯した。
「ぬんっ!」
弾ける様に放たれる炎をヨハンは剣で受け止める。先程同様弾き返そうとしたのだがその直後。
「ぐあっ!」
バンッと剣と接触したのと同時に炎が爆発する。
「爆撃の真の由来をその身体にしかと刻み込むがいい」
「ぐっ!」
ここにきて炎の性質が変わった。一撃必殺の剛腕。それに加えてこの爆発する炎。
遠近を兼ねる二種の攻撃。
「ほらほらっ、動かないようなら止めを刺させてもらうぞ」
「ぐあああああっ!」
突然の爆発によって動きを止められたヨハンに向けて一気に炎が放たれる。
「――……ぐっ!」
物凄い衝撃。身体中を熱気に焼かれる感覚。
今ここで倒れてしまえばどれだけ楽だろうかと思わず考えてしまう程の威力。
「どうした? さっきの威勢はどこにいった?」
「そ、そんな技を隠していたんですね」
剣を地面に刺し、支えとすることでなんとか立っていた。
「卑怯などとは言わないでくれ。切り札は隠してこそ切り札となるからな」
「……ですね。もちろんそんなことは言いませんよ」
最初から手の内の全てを曝け出すなど、圧倒的な力量差がなければ成立しない。あり得ない。戦いは水と同じ。いつでもその形を変化させる流動的なもの。それは拮抗している実力であればある程に。
そんなことは、アリエルの言うことはわざわざ言われなくとも既に理解している。
「さて、他に手もないようならそろそろ終わらせようか。思っていたよりも健闘したぞ」
ドンっと勢いよく放たれる炎を纏う拳圧。
「くっ!」
喰らえば立てなくなるかもしれない一撃に対して転がるようにして慌てて回避した。
「近付けばアレが待っている」
近距離は怖気を抱く剛腕。遠距離では炎の拳圧。
どう対応すればいいのかと痛みを堪えながら、必死に思考を巡らせる。どうすればアリエルを倒しきれるのだろうかと。
「切り札……か」
現状、ヨハンが持ち得る技、剣閃で一番強力な技は魔法剣との組み合わせである光撃閃。あれ以上の威力を生み出せる技はない。しかし魔法の使用もできない。
「他に何かないか?」
今の自分にできる可能性の模索。ここで何らかの手を見つけないと勝ち筋などない。
「だったら!」
勝ち筋がないなら作ればいい。持ち得る技を駆使して。
「飛燕!」
飛燕程度の小さな斬撃であれば動きながらでも繰り出せる。
「何が狙いだ?」
訝し気にヨハンを観察するアリエル。
無数の斬撃がアリエルに向けて飛来するのだが拳の方が手数を上回るのは先程までと変わらない。相殺する。
「まだまだ青い、か」
考えなしの行動なのか、動きながら繰り出しているせいでアリエルを正確に捉えきれていない。時には空を切り、時には地面を叩く落ちた燕の斬撃。そうなると数の少なくなった燕を叩き落とすことなど容易い。
「ぐっ!」
およそ肉弾戦とは言い難い中距離での攻防。
そこかしこでアリエルの爆炎が飛燕を落とす砲撃となって響き渡っていた。
「大丈夫。アリエルさんは気付いていない」
飛燕を繰り出しながら起死回生の一手の仕込みは既に終えている。
というよりも、出来るか出来ないかの検証を済ませていた、といった方がより正確。
(要は魔法を維持させるのと同じ要領なのだから)
これまで見せたことのない技。ヨハン自身も初めて行うのだからそれも当然。
「あとはどれだけ注意を逸らせることができるか」
バレてしまえば対応されかねない。より確実に仕留めるためにはこちらも相応の覚悟を要した。
「大丈夫。できる!」
無謀な賭けなどではない。ある程度の目算はしっかりと立っている。
それでも僅かな怖気が脳裏を過るのだが、やれるだけの自信も持ち合わせていた。
(チャンスは一回きり)
既に疲労はかなり蓄積している。しかしアリエルにしてもそれは同じ。いくら煉獄が優れた魔具であろうとも魔力の消費がないわけではない。
「……はぁ、はぁ」
「どうした? 逃げるのはもう終わりか?」
「そうですね。そろそろ終わらせないと」
「うむ。それには同意する」
斜め上段に剣を構えたヨハンは剣に闘気を迸らせた。
「なるほど、これで決めようということだな」
両手いっぱいに炎を蓄積させるアリエル。二発分の攻撃。
「だがどうする? 私の見立てではその一撃と私の一撃は大体同じ威力とみた。しかし見ての通り私は二撃放てる」
「……やってみなければわかりませんよ」
「わかるさ。その辺りはまだ経験が足りんな」
「…………」
そのアリエルの言葉が真実なのだということは恐らくという程度で理解している。
(だったらあの一撃を耐えれば)
期せずして勝利への道筋、勝ち筋が明確に見えた。
「行きます!」
「ああ」
ダンッと地面を大きく踏み抜いてアリエルに向かう。
「距離を詰めて躱せぬ位置から放つ気か」
遠距離攻撃も可能な剣閃。
それをいつどのタイミングで使用するのかということが勝敗を決めるのだとアリエルは考えた。そしてそれはヨハンの考えと合致している。
いつ、どのタイミングで放つか、それに尽きた。
「はあっ!」
「ではまず一撃目!」
近距離ともいえるその距離でヨハンが振り下ろす剣のタイミングに合わせて右手の炎を放つ。
ドゴンと大きく音を立て、黒煙が立ち込めるのだがアリエルはヨハンの姿を見失わない。
「これで終わりだ。残念だな、結果が伴わなくて」
「そんなことないですよ」
