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帝都活動編

第二百十七話 状況報告

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「では話はこれぐらいでいいか?」
「はい。ありがとうございます」

話を聞いたことでまだいくらか疑問を抱くことはあるのだが、それでも現状で知りたいことは十分に知れた。

「ならこちらからの用件を次に話すぞ?」
「はい」

先にヨハンの要件を聞いてもらっている。
ラウルはニーナのことを話しに来ていたわけではない。
元々はラウル側からの何かしらの用件、理由があってヨハンの下を訪れていた。

「五日後、帝都を出てメイデント領に行くことになった」
「メイデント領?」

ヨハンは首を傾げる。

「帝国の領地のことです。位置は北方になるわ」
「へぇ」
「あなたが知らないようでしたら少しお話しますが」

カサンド帝国の概要は授業でも習っていたのだが、帝国の領地や事情などは取り扱わなかった。

「お願いします」

説明を願い出ると、カレンは小さく息を吐いて若干ながら嫌な顔をする。

「(いやいや、自分で説明してくれるって言ったよね?)」

どこか矛盾を感じた。

「(兄さんに付いて来ただけなのにめんどくさいわね。もうっ)」

それでも極力表情に出すことなくカレンはヨハンとニーナにメイデント領について話して聞かせることになる。

メイデント領。
かつてのドミトール王国であるその土地は好戦的な国家だった。
帝国の北にあるその旧ドミトール王国は国家の規模としてはそれほど大きくはなかったのだが、帝国としても時折侵攻をかけてくる敵対国家が隣国とあっては平穏に過ごせない。
しかし、交戦しようにも旧ドミトール王国は年の半分近くを雪に覆われてしまうために、攻めようにも地の利は向こうにあった。

それが遂に攻め落とすことに成功したのは、長期に渡って温かい気候が見られる異常気象のあった五十年程の現皇帝の若かりし頃の出来事。

結果、それ以降帝国領の土地として統治されているのが現メイデント領としての成り立ち。

「うぅ、さむいのやだよぉ」

話を聞いたニーナは両腕を掴んでいる。

「しょうがないじゃない。ニーナだけを置いてはいけないしね」
「別に置いていってもいいよ?」

寒い土地を避けられるのなら構わない様子を見せていた。

「いやいや、さっき竜人族の力の話をしてたよね?」

魔眼の力、竜人族が持ち得る力を扱えるようになるのではないのかと呆れてしまう。

「だからすぐに帰って来てね」
「そんなにすぐに帰って来れそうなのですか?」

ニコリと微笑まれた。

「さすがにすぐに、というわけにはいかないな」
「だってさ」

ラウルの答えを聞いてニーナの方を向く。

「じゃあお兄ちゃんあたしの周りにずっと火を出しておいてくれるの?」

指を一本口元に送り、ニーナは疑問符を浮かべながら首を傾げる。

「いやいやいや」

苦笑いが漏れ出た。
どう考えたらそうなるのか理解できない。

「ニーナがどう言おうが連れていくがな」
「えー!?」
「自分で付いて来たのだから最後まできちんとすることだな」
「ぶぅううー」

ラウルの言葉に全力で不満を見せる。

「そういうわけで、また五日後に迎えに来る」
「わかりました」
「でもお兄ちゃんいいの?」
「なにが?」
「いや、アッシュさん達のこと。ほらっ、今日アリエルって人が言っていたアレ」
「あっ……」

そういえば忘れていた。
割と、結構、本気で。

「どうした?」
「いやあの……」

ラウルの問いかけに思わず口籠ってしまう。

「ちょっと言いにくいんですけど、実は、僕たちがお世話になった人のパーティーがこれから護衛依頼を受けることになったんです」

同時に思い出したのはアッシュ達が受けることになる依頼をどうするか。
前もってパーティー加入に手伝うのは一時的と伝えてあったので、今の話からするとそれは断ることしかできない。

