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帝都武闘大会編
第三百三十三話 準決勝(中編)
しおりを挟む「チッ! 浅かったか」
アレクサンダーの視線の先、ポタっと落ちるヨハンの右腕からの血。血を流しているとはいえ斬った感触としてはほとんどない。
「それにしてもよく躱せたな」
剣を真っ直ぐヨハンに向けるアレクサンダー。
「見えましたので」
「なに?」
「それにしても騙されましたよ。長さを見誤らせるのに二段階も仕込んでいたんですね」
「…………――」
ヨハンの言葉を聞いたアレクサンダーはギリッと奥歯を噛む。
(――……この小僧、どこまで…………――)
向けられた言葉の意味、見極められたのだとわかると更に苛立ちを重ねていた。
「――……フンッ。なるほど。見えていたというのは本当のようだな」
そのままアレクサンダーはヨハンに向けていた剣を地面に向け振り下ろすと、剣先が届いていないはずの地面にスパッと一筋の亀裂が入る。
「僕も考えたことありましたから」
「なに?」
考えたことがなくもない。剣閃で何ができるか遊んでいた時のこと。
闘気を剣に付与させることに加えて、それを維持したままであったらどうなるのかと。
「闘気を伸ばしたんですよね」
ニコリと笑みを向けるヨハンと厳しい顔つきのアレクサンダーは対照的だった。
(危なかった。知らなかったらやられていた)
闘気を凝縮して飛ばす剣閃。
仮にそれを維持したままであったらどうなるのかということを検証していたことがある。
『うーん。短期戦には向いているけど、長期戦には向かないね』
鋭い刃と化すその剣。
剣自身の耐久度や切れ味にも多少は左右されるのだがそれでもどんな鈍らだとしても威力は申し分ない。業物に匹敵する。
鞘に収まった剣が放つ妙な気配。可能性の一つとして視野に入れていたことでアレクサンダーが仕掛けてこようとしたことに対して咄嗟に反応できた。
「あの技には欠点がある」
身体強化、特に防御に回す分の闘気を少なくさせるだけでなく、維持する為にはかなりの集中力を必要としており伸ばした分だけ魔力の消耗も激しい。奇襲の類では使えるのだが、上級者になればなるほど警戒されないように、かつ十分に距離を詰める必要がある。一撃必殺の分、相当な身のこなしがあってこそやっと使える程度の技。
つまり――――。
「そう何回も使えないですよね?」
「……だったらどうする?」
ヨハンの指摘を受けたアレクサンダーは否定しない。
だとしたら手がないことはない。
それに加えておおよそのアレクサンダーの実力も見えて来た。あとは削りきればかなり優勢に持ち込める。
「飛燕」
剣に闘気を流し込み、縦横斜めにすぐさま振るった。
突如としてアレクサンダーへ向けて飛来するいくつもの飛ぶ斬撃。
「くッ!?」
切り払うように何度も剣戟を放つ。
「闘気の扱いは僕の方が上だったみたいだね」
繰り返し小さく何度も振るい続ける剣戟。迸る闘気が無数の刃となってアレクサンダーに襲い掛かっていた。
通常の剣閃の出力を抑えた技。その分手数を多くできる。
(こ、このガキ……――)
例え高出力ではないとはいえ、耐えてさえいれば相手の方が魔力を先に消耗しきるのだと見込んでいたのだが全く疲弊する様子を見せない。これだけの数を放っているというのに。
(――……一体どれだけのッ!)
応戦しようにもアレクサンダーとヨハンの魔力量の差がそれを許さないのだということは互いに理解していた。切り払うだけでも闘気を使用しなければならない。
「く、くそおおおおおおおおッ!」
「え?」
アレクサンダーの行い、その行為に目を疑う。
雄叫びを上げながら一直線にヨハン目掛けて突進して来た。
飛燕によってアレクサンダーの鎧にはいくつもの傷をつくり、その下にある肌にも傷を付ける。だがお構いなしにヨハンとの距離を詰めたアレクサンダーは剣を横薙ぎに振るった。
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
「無茶をしますね」
「うるさい」
息を切らせてヨハンを睨みつける。
限界突破。攻防一体の闘気の纏い方。身体全体を包み込むその闘気は自身を内側からも傷を付けた。
「もう負けを認めたらどうですか?」
「だ、黙れッ!」
形勢は一気に傾いている。アレクサンダーには打つ手があるようには見えない。
(こ、こうなったらアレをやるしかない)
腰元に手を送りながらチラリと貴賓席を見上げるアレクサンダー。そこには皇族一同に加えて父であるハーミッツ・シール将軍の姿。
(ラウル様には見抜かれるかもしれないが、父上も含めあの場には味方は大勢いる。きっとなんとかしてくれるはずだ)
腰元から取り出した八本のナイフ。
「俺は貴様程度に負けるわけにはいかないッ! 俺はここで優勝してカレン様と婚姻を結ぶのだッ! 皇族の血を取り入れ、盤石の地位を築くっ!」
すぐさま片手を振るいヨハンに向けて四本のナイフを投擲した。
(何が狙いだ?)
この期に及んで無造作の投擲。見えているそのナイフの動きを冷静に見極め切り払うと地面に落ちる。
(ん?)
切り払った際に妙な感覚を得たので地面に落ちたナイフに目を送ろうとするのだが、視界の端に捉えるのはもう半分のナイフが向かって来ていた。
「今さらこんな手を使うなんて」
まるで工夫のない攻撃。
「乱華ッ!」
クンッと指を上方に向けるアレクサンダー。
「――っ!」
頬をピシュッと切り裂き、血が垂れる。
前から迫るナイフを切り払おうと構えたのだが、突如として背後から迫り来る気配。
先に投擲されていたナイフがヨハンの背後から襲い掛かっていた。
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