「むっ!?」
左手の炎を放とうとしたその瞬間、地面が僅かに隆起した。
「なっ!?」
アリエルはすぐさまそれを理解する。
「もう遅いです」
地面から真上に向けて一直線に伸びる光。その先にはアリエルの左手。
「こんなものを仕込んでいたのか」
先程乱発しながら的を外していた飛燕。地面に刺さっていた斬撃。
それがわざとはずされていたのだとアリエルはそこでようやく悟った。
「見事だ」
放たれた直後の炎をパスっと一匹の燕が通り抜ける。
カッと光を放つ爆撃は術者を巻き込み爆発した。
「ぐっ、まさか逆に利用されようとは」
「すいません。これしか思いつかなかったんです」
既に目の前に踏み込んで来ているヨハン。横薙ぎに剣を振りかぶっている。
「だがこちらも意地というものがあってだな」
左手は使い物にならなくなってしまっているのだが、僅かな時間が生まれたことで既に右手には次弾を装填していた。
「どちらが耐えられるか勝負だ」
大きく振り切られるヨハンの剣を腹部に受けながら、アリエルは防御を捨ててヨハンの腹部に拳を振り抜く。
二度目に響く大きな爆音と黒煙。
会場中が固唾を飲んで見守る中、黒煙からゴロゴロと地面を転がって出て来たのはアリエル。
風に流される黒煙が晴れた後には片膝を着いているヨハンの姿。
「僕の方がちょっとだけ早かった」
刹那の攻撃、その僅かな差のおかげで意識を保つことは出来ているのだが、もう既に満身創痍。限界に達していた。
「頼む、もう立たないでくれ!」
もう立ち上がる体力も気力も持ち合わせていない。これで決めきるつもりの一撃。
「す、凄まじい応酬でしたっ! さあっ、ナイトメア選手、いえ、アリエル選手は立つことができるのでしょうか!」
カルロスが大きく声を張り上げる中、アリエルの指がピクッと動く。
(……ダメか)
まだ意識を保っているのだと思ったのだが、グッと砂を掴むアリエルの指はそれからすぐに力を失くしてパタッと手の平を地面に落とした。
「……あっ」
小さく声を漏らす。
アリエルがそこで意識を失くしたのだと。
「お……お、おおっとぉっ! ここ、これは、決着したようですッ! 優勝は、優勝はヨハン選手です! おめでとうございます!」
勝者のコールを送るカルロスの声に同調するように、観客席からは特大の歓声が巻き起こった。
「……はぁ……はぁ……がはっ!」
込み上げてくる吐血。口内に血の味を沁みらせる。
「勝った、勝ちましたよ、カレンさん」
疲労困憊の身体。もう足にほとんど力が入らない。
それでもしっかりと見上げた先は貴賓席。口元に両手を送っているカレンの姿を捉えた。
「もう、いいですよね?」
「え?」
そのままカルロスの方に顔に向け声を掛ける。カルロスは思わず目を丸くさせた。
「僕が勝った、ということで」
突然の問いにカルロスはそのまま目をパチパチとさせ疑問符を浮かべる。
「え、ええ。もちろんだとも」
「そうですか、なら良かったです」
ヨハンはそこでフラッと身体を揺らした。
立っているのにももう限界。
「ヨハン!?」
「お兄ちゃん!?」
優勝の確認が済むと安堵の息を吐いて前のめりに倒れる。
その姿を見たカレンは慌てて闘技場に向けて走り出し、ニーナは観客席を飛び降りていた。
(まさか本当にアリエルさんに勝つだなんてね。これはもう認めるしかないか)
貴賓席からヨハンに駆け寄るカレンの姿を見ながらアイゼンは笑みをこぼしている。
興味のない方は読み飛ばし推奨。
――◇――◆――◇――
栄誉騎士爵叙勲式が行われたその夜。アイゼンからラウルを伝って依頼を出されたのはアリエルとミモザの二人に対して。
ヨハンの本気の実力を観たいという要望を叶えられるのであればアリエルでもミモザでもアイゼンとしてはどちらでもかまわないのだと。
アイゼンは過去、ミモザとアリエルの現役時代、二人と約束していたことがある。
それは、アイゼンが帝位を継承することがあればどんなことでも一つ依頼を請け負うといった約束を交わしていたのだが、引退したミモザはその要望を頑なに拒否していた。
頑として受け入れない姿勢であるため仕方なく公正な勝負により後にヨハンと戦う相手であるナイトメアになる方を決めている。
『やったっ!』
『むぅっ』
『約束は約束だからね!』
『であれば貴様はアイゼンとの約束を守らないといけないのでは?』
『それとこれとは別よ! これはもう女神の私にはできないことなの』
『死神の間違いでは?』
『……怒るわよ?』
『冗談だ』
結果、アリエルがナイトメアとして参戦することになったのだが、その決定方法はジャンケンによるものだった。
◇ ◆ ◇
そうして迎えた帝都武闘大会決勝。
(まぁいい。これはこれで滾るものがある)
当初は乗り気ではなかったのだがもう既にアリエルもやる気は十分。思っていた以上に興が乗ってしまっている。
(この人……――)
ヨハンは対峙するナイトメアの強烈な気配を肌に突き刺さるようにビシビシと感じる。
それはまるでジェイドやバルトラと向かい合っていた時の様な威圧感。
(――……強い)
つまりそれだけの相手なのだとはっきりと断言できた。
会場が大歓声を上げる中、審判を務めるカルロスの手が勢いよく振り下ろされた。
様々な思いが交錯した決勝戦が幕を開ける。
(どういうつもりなんだろう?)