「まぁ一時的に入るだけっていうことは言っているので別にいいのですが……――」

もしかしたら急な話で困らせることになるかもしれない。

「言いにくいようなら俺から説明してやるぞ?」
「でもそこまで甘えるわけには」
「ヨハンとニーナを見てもらってたんだ。気にするな」

一瞬どうしようかと悩んだのだが、隣にいるカレンから僅かに睨みつけられた。
どう見ても兄がこう言っているのだからという意図がヒシヒシと伝わって来る。

「……わかりました。じゃあそろそろ呼んできますね」
「ああ」
「あたしもいく!」

立ち上がり部屋を出た。


「ティア。もういいわよね?」

パタンと閉まるドアを見届けながらカレンはセレティアナに声を掛ける。

「うん。じゃあまたね」
「ええ」

ティアはポムっと姿を消した。


◇ ◆ ◇


「お待たせしました」

食堂に行き、のんびりと談笑していたアッシュ達に声を掛ける。

「長かったわね」
「ええ。ちょっと色々と話し込みまして」
「そう。まぁいいわ。じゃあいきましょうか」

ガタッとそれぞれ立ち上がり、食堂を出て応接間に向かった。

「ねぇラウルと何を話していたの?」

応接間に向かう途中、ミモザに話し掛けられる。

「今までの話とこれからの話なんですが、これからの話はまだ途中なので今からその続きになります」
「ふぅん」
「そのラウルというのがヨハンの師匠なのかい?」
「まぁ……そうですね」
「へぇ。剣聖と同じ名前なのだね」
「……ええ」

アッシュの問いに頷きながらチラリとアリエルを見ると、アリエルはニヤッと笑みを浮かべていた。

「えっ?ヨハンくん、言ってなかったの?」

驚くミモザなのだが、アリエルが肩をポンと叩いて小さく首を振る。

「……はぁ。あなたのせいね」

額に手の平を当て全てを悟ったミモザは溜め息を吐いた。

「その方が確実に面白いではないか」
「ったく。あなたは変わってないわね昔から」
「人間そう変わるものでもないさ」
「ふぅ。まぁでもその方が私としても安心できるけど、変わる良さと変わらない良さ、変わらない悪さと変わる悪さ。何がいいのかしら?」
「そんなもの全て結果でしか語れない。わかっているだろ?」
「……まぁ」

二人の気安いやり取りを見て疑問を抱きながらも、親しい間柄なのだというのはわかる。

「ミモザさんとアリエルさんって知り合いだったんですね」
「彼女も私と同じ境遇よ」
「そうだったんですね」

つまり、孤児としてラウルによって拾われ帝都に連れて来てもらったのだと理解した。

「あっ!」
「どうした?」
「いや、アッシュよぉ。そういやヨハンとニーナの師匠に会ったらまだしばらくコイツラ貸してもらえるように言わないといけないんじゃねぇか?」
「そうさね。護衛依頼もあたいら三人だと流石に厳しいからね」

そう話しているのだが、ラウルの予定が決まったのならこれ以上手伝うことはできない。

「……まぁ。その辺りは口添えして頂けるのですか?」

アッシュ達三人でアリエルを見る。
ギルド長であるアリエルが先頭を切って声を上げてもらえればその可能性があるのだと目論んだ。

「そこは必要によりけりだ」

一言だけ冷たく言い返される。
それを受けたアッシュ達はお互いに顔を見合わせ、自分達で護衛依頼にヨハンとニーナも同行してもらえるよう話し合っていた。

「(とは言うものの、実際その必要はないんだがな)」

アリエルは薄く口角を上げてニヤリと笑う。

「(ったく。何考えてるのよこの子は)」

その横顔を見ながらミモザは溜め息を吐いた。
昔馴染みのアリエルがこの顔をする時はだいたい意地の悪いことを考えている時に限っている。

「どうせ碌なことじゃないわね」

そうしていると、すぐに応接間に着いた。

「では入りますけど、あの、今から会ってもらう人なんですが……あんまり驚かないで下さいね」
「どういうことだい?」

首を傾げるアッシュ。

「そんなもの会えばわかる」

アリエルに押し込まれるようにガチャッとドアを開けて中に入った。

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