開始の合図と同時に地面を勢いよく踏み抜いて一直線にナイトメア目掛けて突進したのだが、白い仮面と黒いマント姿のナイトメアは回避する気配を見せない。
グッと腰を落としてヨハンの突進を待ち構えていた。
(あれは……手甲?)
マントの隙間から僅かに覗かせる手。その手に赤い手甲が見えている。体術を主体として戦う者の装具。
それを使ってどう対応されるのかを見極めようとするのだが、ヨハンが上段から振り下ろす剣に対してナイトメアは左腕を掲げてその剣を受け止めた。
ガギンと鈍い金属音を響かせる。
「――ッ!?」
微動だにせずに受け止められただけなのに相当な衝撃を受ける。およそ壊せそうにない頑強な武具。
しかし今はそんなことを考える余裕はなく、覘かせる反対側の腕が放つ気配がとんでもない。
ググっとほんの少し溜めた後に前に突き出されるその右の拳。
「ぐふぅっ」
咄嗟の反応で足を前に踏み出すように蹴り付ける。
避けることも適わない速さで振り抜かれたその拳によって腹部に強烈な打撃を受けてヨハンは後方に吹き飛んだ。
「――……ぐっ! 今のは…………」
すぐさま跳ねるようにして起き上がってナイトメアを見る。しかしナイトメアは追撃を仕掛けることなく尚も動く気配を見せない。
間違いなくヨハンがこれまで受けた攻撃の中でも最大級の一撃。咄嗟にナイトメアの肩を蹴りつけて後方に跳んで衝撃を逃がしていなかったら間違いなくその一撃で終わってしまうと錯覚させる程の威力。
(あの拳……)
見解通り。やはりナイトメアの武器は己の拳。
どう戦おうかと、腹部に残る鈍痛を堪えながら思考を巡らせる。
「だったら!」
弾け飛ぶように横に向かって走り出した。
ヨハンが次に選択したのは撹乱。動き回る敵に対してどういう対応をするのだろうかということ。
尚もナイトメアは動こうとしない。僅かに腰を落として重心を低くさせているのみ。
「どうして動かない?」
過る疑問を抱きながらナイトメアの後方から斬撃を振り下ろす。
「っ!」
すぐさま右腕を上げて防御姿勢になった。
ナイトメアは左足を軸足にして右足を回転させるように後方に回し蹴りを放っている。
「ぐっ!」
とてつもない衝撃を右腕に受けながらも左手のみで大きく剣を振り下ろした。
ドンっと鈍い音を立てながら得る感触。
「…………」
「ぐはっ!」
横に吹き飛ばされる。
すぐさま起き上がり、再び駆け回る様に素早く動き出した。
「さっきの感触……やっぱり生身だった」
どうしても確認しておかなければならないそのマントの下。
初撃は手甲によって受け止められていたのではっきりとわからなかったのだが、先程の一撃で受ける感覚は分厚い肉の塊に棒を叩きつけたような感触。片手だけの剣では与えられるダメージも微量。
「闘気の練度がかなりのもの」
それだけの相手。三回戦の相手のような、防御力が異常に高い鎧を着ているということはない。それでも十分な防御力を持ち合わせており、同時に生身の肉体でそれができる者など限られる。ヨハンの脳裏に一人の人物が過った。
「校長先生なら同じことできるだろうな」
思い返すその圧倒的な肉体。元々の肉体の強さと鍛え上げられた身体が誇る力強さは他の追随を許さない。
そのガルドフ校長との比較、ナイトメアはマントを着ているとはいえ、マントが覆う体躯はそれほど大きくない。むしろ戦士としては小柄に見える。
「…………強い」
しかしそれでも抱く印象は圧倒的なもの。
そうして動き回り思考を巡らせていくつか確認したところ、勝ち筋がそれ程多くないのだろうと悟った。それだけの相手であるならば現状打つ手は限られている。生半可な攻撃では通じない。
「はぁっ!」
即座に剣に闘気を流し込んで剣閃を放った。
「!?」
ナイトメアが受ける驚愕。
突如として飛来する斬撃、剣閃に対してナイトメアは拳を乱打して拳圧を飛ばす。
ドパアァァンと破裂音が響き、あまりにも大きいその音に思わず耳を塞ぐ観客がいる程。
「やっぱり!」
そこに勝機を見出していた。
剣閃に対して複数打の拳圧。一撃の威力では勝るのだと。これだけの相手であっても自身の剣閃は脅威に当たる。手数を掛けなければ剣閃を相殺できないのだと。
「はああああっ!」
相手に余裕を与えないため、時間を掛けずにすかさず剣戟を繰り出して剣閃を飛ばした。
縦横斜めにナイトメア目掛けて飛ぶ斬撃。
ナイトメアはドドドッと拳の乱打を繰り返して剣閃を相殺していく。
(これだけ距離があるのに……)
抱く疑問。
間違いなく剣や槍のような武器を介した方が闘気を飛ばす技、剣閃は空中でもその状態を維持できる。それだというのにナイトメアは手甲をしているとはいえ拳圧を飛ばしていた。
「もしかして?」
そんなことヨハン自身はできない。ニーナであっても竜人族の力を覚醒させ、天性の戦闘センスによってそれを成し得ている。
つまりそれだけのことができる人物などそうそういない。
それが可能である人物にも一人だけ思い当たる節があった。
「アリエルさん?」
大食い大会の時に目にしたアリエルの実力。全て出していたわけではないのだが、思い返せば身のこなしなどに近しい動きもある。
そんなまさかとは思うものの、大会が始まって以降、自身と同じようにしてアリエルも時折席を外していた。節々にそう思われても仕方ない発言が見られている。アリエルがナイトメアだと考える方が自然、色々と符合する。
その考えに至ると同時にヨハンはスッと剣閃を放つのを止めた。
急に降り止んだ剣戟の雨に対して、ナイトメアは微かに間を空けて直立する。
◇ ◆ ◇
「どうしたんですかヨハンさん? 急に攻撃を止めましたけど」
「あちゃあ、もしかして気付いちゃったのかな?」
「みたいだね」
アイシャが疑問符を浮かべる中、ミモザとニーナはその行動の意味を理解する。
「気付いたって……なにを?」
「もちろんナイトメアの正体がアリエルさんだってことに決まってるじゃない」
「えっ!? アリエルさん仕事があるって言っていたじゃないですか!?」
冒険者ギルドの長として大会の運営にあたり少しやらなければいけないことがあると言い残して席を外していたアリエル。
それがどうして今ヨハンと戦っているのか。
「これが、やらなければいけないこと?」
どういう理由があればそうなるのかアイシャは理解できない。
「まぁ色々とあるのよあの子にも」
もちろん私にも、と内心で考えるミモザは片肘を着いて溜め息を吐く。
「さて、そんなことより、こっからどうするのかなヨハンくんは」
カレンの為に非情になりきれるのかどうか。優勝する為にはそれが一番なのだが、アリエルが一切手を抜くことなどあり得ないということはミモザが一番知っていた。
◇ ◆ ◇
「――……アリエルさん、ですよね?」
剣を下げたまま問い掛ける。
「…………」
ヨハンの問いを受けたアリエルは手甲をした腕を仮面に送った。
「え?」
問い掛けの返答代わりに仮面を外すのだと思ったのだが、顔の前に持って来た手甲がボッと炎を灯しだす。
「…………」
腕に炎を宿したナイトメアは仮面を外すことなく一直線にヨハンに向かって跳躍した。
ヨハンはその場から飛び退き距離を取り直すのだが、ナイトメアはそのまま着地と同時に拳で地面、ヨハンがいた場所を殴打する
ドゴンッと激しい音を響かせ地面が円形に亀裂を入れて陥没した。
しかしそれだけでは終わらない。
ナイトメアが撃ちつけた地面から四方に向けて炎が迸る。
「アリエルさんじゃ、ない?」
確実に殺す気の一撃。背筋を寒くさせるだけの一撃。
回避しなければ下手をすればそれだけで終わりかねない威力。アリエルであればこれだけの殺意を込められる理由に覚えもない。
疑問を抱きながら、それと同時に会場中がざわつき始めた。
「え、えっと、これは……魔法、でしょうか?」
炎を生み出すなど、魔力を介さなければ通常あり得ない。カルロスの疑問を会場中も同様に抱いている。
「違います。たぶんあの手甲の能力だと思います」
カルロスの声が聞こえたヨハンがそれを否定した。
「そ、うですか?」
「はい」
なんとなくだが、魔法とは若干性質が異なる様に見える。
対戦相手であるヨハンが否定するのであればカルロスとしてはどうしようもない。
実際ナイトメアは魔法を使っていない。ヨハンは知り得ないが、爆撃のアリエルの二つ名を得た由来でもあるその爆発的な一撃と迸る炎。
「それよりも、もう少し離れていてくれた方が助かります。あれはかなり広範囲に広がるみたいですので」
地面を這うように広がる炎。チリチリと焦げ跡を残していた。
「わかりました。ではヨハン選手もお気をつけください」
「はい。ありがとうございます」
言い終えたカルロスは慌てて背後に向かって走り出し、観客席の外壁をよじ登る。
「とは言ったものの、実際どうしようかな」
ナイトメアの正体がアリエルだろうとなかろうと、とにかく今はあの炎に対して何らかの対応をしなければいけない。
「魔法が使えたら全然違うんだけどなぁ」
現状、炎を相殺する手段を持ち得ない。剣一つで対処しなければならない。
「…………」
思考を巡らせている間にも、ナイトメアは手甲に再び炎を宿し、その場で拳を乱打していた。
ゴオッと炎を纏った拳圧がいくつもヨハンに向かって迫る。
「っ!」
そんなこともできるのかと内心では驚嘆した。恐らく闘気と炎を混ぜ合わせたもの。
回避できない速度ではないので、縦横無尽に動き回りながら炎の拳圧を回避する。
「……そうか、魔法を使えないのはお互い様」
動き回り観察しながらの思い付き。だったらまだ手はあった。
それに、上手くいけばかなり動揺させることができて隙が生まれるかもしれない。
繰り出され続ける連撃がピタと止まり、ふと動きを止めているナイトメア。それを確認してヨハンもその動きを止め、ジッと見据えるようにしてナイトメアを見る。
(ふむ。この煉獄を相手にどうするつもりだ?)
アリエルはヨハンの気配が変わったことで攻撃を止めていた。
特殊武具である煉獄。魔力を炎に変換させる魔具の一つ。久しぶりに身に付けたのだが、それもこれが最後。この戦いが終わればニーナに譲渡するつもり。
(何か策があるのか?)
仮面越しに見るヨハンの姿はもう一人前の冒険者、それだけでなく相応の実力を備えているのだと判断出来る。
聞いていた通りのヨハンの能力、魔法を使った戦い方ならばまた対応を考えなければいけなかったが、アリエルからすれば武術のみの武闘大会は有利に働いていた。
外堀を埋めるようにじわじわと追い詰めて行けばいいだけ。
(この程度だとまだ脅威にすらなり得ないか)
しかしそれだけで終わらないと確信を抱かせるのは、向かい合うヨハンの目がまだ闘志を宿している。諦めていないのだと断言出来る。
「おもしろい」
仮面の中でアリエルは小さく呟き薄く口角を上げた。
目の前の少年が何を企んでいるのか、興味が尽きない。
そうして再びボボボッと拳を繰り出して煉獄の炎を同じようにしてヨハンに向けて飛ばす。これをどう対応するのだろうかと。
「むっ?」
すぐさま目を疑った。これまでとは全く違う気配。
次には回避する方向目掛けてより多くの炎を飛ばそうと思ったのだがヨハンは動かない。それどころか前傾姿勢になると一直線に前に踏み出した。そこには放たれた炎。
「なっ!?」
次の瞬間、アリエルはヨハンのその行動に驚愕する。
「はあっ!」
炎を躱すどころかまともに飛び込んでいた。
ドゴッと鈍い音を立てると同時に、本来遠くに行けば目視で小さくなる炎がグンッと大きく肥大している。
否、肥大しているのではなく、ナイトメアへ、アリエルの方に向けて飛んで来ていた。
「ぐっ!」
全く以て想定外。
炎に飛び込んだヨハンが何をしたのか、正確に把握できていないのだが、状況を見れば理解できる。
(……まさか、跳ね返すとはな)
魔法反射。
一部の上級魔導士が使える反射魔法であれば確かに煉獄の炎を跳ね返すことはできたのだが、それでも煉獄程ともなると極少数。それどころか魔法禁止のこのルールの中でそれと同等の意味を成すことをされるとは思ってもみなかった。
(ほんとうにどこまでも父親そっくりだな)
同時に脳裏を過り思い出すのは、煉獄の炎を剣で打ち返したのはこれまで二人だけ。
剣聖ラウル・エルネライと冒険者アトムの二人。アトムにはたった一度だけなのだが、とても印象に残っている。残り過ぎていると言ってもいい。悔しさしか残らなかった。
『さすがラウルが鍛え上げただけあるな。十分につえぇよ』
『バカにしているのか?』
『いやいや、思い上がっていると怪我するぞってだけだ。ちゃんと自分の武器の弱点ぐらい知っておけよ?』
『私の煉獄に弱点なんてあるわけないじゃないですか』
『……ふぅん。いいぜ。一度だけだ。見せてやるよ。やってみな、さっきの技』
懐かしい日々の思い出。世間知らずでラウル以外には負けを認めなかった自分に、他にも圧倒的な強者がいるのだとまざまざと痛感させられた男との出来事。
あまりにも悔しくてそれからラウルにも同じことを何度かしてもらったのだが、とうとうその冒険者の男にやり返す機会が訪れることはなかった。
それがどうしてか今ここで時代を越えて訪れている。
炎の向こう側にいる少年。思わずその影を少年に重ねてしまう。
(私も歳を取ったということか)
油断したつもりはないのだが、油断を誘われた。現役時代には常に指摘されたこと、その可能性も視野に入れて戦っていた。
(だがただでは喰わらない)
自身が打ちだしたはずの炎を跳躍して躱すのだが、そこにはもう退路を塞ぐようにヨハンも距離を詰めている。
「だっ!」
上段から大きく振り下ろされるヨハンの剣はナイトメアの仮面を真っ二つに斬った。
「ぐっ!」
強烈な一撃を受けつつも、振り下ろした直後を狙ってアリエルもヨハンの腹部に突き上げる様にして打撃を加えている。
「がはっ!」
刹那の瞬間の攻防。
ほぼ同時に二人共に後方に弾け飛んだ。ズザザと地面を転がる。
「お、おおーっと! これまで謎に包まれていたナイトメアの仮面がここでようやく剥ぎ取られたぁ!」
ヨハンとナイトメア、間髪入れずに同時に立ち上がった。
「は?」
仮面の下の素顔を見てカルロスが間抜けな声を発す。
「え、えっと、これはどういうことでしょうか? 私の目がおかしくなっていなければ、ナイトメアの正体が冒険者ギルドのギルマスであるアリエル・カッツォ様に見えるのですが…………」
ざわざわとするのはカルロスだけではない。帝都で幅広く名前と顔の知れた人物が姿を見せたのだから観客席のアリエルを知る人達ももちろん似たような動揺を示す。
「ふむ。やはりこうなるか。だからこそミモザに参加して欲しかったのだがな」
その反応はアリエルも想定内の事態。
「審判。拡声器を」
「え? は、はいっ!」
カルロスに歩み寄ったアリエルは困惑するカルロスから拡声器を受け取り、会場中をゆっくりと見渡した。
「驚かせてすまない皆の者」
今からアリエルが何を話すのか疑問に思いながら観客は耳を傾ける。
「混乱しないように説明しよう。最初に言っておくが、皇帝への断りは入れている」
観客は全く動かない貴賓席を見るのだが、アリエルの言葉同様に皇帝やラウル達には動揺は見られない。しかしカレンは違っていた。
「実はだな、彼は見ての通りここまで勝ち上がる程の明らかな強者だ。そして、その実力が高く評価され騎士爵を賜り、更にカレン・エルネライ様と婚約を結んでいる。いや、結ぼうとしている、といった方が正しいのか」
一部ではもう噂になっていたカレンの婚約の話。どこの貴族に嫁ぐのだともっぱらの噂。
「その良し悪しの判断についてはみなが好きに話して良いことだと思うが、私が大会への参加を申し出たのだ。カレン様を預けるに相応しい人物なのかどうなのかをこの目で確かめるためにな。もしそれができればみなも安心するだろうとな」
元S級冒険者であるアリエル・カッツォを相手にここまで戦えているのだからその実力は既に証明しているようなもの。
「言いたいことはわかったけどよぉ」
「ああ。参加に制限があっただろ?」
しかし、参加規程に背いたことをギルド長自身が行ってもいいものなのか不満を露わにしているものもいる。
「もちろん批判は甘んじて受けよう。だが私にも事情があってな」
一体どんな事情があるのだろうかと観客が疑問に思う中、アリエルは貴賓席を真っ直ぐに指差した。
「私が正体をバレずに優勝した暁にはラウル様と婚約を結ぶことになっていたのだ」
「「「「「「ええええええっ!?」」」」」」
今日一番の大きな声が会場で響く。観客は驚愕に目を見開いていた。
観客だけではない。貴賓席にいる面々も初めて耳にする話。
「え? ほんとに?」
黙って話を聞いていたヨハンも大いに驚く。
しかし同時に内心では苦笑いしていた。
(それであれだけの殺気を?)
全く以て信じられない。まるで実戦かのような気配で攻撃されていた理由がそのためなのかと。
◇ ◆ ◇
「ちょ、ちょっとあの子いきなり何を言い出しているのよ! そんな約束なかったでしょ!」
全ての事情を知るミモザも驚愕した。
「そうなの?」
「当たり前でしょ! そんなのがあれば私が――じゃなくてなんでもないわ」
思わず参加していたのは自分だと口に仕掛けたのだが慌てて口を噤む。
「ミモザさん、今……」
「なんでもないって言ってるわよね、アイシャちゃん?」
「は、はい、何もありませんっ! ミモザさんは何も言っていません!」
両肩を掴まれるアイシャ。
目が据わっているミモザから思わず目を逸らす。
「それで?」
「ああ。違うの。バレれば本当はここで棄権する予定だったのよ」
ニーナの問いかけに答えるのだが、元々の予定では正体がバレればその時点で規定違反の失格を受け入れるという段取りだったはず。
「ったく、何を考えているのやら」
片肘を着いたミモザはアリエルの独断専行に対して思わず大きな溜息を吐いた。
◇ ◆ ◇
「すまなかった」
「え、ええ、大丈夫です」
しかし困惑している未だに落ち着きを見せない会場。
カルロスに拡声器を返したアリエルはキョトンとしたヨハンに身体を向ける。
「さて、というわけだ。どうする?」
「どうするって……」
自分が勝てばカレンと婚約を、アリエルが勝てばアリエルがラウルと婚約を。
果たしてどうすればいいのだろうかと頭の中は混乱をきたしていた。
「考える必要などないさ。きみはきみの、私は私の望みの為に戦う。ただそれだけのことさ。相手を思いやることも時には必要だろうが、それは時と場合を選ぶ」
「……はい」
「それと、一つ教えておいてやろう」
「え?」
「きみがここで負ければカレン殿はシール家に嫁ぐ」
「そんなまさか」
アレクサンダー・シールは準決勝で倒している。しかしアリエルの言葉が虚言の類ではない可能性もある。
先程アリエルが貴賓席を指差した時のカレンの表情。不安気にこちらを見ていたことがどうしても気になっていた。
(……カレンさん)
もしそうであるならば、どうしてもここで勝たなければならない。
チラとアリエルの背後の貴賓席を見上げると、カレンが大きく身を乗り出している姿が視界に映る。
「ヨハーン! 勝ってぇっ!」
「え?」
突然響く聞き慣れた声。声量は今まで聞いたどの声よりも一番大きい。
(そっか。そうですよね。大丈夫ですよカレンさん)
アリエルには申し訳ないと思いつつも、ラウルとの婚約は持ち越してもらおうと。今ここで自分が負ければカレンは帝国の貴族に嫁いでしまうことになっているのだから。
(僕が勝ちますから)
未だに不安気に見ているカレンに向けてニコリと微笑んだ。
◇ ◆ ◇
数分前。
「どういうことですか兄様!? どうしてアリエルさんが!?」
ガタッと立ち上がり、カレンは慌ててラウルに問い掛ける。
「私が依頼した」
「アイゼン兄様が!? でも……――」
アイゼンが依頼したこと、それも意味がわからないのだが、そうなるともっと意味がわからないのは婚約の件。どうしてラウルの婚約に兄アイゼンが関与しているのだろうかと。
「正直兄上には申し訳ないが口実に使わせてもらった。兄上は継承権を放棄したのだ。直に名ばかりの皇族になる。ならば婚約を結ぼうが破棄しようがどうでもいい。アリエルには悪いがな」
「――……っ!」
ラウルはどう考えているのだろうかとカレンはラウルを見るのだが、ラウルは腕を組んでいるのみで一切口を開かない。
(どうして何も言わないの兄さんは……)
まるで理解できない。勝手にいいように使われてしまっているのであれば文句の一つぐらいあってもいいもの。
「そんなことより、お前は自分のことを考えなくてはいけないのではないか?」
「え?」
再び口を開くアイゼン。
「まさか元S級にあの子供が勝てるとは思うまい」
「もしかして、それだけのために?」
ヨハンとの婚約成立の条件は武闘大会の優勝。それを妨害するためにアリエルを参加させたのだとすれば腹立たしさが込み上げてくる。
「彼女は私に借りがあるからな。それを今日返してもらったのだ」
「借りとは、一体どんな?」
「お前には関係ない」
「…………っ」
思わずギュッと拳を握りしめる。何も言い返す言葉をこの場では持ち合わせていない。
(だったら…………だったら……――)
それでも送り出せる言葉が他にあるのだということをカレンは知っていた。
貴賓席から身を乗り出すようにして、握りしめていた手を口元に持っていくと大きく息を吸い込む。
「――……ヨハーン! 勝ってぇっ!」
精一杯の声援。
兄ラウルが何を考えているのか、兄アイゼンにどんな思惑があるのだろうが、どんな事情があろうとも今戦っている想い人は間違いなく自分の為に戦ってくれている。強くなりたいという自分自身の為に戦って欲しいと願いながらも、先程目が合ったヨハンには自身に対する気遣いの視線が向けられていたのだとしっかりと感じ取っていた。
(ヨハン。やっぱりあなたはそういう人よ。だからわたしはあなたのことが好きになったのよ)
ようやく自覚した想い。
声援を送った先にいる少年が笑顔を返したことでカレンも優しく微笑み返す。
(頑張って、ヨハン)
突然のカレンの大声に臣下が大きく驚く中、フッと笑みをこぼして顔を見合わせるラウルとマーガス帝。微笑みを向けるルリアーナ妃。
(まったく。アリエルさんにも困ったものですね)
突然のアリエルの行動、思い付きの発言に心臓が跳ねたものの、なんとか上手く事は運んだ。
(いいですよ。なら責任を取って最後まで見せてください。彼の強さを)
そしてアイゼンも小さく笑うのだが、すぐにその笑みをひた隠すようにして消している。
◇ ◆ ◇
「ほぅ、カレン殿はわかっているようだな」
アリエルの背後から聞こえるヨハンを応援する声。振り向かなくとも誰の声なのか判別できる。ざわつく会場の中でも確かに両者へ聞こえたカレンの声。
「わかりました。僕の目的は変わりません」
その声を聞いただけで微かに残っていた迷いの全てが吹っ切れた。
「ではどうするつもりだ?」
「アリエルさん、あなたを全力で倒させてもらいます」
グッと剣を強く握りしめる。
「先程のようにいくと思うな」
「わかっていますよ」
即座に駆け出すヨハン。
元々ナイトメア、今はもうアリエルだとわかっているが、最初から相当な強者だと思っていた。それも元S級であるのだから当然。ここにきて油断などするはずがない。
それに胸を借りるつもりもない。間違いなく倒しきるという決意を抱いていた。
「いくぞ」
ヨハンの挙動を確認するなりアリエルも動き出す。手甲に赤い炎を灯した。
「ぬんっ!」
弾ける様に放たれる炎をヨハンは剣で受け止める。先程同様弾き返そうとしたのだがその直後。
「ぐあっ!」
バンッと剣と接触したのと同時に炎が爆発する。
「爆撃の真の由来をその身体にしかと刻み込むがいい」
「ぐっ!」
ここにきて炎の性質が変わった。一撃必殺の剛腕。それに加えてこの爆発する炎。
遠近を兼ねる二種の攻撃。
「ほらほらっ、動かないようなら止めを刺させてもらうぞ」
「ぐあああああっ!」
突然の爆発によって動きを止められたヨハンに向けて一気に炎が放たれる。
「――……ぐっ!」
物凄い衝撃。身体中を熱気に焼かれる感覚。
今ここで倒れてしまえばどれだけ楽だろうかと思わず考えてしまう程の威力。
「どうした? さっきの威勢はどこにいった?」
「そ、そんな技を隠していたんですね」
剣を地面に刺し、支えとすることでなんとか立っていた。
「卑怯などとは言わないでくれ。切り札は隠してこそ切り札となるからな」
「……ですね。もちろんそんなことは言いませんよ」
最初から手の内の全てを曝け出すなど、圧倒的な力量差がなければ成立しない。あり得ない。戦いは水と同じ。いつでもその形を変化させる流動的なもの。それは拮抗している実力であればある程に。
そんなことは、アリエルの言うことはわざわざ言われなくとも既に理解している。
「さて、他に手もないようならそろそろ終わらせようか。思っていたよりも健闘したぞ」
ドンっと勢いよく放たれる炎を纏う拳圧。
「くっ!」
喰らえば立てなくなるかもしれない一撃に対して転がるようにして慌てて回避した。
「近付けばアレが待っている」
近距離は怖気を抱く剛腕。遠距離では炎の拳圧。
どう対応すればいいのかと痛みを堪えながら、必死に思考を巡らせる。どうすればアリエルを倒しきれるのだろうかと。
「切り札……か」
現状、ヨハンが持ち得る技、剣閃で一番強力な技は魔法剣との組み合わせである光撃閃。あれ以上の威力を生み出せる技はない。しかし魔法の使用もできない。
「他に何かないか?」
今の自分にできる可能性の模索。ここで何らかの手を見つけないと勝ち筋などない。
「だったら!」
勝ち筋がないなら作ればいい。持ち得る技を駆使して。
「飛燕!」
飛燕程度の小さな斬撃であれば動きながらでも繰り出せる。
「何が狙いだ?」
訝し気にヨハンを観察するアリエル。
無数の斬撃がアリエルに向けて飛来するのだが拳の方が手数を上回るのは先程までと変わらない。相殺する。
「まだまだ青い、か」
考えなしの行動なのか、動きながら繰り出しているせいでアリエルを正確に捉えきれていない。時には空を切り、時には地面を叩く落ちた燕の斬撃。そうなると数の少なくなった燕を叩き落とすことなど容易い。
「ぐっ!」
およそ肉弾戦とは言い難い中距離での攻防。
そこかしこでアリエルの爆炎が飛燕を落とす砲撃となって響き渡っていた。
「大丈夫。アリエルさんは気付いていない」
飛燕を繰り出しながら起死回生の一手の仕込みは既に終えている。
というよりも、出来るか出来ないかの検証を済ませていた、といった方がより正確。
(要は魔法を維持させるのと同じ要領なのだから)
これまで見せたことのない技。ヨハン自身も初めて行うのだからそれも当然。
「あとはどれだけ注意を逸らせることができるか」
バレてしまえば対応されかねない。より確実に仕留めるためにはこちらも相応の覚悟を要した。
「大丈夫。できる!」
無謀な賭けなどではない。ある程度の目算はしっかりと立っている。
それでも僅かな怖気が脳裏を過るのだが、やれるだけの自信も持ち合わせていた。
(チャンスは一回きり)
既に疲労はかなり蓄積している。しかしアリエルにしてもそれは同じ。いくら煉獄が優れた魔具であろうとも魔力の消費がないわけではない。
「……はぁ、はぁ」
「どうした? 逃げるのはもう終わりか?」
「そうですね。そろそろ終わらせないと」
「うむ。それには同意する」
斜め上段に剣を構えたヨハンは剣に闘気を迸らせた。
「なるほど、これで決めようということだな」
両手いっぱいに炎を蓄積させるアリエル。二発分の攻撃。
「だがどうする? 私の見立てではその一撃と私の一撃は大体同じ威力とみた。しかし見ての通り私は二撃放てる」
「……やってみなければわかりませんよ」
「わかるさ。その辺りはまだ経験が足りんな」
「…………」
そのアリエルの言葉が真実なのだということは恐らくという程度で理解している。
(だったらあの一撃を耐えれば)
期せずして勝利への道筋、勝ち筋が明確に見えた。
「行きます!」
「ああ」
ダンッと地面を大きく踏み抜いてアリエルに向かう。
「距離を詰めて躱せぬ位置から放つ気か」
遠距離攻撃も可能な剣閃。
それをいつどのタイミングで使用するのかということが勝敗を決めるのだとアリエルは考えた。そしてそれはヨハンの考えと合致している。
いつ、どのタイミングで放つか、それに尽きた。
「はあっ!」
「ではまず一撃目!」
近距離ともいえるその距離でヨハンが振り下ろす剣のタイミングに合わせて右手の炎を放つ。
ドゴンと大きく音を立て、黒煙が立ち込めるのだがアリエルはヨハンの姿を見失わない。
「これで終わりだ。残念だな、結果が伴わなくて」
「そんなことないですよ」
「むっ!?」
左手の炎を放とうとしたその瞬間、地面が僅かに隆起した。
「なっ!?」
アリエルはすぐさまそれを理解する。
「もう遅いです」
地面から真上に向けて一直線に伸びる光。その先にはアリエルの左手。
「こんなものを仕込んでいたのか」
先程乱発しながら的を外していた飛燕。地面に刺さっていた斬撃。
それがわざとはずされていたのだとアリエルはそこでようやく悟った。
「見事だ」
放たれた直後の炎をパスっと一匹の燕が通り抜ける。
カッと光を放つ爆撃は術者を巻き込み爆発した。
「ぐっ、まさか逆に利用されようとは」
「すいません。これしか思いつかなかったんです」
既に目の前に踏み込んで来ているヨハン。横薙ぎに剣を振りかぶっている。
「だがこちらも意地というものがあってだな」
左手は使い物にならなくなってしまっているのだが、僅かな時間が生まれたことで既に右手には次弾を装填していた。
「どちらが耐えられるか勝負だ」
大きく振り切られるヨハンの剣を腹部に受けながら、アリエルは防御を捨ててヨハンの腹部に拳を振り抜く。
二度目に響く大きな爆音と黒煙。
会場中が固唾を飲んで見守る中、黒煙からゴロゴロと地面を転がって出て来たのはアリエル。
風に流される黒煙が晴れた後には片膝を着いているヨハンの姿。
「僕の方がちょっとだけ早かった」
刹那の攻撃、その僅かな差のおかげで意識を保つことは出来ているのだが、もう既に満身創痍。限界に達していた。
「頼む、もう立たないでくれ!」
もう立ち上がる体力も気力も持ち合わせていない。これで決めきるつもりの一撃。
「す、凄まじい応酬でしたっ! さあっ、ナイトメア選手、いえ、アリエル選手は立つことができるのでしょうか!」
カルロスが大きく声を張り上げる中、アリエルの指がピクッと動く。
(……ダメか)
まだ意識を保っているのだと思ったのだが、グッと砂を掴むアリエルの指はそれからすぐに力を失くしてパタッと手の平を地面に落とした。
「……あっ」
小さく声を漏らす。
アリエルがそこで意識を失くしたのだと。
「お……お、おおっとぉっ! ここ、これは、決着したようですッ! 優勝は、優勝はヨハン選手です! おめでとうございます!」
勝者のコールを送るカルロスの声に同調するように、観客席からは特大の歓声が巻き起こった。
「……はぁ……はぁ……がはっ!」
込み上げてくる吐血。口内に血の味を沁みらせる。
「勝った、勝ちましたよ、カレンさん」
疲労困憊の身体。もう足にほとんど力が入らない。
それでもしっかりと見上げた先は貴賓席。口元に両手を送っているカレンの姿を捉えた。
「もう、いいですよね?」
「え?」
そのままカルロスの方に顔に向け声を掛ける。カルロスは思わず目を丸くさせた。
「僕が勝った、ということで」
突然の問いにカルロスはそのまま目をパチパチとさせ疑問符を浮かべる。
「え、ええ。もちろんだとも」
「そうですか、なら良かったです」
ヨハンはそこでフラッと身体を揺らした。
立っているのにももう限界。
「ヨハン!?」
「お兄ちゃん!?」
優勝の確認が済むと安堵の息を吐いて前のめりに倒れる。
その姿を見たカレンは慌てて闘技場に向けて走り出し、ニーナは観客席を飛び降りていた。
(まさか本当にアリエルさんに勝つだなんてね。これはもう認めるしかないか)
貴賓席からヨハンに駆け寄るカレンの姿を見ながらアイゼンは笑みをこぼしている。
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